【感想】『七つの大罪』第238話 生まれた隙
週刊少年マガジン 2017年45号[2017年10月11日発売] [雑誌]
第238話 生まれた隙
- 荒野は流星雨に穿たれ、抉れた大地にホークママが前のめりに倒れている。頭上の<豚の帽子>亭は奇跡的に壊れていない。
- その上空、星の散らばる夜空には光の
大弓 が輝き、つがえられた大槍 の先は、ピタリと老魔導士に向けられていた。
合技 “天空の光弓 ” - 「ほっほ~~う? まともに喰らったら やばそうな
技 じゃのう」
チャンドラーはギロリと睨 めあげる。
「…だが儂には効かん
ゴウセルよ お主なら この意味は よ~く わかっとるはずじゃ!!」
◆人形ゴウセルは、術士ゴウセルの同調人形 として500年活動していました。
しかし人格的には幼い子供という扱いでしたし、過去編で術士ゴウセルが同調を解いて人形ゴウセルの自我を起動させると、今 目が覚めたという風情で「おはよう」と挨拶していました。
なので、術士ゴウセルが同調して活動している間、人形ゴウセルの人格は眠っていて、術士ゴウセルの見たり聞いたり経験したことは人形ゴウセルの記憶に残らないんだなと解釈していたんですが…。しっかり、チャンドラーの魔力の詳細まで承知しているんですね。 - 「…キング
奴 は団長と同じ「全反撃 」を使う」
ゴウセルの言葉に、キングは勿論、ゴウセルを乗せたホークも息を呑んだ。 - 「そんな… まさか!」と、キングの肩に立った小さなディアンヌが狼狽えている。
- 「でも 俺の合図で撃てば」「必ず当たる」
油断なくチャンドラーを見据えたままのゴウセルの声は、しかし揺らがなかった。 - 「…………信じる!」
一拍の黙考を挟んで、やはりチャンドラーに目を据えたキングは力強く応える。 - 右腕を振り上げたまま、冷徹な目で合図を待つキング。
鋭く細めた目でチャンドラーを窺うゴウセル。
彼らの会話を耳にしながら、空中でじっと待ち受けるチャンドラー。
冷や汗を浮かべて息を殺すホークとディアンヌ。 - 静寂の中、それぞれの鼓動の音だけが耳の奥に木霊していた。
- そして。
バシュッ
光の大槍が撃ち放たれた。 - 「!!」「合図なしのフェイント攻撃!?」
チャンドラーはカッと目を見開く。
「ぬるい!!!」
杖を一気に振り切って、槍を「全反撃 」で撃ち返した。 - 「!?」
だが、跳ね返されるはずのそれが、目の前で煙のように掻き消えたのを見て、ぎょっとする。
「幻覚…!?」 - 地上ならば たたらを踏んだところだろう。バランスを崩してグラァッと傾きながら見上げれば、光の超大弓は未だ健在。大槍をつがえて、限界までギリギリと引き絞られている。
- 「今だ」
ゴウセルが声を張り上げると同時に。
ドンッ
キングは右腕を振り下ろし、大槍を撃ち放っていた。 - 「「
全反撃 」を空中で行えば 必ず体勢を崩す 魔術士のあなたが 次の「全反撃 」に移るまでの時間は一秒ジャスト」
淡々とゴウセルは語り続ける。
「十分すぎる隙だよ」
大槍の先が老魔導士の腹に激突する、その瞬間まで。
◆魔術士でも次の攻撃に1秒しか かからんのか…(怖)。 - チャンドラーは歯と目を剥いて顔を歪めた。
- 命中はしたが、まだ貫けも砕けもしていない。
「はあ!!!」
グンと右腕を押し出して、キングは更に更に大槍に力を込めた。落とさぬよう発射時から左手に握っていたディアンヌも、腕を振って応援してくれている。 - 夜空に光の線を描いて流れ落ちた大槍は、地表に激突して閃光と爆音を走らせた。
- 「プッゴ~~~~ッ モロ直撃だぁっ!!!」
ひれを羽ばたかせ、空飛ぶエイ 姿のホークが プガプガと歓声をあげる。 - 「二人共 すごい!!」
肩に戻って はしゃぐ恋人を照れ臭そうに見やって、キングは引き戻した大槍をクッションの形に戻した。 - それから、ス…と、ホークに乗るゴウセルの傍らに近付く。
互いに無言で笑みを浮かべ、親友のように、左と右の拳を打ち付け合った。 - 「豚野郎共 あれを見ろよ!!」
その時だ、ホークが顔色を変えて叫んだのは。
「今ので魔神 共が わんさか集まってきやがったぜ!!」
未だ立ち昇り続けるキノコ雲の、赤々と煮えたぎる輝きの中に、羽虫の群れのような黒点が見えた。爆炎を越えてぐんぐんと近付いてくるそれは、赤・灰・青で混成された、数十体もの魔神の軍勢だ。
「どどど…っ どうする!!?」 - 修行前なら、ホークと同じように青ざめていただろう。しかし今ならば。
「…豚くん あわてすぎ」
キングは顔色一つ変えずに バチッ と指を弾いた。たちまち、クッションが解 けて無数の大鏃 となる。
霊槍シャスティフォル 第五形態「増殖 」
この程度なら、コランドのパワーアップ後の骸骨たちと さして変わらない。 - 「…?」
怪訝に眉を寄せたのはゴウセルだった。
「おかしい…集団 の中に生体反応は一つだけ…」 - そう呟いた時にはもう、「
増殖 」は魔神の群れめがけ撃ち放たれている。 - 「ダメだっ キング!!!」
払うように腕を振ったゴウセルの大声に、ビクとホークが震え、キングが「え?」と振り向いた、その瞬間。 - 「
全反撃 」 - 「うわああああああ~~っ!!!」
全ての大鏃 が反射され、倍以上の鋭さでキングの全身を雪崩撃っていた。 - 咄嗟にディアンヌを右腕に抱いて庇いながらも、鎧を粉々に砕け散らせ、血しぶきを散らして地に落下するキング。
- 「ディアンヌ!! キング様!!」
倒れたホークママの傍らに、メリオダスを抱いて座り込んでいたエリザベスが叫んだ。
◆だらりと投げ出されたメリオダスの両脚の下に軽く地割れが走っているように見えます。ホークママが倒れた時、エリザベスは メリオダスを抱いたまま空中に投げ出されたけど、メリオダスが意識のないまま受け身を取って着地してくれたのかな? それとも、今のエリザベスは飛べるんでしょうか。 - 「ななな… 何がどうして どうなった!?」
空で羽ばたきながらオロオロと見下ろしているホーク。
その背に乗ったゴウセルは、魔神の群れの中から聞こえた老爺の声にハッと険しい顔を向けた。 - 「いかんのう~」「警戒も策もない安易な一撃は!」
スウ…と煙のように魔神たちが掻き消え、現れたのは悠々と空中に立つチャンドラーだ。
「じゃが 安易な一撃でも数倍の威力で返されれば…」「貧弱な精神は ひとたまりもあるまいて…」
◆ここ、「貧弱な精神はひとたまりもあるまい」と言ってて不思議でした。「肉体」じゃないんですね…。
そもそも、反射されたってことは、キングの神器を使った攻撃は「魔力攻撃」扱いってことですか。実はシャスティフォルそのものが魔力の実体化なんでしょうか? もしや、キングの攻撃は主に精神に作用してるってこと??
ディアンヌに蹴られてもヒビ一つ入らなかった鎧が、自攻撃の反射で砕け散ったのは、シャスティフォルの攻撃がキングの精神(魔力)にダメージを与えたから??? - キングは地にうつ伏せて「ごほっ…」と咳き込んでいた。朦朧としているようで起き上がらない。それでも、右手に大切なものを包み込み、落下直前にシャスティフォルの
支配 を取り戻してクッションに変え、自分の頭の下に敷いて衝撃を和らげたのは、よくやったと言うべきか。 - ゴウセルはチャンドラーを睨みつける。
「“天空の光弓 ”は確実に直撃した」「それだけの傷 で済むはずがない」 - 「大した威力じゃったよ 張っとった魔法防御壁が一発で消し飛んだ!」「あげくに 全て防ぎきれず 多少喰らったわい…」
不機嫌に返すと、チャンドラーは口から顎髭に垂れた血を、左の人さし指で ぐいっと拭った。その血で、己の右手のひらに何かを描き込んでいく。
「それからゴウセル… お主にも少々 仕置きが必要のようじゃな」
右手をスッと突き出した。描かれていたのは『目』を思わせる図形だ。 - 咄嗟に両手を突き出して闇色の光を放とうとしたゴウセルだったが、それよりもチャンドラーの方が早かったのである。
- “
絶対強制命令 ”!!
撃ち込まれたかのごとく、ゴウセルの胸に『目』の図形が輝いた。
「闇の契約により最上位魔神たる儂の命令に 今後一切 逆らうことを禁ずる」
唱えると、チャンドラーは直ちに命令を下す。
「『儂の邪魔をするな』…」
そして垂直に地上へ降りて行ったが、ゴウセルは硬直したように動かなかった。
「お…おい? どうしたゴウセル!?」と、彼を乗せたホークが狼狽える。 - 「さて…… ようやく」
静かに降り立つと、チャンドラーは愛し子を抱きしめる雌猫に目を向けた。
「エリザベス… お主を殺し 坊っちゃんを返してもらう時が来たのう」 - 冷や汗を浮かべて睨むエリザベスの両瞳に、再び
女神の紋様 が輝く。 - 「焼くか… 煮るか… 裂くか… 貫くか… 抉るか… 潰すか…」
謳うように並べて掲げた杖の先に、魔力の光が揺らめき沸いた。 - 彼の後方にはキングが倒れていたが、未だ目を閉じている。顔の横に投げ出された右手の中から、小さな影が頭を出した。
- 「…よし 決めた」
チャンドラーは杖を前に突き出す。
“竜爪 ”!!!
魔力が巨大な竜の手と化すや、三本の鉤爪を揃えて、一気にエリザベスを穿った。
……はずだった。
◆爪なのに「ファング」という謎。(ファングは英語で「牙」。爪は「クロウ」。) - 「!」
チャンドラーは軽く目を見開く。
抉り穿ったはずのエリザベスは無傷。全身を鋼の輝きに変えた小さな娘が、その身を盾に鉤爪を防いでいたからである。
「“重金属 ”」 - 「ディアンヌ…!!」
咄嗟に閉じた目を開けたエリザベスが、女神の紋様 の消えた瞳で驚きの顔をする。
「エリザベスと団長は 必ず護ってみせる」
小さな体で二人の前に立った親友を、「無茶よ その体で!!」と諫めた。 - 「体を鉱物に変化させる巨人の技か 懐かしいのう」
チャンドラーは好々爺然として笑う。顔の横にスッと右手のひらを立てた。
「儂は いつも これで始末しておったっけ…」
ギッと歯と目を剥けば、右手が灼熱の炎をまとう。
“真紅の葬送 ”
「ドロドロに溶けてしまえ」 - ゴク…と固唾を呑みながらも逃げずにいたディアンヌの身体が、バッと誰かの腕に抱き込まれた。
- 唖然としたエリザベスの目の前には、ボロボロの少年の後ろ姿がある。
キングが割り込んだのだ。血で汚れた顔でチャンドラーを睨み、ディアンヌを腕に、エリザベスとメリオダスと背に庇って。 - 「キ…」
顔色を変えたディアンヌが名を呼びかけた、次の瞬間。 - 一帯が爆熱に
蕩 け、大きく抉れた大地に溶岩 の滝となって流れ落ちた。 - ピクッとするチャンドラー。
「…………ん~~?」
もうもうたる水蒸気の向こうを、幾分不機嫌そうに見やる。 - キングは溶けていない。腕に抱く小さなディアンヌが、涙を浮かべて少年の頬に擦り寄った。
エリザベスも溶けていない。次期魔神王たるメリオダスの無事は無論なのだが。 - 「…どいつもこいつも邪魔ばかり 巨人と妖精の次は 一体なんじゃ?」
「…人間だ 悪ィか?」 - 応えたのはバンである。左脇にキング、右脇にエリザベスを荷物のように抱えて、溶けていない地点に移動していた。そしてキングは小さなディアンヌを、エリザベスは意識のないメリオダスを、それぞれ両手でしっかり掴んで離さずにいる。
- 「人間に」
チャンドラーは杖を掲げ、頭上に ボ、と火の玉が燃え上がった。
「巨人に」
ボ、と もう一つ燃え上がる。
「妖精に」
もう一つ。
「女神…」
更に一つ。 - ボボッ ボボボボボボッと発生し続ける十数個の火の玉。
「四種族と魔神族は三千年前より争う不倶戴天の怨敵同士」「メリオダス坊ちゃんと お主らは交わってはならん者たちな……」 - 言葉はそこで途切れた。
めまいを起こした様子で、チャンドラーが大きくよろめいたからである。
「なん…じゃ…?」「魔力の消耗が激しすぎる…」「儂としたことが すっかり封印で体がなまったか?」「………いや 違う!!」
その顔が憤怒に彩られた。
「妖精と人形 の合技か…!!」「あの光の矢… 肉体のみならず精神にも打撃 を!!?」
ギッと、未だ空でホークに乗るゴウセルに目を向ける。
「おのれ…」 - その肉体を新たな
打撃 が襲った。
バクン
「ぶごわ!!」 - 口が縫い閉じられた豹紋のクマに殴られ、派手に吹っ飛んで背中から地面に打ち付けられる。
- 「お前が どう思おうと オイラたちと団長は…」
真・シャスティフォル第二形態「守護獣 」を操作する左手を突き出し、流れ続ける血も拭わぬまま、キングは毅然と口を開いた。
「メリオダスは 交わるべくして交わった…」「運命の仲間だ!!!」 - 彼の周囲には、それぞれ構えを取ったデイアンヌ、バン、ゴウセル、ホーク。彼らの背にはエリザベスが護られている。
彼女の腕の中で、メリオダスは静かに目を伏せていた。 - 次回「団長へ」
今回は、キングが頑張っていて嬉しかったです。
妖精王の森でのアルビオン戦が大好きでした。力の差があっても、食い下がって食い下がって、限界のギリギリまで力を絞りつくして勝利した姿には強烈なカタルシスがありました。
それを味わっていたので、鉱樹オルドーラでのグロ&ドロ戦や、廃都コランドでのディアンヌ戦は物足りなかった。
物語進行上、キングが負けなければならなかったからだとは解る。
それでも、大切なひとが傷つけられ・殺されかかっているのに、早々に「寝転がって泣いているだけ」になるのは、全力を出し切っていないのに簡単に諦めた、ように見えてしまったからです。
今回のキングは、食い下がってくれて本当に嬉しかった!
一度はダウンしたけど、そこから起き上がって、ディアンヌやエリザベスらを体を張って守ろうとし(バンが来てくれなかったら溶かされてたんでしょうか? それとも、神器でどうにかしたんでしょうか)、更に、戦線離脱することもサポート役に下がることもなく、再び前線で攻撃再開してくれて、ああ、これが見たかったんだよなと思いました。
また、攻撃中でもディアンヌを気遣い、ダウンした時も庇ったままでいたのも すごく良かったです。
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ロマンとリアル
「オイラたちと団長は…」「メリオダスは 交わるべくして交わった…」「運命の仲間だ!!!」
と力強く宣言したキング、カッコよかったですね。
メリオダスに不信を抱いた時期のある彼が言うからこそ、より感動が強まるのでしょう。
それはさておき。
第227話で、メリオダスはメラスキュラに
と告げています。
それは彼が<七つの大罪>を、<十戒>を倒して・自分とエリザベスの呪いを解く役に立ってくれる、バルトラ王の予言で選定された、運命で結ばれた仲間だと思っているからでしょう。
けれど、彼はそのことを、キング含む仲間たちに説明していません。せいぜい
と、曖昧に触れただけです。仲間の前で「運命の仲間」という言葉を使ったことは、現時点では無い。
即ち、キングの「運命の仲間」という表現はメリオダスの言葉を借りたものではない。彼の中から生じた、彼自身が選んだ言葉だということになります。
それが図らずもメリオダスの言葉と一致していたわけで、こういうのも「気が合う」とか「以心伝心」と言うのでしょうか?
「運命の仲間」かぁ。前回ディアンヌが言ってた「大切な仲間」のような一般的な言葉ではなく、こう表現するとは。
ふふ。キングって案外ロマンチストなんですね。
……とか思ったりしてたんですが。
次回の柱に載ってた読者からの質問コーナーで、
「キングさん、キスってどんな味がしましたか?」
という質問に、キングが
「ディアンヌの味がした…。」
と答えていました。
でも、ファーストキスなのに甘酸っぱい果実の味とかに例えたりしないんだ…。詩人のエスカノールなら、果実とか美酒とか、色んな素敵なものに例えそうですけども。
キングって結構なリアリスト?
って感じで、結論は、ロマンチストなんだかリアリストなんだか判らないなあ、と思いました。ははは。
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そういえば、<蒼天の六連星>はどうしているんだろう
今回、ゴウセルの術がチャンドラーの魔力消費量を増大させ、彼の魔力を半減させました。
えっ、ゴウセルの術って精神介入(幻惑・魅了・幻覚・イメージ伝達)だけかと思ってたのに、魔力消費を増大させるなんてできたんですね。彼がこういう能力を使ったのを初めて見ました。
まるでアーデンの「
アーデンとデルドレーは元は スマホゲーム『ポケットの中の騎士団』とのコラボキャラでした。『ポケットの~』は配信終了してしまいましたが、来年1月からのアニメ第二期に、ちゃんと登場するんかな。と、ふと思いました。