『七つの大罪』ぼちぼち感想

漫画『七つの大罪』(著:鈴木央)の感想と考察。だいたい的外れ。ネタバレ基本。

【感想】番外編 優しい夢

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週刊少年マガジン 2018年 27号[2018年6月6日発売] [雑誌]

番外編 優しい夢

第270話と同時に掲載された3P番外編。

連載200回記念として2017年2月に行われた打ち合わせ会(作者と読者10人の食事会)にて、読者のリクエストから作られた七本の番外編の、第二弾です。

第一弾の際は、打ち合わせで どんなアイデアが出て、作者さんが それを どう調理したかが担当編集さんの文章で解説されていたのですが、今回は ありませんでした。残念。

 

何故か、アプリ『マガジンポケット』での配信は なかったです。

『マガポケ』で『週刊少年マガジン』を定期購読している人は、この漫画が載っていたことすら知らずに終わったのでは…。

でも、ほぼ10日後(6月15日)発売の単行本32巻に 早速収録されていましたから、どうでもいいコトだったのかしらん。

 

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グリアモール(少年姿)と、ドレファスと、フラウドリンの三人が、仲良く家族団欒して家族愛を確かめ合う ほのぼの話でした。

 

テーブルの上 一杯に並ぶ、おしゃれな盛り付けの素敵なご馳走。

中心の大きなオムレツには、ソースで、ドレファスとフラウドリン(魔神姿)の可愛い似顔絵が描いてあります。

オムレツではなくオムライス、ソースではなくケチャップと解するべきかもしれませんが、ファンタジーとは言え、アーサー王の時代のイギリスに それらがあるのは個人的に違和感が強いので、オムレツとソースだと思っておきます。(^^;)

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なんとビックリ、これらはグリアモール(少年姿)が作ったものなんだそう。

えええ、凄すぎるよグリちゃん。キミは料理人になれるよ。

 

まるで父の日みたいに、グリアモールがご馳走を作って、ドレファスとフラウドリン…「二人のお父さん」に ご馳走しているようです。

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当初はドレファスの姿(好きな髪型は長髪)を とっていたフラウドリンでしたが、グリアモールも本物ドレファス(好きな髪型は短髪)も、屈託なく、本来の姿に戻るよう促します。

本来の魔神の姿をさらしたフラウドリンは、グリアモールに怖がられないかとビクビクするのですが、息子は ちっとも怖くないと笑うのです。

 

ドレファスと二人で、フォークに刺した食べ物を息子に差し出して、ヒナ鳥にするように食べさせたり。お腹がポンポンに膨れてドレファスに呆れられるまで「息子の手料理」を堪能しました。

それから、腹ごなしに三人で美しい荒野ヒースを散歩します。

元気いっぱいに駆けていく幼い息子。見守って歩くフラウドリンとドレファス。

 

なんて幸せなんだろう、という目をしてから、フラウドリンは尋ねました。

「なあ ドレファス これは一体 誰が見ている夢なんだ…?」

するとドレファスは言うのです。

「フラウドリン… お前って 案外つまらんことを気にするんだな」
「俺たち三人の誰かが こう望んでいた夢」「…それだけで十分じゃないか……?」

「そう…か」「………………そうだな」と、静かに納得する、幸せなフラウドリンなのでした。おしまい。

 

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三人の誰かが望んでいた夢、と言っていましたが、紛れもなく「フラウドリンの夢」でしたよね。

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だって、「フラウドリンにとって」優しく・都合のいいコトしか起きていないから。

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「魔神族の視点で見るなら」、フラウドリンは悪ではありません。絶望的な状況下、故国と一族を救うため孤軍奮闘した英雄です。

しかし「人間族の視点から見れば」、彼は嘘まみれの卑劣な極悪人であり、人(魂)食いでもあり、その行いは到底 許されるものではありません。

 

愛を知らなかった魔神フラウドリンが、成り行きで「父親」のふりをしているうちに父性愛に目覚め、最終的にその愛に殉じた。

偽物の父であり、人間族にとって極悪である彼は、人間社会で報われることはない。本当の家族には決してなれない。

哀しく、報われないからこそ美しさのあるエピソードです。

 

グリアモールが「魔神のおじちゃん」の死を哀れみ、石を積んだ小さな塚にそっと野の花を供えていたのは(第235話)、好きな場面でした。

人間社会では嘘だらけのフラウドリンの、けれど父性愛だけは本物で、その点には感情移入でき、憐れみを感じていたから。

報われずに終わって当然の極悪人の、たった一つの真実が、ほんの一欠片だけ報われる。それが美しく思えました。

(グリアモールが大っぴらにフラウドリンを悼んだり、彼は俺のもう一人の父だったなどと言い出したら、おかしいと思うけど。)

 

しかし。「ドレファスが」フラウドリンにも正義があったと言い出したのには(第252話)、嫌な・ヤバい感じがしました。

だってドレファスは、脅されたからとは言え身体を自らフラウドリンに明け渡し、10年に渡って多くの人を苦しめ・殺した。一国(マラキア王国)を滅ぼしさえしています。

暁闇の咆哮ドーン・ロアー>メンバーを騙し討ちして殺し、<十戒>侵攻以降は人々を直接圧政で苦しめ、魂を喰らってもいました。

そして、それらの記憶を、ドレファスはフラウドリンと共有しているそうです。

 

それでも「フラウドリンに憑依されて逆らえなかったんだから仕方ない、ドレファスは悪くない」と許されて聖騎士として暮らしている、それが彼の現在の立場。

そんな男が、フラウドリンにも正義はあったと言い出すのは、流石にマズいでしょ。

私がブリタニアの人間なら殴りたくなるでしょう。フザケンナ、です。

 

で。今回の「優しい夢」。

ドレファスが笑顔で、フラウドリンを家族の一員扱いしてる。幸せ ほのぼの家族してる。

おいおい、ちょっと待てよ、です。

第266話では「もう私から息子を奪わないでくれ!!!」と独白してたじゃん。フラウドリンに父親の立場を奪われていたこと、嫌だったんじゃないの?

 

まあ、所詮は「夢」だし。それも「フラウドリンの夢」だし。ドレファスの夢じゃないし、多分。

…と、思って終了したいところなんですが。

厄介なことに、担当編集さんや作者さんは、この「夢」を「本編の一部」と位置づけているようで。

なにせ、雑誌掲載時は最後のコマに

第266話も併せて読んでみよう!

と後引きしてありましたし。単行本では、他の番外編は巻末にまとめられていたのに、この番外編だけ、わざわざ第266話の前に収録してありました。

 

第266話には、息子を護ろうとしたドレファスが、フラウドリンと同じ魔力に目覚めるエピソードがあります。

一応、魔神や女神が長期間 人間に憑依していると、器となった人間に魔力が多少移ることがあると、起こり得る普遍的な『現象』としても説明されていたんですが。まあ、読者が『フラウドリンの愛の奇跡』だと解釈するのも ご自由にという、どっちにも解釈できる形で、その時点では描かれていました。

 

しかし。

どうやら作者さんと担当編集さんは、解釈の自由を許す気が無くなったらしい。

前述したように、後引き文や収録順で、解釈を誘導しています。

ドレファスがフラウドリンの魔力に目覚めたのは、フラウドリンの愛の奇跡。三人は家族愛で結ばれた。それは素晴らしいこと。泣けるでしょ、感動的でしょ。

…と、強要された気分(苦笑)。

 

 

 

この番外編、世の読者の殆どは、ほのぼのと幸せになったり、感動して泣いたりしたようです。

そう思わなかった私は、つくづくネガティブでマイノリティなのね…(暗)。

 

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解る人だけ解っていただければと思いますが、この番外編を読んで、和田慎二の『ピグマリオ』最終回と同時掲載されたパラレルエピソード『もう一つのピグマリオ』を思い出しました。

あれは、本編を、いいことも無残なことも しっかり描ききったからこその、報われなかったキャラクターたちへの作者の愛が感じられる、文句なしの「優しい夢」でした。

コンセプト的には近いけど、都合のよい夢を、未だ進行中の本編に組み込んでしまった この番外編は、似て非なるものだなあ、と。

 

 

できれば、あくまで「都合の良い、ありえない夢」として扱ってほしかったかも。

たとえば、フラウドリンらが三人で散歩に出たら、<暁闇の咆哮ドーン・ロアー>が全員健在で楽しそうにしてたり、デールがギーラやジールと仲良く散歩してるのとすれ違ったりするとか(笑)。

 

フラウドリンの陰謀で無残に死んだ者たちが、この「夢」の中では生きていて、遺していったはずの仲間や家族と楽しく過ごしてる。

そんな「夢」の世界なら、フラウドリンも都合よく優しく許されていて文句ない。

 

「報われなかったキャラのあり得ない幸せ」を見せていただけるのなら、そのくらい ぶっ飛んでてもよかったかな、なんてことを思いました。

 

 

 

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