【感想】『七つの大罪』第239話 団長へ
週刊少年マガジン 2017年46号[2017年10月18日発売] [雑誌]
第239話 団長へ
- 豹紋のクマは
解 け消えた。低く地響きが残るなか、老魔術士は土煙に沈んでいる。 - 「メリオダス坊ちゃんが お主らの運命の仲間?」
ホークがプリッと脱糞して変身 が解けたが、気に留める者はいない。油断なく伺う<大罪>たちの耳に、静かに憤るチャンドラーの声が届いた。 - 「笑止」「不浄の女神エリザベスと共に―――」
土煙の中から フワ… と仰向けに浮かび上がり、姿勢を起こして とん と地に両足を付ける。
「消え去るがよいわーーーーーーっ!!!!」
間髪入れずに杖を突き出せば、三日月形の魔力の刃が発射された。
“怨恨刃 ” - ガァン
恨みの刃は、大鏃 と正面から激突する。 - 真・シャスティフォル第五形態「
増殖 」の一本だ。キングが左手を突き出して操作している。 - 僅かに歯を剥くチャンドラーに冷徹な目で対峙して、キングは残る右手の指をクイッと動かした。霧散した怨恨刃を乗り越え、大
鏃 がもう一本 飛んでくるのに気付いてハッと身構えるチャンドラー。 - 「
全反撃 」
杖を振って跳ね返せば、<大罪>らの上で爆発めいた衝撃波が四方に走った。 - チャンドラーは静かに睨む。
「「全反撃 」で はね返した攻撃を更に相殺するか
…器用なもんじゃのう」 - 跳ね返した大
鏃 は別の一本に阻まれていた。キングの頭上で、刃を打ち合わせた二本は力を拮抗させ合い、カチカチカチと震えている。
彼は己の周囲に無数の刃 を展開させており、うち三分の二ほどはチャンドラーへ刃先を向け、残りは跳ね返ってきた一本に向いていた。
◆キングさんは器用! - 「撃ち合いには自信があってね」
冷徹な目で、しかし強くキングは告げる。その背後で、メリオダスを抱いたエリザベスが どこか唖然とした面持ちで彼を見ていた。
「二人はオイラたちが必ず護ってみせる!!」
その言葉に呼応するように、チャンドラーを見据えて それぞれ構えを取るバンとディアンヌ。 - 「たいした自信じゃな…
儂も血沸き肉躍るような撃ち合いが大の好物での」
ボウ、とチャンドラーの顔が照らし出され、歪んだ笑みを邪悪な陰影で彩った。杖と手が魔力で発光しているのだ。全身からも ゆらゆらと魔力が揺らめき立つ。
「儂の魔力はそこの人形 のおかげで半分以下に減っておる… ハンデとしては十分じゃろ」 - ゴウセルの攻撃がそこまで効いていたとは!
「よっしゃゴウセル!! 俺たちで あの じーさんに吠え面かかしたろーぜ!!」
後ろ脚でガシガシ地を蹴って鼻息を吹いたホークの後ろで、しかし、ゴウセルは俯いて眉根を寄せた。知らず胸を押さえていた右手を きゅっと握りしめる。 - 「
童 共…覚悟はいいな?」
距離にして50mほどか。対峙した<大罪>らにチャンドラーは確かめた。
「ああ とっとと終わらせよう… オイラたちには時間がないんだ」
淀みなく返すキング。
◆チャンドラーって何歳なんでしょう。一般の魔神族の平均寿命は1000歳程度らしいですが、例によって特例で数千年 生きてるんでしょうか。 - 数拍の間 睨み合い、
「…坊っちゃんの幸せに お主らは不必要なんじゃ!!!」
先に動いたのはチャンドラーの方だった。 - 杖を突き出し、怨恨刃を無数に連射していく。
キングは左手を突き出して「増殖 」を放った。無数の大鏃 と共にバンとディアンヌも飛び出す。 - 中間点で激突し、轟音を立てて相殺し合う二種の刃。
- 「ボクたちだって団長には幸せでいてほしいよ…」
その間を縫って小さなディアンヌは走り、チャンドラーの足元に達した。気付いた彼が足元に落とした刃を横っ飛びに避ける。
「でも それにはエリザベスが必要なんだ!!」 - 「ディアンヌ………!」
エリザベスが目を瞠 った。 - 「ボクにはキングが必要なように…」
ジャンプしたディアンヌの拳がチャンドラーの顔面にヒットする。
「バンにはエレインが必要なように…」
もう一発。
「ゴウセルにはお姫様 が必要だったように…!!」
更に一発。
殴り続ける少女の瞳には涙が浮かんでいる。 - 打たれながら、ギロリとチャンドラーは睨んだ。鉄拳連打も、今の小ささでは大した痛痒にならないらしい。
「くだらん」
杖の先に広がった魔力がディアンヌを呑み込もうとした、その時。
気配なく忍び寄っていたバンが、背後からチャンドラーを羽交い絞めにした。 - 「やれ!!!」
高らかな叫びに阿吽で応じて、キングが バッ と左手を動かす。 - 「貴様… 何を!?」
動きを封じられて怨恨刃の連射は止まっていた。これまで相殺に集中していた大鏃 の群れが一斉に、真上から豪雨のように降りそそぐ。チャンドラーと、彼を羽交い絞めしたバンめがけて。 - (なあ親友)
刃の豪雨に打たれながら、バンは胸中でメリオダスに語りかけていた。
(お前の苦しみに何一つ気付かず 酷ぇことを言っちまったな)(…まるで自分 が この世で一番不幸みてえな顔してよ)(…もう一度 俺に謝る機会 をくれ… だから 早く戻ってこい!!) - 魔術障壁を張っているのだろう、チャンドラーは さしたる
痛手 を受けていなかった。それでも幾らかは皮膚が裂け、血が噴き出している。
彼を羽交い絞めにしたバンの力も緩むことはない。上着が破れ散り、無残に血まみれになっていても。 - 「ほう… お主 不死者か…」
傷口が蒸気をあげて再生していく様を肩越しに見て、チャンドラーが話しかける。そこらの人間ならとうに肉片になっているだろうに。
「それが どうした~~♬」
鬼の形相からの応えに「フム… もっともじゃ」と同調するや、
「それが どうした!!!」
スパンッ
叫んだチャンドラーを中心に魔力の刃が渦巻き、一瞬でバンの四肢と首を分断していた。
◆ここ、とんでもないショッキング映像でござった。アニメ版ではどうなるんだろう。 - 舞い飛んだバンの腕や指に打たれて、小さなディアンヌが「に゛ゃっ」と悲鳴をあげる。
- 「まだまだまだまだまだぁ~~~っ!!!!」
自由になったチャンドラーは、さっそく杖を構えた。
応じてこちらも構え直したキングは、「ハア ハアッ」と息が上がり始めている。 - 再び撃ち合いが始まった。無数の刃と大
鏃 の群れが激突し合う。 - 一見して互角。だが、差は次第に表れつつあった。
チャンドラー側に「増殖 」は一本も到達できていないのに対し、キング側に撃ち漏らした怨恨刃が達し始めている。 - 「くっ…」「ぐぐ…」
圧に耐えるように歯を食いしばるキングの頬や額にピピッと細かな切り傷が走り、血が飛んだ。 - ついに一枚の刃が彼の背に抜けて、ホークを掠めて転ばせ、エリザベスの背に当たる。
バチッ
「あうっ」 - 「エリザベス!! 団長!!」
顔色を変えたディアンヌが、チャンドラーに訴えた。
「団長を本気で大切に思っているなら なぜ こんなことをするの?」「エリザベスだけじゃない… 団長も死んじゃう!!」 - 間近に刃を落とされ、「キャッ」と悲鳴を上げてディアンヌは吹っ飛ぶ。
- 愚かな少女を、チャンドラーは血に汚れた顔で見下ろした。
「儂の坊っちゃんは これしきで死なん」「これしきで死ぬようなら 儂の坊っちゃんではない…」
彼は次元が違うのだ。運命の仲間とやらを騙 っておきながら、そんなことも解らぬとは。 - 「ふざけん…」
やはり愚かしい不死者 が、再生した身体で背後から襲いかかってきたが。
「雑魚 は死んでおけ!」
目も向けず杖から炎を発せば、一瞬で消し炭になった。 - 「だ… 大丈夫か エリザベスちゃん…?」
一方、キングの背に守られながら、ホークはオロオロとエリザベスに話しかけている。
彼女の左肩から肩甲骨の辺りにかけて、一筋の傷が出来ていた。刃は熱を持っているらしく、当たった部分から水蒸気が上がっている。深手ではないようだが、メリオダスを抱いたまま じっと俯いて返事をしない。 - 「ゴウセル!! お前の技で じーさんを止めてくれ!!」
傍らに立つ仲間に訴えたものの、彼は両手を握りしめて動かず、苦いものを舐めたかのように顔を歪ませていた。
「最上位魔神に かけられた“絶対強制命令 ”は強力だ… 奴の右手に呪印がある限り」「…逆らえば間違いなく」「壊れる」 - 「ほえ!?」
驚くホーク。 - ゴウセルは深く項垂れた。
「わかってる… このままじゃ みんなが……」
皆が殺されてしまう。
「俺は…… もっと みんなと <七つの大罪>と一緒にいたい」
でも。自分が壊れてしまっても、皆と一緒にいられないのだ。 - 「ゴウセル……!!」
ホークは言葉を失った。
『心が無い』と自称していた頃の彼は、何をするにも平気なように見えた。どんな死地でも恐れなかったし、バイゼル大喧嘩祭りの時には、心を手に入れるためにと仲間を殺そうとさえした。心があれば仲間の死を心から悲しめるかもしれないと、平然と言ってのけたものだったのに。
そんな彼が、仲間を想い、自身の死を恐れて竦 んでいる。 - 彼らの前では、未だキングとチャンドラーの撃ち合いが続いていた。
- 「うはははははははははは!!!」
歯を剥いて昂ぶり笑いながら怨恨刃を撃ち続けるチャンドラー。相殺し続けるキングは、次第に猛風に耐えるように前屈みになって、じりじりと押されていく。
撃ち漏らして周囲に落ちる刃が増え、ディアンヌは刃に跳ねられてキングの後ろに飛んでいき、幾度目かの再生をしたバンは上半身を消し飛ばされて腰から下だけが倒れ込んできた。 - 「がっ」バチッ
ついにキングも胸に一撃を喰らう。意識が飛んだ。噛みしめ続けていた口から血を流し、虚ろに目を開けたまま、仰のけざまに倒れていく。 - 「儂の愛が
勝 ったようじゃな~…」
さしものチャンドラーも汗みずくで「ゼエッ ゼエッ」と息を切らせていた。 - その突き出していた右手…正確には掌に血で描かれた『目』の形の呪印を、ピンク色の長い舌が ぺろんっと舐める。
- 「ひ…」
ぞぞっと総毛立つチャンドラー。
「ななななな 何をする!?」
いつの間にかホークがいて、チャンドラーの右掌を ぺろ ぺろ ぺろ ぺろ ぺろ と舐めまくっていたのである。
「超・秘奥義皿ナメ ~~!!!」 - 「残飯長……!!」
ゴウセルが感じ入った顔で呟いた。 - 「ややや… やめい!!」
「ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ」
「やめんか!!」
チャンドラーの左手の大杖が、ホークの左頬に ミンチッ とヒット。
「ブタバラ!!」
ホークは鼻血を噴いて倒れた。ビクンビクンと痙攣する豚の前で「くおおっ ばっちぃ!!」とチャンドラーは右手を握りしめて身震いしている。すぐに気を取り直して顔を上げた。
「さぁ とどめじゃ<七つの大罪>!!」「もはや お主らに立つ力は――…」 - 眩い光が広がった。立ち上がったエリザベスが両腕を広げ、治癒術を使ったのだ。気を失っていたディアンヌが立ち上がり、キングも傷の全てが癒えて半身を起こした。バンは回復が早まって起き上がる。
「メリオダスは渡さない…!!」「誰も殺させない!!」
リオネス王国紋章が象嵌されたイヤリングを左耳に煌めかせ、毅然と言ったエリザベスの瞳には女神の紋様 が浮き上がっている。 - 「ぎ…」
唖然と目歯を剥いたチャンドラーは、怒りのあまり、血管を浮かせて硬直していた。
「ぎ…」 - この隙を逃す手はない。
「キング!!!」「今だよ!!!」
ディアンヌの大声にハッとしたキングが、慌てて両手で複数の印を結び始める。 - 「遅い!!!!!」
ウォッと空 を鳴らして振られたチャンドラーの杖から大きな怨恨刃が一つ、キングへ向かった。術に集中している彼は無防備だ。 - ザンッ
- 音を鳴らして灼熱の刃が突き立ったのは、キングとディアンヌの間の地面だった。
「それた……!?」と、ディアンヌ。 - チャンドラーは呆然としている。
外れるはずがなかった。だが、僅かにズレた動きをしたのだ。闇色の光矢が突き立った、己の左腕が。
「これ……は!」「ゴウセル お主……」 - ゴウセルが闇色の光を指先にまとわせ、鋭い目で最上位魔神を見据えていた。
- 「やったな!!」
倒れたまま、ホークが ニヤリッ と笑う。 - その間に、キングの準備は整っていた。
拳を握った腕を両脇にぐっと引き寄せ、印を結んで交差させながら真っ直ぐに突き出す。
真・シャスティフォル 第一形態「霊槍 」。
ド ス
巨大な大槍が、一点に集中した強度で、過たずチャンドラーの胴体を刺し貫いていた。 - チャンドラーの口から血が噴き出す。
「坊っ…」「ちゃ…」
腹に ぽっかりと大穴を開けた身体は、仰のけに吹っ飛んで土煙の中に轟沈していった。 - 小さなディアンヌが笑顔を輝かせ、右腕を振り上げてジャンプする。
キングは へらりと笑うと、
「あ~~ しんどっ」
とぼやいて、フラッと半身をよろめかせた。 - 次回「未来への
礎 」
今回は、みんな頑張った!
キング中心に各キャラが少しずつアシストして、ギリギリで勝利!!
爽快感が大きかったです。(^◇^)
…でも、チャンドラーは腹に槍が刺さって倒れただけ。消滅したわけでも、心臓が全部潰れたわけでも、どこか遠くへ吹っ飛んで姿が見えなくなったわけでもない。
となると、今後の展開に不穏しか感じないわけですが……。
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チャンドラーの闘級
チャンドラーが言いました。
「儂の魔力は
そこの人形 のおかげで半分以下に減っておる… ハンデとしては十分じゃろ」
そしてキングとの撃ち合いを見るに、一見 拮抗しつつ、キングが やや劣る感じでした。(攻撃の威力や精度では負けてなかったけど、スタミナ(魔力量)で劣ったため時間と共に押されていった感じ)
キングの闘級はおよそ4万です。
それより少し上となれば、4万5000~5万くらい?
で、それで「半分以下」なんですから…。闘級11万くらいなければならないことになる。
つまり、チャンドラーは通常状態(夜)で、正午前の一人称「我」のエスカノールと同等の強さだということです。
いやあ、上には上がいるものですね!
ゼルドリスが、キューザックとチャンドラー二人がいれば<十戒>九人分の穴は補えると言ってましたけど、大げさでも何でもなかったんだなあ。
この分だと、エスカノールも「最強」の座に安住はしていられなさそうです。
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不幸比べの勝者になって嬉しいか?
バンが、メリオダスへの負い目 全開でした。
(なあ親友)(お前の苦しみに何一つ気付かず 酷ぇことを言っちまったな)(…まるで
自分 が この世で一番不幸みてえな顔してよ)(…もう一度 俺に謝る機会 をくれ… だから 早く戻ってこい!!)
エレインの死を感じて悩み続けていたバンは、慰めようとしたメリオダスに八つ当たりした。
それは、確かに悪いことだったと思います。
でもこの流れ、なんかスッキリしないのは、
という空気があって、私はそれに賛同できないから。
八つ当たりは悪いけれど、バンがメリオダスの事情を知らなかったのは、彼が意図的に隠していたからです。
バンは「何一つ気付かず酷えことを言った」と、まるで『何も言われなくても察するのが当然だった』みたいな言い方してるけど、そんなわけないでしょ。言われなきゃ判るはずがない。
そして、第223話の感想でも書きましたが、恋人の死を沢山看取った人の方が「より辛くて、より可哀想で、より優先されるべき」だとは、私は思わないです。
どう辛さを感じるかは人それぞれだし、比べることでもありません。
そもそも普通の人は、愛する人の死に一度しか立ち会わない。死んだら二度と生き返らない。永遠に会えないからです。
エレインは奇跡的に生き返ったけど、次があるかは判らない。二度と逢える保証はない。だからバンは苦しんでいました。
一方メリオダスは、エリザベスが死んでも直後に必ず生き返るし、必ず出逢えるし、必ず恋人になれる。必ず死に別れるのが彼の「辛さ」のポイントですが、再会と復元は保証されています。
彼らの苦しみの質とポイントは異なる。
なので、「まるで自分が一番不幸みたいな顔で、メリオダスに酷いことを言った」…即ち「メリオダスの方が不幸なのに、俺が一番不幸みたいな顔をしたのは間違っていた」という理建ては、私は、おかしな話だなあと思うのです。
まあ、それがバンの優しさです、と仰りたいのかもですが。
こういう、不幸比べして卑屈になってるともとれる形のは好きじゃないなあ。
何故か、ディアンヌはエリザベスに、バンはメリオダスにと、親友キャラが それぞれ「可哀想な彼らの事情を知らずに接した」ことを過剰に悔いる・負い目を持つ展開になっているのですが。
負い目なんて持たせず、普通に親友として心を痛めて助ける形でよかったのにな、と思っています。キャラの「可哀想」な要素は大きな魅力だけど、「可哀想」を盾に周囲をひれ伏させるキャラはイヤなので。