【感想】『七つの大罪』第293話 「いつか」が叶う時
週刊少年マガジン 2019年 2・3号[2018年12月12日発売] [雑誌]
第293話 「いつか」が叶う時
- 「バン…」
煉獄 から帰還した男の名をホークが呼ぶ。 - 「バン様… よく御無事で」
それを制して誰よりも先に歩み出たのはエリザベスだった。最初の喜びは鳴りを潜め、不安に曇った顔で縋るように見上げてくる。
「それで… メリオダスは」「彼の感情 は無事だったんでしょうか?」 - フッ…とバンは微笑んだ。
「安心しな姫さん…」「…あいつは必ず戻ってくる…」「あんたのためにな」 - エリザベスの顔が輝やき、涙が浮かんだ。
◆バンが煉獄に旅立った時、エリザベスはメリオダスに連れさらわれていました。なのにホークたちと共に彼女がいることを、バンは不思議には思わないようです。
彼にとっては1000年以上も前のことだから細かい状況忘れてる? それとも感情メリオダスの記憶が本物メリオダスと連動していて、現世の その後の状況を聞かされて把握していた? - 次いでバンは周囲を見回した。誰かを探すように。
- 「? ……どした?」
無言で踵 を返して どこかへ歩き始めた彼にホークが呼びかける。 - バンは立ち止まらなかった。
「お前らは真っ直ぐ団ちょの下 へ急げ」「俺はやるべき目的を果たしてから合流する」 - 後も見ず立ち去る彼をエリザベスとホークは唖然と見送り、戸惑った様子のディアンヌは隣のキングと顔を見合わせたのである。
◆この画面のバン、腰穿き ズボンが丁度 見えないところで下が見切れてて、あたかも下半身に何も穿いてないみたいに見える。(/ω\)キャー///
後ろで呆気にとられたり戸惑ってるエリザベスやディアンヌが「丸出しだけどいいのかな…」と言ってるみたいに見える(言ってない)。 - キングたちのいた場所から東へ100kmほど離れた
荒野 。 - 南下を続けていた妖精族と巨人族の連合軍は、ついにハウザー率いる掃討部隊と合流を果たしていた。
だが魔神族軍との戦闘は断続的に繰り返され、積み重なる疲弊と消耗は甚大になり、限界が訪れようとしていたのである。
◆第261話感想でも書いたことですが、リオネス王都からキャメロット王都まで直線距離で600km以上。道なりに行くなら800km以上あるはずです。そこを魔神軍と戦い続けながら進軍するなんて、正直、無謀としか言いようがない。道は必ずしも整備されておらず、森も山も川も湖もあるはず。魔神族は人間にとって あまりに強敵。馬はフル装備の騎士を乗せて何百kmも走り続けられないし(時速60kmで走らせるのは5分程度が限度だそうです)、人間も馬も疲弊します。
だから掃討部隊が戦力を保ったままキャメロットに着ける確率は限りなく低く、最初から捨て石覚悟の陽動部隊で、エリザベスがこの部隊に加わったのは捨て石になり得る聖騎士たちを哀れんだからなのかな、と思っていましたが…。さらわれたエリザベス側に<四大天使>や<大罪>ら主戦力が全員行ってしまったから、さあ大変。残された掃討部隊はどうなるの?
余談ですが。第285話扉絵で見るに、現時点の掃討部隊はリオネスから300~350kmくらいの地点に到達してるっぽい。
時速60kmで移動し、現在時刻を13:30と仮定するなら、朝の8:30頃にリオネスを発ったということになるかと思います。
しかし前述したように、フル装備の騎士を乗せて、平坦とは言えない様々な地形を、馬が時速60kmで何時間も走り続けられるはずがありませんし、複数回の戦闘と休憩を挟んでもいます。なのにどうして、5時間程度で300km以上も移動できたのでしょうか。
次回のエピソードで、<原初の魔神>と戦うマーリンが「キングたちが合流するまで持ちこたえるしかない」と言っていました。この言い方だと、今日中に(半日程度?で)掃討部隊がキャメロットに到着すると考えているようです。最初からそう想定されていた?
でも、少し前にリオネス~キャメロット間をホークママで移動した<大罪>たちは、寄り道はしましたが、キャメロット近くまで行くのに足掛け三日掛かっているのに…。
ちなみに、江戸時代の早馬は750kmの移動に五日掛かったそうです。一日150km。ただし途中で馬を交換しながらリレー式に走らせて、騎手はヨロヨロになりながら、です。馬を交換せず普通の歩かせ方で適切に休憩を挟みつつ進むなら、一日50~80km程度。つまりリオネスから300km程の地点まで進むのに4~6日掛かるはず。それも、戦闘はしていない前提で。
リオネスの聖騎士たちの馬は、異常な速度で移動していることが判ります。しかも疲弊した様子がない。魔法でも掛けられてるんですかね? まさかリュドシエルが「祝福の息吹 」を馬にも掛けていた? 掃討部隊の馬の闘級は今や3000くらいあるのかもしれない…。赤魔神・青魔神・白魔神くらいなら蹴り殺せるのかもしれない…。 - 今しも、魔神軍との熾烈な戦闘が繰り広げられていた。
巨大な魔神と格闘する巨人。魔力を用いて果敢かつ無謀に挑む聖騎士たち。一方で既に命を落としている者も少なくない。 - 光線や獄炎を吐く赤や灰の魔神をマトローナが術で飛ばした岩塊で砕き散らす。聖騎士たちを握り潰していた銅色魔神の腕を、大地から生やした大剣で一息に斬り落とした。
- <蒼天の六連星>デスピアスとアーデンは別の銅色魔神の足元にいる。巨大な脛にデスピアスが斬りつけアーデンが矢ぶすまにして、巨体を よろめかせた。
- 小妖精プオーラは灰魔神に挑む。頭をゴルフクラブでポコポコ殴るものの、蚊ほども効かずに光線を吐かれて退散する。
- 混戦の中、最も強さを見せつけているのはホークママだろう。鼻から噴いた光線で何体もの魔神やアルビオンを一網打尽にしている。
◆鼻から光線を噴く姿には、劇場版『天空の囚われ人』でホークママがインデュラの攻撃を呑み込んで鼻から噴き返して反撃した場面を思い出さされました。ちょっと「全反撃 」みたいですよね。
今回の漫画のホークママは、魔神の攻撃を呑んで鼻から噴き返してるんでしょうか。それとも、純粋に自分だけから発してる? - 一方、魔神の攻撃の余波でデルドレーが背中から転倒した。咄嗟に立ち上がれない彼女に、傍にいたワイーヨが駆け寄って覆い被さり、両手で握り潰そうとしてきた橙魔神から庇う。
◆デルドレーのピンチを命がけで救う役がアーデンではなくワイーヨなのは目を引きました。
こんな守られ方したら惚れざるを得ないやんけ…!
これまでセット扱いだったアーデンは、今回はデルドレーと並ぶ・目線を向ける描写すらなし。あれ、もしかしてワイーヨさんに恋のチャンスが芽生えてる…? - 間一髪、馬上のギーラが爆炎で橙魔神を焼いて二人を救った。
- だが、直後に無数の光線が降り注いだ。頭上を飛ぶ青魔神たちが一斉に口から光線を吐いたのだ。ギーラの馬は何か所も貫かれて倒れ、彼女も脇腹を抉られて地面に叩きつけられる。
- 血を吐いて倒れ伏す彼女に気を取られたハウザーを見逃さず、襲い掛かった黄土色魔神が四対の腕で殴り続けた。
- すると黄土色魔神の頭が粉々に散った。大風が渦巻いて刃と化し、魔神たちを巻きあげて粉砕機のように砕いたのだ。
- 驚くハウザー。その隙にギーラも どうにか起き上がる。
- 「ハアッ」「ハッ」「ケホッ」「ハッ」
大旋風の術士は空に浮かんだエレインだった。他の人々と同じように血と汗に汚れ、術印を組んで荒い息を吐いている。 - 「妖精の姫さん 恩に着るぜ!!」
礼を返すハウザーも笑顔を作る余裕はない。 - その声に一瞬気を取られたエレインは、ハッとしたものの回避を逃した。背後に橙魔神が迫っていたのだ。
- バシッ
「あう!!」
橙魔神の平手に打たれて数m吹っ飛ぶ。 - 間髪入れず、橙魔神に蔓が巻きついて締め上げた。
「エレイン退がれ!!」
ゲラードだ。彼女も傷だらけである。
「お前は安静を要する身なのだぞ!? これ以上の無茶は…」
締め付けは緩まず、橙魔神は糸で豆腐を切るように絞め千切られた。 - 「かはっ」「ハッ」
俯いて荒い息を吐き続けるエレイン。
「ハッ」「いいのよ ゲラード どうせ… この命は」「ハッ」「“怨反魂 の法”で得た仮初めの命」
◆「どうせ」なんて言い方しなさんなよ…。離れてた隙に また君が死んだら、バンは勿論、キングにも またトラウマが上書きされちゃう。
身体の調子が悪いのに加えて、生還の可能性が ほぼ無い煉獄への旅に黙ってバンが行ってしまったせいで、生きたい気持ちが薄くなってしまっていたのかな。 - ズズン…と橙魔神の倒れる響きを背後に、ゲラードの顔が切なげに、そして悔しげに歪む。
- 他方、マトローナが大地から無数の刺を「
創造 」していた。
“大地の牙”
栗やウニの殻のように密集した長く細い刺は一度に数十体もの魔神を刺し貫く。 - だが魔神の生命力は侮れるものではない。銅色魔神が貫かれたまま口から光線を吐いた。
- ドンッ
「ぐあ!!」 - 直撃こそしなかったものの、光線はマトローナの足元を爆発させた。高く吹き飛ばされた彼女は体勢を崩したまま背中から落ちる。ギーラたちの近くだ。
- 「くっ… まずい」
先程のデルドレーと同じである。崩した体勢から立ち上がる数瞬の隙に、光線で刺をも薙ぎ砕いて自由になった魔神たちが銅魔神を先頭に駆け迫っていた。 - “
嵐瀑布 ”
その魔神の群れを砕く無数の巨大竜巻。エレインの術である。 - 「す… すげ…」
ハウザーは呆然と呟いた。同じ風使いだが規模が違い過ぎる。 - 近くで身を起こすデルドレーと、彼女を庇い支えているワイーヨ。
- 「エレイン様 しゅごい!!!」
感涙を滲ませて「プオーーーッ」とプオーラが喜んだ。他の妖精たちも顔を輝かせている。 - 「エレイン……!」
ゲラードだけが痛ましげにエレインを見つめていた。 - 彼女は空中で体を折って、「ハ…」「あ…」と、もはや呼吸とも呻きともつかぬ音を発している。
「バンは… 親友のために… 煉獄で必死に… 戦ってる」「ハア」「ハ…」
どうにか呼吸を整えて顔を上げた。伸びた髪の間から露わになった瞳は、もはや焦点を失って茫洋としている。 - ゲラードの残った左目から涙が流れた。
- 「だから… 私も戦うの 妖精王の森の……… 聖女… として…」「でなきゃ… 彼に…」「合わせる顔が… な…い」
淡く輝いて背に広がる羽に ピッ と走る亀裂。一瞬で細かな破片になったそれは ハラッと散り失せた。あたかも盛りを過ぎた花から一度に花びらが散り落ちたかのように。 - 「エレ…」
叫んだゲラードの前で、エレインは真っ逆さまに落下していく。
◆ノ…ノーパン…!?
前日、廃都コランドでメラスキュラに立ち向かって羽が生えた時(第229話)はパンツ穿いてたのに。
人間の文化に迎合してパンツを取り入れてみたけど、やはり合わないと感じて穿くのをやめたのでしょうか。
…ふと気付きましたがエレインって基本裸足で滅多に靴を履かないですね。兄のキングを含めた他の妖精族たちは履いてるのに。…考えてみたら着てる服も首元が大きく開いてスカートの裾がゆったり広がったものが多いです。他の妖精たちは首元の閉まった比較的動きやすそうな服が多いのに。
もしかしたらエレインは、妖精族の中でも特に「服の締め付け」を嫌う性格なのかも。だから首元の開いた ふわっとした服を着て、裸足を好むのかも。
なればこそ、パンツなどという締め付けが彼女に合うはずはない、…のかもですね。 - (バン…)(最後に もう一度あなたに――)
16、7歳ほどの見かけに成長し髪も伸びていた身体は、羽を失うと同時に、かつての12歳ほどの姿 に戻っていた。髪の長ささえも。 - 目を閉じて落ちていく彼女に魔神たちが群がる。巨大な手で鷲掴みにしようとした、そのとき。
- 手首の関節を軽く動かすとコキ、と鳴る。
何かを掴む仕草をしながら、腕を薙ぎ払うようにサッと動かした。
ただ、それだけ。
それだけで、この場にいた全ての魔神が口から血を噴いて崩れ落ちたのである。体内の複数の心臓、全てを盗み奪 られたかのように。
その男、バンの手によって。 - 魔神たちの倒れる音が、ドドドドドドと巨人の太鼓のように轟いた。
- 唖然とするデスピアスとワイーヨ。
- 「ああ… あれは!」
涙ぐむゲラードは感極まって右手で口元を押さえている。 - 「へ?」
ハウザーは目と口を大きく開けた。 - 落ちてきたエレインを、逞しい両腕がフワッと抱き留める。
「待たせたな…」
ゆっくりと開かれたエレインの目が、ようやく焦点を結んだ。 - 「…バン………」「私の下へ戻ってきてくれたんだ」
愛しい男に横抱きにされた少女は微笑む。 - 祝福するかのように花びらが舞っていた。どこから飛んできたのか。もしや散り失せた羽の残滓か。
- 「夢じゃ……ないよね?」
「ああ…」 - 魔神は全て倒されている。
静まり返った戦場で、人々は物哀しげに恋人たちを見つめていた。少女に終わりが近付いていることを誰もが感じ取っていたからだ。 - 「体も…羽も…戻っちゃった…」「力を使いすぎ…た… みたい…」
エレインは己を抱く男へ右手を伸ばす。彼は微笑んで見ている。
「でも…… うれしい」「最後に… こうして…」「また あなたに抱いてほしかっ…た」
震える指先は彼の頬に触れただろうか。力を失ったそれは、フッと落ちた。 - エレインは目を閉じている。もはや息吹はない。
- 「…………エレイン様」
プオーラが涙を落とした。
他の妖精たちも「ヒック」と しゃくりあげて目を覆い、涙を流している。
「エレイン様~~…」 - かける言葉もなく見つめるギーラ。
それぞれ気まずげに目を逸らして俯くハウザーとマトローナ。 - 「最後じゃねえよ」
頭 を垂れて目を伏せていたゲラードは、その声にハッとして泣き濡れた顔を上げた。- バンが左手を高く掲げている。
“贈与 ”
その手を振り下ろし、右手で抱きかかえたエレインの胸にかざした。 - カッ
- 「!!」
発した光にゲラードは息を飲む。照らしながら目を焼かない優しい光だ。 - 「最後なんかじゃねえ…」「何度だって抱いてやる」
かざした手から発する光をバンはエレインに当て続けている。 - 「バン殿のすさまじい生命エネルギーがエレインの体の中に…!!」
ゲラードは驚愕した。
「これは… まさか!?」 - かつての「妖精王の大樹」に安置されていた「
生命 の泉」。聖なる杯に一杯分だけ絶えず湛えられていた水は、一口舐めれば10年 長生き、一口飲めば100年 長生き、全部飲めば永遠の命と、欲深い人間たちには伝えられ欲されたものだが、本来の意味と用途は異なる。
それは妖精界の全ての生命を生み出し育む「神樹」のもたらす恩寵。神樹に繋がる妖精王の長き不在の間、人間界に妖精族の領域「妖精王の森」を維持させるためには、その恩恵は不可欠だった。 聖女 が それを恋人 に与えて 以降は、彼の血潮に力が宿り、彼自身が「生命 の泉」と言える状態ではあったが、よもや血を介さずに力だけを他者に譲渡できようとは。- 光の中でエレインが目を開けた。
泉の力でも、墓の下で骨片となった者を甦らせることは難しかろう。しかし今 息吹の絶えたばかりならば、いわば仮死の領域であり、魂も死者の都へ旅立たず この場に留まっていたのかもしれない。 - 少女は瞳から涙を溢れさせ、事情は承知しているとばかりに細い声で訴えた。
「やめてバン…」「生命 の泉の力を使い切ったら…」「あなたは もう不死では――」 - 注ぐ力を止めることなく男は優しく微笑む。
- エレインの目から溢れた涙が、湧き上がる光と共に水の玉となって舞い上がっていった。
- そして、激しく ブワアッ と渦巻き舞い上がる花びら。それを最後に光は鎮まった。
◆何故か舞い散る謎の花びら。少女漫画なら決めシーンで突如 花が咲いたり風で何かが舞い散ったりは珍しくないけど、少年漫画である『大罪』では珍しい。
(エリザベスが大規模な治癒術を使う際も、花びらだか羽毛だかみたいなものが舞い飛ぶけど、今回はバンがエレインを抱き留めただけの時点で既に花びらが舞っています。)
そう思う一方で、この演出に強烈な既視感 をも感じていたり。
もしかしてコレ、アニメ版『七つの大罪 戒めの復活』第十二話での「バンとエレインのキスシーン」で、突如 シャラーン! と謎の花びらが吹き上がって渦巻き散った演出のパロディとゆーか逆輸入なのでは? アニメ第三期があったら、この場面、花びらが紙吹雪かってくらい舞い降りそうですね。 - かざしていた手を、バンは少女の胸に当てた。トクン トクンと、確かな鼓動が伝わってくる。
- その手をエレインが両手で握った。
「バン…… 本当によかったの……?」「これで あなたは永遠の命を失ってしまったのよ…?」 - 「…んなことは どうでもいいさ」「お前との約束さえ果たせればな♬」
愛おしげに微笑んで、バンは涙を流すエレインに唇を重ねる。
それから彼女の目を真っ直ぐに見据えて、笑顔で言った。
「「いつか お前を奪う」」「エレイン」 - 幾度も口にした、そして最後まで言えなかった言葉だった。あの時、今は失われた大樹の森で。
- やり直せる。今なら。
- エレインの小さな体が飛んだ。愛しい男に飛びつき、笑顔で しがみつく。
あの時もこうした。その直後に森は焼かれ全てが失われたが、未来は還ってきたのだ。互いの腕の中に。 - バンは目を細めて最愛の女を腕に捕らえる。
「これで お前は一生 俺の物 だ♬」 - 笑顔で恋人たちは抱きしめ合った。
- 次回「希望と葛藤と絶望」
バンとエレインのラブラブ回でした。
<原初の魔神>打倒に集中していた読者としては、話が別方向に逸れて拍子抜けの気分になった人もいたかもしれません。
バンは基本「エレイン一番 団ちょは二番♬」(文明堂のカステラのCM曲、最近聞きませんね)の男。
ところが、バイゼルでメリオダスが<十戒>にリンチされた際には、それによりエレインが死ぬだろうと承知しつつ彼を助けに行きました。
この時はエレインよりメリオダスを優先したわけです。リオネス王都決戦での「エレインの蘇生と引き換えにメリオダスを殺そうとした」一件で負い目を感じていたせいでもあろうと思っています。
それでも この時は二人で意を酌み合って、エレイン自身が「メリオダスの救助と引き換えに起こり得る自身の死」を受け入れていました。微笑んでバンの後押しさえした。
ところが煉獄行きの時は、バンはエレインに何も言いませんでした。死にかけていた彼女を置いて、彼女に黙って二度と戻れぬ可能性の高い旅に出たのです。
バイゼルの時は聖女に相応しい態度で微笑んだエレインも、今回ばかりは身も世もなく泣いていました。黙って去られたからでもあろうし、自分が死ぬのなら死者の都ででも また逢えるが、バンが煉獄から戻れなければ本当に二度と逢えないので、それが耐え難かったのだろうとも思います。
バンの煉獄行きは「エレインよりメリオダスを取った」行いでした。
しかし無事に感情メリオダスを保護すると、今度は「エレインに逢う」ことを現世帰還のモチベーションとし、そればかり考えるようになった。
ですから、戻ってきたバンが キャメロットへ向かうことよりエレインの下へ行く方を優先した…「メリオダスよりエレインを取った」のは至極当然というか、メリオダスへの負い目も消えて、「エレイン一番 団ちょは二番♬」な通常運転に戻ったということなのかな、と感じました。
元々、バンの目的は「エレインを生き返らせること」です。
その視点から見ると、今回のお話で「バンというキャラクターの物語」は大団円で完結したコトになるのでしょう。めでたしめでたし、です。
ただ、ここで彼が「不死者ではなくなった」のには大いに驚きました。
第283話感想にも書いたように、エレイン完全蘇生の引き換えに不死の力を失う展開自体は、十二分に想像できるものでした。けれど その展開があるなら、エレイン復活はメインストーリーの最終決戦の後…後日談などで語られるのだろうと思ってたんです。
だって「不死者」であることはバン最大の特長でしたもの。
煉獄で超パワーアッブしてるから潰されたり切断されたりせずに普通に戦えるだろうと思いつつ、正直、不死身を あてにした捨て身な動きをせずに戦うバンの姿がイメージできません。(^^;)
本人も不死身戦法が染みついちゃってて、うっかり無茶な突撃したり攻撃を避けなかったりするんじゃないかと、余計な心配をしてしまいます。
…益体もなく呟くに、エレインの完全復活の場にキングが立ち会えなかったのは残念でした。
妹が留守中に死んでいたことを、彼は深く悔やんでいましたから。だから復活の場に立ち会って、バンを手伝って魔神軍を倒す程度でも、何か役に立てたら、気持ち的に彼も少しは心が軽くなれたんだろうなと。
でも、エレイン復活は、あくまでも「バンとエレイン」二人の物語なんですね。兄は部外者。
うん、仕方がない。
仕方のないことだけど、この完璧に幸せな回において、それだけが ちょっと心残りでした。
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エリザベスのイヤリングのこと
感情メリオダスの無事を確認して嬉しそうに涙ぐんだエリザベスの場面、彼女のイヤリングに「キラッと光る」効果が入れられていました。
彼女は左耳にだけイヤリングをしていて、時折こうした「光る」演出が見られます。
このイヤリングに特別な意味を見出そうとする読者は一定数いるかもしれません。
女神族の誰かが宿っているのではとか、女神エリザベスに関する何かが封じられているのではとか。
今回の「キラッと光る」演出も実に意味深だと、特に海外の「意味があると思う派」に騒がれていたような。
それも面白そうですけど、今のところ、私は「そうは思わない派」です。
そもそもこのイヤリングは、15歳の誕生日にマーガレットから贈られたものだと、エリザベス自身が説明しています(第27話)。
イヤリングの玉に描かれている太陽と月と星の紋章は、リオネス王家の家紋。バルトラ王の長衣の背中や、幼いマーガレットのドレスの胸(第82話)などにもデザインされています。
つまり これはリオネス王家由来で、装着者の身分を証明する品。
ツイーゴも「その耳飾りの紋章は王家のものだ」と述べて、エリザベスの身分を見抜いていたものです(第1話)。
たとえリオネス王家の品でも、3000年前から代々 王家に伝えられてきた「
しかし3000年の眠りから覚めたゴウセルは、ここがリオネス城の地下だと聞いて「リオネス? …知らない」「そんな名前の国はないよ」と言いました(外伝『人形は愛を乞う』)。 3000年前にリオネス王国は存在していなかったということです。
よって、リオネス王家の紋章の描かれたイヤリングが、3000年前から伝えられてきた品だとは思われません。
以上から、エリザベスのイヤリングが女神族に関わる可能性は低いのではと思います。
今回イヤリングがキラッと光っているのは、特に意味のない演出に過ぎないのではないでしょうか。
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羽と成長
廃都コランド戦で立派な羽が生えて闘級超絶アップし、身体も16、7歳くらいに成長したエレイン。
大人びた容姿の彼女はバンの伴侶に相応しく素敵だったのに、今回、羽が破け散ると同時に、身体も元の12歳くらいの外見に戻ってしまいました。
えええええ。
納得いかない…。
羽が失くなったのはいいんですよ。これからバンと結婚して、かつての夢を叶えて人間界を旅して暮らすなら、羽の無い一見 人間に見える姿の方が都合がいいですから。
でも、なんで身体まで元の子供に戻るの?(汗)
羽は「一人前の証」だとキングが言ってましたから(番外編『バイゼルへの道中』)、第二次性徴による身体の変化と比せるものかと思っていました。キングのエピソードには羽と陰毛を同一視するようなニュアンスがありましたし。
なので、生えた陰毛を抜いたからって身体が子供に戻ったりはしないように、一度 身体が成長した以上、羽を失っても体が戻ることはないと思ってた。
まさか、一度成長した身体が退行するなんて…。
どうなってるのこれ。
この件には、キングを子供姿に戻す布石では、という恐れを抱かされました。
私、子供姿のキングは可愛くて大好きでしたし、大人キングの髪型はビミョーだと思ってます。
それでも、子供姿に戻ってほしいとは思いません。
一度 成長を果たした以上、子供に戻るのは「退化」だと思うし、そもそも「力を使い果たす」のが戻る条件なら、王として弱体化することになる。
それは、あの「遅すぎた、護れなかった」苦しい状態に戻ってしまうということです。
この聖戦を終えてもキングは生きている限り王であり続けるのですから、退化・弱体化は よろしくないし、彼自身の望みにも沿わないと思う。
なので、キングには戻ってほしくないなあ。
可愛い子供のキングには、第232話扉絵みたいにマーリンが悪戯で「子供になる薬」でも飲ませたら、一時的な遊びとして また会えるから、それで充分です。
…な~んてことを考えたりもしたのですが。一方で こうも思いました。
エレインの羽化とキングの羽化は、同じようでいて、実は全く違う現象だったのではないか? と。
エレインが羽化した時から気になっていたことがあります。
彼女の羽の描かれ方は、他の妖精族とは違っていました。
トーンが輪郭線を越えて貼られ、縁が削りぼかしされている。
羽一枚一枚の形がハッキリせず一つの塊のように見える。羽の模様も モヤッとしていて不明瞭。
まるで光か何かで出来た映像みたいじゃありませんか?
一方、キング含む他の妖精たちの羽には削りぼかしのトーンなど貼られておらず(七色に輝いている設定のグロキシニアの羽にさえです)、形は一枚一枚がハッキリして、
エレインの羽と、キング含む他の妖精たちの羽は見かけが違う。
加えて、エレインの「羽が失われる様子」も特殊でした。
「力を使いすぎた」ら勝手に羽が千切れて、花びらみたいに散って消滅したのです。
しかし他の妖精たちは、羽を断ち切られても、
引き千切られても、
力を使い果たし死亡しても、
羽が「消滅する」ことはありません。
なにせ、人間族が引き千切った妖精の羽を幸運のお守りとして売買していたくらいです。持ち主の妖精が死んで魔力が消えようとも羽は残り続け、消えたりしない。
以上から考えました。
エレインの羽は、もしかしたら「見せかけ」だったのかも?
魔力によって形作られた実体のない羽。淡く輝く一種の幻影だったのではないでしょうか。だからこそ「力を使いすぎた」ら勝手に消滅してしまった。
羽が消えたら身体まで元の子供に戻ってしまったのは、彼女の肉体の成長もまた「見せかけ」だったからなのでは? アレは実は「変身」で、だから「力を使いすぎ」て魔力が失われたことで、術が解けてしまったのでは。
子供姿にコンプレックスを抱いて おっさんに変身していた「見栄っ張り」のキングに対し、何のコンプレックスも無かったエレインは変身する必要を感じたことがありませんでした。
しかし外の世界を知った…バンと旅するジェリコに嫉妬して、彼女に
「お前みたいな つるぺたんなチビよか 背も胸もある俺の方が絶対 バンに釣り合ってる!!」
と言われたとき(第143話)、エレインは初めてコンプレックスを知り、願望を抱いたのではないでしょうか。バンの隣にいて違和感のない、背丈も胸もある大人の姿になりたいと。
廃都コランド戦で「護られてるだけじゃイヤ、私もバンを護りたい」という想いを爆発させ闘級を超絶アップさせると、溢れた魔力は自然に幻の羽を形作り、肉体は無意識のうちに望む姿に「変身」した。
もしかしたら そういうことで、だから力を失ったと同時に、全てが元に戻ってしまったのかも?
真相は現時点で判りませんが、もしそうならば、エレインとキングの羽化は似ているようで異なる現象であり、キングは力を使い果たそうとも子供姿には戻らないし、羽も消えないのだろうなと思いました。
…それはそれとして。
エレインが子供姿に戻ってしまったのは、なんとも残念です…。
折角バンと見かけの年恰好が釣り合って、よくお似合いだったのにぃい。長い髪と色づいた唇が素敵だったのにぃい。
それに、この子供姿で
いやまあ不可能じゃないだろうけど、小学生に子供を産ませるような痛々しさを感じます…。
それとも、エレインが自分の胎で産むのではなく、バンと二人で お祈りしたら妖精王の森の木の幹に
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「あの日」を もう一度
「いつかきっと お前を奪う」
20年来のバンの望みが叶いました。おめでとう、よかったね!
意図的に20年前の妖精王の森での やり取りと言動が重ねられてあってニマニマしました。バンは、七日目の惨劇を「やり直し」して、幸せな記憶に上書きしたんですね。
↓20年前の二人。バンの頬に触れていたエレインの手が落ち、死亡する。
まずは、このシチュエーションが繰り返されます。
↓現在の二人。やはりバンの頬に触れようとしたエレインの手が落ちて死亡。
ただし、20年前のバンは半泣きだったのに、現在のバンは微笑んでいます。
20年前のバンは、エレインが望んだ「いつか必ず お前を奪う」という台詞を最後まで言えませんでした。
後に、亡霊のエレインや仮初めの命を得たエレインには言いましたが、完全復活した本当に生きているエレインには言えていなかった。
↓それを今、ついに果たします。
それを聞いたエレインは文字通り舞い上がって、飛んでバンに抱き着きました。
↓20年前も、バンに「森を出て一緒に旅をしよう」と
(20年前は、抱き着かれたバンは目を見開いて硬直して、抱き着いたエレインは真っ赤になっている初々しさなのに、現在の二人は自然体。思えば死者の都で20年ぶりに再会した時、照れも何もなく手慣れた様子でキスしまくりでした。死の直前の口移しのキスしか互いに経験はなかったはずなのに。離れていた20年の間に、二人の想いは熟成されていたんですねぇ。)
この時は、直後に赤魔神が現れて森は焼き払われ、無残にも二人は死に別れた。
でも今回はそんなことは起こりません。バンが、その場にいた魔神を全部 倒してくれていましたから。
今度こそ約束は果たされ、これから二人はずっと一緒。
幸せな記憶に上書きされた、文句なしのハッピーエンドでした♡