【感想】『七つの大罪』第252話 宿怨
週刊少年マガジン 2018年 9号[2018年1月31日発売] [雑誌]
第252話
- 「…父上は覚えてる? 幼かった私が この木に登った時のこと…」
深夜のリオネス城。その庭に、一本の高い木が生えている。
「ああ… あの時は心底 肝を冷やしたものだ…」「ベロニカならまだしも まさか お前が あんなお転婆とは思いもしなかった!」
その根元から梢を見上げて語るバルトラ王の前で、同じように見上げて「だって あんまり眺めが良さそうだったから…」とエリザベスが笑った。 - その顔を、じっと バルトラ王は見つめる。
「こうして髪を切った お前を見ていると 昔に戻ったような気持ちになるな…」
眉毛の上で前髪を切り揃えた髪型は、まさに、幼い彼女が この木のてっぺんまで登ってみせた、あの頃と同じものだ。 - クスッと笑って、エリザベスは木の幹に右手を触れながら父に顔を向ける。
「あの時 木から落ちた父上を助けようとして 初めて力が発現したの」「でも それから自分の右目が他の人と… ううん… 家族と違うことにショックを受けて 髪で隠すようになったのよ」 - 殊更に明るく振る舞う娘を、バルトラ王は見つめていた。
「父上や姉様 たちが そんなことで私を嫌いになるはずがないのに………」「きっと私は みんなと血が繋がっていないことを認めたくなかったのね…」 - 王の瞳に
過 るのは、過ぎ去った日々への懐古か。暗い諦念か。これから失われるものへの哀惜か。 - 彼は娘に微笑みかけた。哀しみで どうにも歪んでいたけれど。
「儂には まだ信じられん… ……違う… 信じたくない」「お前とメリオダスが神々に受けた呪いのことも…」「お前に残された時間のことも…」
その頬に滂沱と溢れ落ちる涙。
「ただ 愛する者のために生きようとする お前たちに…」「なぜ 運命は―― こうまで無慈悲な仕打ちをするのか」 - エリザベスは向き直って父に近づいた。
「……その運命にマーガレット姉様まで巻き込むことはできない」「必ず 姉様は父上の元に戻します!」 - 「ああ… そして お前も一緒に戻っておいで」
その背を、父の皴の刻まれた手が抱き寄せる。
「私たちは親子なのだから…」 - エリザベスは微笑んだ。嬉しそうに、哀しそうに。
「親不孝な娘で ごめんなさい…………」 - 「エリザベス………!」
身を屈めて娘を抱きしめ、涙を流し続けるバルトラ王。 - 「あと二日だけ… どうか父上の娘でいさせてください」
爪先立つように父の胸に抱かれて微笑むエリザベスの目にも、涙が光った。 - その頃、リオネス城下のドレファスの家。
- 「思ったより 帰りが早くて驚いたけど 父さんもギルも無事で良かった!!」
機嫌よく笑いながら、グリアモールが父のために食事を出している。
煮込み料理と買い置きのパン、グラスとワイン。
◆素のままのグリアモールってこんな感じなんですね。表情も口調も砕けてて可愛い。仕事中やベロニカの前では、ガチガチに気を張ってたんだなあ。
いつかベロニカの前でも素の顔を見せられるようになるのかしらん。 - 「…それが そうとも言えんのだ…」
対して、テーブルに着いたドレファスは肩を丸めて暗い声を落とした。 - グリアモールも笑顔を引っ込める。
「マーガレット様に女神族が乗り移ったって話… …本当なの?」 - 「ああ…」
息子が酌したワインを、ドレファスはぐいっと飲み干した。
「どうすれば王女を元に戻せるのか… 皆目 見当がつかん」 - 「…ベロニカ様… 心配するだろうな」
グリアモールは心配そうに目線を遠くする。
◆そういえばベロニカはどうしてるんでしょう? 真夜中ですし、一度眠ると朝まで目が覚めないタイプかな? - 「それに加えて ヘンディまで様子がおかしくなる始末だ」
酔ったのか、ドレファスは苛立ちを隠さず声を高めた。
◆ドレファスさん、めっちゃ酒に弱いな。兄のザラトラスや甥のギルサンダーも弱かったし、遺伝的な体質でしょうか。 - グリアモールは笑う。
「あの人は元々 変だし…… じゃなくて」「ドルイドにとっては まさに信仰の対象そのものなんだから しょうがないさ」
椅子を引いて父の向かいに座い、父のグラスにワインを注ぎ足した。
「実際… 戦場で多くの聖騎士が女神族に救われたって話だよ まさに救い主さ!!」
神話から現れた怪物との勝ち目の見えない戦いに、同じく神話から出でた救い手が確かな光明を見せてくれたのだ。騎士たちの士気は上がっている。 - 「信用は しすぎるな」
酔いで赤らんだ顔で、ドレファスは低く呟いた。
「…上位の女神族には他者を洗脳する技を有する者もいる」 - 「…え!?」
ぎょっとするグリアモール。 - 「フラウドリンの情報だ……」「奴と私は体だけではなく 記憶も共有していた…」「そしてグリアモール お前を思う気持ちも―――な」
グラスを口に運びながらドレファスは告白を重ねていた。
「だからといって奴が大勢の人々の命を奪ったことは決して許される行為ではない…」「…それでも奴には奴なりの筋があった …女神族に殺された同胞たちへの思いは私たちと同じ…」「いや… 誤解はするな ………別に… 魔神族に…肩入れ…している… わけ… じゃ…………………」
言葉は次第に途切れ、呂律が怪しくなっていく。 - 父が酔い潰れ、テーブルに突っ伏して眠ってしまったことに気付くと、息子は微笑んで、その肩にそっと毛布をかけたのである。
◆グリアモール君は筋力あるから、お父さんをベッドに運んであげても良かったんじゃないかな? 年取ってテーブルで眠ると翌日辛そうです。 - 同じ頃、リオネス城内。
深夜にも拘らず、高揚した聖騎士たちによる大宴会が催されていた。主賓は、勿論<四大天使>である。
王もギルサンダーも<大罪>たちも姿を消しているなか、ヘンドリクセンは<四大天使>の侍者のように傍らに控えていた。 - 「今こそ真の聖戦が始まるのだ!! しかし恐れるな!!」「我ら聖騎士は 今や<四大天使>様率いる<
光の聖痕 >の一員!!」
オオオ ウオオ と聖騎士たちから上がる雄叫び。 - 「リュドシエル様 何か御言葉を」
乾杯の前にとヘンドリクセンが促せば、マーガレットに宿る男は、両腕と四枚の翼を広げて朗々と宣べた。
「我らは聖戦の決着をつけるべく三千年の眠りから目醒めた!!」「このブリタニアを決して魔神族には渡さぬ!! …必ずや<四大天使 >が<光の聖痕 >を勝利へ導く!!」 - 堂々たる言葉に、歓声は オオオオォォォ と引かぬ潮騒のように沸き広がる。
- <四大天使>たちが椅子に座って酒杯に口をつけ始めたなか、立ったままのヘンドリクセンが目を輝かせてリュドシエルに尋ねた。
「あの… 一つ お聞きしても?」
「言ってみろ」
機嫌よさげに微笑むリュドシエル。
「もう一人の「四大天使」様は 今 どこに――」 - ヘンドリクセンは最後まで言葉を紡げなかった。
「!!?」
リュドシエル、サリエル、タルミエル。三人の天使の気配が豹変したからだ。まるで、抑えられていた憤怒が激烈に膨れ上がったかのような鬼気。
ゾッとして慄き、口ごもった時。 - 「歓談の途中 申し訳ないが――」「女神族の有志に 一言 挨拶をしておきたくてね…」
<四大天使>のテーブルの前に、四人の聖騎士が歩み出てきた。 - 「私は聖騎士<蒼天の六連星> デスピアス」
先頭の長身長髪の男が名乗りを上げる。
「後ろに同じく ワイーヨ アーデン デルドレー」
背後の低身強面 の男が、自分と残り二人の若い男女の紹介を済ませた。 - 「大半の聖騎士は<
光の聖痕 >やらと協力するらしいが」「一部は その限りでないことを 重々 理解願いたい」
敵意と不信を隠さずケンカを売った彼らを、天使たちは眉一つ動かさず見つめ返している。 - 「デスピアス…!! それは あまりに無礼な物言い… 謝るんだ!!」
ヘンドリクセンが色を変えて叱りつけた。 - 「…つくづく哀れな男だ…………」
白々と呟くデスピアス。 - 「かまわぬよ ヘンドリクセン」
リュドシエルが言った。
「しかし……!」
「デスピアス殿… それは つまり我らを信用できぬ… と?」 - 周囲の聖騎士たちが非難の気配をひそめて ざわめく。
- 「…たしかに ここにいる多くの者が<四大天使>に救われたのは事実です」
そう前置いたデスピアスは、不意に声を荒げた。
「しかしデンゼル様が!!」「女神族を顕現させたことで悲惨な最期を遂げたことも事実!!」
硬く握った右手はブルブルと震え、涙の溢れた顔を俯かせて歯を食いしばる。 - リュドシエルは僅かに顔を伏せた。マーガレットの記憶を
浚 ったのだろうか。
「ネロバスタが宿った人間だな」「たしか この器の血縁だったか …気の毒にな」 - 「…それだけですか!?」
デスピアスは泣きながら怒鳴りつけた。
「女神族 には血も涙も――」 - 言い募りかけて、ハッと言葉をなくす。
それはデルドレー、ワイーヨ、アーデンも同じだった。 - 顔を上げたリュドシエルの…マーガレットの白い頬に、ツーー…と透き通った涙が一筋、流れ落ちていったからだ。
- 「私たちは かつて数え切れぬほどの犠牲を払い…」「身を焼かれるような… 大切な者との別れも味わってきた」「その気持ちは女神族も人間も変わりはないはずだ……」
リュドシエルは語る。
「そう… 我らは神などではない」「キミたちと同じ血と涙を流す者だ…」 - 目に涙を浮かべたまま、静かな言葉に聞き入るデスピアス。
- 「それでも信用できぬというなら それで構わない…」「せめて―――」
リュドシエルは左の掌を上に向けて己の口元に寄せた。その上に光が集まり、煙のように ゆらゆらとリボン状に揺蕩 う。
フッと、天使はそれを吹き飛ばした。
“祝福の息吹 ” - 「「「「!!?」」」」
光に包まれ、まるで強い風を受けたように揺らぐ<蒼天の六連星>たち。 - オオオッと周囲の聖騎士たちから歓声が上がった。
- 「なんという心地良い光…」
光に包まれて驚くデスピアス。 - 「これは………」
同じく光に包まれたアーデンとワイーヨも唖然とするなか、己の手を確かめるように見つめてから、デルドレーはデスピアスに顔を向けて高揚した声をあげた。
「力が… 体中から満ち溢れる…!!」 - 若いアーデンも頬を緩め、年長のワイーヨとデスピアスが戸惑い気味に己の体を確かめる間に、光は輝く羽毛となって彼らの全身から溶け出し、立ち昇って消えていく。
- 「仲間ならずとも 良き隣人として贈り物を贈ろう」「魔神との戦いに あって損はないはずだ…」
リュドシエルは微笑んだ。 - 「デスピアス」「この力があれば…」
嬉しげにアーデンが訴える傍で、デスピアスはリュドシエルに向き直る。 - 「…どうやら我々は女神族を誤解していたようです」「失った大切な
人 の仇――――――― 共に討ちましょう!!」
微笑うと、力強く共闘を約束した。 - リュドシエルは微笑みを返す。
嬉しげな表情には、含みも影もないように見えた。 - 宴会は続く。
「エールを もってこい」
「もはや魔神など恐るるに足らん!」
「そーだ そーだ」
聖騎士たちが大いに酔い、大いに食べて、調子に乗って笑い声をあげているなか、不意にリュドシエルが口を開いた。 - 「もう一人は存在しない」
「……え?」
戸惑うヘンドリクセンに、「さっきの お前の質問への答えだよ」とリュドシエルは返す。 - 「四人目の<四大天使> …名はマエル」「奴は<十戒>に殺されたのだ」
その脳裏に浮かぶイメージまでは、流石にヘンドリクセンには伝わらなかっただろう。
血を流し倒れ伏す長髪の天使・マエル。その背後に、今しも彼の体を貫いた右手を血に染めて、薄笑いを浮かべ、背に闇の翼を広げている男。
右の額に魔神の紋様を浮かべた、<十戒>慈愛のエスタロッサだった。 - 次回「失われし恩寵」
マエルを殺した<十戒>のイメージ、エスタロッサに見えますが、何故か魔神の紋様が右額に出ています。
エスタロッサの紋様は左額なのに。右に紋様があるのはメリオダスのはず…。
メリオダスやゼルドリスは紋様を形を変えて額の中心に出すこともできますし、大した意味はないのかもしれませんが、もしかしたら伏線なのかも?
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懐かしい思い出
今回エリザベスとバルトラが語り合った、木登りの思い出。
第2話にてエリザベスが語っていたもので、読者にとっても非常に懐かしい思い出でしたね。
エリザベスは、木から落ちたバルトラは「軽い怪我」をしたと語っています。
しかし第96話、灰色ヘンドリクセン戦で女神の力を発現したエリザベスを見てマーガレットが語ったところによれば、バルトラは重傷を負っていたのだと。
それを女神の力でエリザベスが治癒し、しかし、つい最近まで自覚がなかった(または、無意識に認めないようにしていた)らしい。
女神の記憶を取り戻した今のエリザベスは、もう「家族と違う」ことを恐れていないのでしょう。自分が父を癒したのだと、ハッキリと自覚しているようです。
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「愛は全てに
メリオダスとエリザベスの呪いの詳細を知ったバルトラ王は、滂沱と涙して言いました。
「ただ愛する者のために生きようとする お前たちに…」「なぜ 運命は―― こうまで無慈悲な仕打ちをするのか」
バルトラ王は親なので、子の苦しみを憂うのは当然であるし、有難いことです。
エリザベスは永劫の転生の罰を受けてきたけれど、リオネス王家の人々と家族になれたことは、大きな幸運だったのではないかと思う。
(一代前の「
とは言え。
身内の贔屓目を除外して客観的に見たならば、「ただ愛する者のために~運命は無慈悲」という、二人が一方的な被害者でしかないかのような、罪がないのに不当な目に遭っているかのような言い分は、いささか的を外しているように思いました。
少なくとも、メリオダスが独断で<十戒>を挑発して意図的に町や国を襲わせた事実がある限り。
それにより黒の歓楽街ベルフォードや盗賊都市レイブンズ、バィゼル周辺の村々など、多くが滅んで沢山の人が無残な形で死んだ事実がある限り。
そして、そうしたメリオダスの行動の目的が「エリザベスの呪いを解くため」だった以上。
「ただ愛する者のために生きようとした」可哀想な被害者でしかないと思うことは でき難いと、私は感じるからです。
<十戒>を分散させて一人もしくは二人ずつ潰すと得意げに語ったメリオダスでしたが、現実は、一瞬で<十戒>再集結。沢山の人々が無意味に殺されただけに終わりました。何一つ いい結果を生まなかった。
メリオダス自身も<十戒>に殺されはしましたが、「元々死ねない体だった」ので蘇生。引き換えに愛の感情を少し失ってしまう、愛を知らない自分に戻るのが怖いと、シクシク泣いていました。
でも、あなたが<十戒>を けしかけたために殺された名もなき人々は、感情を失うどころか、二度と生き返れないんですよ? 愛する人と共にいることもできないんですよ?
笑って沢山の人を犠牲にしておいて、自分を哀れんで泣くのですか。
今、<大罪>とリオネス聖騎士団が女神族と盟約を結びました。恐らく魔神族への総攻撃を仕掛けることになるのでしょう。
彼らの導き手であるエリザベスの目的は「メリオダスと生き別れになるのを阻止すること」。これだけ多くの人々の命運を左右する戦いの、中心にいながら、動機は「私的な恋愛」です。
メリオダスを救うためなら呪いで死ぬ覚悟だと彼女は言う。
しかし、死んでも すぐ生まれ変わることは確定しています。メリオダスも、魔神王になると死ぬわけではありません。
二人はまた、やり直せるでしょう。
しかし、この戦争で死んだ他の人々は生き返らないし、愛する人とやり直すことはできないでしょう。
死んで生き返る度に記憶や感情が失われる? それが何だって言うんですか。
死んだ名もなき人々の記憶も感情も、永遠に戻りません。
二人は生きているし、死なないし、失った記憶や感情も取り戻せると語られているのに。
魔神王と最高神が二人にかけた呪いは残酷ですが、見方を変えれば優しいモノでもあります。
エリザベスの記憶は基本的には蘇らない。(三日殺しの呪いは滅多に発動しない)
メリオダスは強いので、自ら死のうとでもしない限り、まず死なない。
なので、愛し合って穏やかな人生を過ごすことも可能で、実際、彼女が老衰で死ぬまで長生きした人生もあったという。
呪いを解く方法は最初から提示されていたうえ、生まれ変わる回数や期間に制限がない。メリオダスは成長しないので老いに煩わされることもない。
他の解呪方法を捜す時間も、再挑戦する機会も無限にある。
それでも、百数人のエリザベスの死を看取るのは辛かったとメリオダスは項垂れます。
そうでしょうね、辛かったでしょう。
だって、罰なんですから。
仏教の鬼子母神の説話をご存知でしょうか。
女神ハーリーティーは武神の夫とラブラブで、数百人の子持ちです。子供たちをしっかり育てるために栄養をつけようと、人間の子供を攫っては食べていました。
そんなある日、最も可愛がっていた末の息子が行方不明になりました。ハーリーティーは半狂乱になって七日間探し回りましたが見つかりません。とうとう釈迦の元へ行って救いを求めました。
すると釈迦は言いました。お前の子は私が隠したのだ。お前が人間の子を取って食うので、親たちは嘆き悲しんでいる。あれだけ沢山の子を持つお前でも一人失えば それほどに悲しいのだ、たった一人の子しか持たぬ者が どれほど辛いか、考えてみなさい。戒を受け、反省できたなら子供は戻るだろう。
ハーリーティーは人間の子供を食うことをやめ、五戒(不殺、不盗、真実、不姦淫、禁酒)を守りました。(子供は乞食の托鉢の中から戻ってきました。)そうして、いつしか出産と子供の守護神・鬼子母神になったのだとさ、と。
ハーリーティーは愛に溢れた女神です。我が子たちへの深い愛から人の子を食料とし、それが見方を変えれば悪行だとは、自分の子を失う経験をするまでは思ってもみなかった。
メリオダスはエリザベスとの愛のために国を捨て家族や友を裏切り同胞を殺しました。
神々は彼に「最も愛する者の死を幾度も看取る」という罰を与えた。
この辛い経験は、彼に何を与えたのでしょうか。
200年前にキングに言った「王なんて
そして現代、首尾よく<十戒>を討ってエリザベスの呪いを解くためにと、わざと<十戒>を挑発。分散させて、町や国を襲わせました。
罰を与えた神々に激しい怨恨を覚え続けているし、エリザベスへの愛のためなら他者を死に追いやることにも罪悪感がない。そう見受けられます。
3000年前、魔神族を裏切ったメリオダスは、女神族の正規軍(
どういう経緯だったのかは未だ語られていませんが、エリザベスと共に行動していたこと、彼女が軍内部に確かな役職と立場を得ている様子がなく、女神族の軍組織の外に置かれたイレギュラー的存在だったらしい点から、エリザベスが強引に自分と彼の席を作らせたのではないかと想像していました。
エリザベスがデリエリに殴られて昏倒した時、治癒と防護の術をかけながら、サリエルが「君たち よくもエリザベス様に無礼を働いたな …怒られるのは僕らなんだぞ?」と言っていたものです。
エリザベスが自分とメリオダスを軍に ねじ込めたのは、彼女が「最高神の娘」の肩書を持っていたからではないでしょうか。
メリオダスは ただの魔神ではありません。
次期魔神王で<十戒>統率者で、恐らく数百年に渡って多数の女神族を殺してきたはずです。
<
そんな中に「彼は私の愛する人。優しい人なの」とメリオダスを連れてこられて、果たして、喜んで受け入れる者がいたでしょうか。
しかし、文句を言うこともできなかったはず。なにせ、彼を連れ込んだのは「
誰も逆らえず、せいぜいメリオダスを無視するくらいしかできなかったのでは。
面と向かって苦言を呈していたのはリュドシエルだけでした。
インデュラ化した<十戒>をエリザベスが「救った」時、リュドシエルはエリザベスに怒鳴りました。
「あの方は決して お許しにならんぞ!!!」
するとエリザベスは涙を浮かべて叫び返したものです。
「私は…」「誰に許しを乞うつもりもありません!!」
リュドシエルの言う「あの方」とは、最高神のことと思われます。
これは「権力に屈さず志を通すエリザベスは気高く素晴らしい」と表現するための場面でしょうか。
しかし当時の私は、半ギレして親に反抗している女子中高生みたいだなあ、と思って読んでいました。
エリザベスが ちやほや大事にされていたのも、魔神メリオダスを<
親の七光りを存分に浴びてワガママを通しておきながら、親には従わないと半泣きして叫ぶ。作者さんの意図はどうあれ、そんな風に見えてしまったのでした。
女神エリザベスは、どうして<
魔神族も女神族も、魔神王と最高神という最強のトップを戴いて、以下の全員が従うという社会形態を持っています。
つまり、戦争を始めるも止めるもトップの一存で、戦場の火消し的な反戦活動をしていたところで、殆ど何の意味も持たないのです。
何の力もない存在ならまだしも、エリザベスらはトップの子女です。
本当に戦争を止めたいと思うならば、優先すべきは「愛する人と離れない♡」ことではなかったはず。
それぞれの陣営に留まって親と話し合うか、自身の賛同者を集めて勢力を強め、親に立ち向かうか。
そういう方向は試さなかったのでしょうか。
…いやいや。
メリオダスが魔神族を裏切った時、当時の<十戒>二人を殺して魔界をメチャクチャに破壊したという話でした。きっと何かの陰謀に巻き込まれたのであって、魔界に戻りたくても戻れない・<
………と、考えていた時期が私にもありました。
最近の展開を見るに、普通に魔神陣営に戻って、普通に馴染んでるやん…。
なんじゃー…。
じゃあメリオダスが魔神族を裏切った理由は、マジに、
「エリザベスを愛してしまったが反対されたので抵抗して脱出したぞ。その過程で死んだり壊れたりしたらしいけど、仕方がねえな」
ってだけでしかなかったんでしょうか。
……いやいやいや。まだ何か理由が後付けされることがある…はず?
ずっと、メリオダスが裏切った理由は恋愛以外にも何かあったのではと期待してましたが、話が進めば進むほど、メリ&エリの動機は恋愛でしかないと重ねて語られてしまって。もうそれで確定なんですかね。(^^;)
最終的には、個人の価値観の差に帰結するのでしょう。
メリオダスが<十戒>を分散させたり、仲間を騙して働かせたりした理由が「エリザベスのためだった」と明かされた時、
「だったら仕方ないね、メリオダスは悪くないよ」
と思えるか、
「そんな理由で あんなことを!? ありえない!」
と思ってしまうか。
読者によって評価が分かれていくのだろうと思いました。
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それはさておき。
バルトラとエリザベスの親子のお別れイベントをやった以上、王女エリザベスが死ぬか、死んだと思わせる展開がくるのは確定……なんでしょうか。
ただ、エリザベスとメリオダスの間の息子トリスタンが次世代編のメインキャラで、アーサー王に仕えること、元ネタから鑑みるにアーサー王は30代半ばで死ぬ(妖精界に去る)ことを考慮すると、ここでエリザベスが完全に死んだり・生まれ変わって赤ん坊になったりすることはなさそうかも?
となると、死ぬ死ぬ詐欺をいかにドラマチックに描くかが最注目ポイントになるわけか……。どうなるんでしょう。
(エリザベスが赤ん坊に戻ったり行方不明になった後、未来から時空を超えてトリスタンが現れる、なんてのもアリかもしれませんが、さすがに無茶だろーし 笑)
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彼は洗脳されたのか?
今回、ドレファスが
「…上位の女神族には他者を洗脳する技を有する者もいる」
「ヘンディまで様子がおかしくなる始末だ」
と言ったこと、更に<蒼天の六連星>が女神族に向けていた敵意を翻してアッサリ和解したことから、 リュドシエルがヘンドリクセンと<蒼天の六連星>に洗脳術をかけたと解釈した読者が多かったようです。
私は、今のところ「リュドシエルは洗脳術を使っていない」派です。
今までのエピソードで、女神族の洗脳術が「明確に」描かれているのは、3000年前の女神エリザベスが魔神の軍勢を撤退させた場面です。(第202話、204話)
エリザベス自身は「少し話をしただけ」と言っていますが、当の魔神たちは
『オレたち… なぜ逃げたか …わからない』『…あの目 見てると… 戦うこと… …嫌になる』
と、
以上から、女神族の洗脳術の発動条件は「
しかし、リュドシエルがヘンドリクセンや<蒼天の六連星>の目を印象的に見つめた場面は、現時点まではありません。
彼がマーガレットの肉体に顕現した時に光輝いたのや、今回<蒼天の六連星>に「
今のところ、私はそれらは洗脳とは無関係だと思っています。
ただ、デスピアスと和解して嬉しそうに微笑むリュドシエルのコマに、表情にかかるようにアミカケのトーンが貼ってあったのが、気になると言えばなるかもです。
意味はないのかもしれないし、実は笑顔に裏があります、という暗示かもしれない?
「
けれど、魔神の血ほど物騒なものではないように見えました。
魔神の血を与えられた人間は、適合しなければ その場で異形化したり爆死したりして、適合しても瞳が漆黒に変色していました。
しかし「
ただ、祝福を与えられたと言っても、上位魔神と渡り合えるほどではないはず…。
なのに若いデルドレーとアーデンは すっかり舞い上がっているようなので、先走って無駄に命を落とすことになりはしないかと心配です。
<蒼天の六連星>は、かつて、低闘級のメンバーだけの連携で、闘級3万超のフラウドリンの捕獲に成功しています。
同じように、与えられた力に驕ることなく・慎重に・各自の魔力特性を生かした連携をして、何か戦闘で成果を出して無事生き残ってくれたらな、と思いました。
デンゼル様みたいに死んだら悲しいし、つまらないですもの。
個人的には、ヘンディや<蒼天の六連星>らが今後何か失敗したとして、「女神族が洗脳したせいだ、女神族が悪い、彼らのせいじゃない」という責任転嫁の流れにならないことを願っています。
メリオダスの暴走や離反が「魔神王に感情を取られたせいだ、魔神王が悪い、メリオダスのせいじゃない」と語られている(マーリンとエリザベスが何度も そう主張する)のが、あまり好きではないからです。
…ところで、改めて考えてみると洗脳って女神族の専売特許じゃないですよね。
それこそ、ドレファスに憑いたフラウドリンに干渉されたヘンドリクセンが、憑依されているわけでもないのに魔神の手先として活動していたことや、ゴウセルが人の記憶を書き換えて都合よく動かしていたのも、洗脳と言って間違いないはずです。
それと、もう一つ。
今リュドシエルに心酔しているヘンドリクセンは、洗脳を疑われるほど異常で滑稽かもしれませんが、ドルイドの聖地後のギルサンダーも、メリオダスに対して近い状態だったと思ってるんですけど、どうでしょうか?
メリオダスが わざと<十戒>を挑発・分散させた直後、ギルサンダー(とハウザー)は子供のように「メリオダスの闘級が凄い」と はしゃぐばかりでした。
当時の感想に散々書きましたけど、<十戒>がブリタニア各地に分散すれば町や国を襲うとメリオダスが言ったのを聞いていたのに、ブリタニア各地に急を報せようとか、急いでリオネスに戻って愛する人たちを守ろうとか、せめて不安そうな顔をするとか、そういうことが全くないのが怖かった。
王国を守る聖騎士なのに、メリオダスに心酔し過ぎて、ただ盲目的に彼に付いて行くだけの金魚のフンになっていました。
今、リュドシエルに心酔して金魚のフン化しているヘンドリクセンと、大して違わないかも?
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連鎖していく怨み
フラウドリンの記憶を持つドレファスは
「奴には奴なりの筋があった …女神族に殺された同胞たちへの思いは私たちと同じ…」
と魔神族の正義を語り、
リュドシエルは
「私たちは かつて数え切れぬほどの犠牲を払い…」「身を焼かれるような… 大切な者との別れも味わってきた」「その気持ちは女神族も人間も変わりはないはずだ……」
「そう… 我らは神などではない」「キミたちと同じ血と涙を流す者だ…」
と女神族の哀しみと怒りを語りました。
改めて、魔神族と女神族は どっちもどっちで、感情の面では人間族とも大して変わらないのだ、と強調されています。
どちらにも正義があり、愛があり、それを奪われた哀しみと憎しみが戦争を激化させている。
憎しみの連鎖を断ち切って戦争を終わらせるんだ―、というのが この漫画のテーマの一つのようですけど、できれば、過去修業編でやったような
「敵にも事情がある、可哀想だから許さなければならない、愛があれば たった今仲間を殺されても許せるはずだ、許せない者は間違っている」
という、愛と許しを過剰に讃えた方向とは、少し違う視点も見せてほしいですね。(;^ω^)
そしてそれが多分、猪突猛進「私の正義と愛を譲らない!」なエリザベスちゃんに欠けているものではないかと思うのです。