【感想】『七つの大罪』第308話 エピローグ2
週刊少年マガジン 2019年 21・22号[2019年4月24日発売] [雑誌]
第308話 エビローグ2
- 「…北の大地では荒れ狂う大気に動物たちが怯え」
複数の竜巻が天地を繋いで疾走し、鹿やキツネ、熊、ウサギ、鳥たちが逃げ惑う。
「…南の森では大地が裂け その奥底で滾 る怒りに木々が悲鳴をあげている」
大森林に深淵たる亀裂が走り、奥底でマグマが光っている。
「西では… ううん西も東も…」
村に降り注ぐ巨大な雹 。荒れ狂う海。
「まるで… ブリタニア中が何かに反応しているみたい」 - エレインは訴えていた。
「それも王都 を囲むように…」
何かの予兆のように低く地鳴りが轟く王都。未だ夜の帳に包まれてはいたが、東の地平は微かに明らみ始めている。 - そこは王都にあるバンとエレインの自宅だ。バイゼル大喧嘩祭りの後、弱ったエレイン抱えつつ リオネスに留まって魔神と戦ったバンのためにバルトラ王が与えた、小ぢんまりとした一軒家である。
- 幸いにも聖戦の被害は受けなかった愛の巣、エレインが育てた植物の鉢がたっぷりの寝室で、二人は巣の姿でベッドに寄り添い合い、掛布にくるまって
睦言 を交わしているところだ。 - 「バン…」
しかし、肘をついて少し身をもたげ、愛する男を覗き込んだエレインの顔には、驚きや不安が色濃く表れている。ブリタニア全土に一度に起きている天災 を感じ取ったことが、本来この場を満たしているべき甘やかさを凌駕したのだろう。 - 「「こんな経験初めて……」」「か?」
横たわったまま、目を伏せてバンは口を開いた。
「…………だろーな」 - 天災の同時多発という異常現象も。肉体を使って深く愛し合うことも。
いずれにしても初めての経験に違いない。 - ハッと驚いたエレインは、がばっと半身を起こして拗ねた顔をした。
「あ~~ やっぱり私の心を読んでるでしょう!?」
かつての妖精王の森で共に七日間を過ごした際、バンは不思議とエレインの心境を言い当てたものだった。
バン曰く、人間社会の修羅場を潜ってきたから表情一つで考えくらい読めるとのことだが、その言い分が 今ひとつ理解できない…心を直接 読む方法しか知らないエレインは、彼にも妖精族のような読心能力があるのではと、常々 疑ってきたのである。 - 「…だとしてもお互い様だろ♬」
バンは説明を省いた言い方をした。
エレインは読心能力で当たり前にバンの心を読んでいるのだから拗ねられるいわれはないし、…「こんな経験初めて」なのも お互い様なのだから。
◆これまでバンは童貞でした。(前担当編集さんのツイッターを介しての作者さん公式発言。)なので、恋も行為も、お互いに「こんな経験 初めて」同士♥
果たしてランスロットは この初撃で芽吹くのか?
二人の あからさまなベッドシーンは、特に欧米文化圏では反発する感想を多く見た気がします。エレインは再び大人の姿になっていますが、「それでもハイティーンにすら見えない、大人のバンと性交しているのはマズい」とか。はは。
ところで、エレインやキングの羽はベッドインするとき邪魔だろというジョーク的な感想や、繁殖の仕方が特殊な(妖精界の植物から生まれる)妖精族は他種族と性交できるのかという疑問は、国内外問わず、今まで よく見かけたものですが(私も気になってました 笑)、今回、問題ないと証明されましたね。
ちゃんとデキたようだし、おそらく人間と同じように妊娠・出産することになるのでしょう。
そして羽も邪魔になっている様子はありませんでした。背中に畳まれて、まるで薄布か髪の毛みたいに掛布の下に収まっています。
作中時間で前日午後から今朝まで、体調が悪かったエレインは大きな羽を背に敷いて仰向けにベッドに寝ていました。
第242話、253話では、背中に敷かれた羽はピンと硬そうに広がっていて、いかにも邪魔な感じに掛布からはみ出ていました。ぶっちゃけ、ベッドのヘッドボードとすら干渉している…。
ところが、今回のベッドシーンでは羽は寝ていて、柔らかく掛布の中に収まっています。バンの腕枕の邪魔もしません。
どうやら羽は任意で折り畳むことができて、背中に敷いて寝ても破れないくらい しなやかで強いらしい。多分、痛くもないのでしょう。皴にも ならないようです。
キング&エレイン兄妹の羽は魔力で出来た特殊なモノっぽいから、鱗粉で寝具が汚れることもない? - 「…ホラ 風邪ひくぞ」
優しく胸に抱き寄せられて、エレインは赤面して口を噤んだ。
妖精族は病気にならない。それでも気遣いは嬉しいものだ。こうして直に触れ合うことも。 - 「ねえ バン…」
やがてエレインは再び口を開いた。
「ん?」
「…本当なの?」
おずおずと確かめる。先程から、バンの心の声が伝えてくることを。
「…メリオダスが この世界からいなくなるって」 - 「…ああ」
バンは認めた。
「団ちょは王女さんを救うために自分 の意志で魔神王になった」「その力は あまりにでかすぎて この世界は均衡 を保つために団ちょを排除しようとしている」 - 「………じゃあ これはその前触れなのね」
窓辺に吊られた豚型のランプが、風に煽られて大きく揺れ動いていた。
この強風や、ブリタニアの各僻地に起きている天災は。
◆メリオダスの力が強過ぎるから世界が壊れそうになるので排除される。
…そんな理由なのに、リオネスから遠く離れた各地が大災害に見舞われて、当のメリオダスがいるリオネスは ちょっと風が強い程度で済んでいるって、理屈的には謎ですよね(苦笑)。なんでやね~ん。
窓辺の豚型ランプ。
懐かしい。旧<豚の帽子>亭で使ってたのと同じです。(渋可愛い。アニメ全盛の頃、こういうグッズ出てたかな?)特注ランプだと思いますし、崩壊した旧<豚の帽子>亭の残骸から貰ってきたのでしょうか。 - 「…どうにかして彼が いなくなるのを止められないの?」
バンの腕の中からエレインは訊ねた。 - 「止められねえよ……………」「いや…… 止めたくねえ…」
- 「バン…」
エレインは切なげだ。 - けれどもバンの表情は凪いでいた。
「あいつは いつだって俺が お前のことでやろうとした 馬鹿な無茶を真顔で見届けてくれた……」「……だから俺も あいつが自分で選んだ選択なら 思う通りにさせてやりてえんだ…」 - 「…っ」
- 小さな嗚咽に気付いて、バンは腕の中を見た。
エレインの頬を ツー… と涙が伝い落ちていく。 - 「? ………オイ 泣いてんのか?」
「だって……………」
涙声でエレインは訴える。
「エリザベスは………っ」「突然 愛する人と別れなければいけないのよ?」 - その頃、エリザベスは灯りを落とした王城の私室で一人、出窓に三角座りして城下を見下ろしていた。
何を思うか、その表情は明るく輝いている。これからの新生活にワクワクと胸をときめかせているかのように。
◆エリザベスはメリオダスと寝ていない。
つまり「一夜の契りでエリの胎に子を残して、メリオダスだけが異界へ去る」ルートは消えたと。「メリオダスの異界行きを阻止して結婚」ルートか「エリザベスもメリオダスと共に異界へ行って結婚」ルートのどちらかになるコト確定ですね。二人の間に(次世代編の主人公?)トリスタンが産まれることは最初から決定していることなので。 - 「メリオダスやバンの気持ちがわからないとは言わないわ…」「…それでも他の みんなに伝えるわけにはいかないの…?」
食い下がるエレインにバンは答えた。
「………………団ちょは誰にも話す気はねえ…」「ただ――」 - 夜が明けた。
バンはエレインと腕を組んで<豚の帽子>亭に出勤だ。 - 「バーン!! お前ら遅刻だぞ~~!」
ホークママの背中から手を振ってメリオダスが呼びかけてくる。 - 「ちこくって なーに?」
と あどけなく訊ねたエレインに
「…気にすんな♬」と返して、バンはメリオダスとその隣のホーク、そして<豚の帽子>亭 屋上に並ぶ仲間たち(昨夜は姿を見せなかったマーリンもおり、ディアンヌは人間サイズ、エスカノールは封印の眼鏡無く夜の姿のまま、キングは空に浮かんでいる)に声を張った。
「おめぇらが早すぎんだよ♬」
◆妖精族には「遅刻」という概念が無いのか~。
時間を決めて動くことを必要としない・されない文化なんですね。ゆったりスローライフ。そもそも時計も使ってないのかも。 - そもそも、<大罪>たちは職場に住み込んでいるのだ。遅刻も何もない。
それでも、酒場を営業した日は深夜一時に閉店、店員たちは二時以降に就寝して、概ね翌朝十時から昼頃に起床し、午後から活動を始めるのがお決まりなのだから、早朝に集合している今日が特別なのは確かである。 - なお、エレインは今日から店員の扱いらしく、自宅から<豚の帽子>亭のウェイトレス服を着てきていた。ただしスカートは ふくらはぎ丈のロングで、黒タイツも しっかり穿いている。
一度は人間の文化に倣ってパンツをはくことを決意した彼女だが、しっくりせず 穿くのをやめていた。代わりのロングスカートとタイツなのだろう。酒場ならば飛ぶ彼女のスカートの中を覗こうという不届きな客も多いだろうから。
◆覚醒エレインはロングスカートにタイツという、下半身の防御力を重視した 改造ウェイトレス服 を着用。うむ。飛ぶ女の子がミニスカノーパンはいけませんよね。
バンやエレイン自身が準備したのかもしれませんが、もしかしたら、妹に対しては人一倍 心配性な兄貴 が用意したものかも? ディアンヌにもスパッツ穿かせてた時期があったし(巨人族も基本パンツを穿かない文化)。護りたい大切なものは全部。
ところで昨夜からエリザベスは旧ウェイトレス服で、メリオダスが彼女のためにデザインしたという新ウェイトレス服を着ませんが、どうしてでしょうか。皆と同じ制服で揃えるべきと思ったから? 戦いで汚れて着られなくなった? - 集合完了すると、メリオダスは仲間たちに檄を飛ばした。
「今日は酒と備品と食材の仕入れだ!! 気合い入れろよ!!」 - 「「「「おおーーっ!!!!」」」」
拳を握って笑顔で呼応するディアンヌ、エスカノール、ゴウセル、ホーク。 - エリザベスがエレインに話しかけてきた。
「久々の仕事で みんなハリキってるみたい」
「私も すごく楽しみよ!」
笑顔を作って返せば「ウフフ!」とエリザベスも楽しそうだ。 - 「・・・」
あと一日もせずに この笑顔は曇るのか。
思わず、気まずげに顔を伏せてしまうエレイン。 - 「今日はボクらもハリきろーー!!」
満面の笑顔のディアンヌが少女たちを両腕に抱え込んだ。いつにない はしゃぎっぷりだ。 - 一方で、キングがフッと澄まして義弟に話しかけている。
「バン!! ちゃんとエレインをエスコート…」 - 無視してスッと横を通り過ぎるバン。足を止めず顔だけ向けて言った。
「お前 誰?」 - 「わざとだろ…」
呆れぎみのキングである。
◆青年姿に成長したキングとの初対面時(第293話)にバンの反応 がゼロだったのを残念に思っていましたが、時間差でキター(笑)!
第一部の、子供キングを初めてキングだと知った時(第19話)や
おっさんキングへの変身初見時(第26話)のような、
素直な絶叫・噴き出し系から、変化球に移行ですね。
あ、でも今回の「お前 誰?」の反応って、子供キングとの初対面時(第18話)の「誰 お前?」の反復遊びだったのかな?
考えてみれば、キングは幾つもの姿を持ってて、訳わかんない存在ではありますよねえ。いかにも妖精らしいけど。
可愛くて面白かったです(゚∀゚)。 - どんどこ どんどんっ と足取りも軽快にホークママは駆ける。前日の死闘を感じさせない回復ぶりだ。
- まず到着したのはバーニャの村だ。
一年弱ほど前、王女エリザベスがメリオダスと共に王国救済に旅立って、最初に立ち寄った村である。 - かつては聖騎士の暴虐に苦しみ、水源を封じられ枯れていた小川も、今は清らかな水が流れ、川辺にが茂っている。
その茂みに若者が一人屈んで草取りらしき作業をしているようだ。 - 彼の近くには十歳前後の少年が立っており、監督しているように胸を張っている。
「ほらほら!! そんなんじゃ日が暮れちまうぜぇ!?」「ちゃーんと雑草は抜いとかねーと良 いグルートが育たねえんだからな?」
生意気に言って、ちっちっ と舌を鳴らしながら立てた人さし指を左右に振ってみせる彼は、バーニャ村で暮らす孤児・ミードだ。 - 旅人だった両親を流行り病で失って後、彼は村人たちに育てられた。気を引きたいあまり悪戯を繰り返して村人たちに疎まれかかっていた時期もあったが、村を訪れたメリオダスとエリザベスと関わったことで状況は改善されたのである。元々、彼が 村と村人たちの作るバーニャエールを愛する気持ちは人一倍だったのだから。
- 「あーーー それはグルートだから!! 抜いちゃダメだよ!!」
ビシッと指さしたミードの叱責に、若者は抜いた草を片手にビクッと震えて固まった。
「うそ!」と思わず言って
「あ …ごめん」
と子供相手に謝っている。その若者、よく見ればギルサンダーではないか。
◆ギルサンダーが抜いちゃったグルート(エール(ビール)の香り付け用のハーブ)、種類は何なんでしょう。見たことないやつだ。
ギルサンダーはかつて(と言っても、作中時間では未だ一年も経ってない過去に)バーニャ村を酷く苦しめていました。
重税を取り立て、村の名産のエールを「不味い。馬の小便よりはマシな程度だ」と貶め、反発した子供 の悪戯に怒って村の水源を封じ、更なる重税を取り立てようとしました。
また、村にメリオダスがいるかを確かめるために槍に魔力を乗せて投げ、メリオダスが受け止めなければ村を壊滅させるところでした。
全てはマーガレットとの愛のため。彼女を護るためヘンドリクセンとビビアンの手先になったふりをしなくてはならなかったから…という理由です。
にしたって、そこまでやらんでいいだろって部分が多々ありましたし、苦しめられていた人々からすれば 「好きな人のためにやりました」と言われても たまったものではありませんが。
王都決戦後、ギルは、罪なき人々を苦しめた己は聖騎士失格だ、王都を出て各地を巡り、傷つけた人々に どんな形でもいいから償いたいと打ち明けました。
ところが原作ではメリオダスが、アニメ版ではエリザベスが、口々に言ったのです。反対はしない、「でも」、そんなことをしたらマーガレットはどうなるのかと。やんわりながら「償いよりも愛を優先すべき」だと言っており、ギルはそれに従う形になっていました。
個人的に大いに疑問であり不満でした。
人々に償うか、マーガレットとの愛に生きるかの、二択しかないような言い様だったのが。
確かにギル&マガは気の毒な青春時代を送りましたし、二人が結ばれないのは可哀想です。結ばれてほしい。でも、だからってギルが人々を苦しめたことがチャラになりはしないですよね。
本当に申し訳ないと思っているなら、詰られるのを覚悟して人々に直接 顔を合わせて謝罪すればいいし、頭を下げて村で下働きでもさせてもらって償う方法だってある。その期間を決めておいて、満了したらマーガレットのもとへ帰る方法だってあるだろうに。
……などと考えていたので、今回、バーニャ村で草を抜いてるギルを見て、アッ償いのため村で働くことにしたのかなと思い、嬉しくなりました。
ただ、ギルは綺麗めの服装をしていて(観光客が収穫の体験をさせてもらってるみたい)、叱りつけてるのは子供のミードだけ。その他の村人たちは むしろミードを叱って「聖騎士様」と呼んで終始ニコニコしており、「貴人の気まぐれに付き合って接待対応している」ようにも見えちゃうのが(苦笑)。
…にしても。ギルの償い(?)を嬉しく思いつつも、戸惑いも大いに感じる場面でした。
だって、つい前日の昼にキャメロットで死にかけて、夜は<豚の帽子>亭で宴会して酔っぱらって。今は翌日の午前中と思われますが、既にバーニャ村で働いて(?)いるなんて。ハードスケジュールだし、移動が早過ぎない!?
ホークママで朝出発した<大罪>よりも早くバーニャ村に来ています。
前夜、宴会が終わってすぐ、まだ夜が明けないうちにリオネスを発っていたのでしょうか。あんだけ酔っぱらってたのに。
あるいはビビアンのような魔術士に頼んで瞬間移動した?
いずれにしても、そうまで急いで移動しなければならない理由はないと思うのに。この点は不可解だと思いました。
(「メリオダスに残された「一日もない」時間に合わせなければならない」というメタ事情は解りますけども、普通に考えたら不自然ってコトです。) - 「あんたも聖騎士様に偉そうにしてないで手伝いな!! ホレ!!」
香草を籠に摘んでいたらしい女性が、母親のように ゴチッ とミードの頭にゲンコツを落とした。
「あだ!!」 - 「ハハ…」
遠慮ないやり取りに空笑いするギルサンダーである。 - 「よう ギル坊! コキ使われてんなぁ 御苦労 御苦労~♬」
そこにフラリと現れた人影を見て、「あっ」とミードが大声をあげた。
「不味い飯を作る村の恩人の兄ちゃん!!」 - 「不味い飯とは失敬だね~~」
と口角を上げるメリオダスの隣から
「お久しぶり ミードちゃん」
とエリザベスが笑う。 - 周囲には村長を始めとした村人たちも集まってきていて、みんな和やかに笑っていた。つい昨日まで続いた魔神族の侵攻も、この村には何ら影響を及ぼしていなかったようだ。
- ミードはエリザベスに話しかけた。
「やあ 姉ちゃんも! ひょっとしてバーニャエールの仕入れかい?」
答えたのはメリオダスだ。
「おう! ひょっとしなくてもエールの仕入れだ!」 - その間に、酒樽一つ小脇に抱えたバンが村人に代金を渡しており、彼の背後に浮かぶエレインを見た子供たちが「わーー 妖精さん!!」と歓声をあげていた。
エスカノールら他の団員たちは別の酒樽を運び、酒樽一つを背に括り付けたホークは「元気か じいさん」と村長に話しかけている。 - 「毎度~~ …ニヒヒ…… それにしても」
わざとらしく腕組みして、ミードはニヤニヤと笑った。 - 言わんとすることに気付いて「あ」と呟くギルサンダー。
- 「何よ?」と不思議そうにミードを見るメリオダス。エリザベスも きょとんとしている。
- 「見せてつけてくれるね~~」
とミードは言った。 - メリオダスの腕に、エリザベスが己の両腕を絡めて ぴったりと寄り添っていた。彼の腕はエリザベスの胸に押し当てられた格好になっていたが、二人とも当たり前という顔をしているのだ。以前 村を訪れた時とは、明らかに距離感が変わっている。
- 「ヒューー♬ 結婚は いつですか~?」
「マセガキめ!!」
外見年齢差は殆どないミードの頭に、メリオダスが ポコ と ごく軽く手刀を落とした。 - エリザベスは「クスッ」と笑う。
「ミードちゃんが結婚するよりは早いかもね…?」
未来への夢と幸せに満ち満ちた、咲き綻ぶ花のような笑顔だ。 - 「おおおおぉお」とミード、そして後ろにいたディアンヌが赤面して叫ぶ。
エスカノールは知らないふりをしながら耳だけダンボのように そばだて、ポッと頬染めていた。
ギルサンダーは「いーなー」と呟いている。 - ヒューッ ヒュー♪ と囃し声が響くなか、バンは無反応を貫き、エレインは決まずげに俯いていた。
- そしてメリオダスも、ただ薄い笑みを口元に貼り付けて無言でいたのだ。
- <豚の帽子>亭はバーニャ村を出発した。
- 「お次は食器を新調!!」
到着したのは陶芸品の町として知られるバイロンである。
ここも魔神族の侵攻の影響は受けなかったようだ。聖戦など起こらなかったかのように市 は変わらぬ大盛況である。 - 一同は思い思いに商品を確かめ、買い物を楽しんだ。
殊のほか真剣にカップを選んでいるエスカノール。
洒落た湯壺 らしきものを手に取って確かめているマーリン。
豚の置物と妖精の描かれた皿とを楽しそうに見せ合いっこしているホークとエレイン。
キングは、ゴウセルが両手に持って並べてみせた冑 を(うち一つはヘルブラムの冑に少し似ている)、少し切なげに じっと見つめている。 - メリオダスとバンとディアンヌは露店に見知った顔を見つけていた。筋骨隆々のスキンヘッドの大男。かつてバイゼル喧嘩祭りで常勝のチャンピオンだった豪商タイズーである。
- バイゼル跡地に「タイズー喧嘩コロシアム」を建設して一儲けしようとしていたところ、グロキシニアとドロールの介入により部下は殺され、自身は「バイゼル大喧嘩祭り」の審判役を強要された。
大喧嘩祭り後、ただ一人 救出されることなく生死不明となっていたが、無事に生きていたのか。あのメチャクチャに破壊された会場一帯から、よくもまあ五体満足で帰還できたものである。 - ただ、生活の方は無事とはいかなかったのだろう。豪商だった彼が、今や露店の店主。しかも並べられているのは顔のような変な置物か壺だかばかり。そんなガラクタを、どうやら押し売りしているらしい。
- 今しも一人の男の襟首を掴んで強引に財布を出させようとしていたところに、メリオダスたちが気付いたのだ。
正義感の強いディアンヌは、腕組みして フンッと鼻を鳴らして睨む。
彼らの実力を知るタイズーは ぎょっと青ざめた。哀れなり。
◆タイズーの露店、店の看板(天幕の前面)に わざわざ「high pressure sale(押し売り)」って書いてあるんだけど(苦笑)。主張していくスタイルですか。
タイズーさん、生きてたんですね。良かったけど、豪商から押し売り露天商に落ちぶれてるのは気の毒だなと思いました。部下もみんな死んで財産もなくして、まさに聖戦の犠牲者ね。でも逞しくもある。 - 一行はバイロンを出発。
- 「最後は食材をタダで調達!!」
人里離れた大自然の中に入った。 - 美しい花畑に女性陣は陣取る。
「私たちは お茶の準備をしてるわ」
と、マーリンが魔術で出した茶器を並べるエリザベス。
傍らにお菓子の袋を置いて座って、
「じゃあ男性陣がんばってねーーーーー!!」
と アハハハッ と笑うディアンヌ。手を振るエレイン。 - 男たちは森に入り、それぞれ食材を集めた。
- 高速・不規則に飛んで逃げるフクロウ型の怪鳥に、一跳びで先回りして、掠めた一撃だけで森に叩き落して仕留めるメリオダス。
「メインディッシュ ゲットーーーーー!」
飄々と宣言した。
◆このフクロウ型の怪鳥は第66話のカラー扉絵に描かれてたやつで、そのキャラデザインが、3DSゲーム『七つの大罪真実の冤罪 』では死者の都で古 の妖精王に仕える魂の守護者の役にも使われていました。(ザコ魔物としても出てきてた。) - バンは森の中の水辺に立ち、気楽に笑って、右手だけを目に見えぬ速さで縦横に動かす。
「ダシもいるよな~~♬」
それだけで、傍らに置いた魚籠 の中に ザァアアアッと 数十匹の魚が注ぎ込まれた。
◆魚は出汁に使うの? 現代ではスープストックを使うもののイギリスは あまり出汁を取らない文化のイメージだったんで、ちょっと不思議に思いました。スープストックも基本的に鶏や牛の骨肉や野菜から取るものですし。
イタリアやフランスでは魚のあら からも出汁を取るそうですから、バンさんもそうするのかな? - エスカノールは大きな牡の
黄昏牛 に追われていた。
「助けてくださ~~~~い!!」
恩寵をマエルに渡し、今や24時間ひょろ中年(40歳)の彼だ。角で突かれることもなく長時間 逃げ続けている瞬足とスタミナは人間族として素晴らしいものだが、後ろにピタリと付かれて倒すも振り切るもできず、半泣きになっている。
「ブモッ」
「ひえ~~~!!!」 - 「アッハッハッ 相変わらずエスカノールは逃げるのが上手」
ウェイトレス服のゴウセルがパチパチと手を叩いて褒めたたえている。 - まだ20代だった王国騎士時代から、エスカノールは最弱の夜でも不思議に敵の攻撃を喰らうことなく、喚きながらも逃げ回るのが得意だった。
反射神経に優れているのだろうが、幸運という天恵を得ているのかもしれない。グロキシニアに霊槍 で貫かれた際も直ぐに蘇生されたし(彼に殺す気が無かった)、ギャンブルの類も一定してツキ良く強いのだ。 - 「ほめてないで助けて~~!!」
牛を連れて丘を九十九 折りに駆け下って叫ぶエスカノール。 - 「ったく~~」
エスカノールと黄昏牛 の間に割り込んだのはホークだった。
「ホークさん!!」 - 「ローリング・ハム アターーーック!!!」
牛の横っ面に回転体当たりをかます! - パインッとゴムまりを ぶつけたような音がして、血管を怒張させた牛が ギロッ と豚を睨んだ。
- ゴク…と
唾 を呑むホーク。 - 「「ひぎ~~~!!」」
エスカノールと一緒にホークもが、とんとことんとんとんとこっと、並んで牛から逃げる羽目に陥ったのだった。 - 「…仕方ないな」
ここに至って漸く、人さし指に精神操作の光を灯すゴウセルである。 - キングは一人、口ずさんでいた。
「「巨人の女王様… オイラと手を取り巨人と妖精の新たな時代の幕開けを――」」「「ディアンヌ… オイラたちの今後について話がある…」」
「ちがうな」「スマートじゃない」
腕組みした彼は、空中を縦に ヒュンヒュン と回り続けている。難問を熟考するときの昔からの癖だ。
◆縦にぐるぐる回りながら考え事するキング。
700年以上前にも、同じように縦に回って考え事をしていましたっけ。(番外編『ハーレクインとヘルブラム』)
考え事するとき常に回ってはいないので、「特別に難しい考え事」の時の癖なんだろうなと思いました。思考と一緒に自分もローディング中 …。
キング、ブロポーズのやり直しをするつもりなんですね。前回は途中でリア充を憎むエスカノールに邪魔されちゃったから(笑)。顛末が作中で描写されることはあるんでしょうか。
欧州らしく片膝をついて手を取ったり、妖精らしく黄金のアクセサリー(指輪か腕輪かティアラか)を贈ってもいい気もするけど、日本の漫画らしく、ズッコケた、または素っ気ないプロポーズというオチになるのかもですね。 - 地上では、真・
霊槍 の第二形態である緑の豹紋の巨大熊 が、崖際の巨木にびっしり実ったリンゴを、逞しい十腕の指先で プチ プチ と器用に摘み取り続けている。相変わらずのマルチタスクである。 - 「キング~~!」
崖下の木々の間から呼ぶ声。 - 「…すぐ行くよ」
思考を中断されて軽く息を吐くと、キングは 目線をやって答えた。
◆ここでキングを呼んだのは誰だったんでしょう?
エスカノールは「キングくん」と呼ぶので除外。
ゴウセルはフキダシが直線になるので除外。
ホークは台詞のフォントが基本的に丸文字なので除外。
となるとバンかメリオダスということになりますが、バンはあまりキングをこういう感じで呼ばない気がするし語尾に「♪」が付くかなと思うので、まあ除外。
…と消去法で行くと、呼んだのは メリオダス、ですかね。 - 怪鳥。
黄昏牛 。魚籠 一杯の魚。大袋一杯のリンゴ。
収穫されたばかりの食材が並べられている。 - そして男たちも横一列に立ち並んでいた。立ち小便である。
- 清々しく放尿し続けるホーク。
「大自然の中の連れション… ……いいね!!」
右隣でホッとした顔をしていたエスカノールが、不意に青ざめて心持ち体を右に傾けた。
「ホークさん ボクの足に かかってます」
その右隣のメリオダスは動じることない笑顔。
「妖精王のオイラが なんで…」
その右隣のキングは少し気恥ずかしそうにしている。「こんな経験 初めて」なのだろう。
「男は黙って連れションだろーが♬」
その右隣のバンはダルそうに言い切った。彼は この義兄には良くも悪くも遠慮がない。 - そしてゴウセルはバンの右隣、一同の一番端から、口元に手を当てて ジーと凝視していたのである。男たちのナニを。
基本的に排泄も入浴もしない彼にとって珍しいモノだったのだろうか。幸か不幸か、それを咎める者はその場にいなかったので見放題である。
◆ジーと見ているゴウセルさん。ナニがそんなに面白かったの?
何気に この場面で身長比較が可能に。
少年メリオダスは身長152cm、バンは210cm。
キングが一番後ろ、メリオダスが一番前に立ってて、覚醒キングはバンの肩くらいの身長。バンの頭から肩までの長さを32cmくらいと仮定するなら、覚醒キングは180cm前後かな?(おっさんキングと同じ身長。)少年キングは160cmでしたから20cm伸びたと。
この全員参加 連れションは(キングの様子からして)メリオダスかバンの強引めな提案だったのかなと感じましたが、なんで連れションしたかったんだろう? 何の意味と必要が??
異界に去る前に是非したかった思い出・連れション。……困惑。私には解らない(苦笑)。
漫画『ジョジョ』の第三部に「男の友情! ツレションでもするかあッ!」と促す場面があり、その約10年後のゲーム『ファイナルファンタジーⅨ』に「古来より伝わる男同士の友情を確認する儀式さ」と星空の下で連れションする場面があるそうで、そうした流れを引いた場面ってコトになるんでしょーか。
一説に、連れションは男性間のオスとしての序列を作る行為だそうで、赤の他人とトイレで一緒になった時は離れた便器で(見られないように)小用を足すのに、連れション相手とは隣に並んで一緒に出すことが多いのは、意識的か無意識的かはともかく、互いの男性の象徴の大きさを確認しているから…という説を唱える人もいるようです。
そうして序列が完成されれば、それ即ち「男の友情」を安定させるってコトに…なるんでしょうか?
まあ、単に「パンツの中身や排泄すら曝け出した気安い仲、気の置けない友人」くらいの意図しかないのかもしれませんが。
でもゴウセルがジーッと見てたしなあ。序列つけられた?
つーか、コマ内に収める必要からというのも解るけど、連れションするにはくっついて並び過ぎじゃないですかね。(^^;)
キングは羽が大きいから一番後ろにいるけど、あの密集ぶりでバンにもメリオダスにも引っ掛けずに出すのは至難の技では…とハラハラしました。尾籠 な話で失礼いたします。 - 終わると、メリオダスは にししっ と笑って親指で合図して歩き出した。
「さてさてさーて!」「スッキリしたトコで店に戻るかね!」 - 男たちは黙り込む。
逡巡して緊張している様子のエスカノール。
ただ静かに黙っているキング。
軽く俯いて何かを こらえている様子のゴウセル。 - 口火を切ったのは、意を決した様子のエスカノールだった。
「ま…まだ スッキリしてません…」 - 「!」
バッと振り向くメリオダス。
「残尿感か?」 - 「違います!!」
叫んでから、エスカノールは言いづらそうに俯いた。
「団長」「……」「また この全員で<七つの大罪>を続けていけるんですよね…?」 - 恐れと不安を隠せない声音に、キングとゴウセルは切なそうな目をする。
バンは眉根を寄せて瞼を伏せた。 - 「はい?」
キョトンとしているのはホークばかりである。 - 「団ちょ…」
バンは目を開けてメリオダスを見据えた。
「…お前が考えるほど こいつら鈍かねーぞ」 - 昨夜、ベッドの中でエレインは訊ねた。
『他のみんなには伝えるわけにはいかないの…?』
バンは答えたのだ。
『団ちょは誰にも話す気はねえ… ただーーーー』
『全員 薄々は気付いてる』『だけど必死に気付かねえフリをしてるんだ… 気付いて口に出せば それが現実になっちまうんじゃねえかってな』 - 花畑に陣取った女性陣は楽しげな笑い声をあげている。
- 「ねえねえ!! いつか ここにいるみんなの子供同士でもボクらみたく仲良く集まるのかな?」
紅茶を飲みながらディアンヌが言った。
「ディアンヌ 気が早い!」
エリザベスが おかしそうに笑う。 - 「……」
エレインは またも気まずげに俯いた。
人の心を読む能力を持つ彼女だが、自分の感情を隠すのは下手なのだ。 - 「妖精の姫よ 顔色が優れぬようだが…?」
紅茶を口に運ぶマーリンが、何気なくエレインの様子を窺っている。 - 「きっとエリザベスと団長の子供は可愛いだろうね!!」
ディアンヌはツインテールの毛先で口元を隠しながら うっとりして、堪らないとばかりに首を左右に振って「ハー♡」と息を吐いてみせた。
「しかも その子が もしエリザベスそっくりだったら団長は親バカ決定だよね!!」 - クスクスとエリザベスは笑っている。
- 「そ… それより バンたちは まだかしら?」
気まずさに耐えられないエレインは話題を変えようと必死だ。 - だがディアンヌの耳に入った様子はなく、「あ」と気付きの声をあげて話を続けた。
「エリザベスと結婚するってことは団長は人間の王族になるの?」「ん~~~~ エリザベスは第三王女だから団長が王様になることはないのかな」
◆もしエリザベスが第一王女だったらメリオダスが王になるの?
てっきり、王女に王位継承権があって女王になり、夫は「王配」の立場で爵位を与えられるのかと思ってました。(なので、マーガレットが女王、ギルが王配で貴族位になるかなと。ぶっちゃけ、マーガレット最優先のギルは、性格的に、王にも聖騎士長にも向かないのではと。王配として彼女を支える立場になるのが向いてそう?)
リオネス王国は男系社会で、女性は王位に就けない国?
もし女性に王位継承権が無いのなら、(いるなら)デンゼルの息子とか、その他 王族の男性に継承権が与えられてるはずで、王女と結婚したところで王にはなれないのではと思ったり。
いや…「人間や…人間の国の事情は知らないし 正直 あんまり興味もない…」と言ってた(第16話)ディアンヌですから、今回の発言が正しいのかは、まだ議論の余地があるのでしょうか。
…とか思ってたら次回の展開(苦笑)。 - ディアンヌの話は止まらない。
「でもでも団長は やっぱり団長か店長が似合ってると…思わない?」「ボクらも気軽に会いに…いける… ……もんっ…」 - 震えた声を詰まらせて友人が顔を伏せたので、エリザベスは目を丸くした。
- 「…!」
エレインは驚く。 - ディアンヌは泣いていた。
「だか…らっ 団長………」「いなくなったりしない…よね?」
どうにか笑みを保った顔からボロボロと涙が零れ落ちていく。 - 「ディアンヌ……………」
心苦しげにエレインはディアンヌの背に手を置いた。
◆ここ、エレインはどんな気持ちだったと思いますか?
エレインは ディアンヌの涙に「大いに驚いて」、慰めた。そして この心苦しげな表情です。
ディアンヌが「何も知らずに はしゃいでいる」と考えていたのに、実は彼女が察しつつ隠していたと知って驚き、自分を恥じたのでしょうか。(心が読めるのに、ディアンヌらの秘めた心情に気付かなかったのか?)
それともディアンヌのカラ元気を心を読んで知っていたから、改めて「可哀想に」と同情したのでしょうか。
ちょっと解釈に迷う流れでした。 - 「だって… ボ……ク すご…く不安なの」
ディアンヌは とうとう泣きじゃくってしまう。 - これ以上は誤魔化しきれない。そう思ったか、今まで顔色を一切変えずにいたマーリンが、目も合わせず気まずそうに口を開いた。
「姉々 …」「実は団長殿のことで話が…」 - 「うん」「わかってる」
エリザベスは皆まで言わさなかった。
「メリオダスは この世界から消える」
そう言った彼女の表情に、女たちは息を止める。何故なら。
「…でも 大丈夫」
エリザベスは何ら変わりなく、穏やかで楽しそうな、満ち足りた微笑みを消していなかったのだ。 - 次回「エビローグ3」
一週の休載を挟んでの連載再開でした。そして次週もGW休刊で休み。焦らされますね。
今回は、<大罪>たちが皆で お買い物したり、食材調達という名のピクニックを楽しんだりと(食材集めの辺りは劇場版『天空の囚われ人』の冒頭と雰囲気そっくり)、<大罪>メンバー好き読者へのサービスたっぷり。
更に、バンとエレインのベッドシーン、キングのプロポーズ熟考、ディアンヌの子供話など、次世代編への布石が着々と打たれていました。
…けれども相変わらず、楽しさよりも、戸惑いや不安の方を強く感じます。
片付けるべきモノや汚いモノの上に花柄のシートを敷いて、そのうえで踊っている人たちを見物しているような気分。踊りは楽しい。でもシートの下に隠された諸々が気になって落ちつかない。
このまま 片付けずに舞台の幕を下ろす気なのではないかと。
<大罪>たちの楽しいピクニックよりも、ゼルドリスの現状やアーサーの復活方法の方を早く知りたいと思っている読者は多いのではないでしょうか。(ゼルくんのことは、次回 一応は 決着が付けられたようですが…)
しかも今回の扉絵には
「物語は いよいよクライマックスへ!」
と煽り文が付けられてました。
今までは、まだ片付けられてないことが多すぎるから、エピローグと言いつつ、この後まだ波乱があるんだろうと高を括っていたのです。
それが俄かに不安になりました。
メリ&エリの恋愛だけ決着させて、他は投げっ放して連載終了なんかい?
…いや。日本の漫画連載に付けられる煽りで「クライマックス」は最終回直前の盛り上がり、転じて最終回そのもののように扱われる慣習的な面はありますが、本来の字義的には、クライマックスと最終回はイコールではないですよね。
なので、もしかしたら「最終回直前だと読者に錯覚させる引っ掛けで、もう少しだけ話は続く」可能性もあるんじゃないか…と未だに疑う気持ちもあります。
だってやっぱり、終わるには片付けてないことが多いから。
とは言え。作者さんが終わると決めたら終わりますからねぇ…。
どうか、恋愛面以外のところも、次世代編に持ち越さずに『七つの大罪』内で片付けて、気持ちよく終わってくれることを願うばかりです。
ところで、バーニャ村やバイロンの町など初期に立ち寄った町村を巡っていたのには、やっぱり「ゲームみたいだなぁ」と思わされました。
ラストダンジョンでセーブした後フィールドに引き返すとか、或いはラスボスを倒した後に特定の場所に行かないとエンディングが始まらない仕様になってるとか、そういう条件下で、過去に巡った町や村に戻って住民に話しかけると、新しい反応が見られるやつ(笑)。
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お前の気持ちはお見通し?
バンとエレインのピロートーク。
エレイン
「バン…」バン
「「こんな経験 初めて……」」「か?」「…………だろーな」エレイン
「あ~~ やっぱり私の心を読んでるでしょう!?」バン
「…だとしても お互い様だろ」
えっ!? と思いました。「やっぱり私の心を読んでるでしょう!?」と言われて、バンが否定しない。(肯定もしてないけど…。)
え、え? バンって煉獄で肉体的に超進化しただけでなく、読心能力にまで目覚めたの? それは流石に盛り過ぎじゃない?
…と、思わずオロオロしてしまったのですが。
いやいや違う。バンに読心能力はないな。
という結論に落ち着きました(苦笑)。
この場面に戸惑わされた要因は、「やっぱり心を読んでる」と言われたバンが肯定とも取れる曖昧な返答をして、キッパリ否定しなかったことにあります。
では、どうしてバンは曖昧な言い方をしたのか?
それは、作者さんが この場面に別の意味を重ねたかったから…ではないかと。
バンが『読んだ』エレインの心「こんな経験初めて」。それはブリタニア各地でバリエーション豊かな災害が一斉に起きている異常な状況を指していますが、同時に、性的な初体験のニュアンスを感じ取った読者は多いと思います。なにせ裸で同衾してる男女の会話ですもの。
そちらの意味で読めば、続く「お互い様だろ」という返答は、性経験が「初めて」だったのは「お互い様だ」という意味になります。
バンが童貞であったことは作者さんが予め述べられていた設定です。それを作中で確定させたかったけれど、あからさまに言ってしまうのが憚られたので、こうして曖昧な会話にして意味を含ませたのでしょう。
なお、エレインの「やっぱり心を読んでる」発言は、番外編『永遠の刹那』にあった場面の反復であり、それを踏まえたエピソードの積み重ねでもある。
エレイン
(…やっぱり変な人間)バン
「「こいつ変な人間」って今思っただろ♪」エレイン
「え……ええっ!!?」「まさか あなたも心が読めるの!?」バン
「カカッ♬」「いろんな修羅場くぐってきたからな~~~♪ 表情ひとつで相手の考えくらい読めるっーの♪」
この時のバンは、「心が読めるの!?」と問われて、人生経験から顔色を読んだだけで読心能力があるわけではないと、ハッキリ否定していましたっけ。
つまり今回も同じことで、エレインの表情から彼女の考えそうなことを読み取っただけなのでしょう。
ところで。エレインに読心能力があることを踏まえると、今回の展開には いささか疑問を感じる部分があります。
エレインはバンから「メリオダスが異界に去る」と知らされ、何も知らないエリザベスに深く同情して泣きました。彼女がメリオダスの隣で幸せそうにしたり、ディアンヌが二人の未来を祝福したりすると、いちいち あからさまに辛そうに俯いていましたし、
エリザベスとディアンヌが「知っていた」と本心を吐露すると、大いに驚いた表情を見せたものです。
つまり、エリザベスやディアンヌの本心に気付いておらず、二人とも何も知らないのだと信じて同情していたように見えました。
心が読めていないどころか、「全員 薄々は気付いてる」というバンの言葉をも忘れていた?
メリオダスにこそ「誰も心が読めない」というご都合…げふん、主人公特権設定がありますけども、その他のキャラの心は、今までのエピソードで見る限り、闘級に左右されず普通に読めるはずです。なのに「お見通し」のはずのエレインが誰の本心にも気付かず、表面的な言動に惑わされて、オロオロと、ある意味ピエロのように立ち回ろうとは。どういうことなんでしょうか。
…バンの話を聞いてエリザベスに深く同情したあまり、辛い現実から目を逸らしたくて、あえて心の耳を塞いでいたのかな? 小説版を参照するに、エレインの読心は「聞こうと意識する」ことで聞くことができるものだそうですから。
ところで、覚醒キングやゴウセルにも読心能力があるはず。彼らはエリザベスやディアンヌの本心に気付いていたんでしょうか? また、バン、マーリンの心の声を聞いていたでしょうか。
もし彼らが仲間たちの心の声を聞いていたならば、「薄々」どころでなく「確信」していたことでしょう。メリオダスの去就だけでなく、仲間たち それぞれの心境をも含めて。
そう踏まえて考えてみますと、
メリオダスが呪いを解いた時点で確信…バン、マーリン、エリザベス
いつという描写はないが確信?…キング、ゴウセル
気付いてなかった?…ホーク
という感じだったんでしょうか。
…まあ、「魔神王にならないと解けない」呪いを「魔神王的な姿に変身して解いた」時点で、メリオダスの魔神王化に気付かない方が オカシイわけでして。
「お前が考えるほど こいつら鈍かねーぞ」とバンも言ってましたけど、メリオダスは ちっと<大罪>を舐めすぎですよねえ。皆が そこまで馬鹿だと思ってた? もしくは文句ひとつ言わず黙って送り出すと思ってた?
(と言いつつ、ディアンヌ辺りは「大雑把な性格だから気付いてなかった」描写されるんじゃと半ば恐れていたので、逆手にとっての「そう見せかけて ちゃんと気付いてた」描写には、驚くと同時にホッとさせられました。)
さて。
もう一つ、今回のエピソードで特に面白く思ったのは、エレインが全く腹芸ができてナイところでした(笑)。
いちいち哀しそう辛そうに俯いちゃう。何かあると察してくださいと言わんばかりです。
そしてまた、ディアンヌやエスカノールが カラ元気全開で いつになくハイテンションであること、その意味に気付けない。…ディアンヌの本心を知って大いに驚いてましたから、そうなのだと思います。
バンは読心能力を持たないけれど、状況や人の顔色から隠された心境を察することができる。
しかしエレインは、普段 読心能力で他人の心を直接読んでいるゆえに、顔色や言動から機微を察することが不得手なんですね。
裏返せば、自身の顔色を隠すことも苦手になるのかなあと、今回の様子を見て思わされました。思ってることが如実に顔や言動に出てる。
盗賊時代に いっぱい騙されたり裏切られたりしていただろうからこそ、バンは彼女のそういうとこも好きなのかもですね。
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未来を向いて幸せになります!
エレインが同情の涙を流していた頃、当のエリザベスは王城の自室と思われる場所で幸せそうに笑っていました。
メリオダスが去ることに気付いていなかったから? はたまた、辛いけど周囲に心配かけまいと無理に笑っていた?
いえいえ。エリザベスはメリオダスが去ることを知っていました。翌日の言動を合わせて考えるに、どうやら「別れる気が無かった」から。メリオダスとの新生活の期待に胸膨らませ、未来の喜びに頭をいっぱいにしていたので笑っていたと考えられます。
でも、気になりました。
この場面のエリザベスが窓から見ていた景色がリオネスの城下町だったからです。
リオネス王都が魔神族の侵攻や戒禁マエルの天空からの無差別攻撃で破壊され、王城すら壁に穴を開けられていたのは、作中時間で ほんの数時間前のことです。
ところが、窓から見える街並みは一切壊れていない?
<豚の帽子>亭閉店後と思われますから深夜1時以降の時間帯と思われますが、灯りがあちこちに灯っている豊かさです。
作中時間で一週間ほど前の防衛戦、そして今回の聖戦で、家族・財産・生活を失った人は数知れないはず。繰り返しますが聖戦が終わって ほんの数時間しか経っていません。
なのに、まるで戦争なんて無かったかのような平穏ぶり。
リオネス王都だけではありません。今回メリオダスたちが巡ったバーニャ村もバイロンの町にも、魔神族侵攻の爪痕は全く見えませんでした。非常に豊かで賑わって満ち足りていました。悪いことは何も起きていないかのように。
まるで都合のいい夢の世界のようで、漫画とはいえ、心許なく不可解に感じました。
第一部の王都決戦後の際は、大きな被害を受けたのは王都だけでしたし、復興に立ち働く人々の様子が しっかり描かれていたので何も不自然に感じなかったのに。今回は王都だけでなくブリタニア中が物質・精神両面で甚大な被害を受けているのに、何もなかったみたいに豊かで平和でニコニコしてるばかり。
どういうことなんだろうと考えていて、ふと気付きました。前回、バルトラ王は
「度重なる厄災が民に与えた痛みは測り知れない…」「…家族や友を失うことは何にも代え難い痛みだ」
と憂いた目で述べてから
「だがな…」「…生き延びた者には死を悼むだけでなく前を向き 明日を生きる義務がある…」
と続け、そのままスレイダーたちを引き連れて<豚の帽子>亭での宴会にウキウキと参加しました。
その時は気付かなかったのですが…もしかしてこれって、
「戦争被害を悲しむ(描く)のはここまで。以降は楽しいことや恋愛話しか語らないよ。だって未来に向かって生きる方が大事だからね」
という、作者さんからの宣告だったのかなと。
エリザベスとメリオダスも、自分たちの未来のことしか考えていないのかな?
エリザベスの呪いを解きたいから裏切りも辞さない・メリオダスが魔神王化して異界に去って別れるのは絶対嫌だから戦争も辞さない。
そのように自分たちの恋愛のために周囲を酷く巻き込んで行動したことも、過去のコトだから忘れてねと言うことでしょうか。
また、メリオダスは「自分は元々聖戦をくだらないと思っていて、聖戦を終わらせるためにエリザベスと共に行動した(魔神族を裏切った)」とバンに大義を語り、エリザベスは「聖戦で誰にも傷ついてほしくない、聖戦を止める」と述べて、サリエル、タルミエル、ゴウセルらに なんて素晴らしいんだと称賛されていましたよね。
エリザベスが世界平和のために活動してきた素晴らしき慈愛の女神だと言うのなら、今回の戦争も平和な世界を作るためだったと言うのなら、戦争で傷ついた人々のために胸を痛める描写くらいあってよかったのにな。
戦争が終わった当夜、泣いている人たちが沢山いる城下町を眺めても、それらは他人事で(または脳裏に浮かぶこともなく)、自分の未来を想ってウキウキと笑うんだなあと、少し寂しく思いました。
バイゼルでメリオダスが殺されたときも、彼の遺体に縋って現実逃避する方を優先していて、「たとえメリオダスが死んでも人々のために戦い続ける」とカッコよく誓ってたのは口先だったのか~と しょんぼりしたものでしたが。同じですね。語ってきた大義と実際の行動にズレがあります。
愛を優先するのは悪いことではありません。
でも、自分たちは戦争を憎み 人々のために戦っているんだと自ら語っては周囲に讃えられてきたのに、現実は この結論です。…それでも作中ではチヤホヤと称賛されるのみなんですが。主人公とヒロインの特権だから仕方ないねと諦めつつ、話が捩じれてるし、狡いよなあとも思います。
メリオダスは異界へ去る。
バンもエリザベスも物解りよく それを受け入れている。
じゃあ、今回の聖戦は何のために起きたのか?
エリザベスが<大罪>を率いて介入しなければメリオダスは魔神王に精神を乗っ取られてたから彼女は正しいんだ、と思いますか?
でも、それは結果論であって、エリザベスが「メリオダスと絶対別れたくないから仲間たちを命がけで戦わせてでも武力行使して止める!」と行動開始した時には、そんなの彼女もメリオダスも知らなかったのです。
メリオダスが煉獄を去る段になって『実は俺 本気出しさえすれば魔神王と同等になれるんだよね(意訳)』と言い出した時には、今まで積み重ねてきた苦難を ちゃぶ台返しされたような理不尽さとバカバカしさを感じて脱力したものでしたが、今回のバンとエリザベスの許容と落ち着きにも、頑張った結果なのだから仕方ないと思いつつも、同じような虚しさを感じてしまいました。
ただただ、今回の聖戦で死んだ聖騎士たちが哀れでなりません。
まあ、これだけ周囲を犠牲にしたのですから、二人がしっかり結ばれて幸せな夫婦生活を送ってほしいなと願います。でなければ虚しいし哀しい。