【感想】『七つの大罪』第219話 英雄たちの休息
週刊少年マガジン 2017年26号[2017年5月31日発売] [雑誌]
第219話 英雄たちの休息
- 「さあさあ豚野郎ども 寄ってらっしゃい見てらっしゃい!!!」「待ちに待った 新<豚の帽子>亭の落成式だぜー!!」
鼻息荒いホークの口上に、メリオダスとバンの二人っきりが焦れったそうに威圧した。
「早くしろ」 - 「少なっ!!!」
驚いて、プゴと鼻を鳴らすホーク。
せっかくの落成式だというのに二人しかいないとは。エリザベスすらいない。
「お前ら せっかく七人そろったんじゃねーーのかよっ!!?」「他の連中はどこ!!!?」
「全員 用事があるんだと」とメリオダス。
「冷たっ!!!」 - ホークママの頭上に新築された建物は、すっぽりと白い布で包み隠されていた。見上げるバンは「♪」と上機嫌だ。実は彼が一番 楽しみにしていたのかもしれない。
◆建物どころかホークママのほっぺ半ば隠すまで垂れた、尋常じゃない大きさの白布。どうやって調達したんだろう。マーリンが魔法で作って被せたのかな? - 「さっさと見ようぜ バン」
「OK♪ 団ちょ~」
二人は無造作に白布の端を引いて覆いを取ってしまう。
「それは俺の役……っ」
張り切って考えた段取りが台無しだ。子豚は じょばっと涙を飛ばした。
「酷ぉっ!!!」
◆ホークちゃん、可哀想。
<大罪>連中は自由人だから…。 - 新<豚の帽子>亭は、木製ビールジョッキの横腹に平皿がくっついたような形をしている。窓で判断する限り四階建てで、壁面には大きく「BOAR HAT」と店名が刻まれ、ビールジョッキの取っ手下部に設置された等身大の豚の銅像が店の看板。その横に入口がある。
- 平皿を思わせる二階テラスは、緑・青・黄・赤のカラフルな葉を茂らせた不思議な木々が生えた庭になっている。これはマーリンが開発した魔法植物で、普通の果実だけでなく、様々な食材が時季を問わず実るのだ。
- マーリンの魔法は、他にも様々施されているらしい。二階テラスを下から支えているのは建物から生え出した木だし、内部のあちこちにも生きた木の枝が生え出していて、装飾のように配置されている。
- なにより、この巨大な建物をホークママの頭上に安定させているのもマーリンの魔法だった。ママが どんなに動こうとも建物内部に震動が伝わることがない。ママの頸椎に掛かる重量も緩和されているのかもしれない。
以前の<豚の帽子>亭は大きなバンドで物理的に固定されていたものだが、今はそれもなく、ママに窮屈な思いをさせることもないだろう。 - 「このクソ豚野郎ども!! 豚にひかれて 死んでしまえーーーーっ!!!」「プゴッ」
泣きながら怒る哀れな子豚に
「やなこった」
とメリオダスは にべもない。本当に親友なのか。バンは笑って機嫌を取った。
「怒んなよ 師匠~ 今夜の宴会にゃ最高の残飯 喰わせてやっからよ♪」
「バンは許す!!」
◆バン、優しくなったなぁ~。 - 「つーわけで」
メリオダスがバンを見上げる。見下ろすバンと目が合うや否や。
ドンッ
「ひーー!!」
二人が同時に地を蹴って跳んだ、その小爆発のような衝撃だけで、ホークがボールのように吹っ飛んだ。 - 一跳びでホークママの上に降り立った二人は、押し合いへし合いしながら扉を開け、生きた木がオブジェのように生えた店舗を駆け抜けて、壁面沿いに弧を描く階段を先を争って駆け上がる。
- 二階の居住区に並ぶ扉の一つを開けたところで、靴でキキッと床を鳴らして急停止した。
- 四半円…扇形をした部屋は決して広くない。そこにベッドが一つ(ヘッドボードは生きた木で、枝葉が生え出している)、そのベッドカバーと揃いのソファが一つあり、他に丸テーブル、クローゼット。片隅にバスタブまで押し込められていた。無数の酒瓶や酒樽が、既に棚や床に並んでいる。
◆ベッドがシングルに見えるんですけど(枕も一つだし)いいのかな? それぞれのカップルとも、片割れが子供の背格好だからベッドが狭くても大丈夫なんでしょうか。でもメリオダスは呪いが解けたら大きくなるでしょ? なんか心配しちゃいました(苦笑)。
バスタブは、こんなとこに設置してて、カビとか大丈夫なのと思ったけども、例によってマーリンの魔法で防カビ・防湿・防水・防音してるのかな? 脱衣スペースがないのは、いくらカップル(夫婦)の部屋でもダメなんでは…と、これまた余計な心配をしました(苦笑)。 - 「この部屋は「俺ら」が いただくぜ~~~~♪」
メリオダスの頭を抑えたバンが言えば、
「残念でした「オレたち」の部屋に決まりなんだな~~~」
とメリオダスも譲らない。
「なぜなら オレの方が早かった!!」「にししっ」
「団ちょ~~ 足下見てみ」
バンがニヤニヤ澄まして、立てた人さし指を振る。
見れば、バンの長い片足が、メリオダスより前の位置に踏み出されていた。
「俺の方が先~~♪」
「…」
ムスッとするメリオダス。
「バン… 店の改築費を 誰が払ったと思ってんだ?」
「国王だろ」
「チッ 知ってたか…」
◆知ってたかも何も、メリオダス、バンの前で「国王 にも特別に費用を出してもらえてな」ってハッキリ言ってたじゃん(苦笑)。親友同士の あえてのボケとツッコミなんでしょうけど。 - メリオダスが表情を険しくする。
「こうなりゃ これで勝負!!」
と、ズボンのポケットから取り出したのは、一枚のコインだった。 - 男どもがコイントスで部屋決めをしていた頃。
王都内の、キノコのような形の塔がある小さな家で、椅子に腰かけた少女が本をめくる手を止め、クスクスと笑っていた。
「ウフフ」「近付いてきた……」
二人の少女が足音を忍ばせている気配。
「あと もう20フィート」
少女たちは小さな家の玄関アプローチを上がり、玄関扉の前で一旦 足を止める。
人さし指を唇に当てて『静かに』とジャスチャーする銀のロングヘアの少女。その隣で声を殺してクスクス笑っている黒髪をツインテールにした少女。
その気配は手に取るように判った。
◆20フィートは、およそ6m - 「二人とも!! バレてるわよ」
と呼びかければ、玄関扉の向こうで「!!」と息を呑む気配。
「どうぞ入って」 - 扉を開けて二人が入ってきた。
「やっぱり無理ね! 心を読まれないように がんばったつもりなのに…」
王女らしいオフショルダーのドレスを着たエリザベス。
「やっほーー エレイン!!」
着ていた服ごと人間サイズになったディアンヌは「さっすが 妖精王の森の聖女様だね♡」とウインクした。 - エレインは本を閉じて微笑みかける。サイドテーブルにはキノコや小木草の鉢植えが四、五鉢も並んでいた。自然を愛する彼女の慰めになるよう、強欲な男が用意したのだろうか。
「まだまだね エリザベス」「考えを閉じていても そわそわした気分が伝わってきたから すぐに わかっちゃった」
「そ… そうなの?」
エリザベスは焦った様子で口元を押さえる。
「それに ディアンヌは ずっと兄さんのことばかり考えてるし」
「え… ええ!!? 本当!!?」
ディアンヌはアタフタした様子でピョンッと飛び跳ねた。 - 「ま… 兄さんはディアンヌの倍は喜んでいるようだったけど…」
エレインは一度言葉を切ると少々の苦笑いを浮かべる。兄の(心の中での)浮かれぶりを思い出したのだ。
「…けど 本当に兄さんでいいの?」「心配…」
頼りになる兄だが、あの浮つきようを見ていると。
「へ?」
キョトンとするディアンヌ。
本気の心配ではないと解っているからだろう、エリザベスはニコニコと見守っている。
◆まだ二人が恋人になって一日目のはず。200年越しの想いが通じてキスしたばかり。見逃してあげてエレインちゃん(苦笑)。 - 「そういえば兄さんとは一緒じゃないの?」
エレインは訊ねた。こんなにお互いのことばかり考えているのに、別行動は意外だ。
「それが ゴウセルと男同士の話があるからって… 昼間から酒場だよ」「今夜は みんなで宴会 することになってるのにねぇ?」
◆午前中に森でキスして王都でゴウセルを捕まえた後、昼くらいに一度キングとディアンヌでエレインに会いに来てたっぽいですね。
その後キングが男同士で出掛けちゃったから(真面目なんで、すぐゴウセルと話をつけなきゃ気が済まなかったんでしょう)、ディアンヌはエリザベスと一緒に もう一度エレインのところに遊びに来た(女の子同士で遊ぶことにした)って感じでしょうか?
新<豚の帽子>亭の落成式に参加せずエレインのところへ遊びに行った辺り、キングに置いてかれた形になって、実は結構つまんなく思ってたのかも?
エリザベスはそれを察して付き合ったんでしょう。結果、ホークが可哀想なことになったけど…。 - ちょっぴりの不満を声音に乗せてから、ディアンヌは気遣わしげに表情を改めた。
「それよりエレイン 体は大丈夫なの?」
先程から妖精の少女は椅子に座ったままで、立ちも浮かびもしていない。
「ええ… 禁呪で魂を繋ぎとめている状態だから… 正直 元の調子には程遠いけど」「エリザベスの魔力のおかげで 身体は大分 楽なの」
椅子の背もたれ側に回って微笑むエリザベスを、エレインは信頼の籠った瞳で見上げて微笑み返した。 - 「ディアンヌ… 妖精王の森の様子はどう?」
「うん! 色々あったけど みんな元気だよ!!」
元気に答えた後で、ディアンヌはハッとした様子で声を大にする。
「そうだ そうだ!! ボクとキングがね 三千年前の世界に行ってきたんだけど」
「「?」」
何を言い出すのか? と困惑した二人の姫に構わず、エリザベスに興奮した目を向ける。
「そしたらね なんと そこで」「昔の団長と キミに瓜二つのエリザベスに出会ったんだ!!!」
不意にもたらされた戸惑いに、エリザベスの瞳が揺れた。 - その頃、昼間から賑わう酒場<IVOR>にて。
- 「おきゃわり!!!」
舌足らずな発音で、どんっと木製中ジョッキをテーブルに置いた中年の巨漢。
「ゴウセル~~ さっきから全然 飲んでないろぉ…」「オイラの酒が飲めないろか~?」
「ヒャック」と大きなしゃっくりをした拍子に、カランッと空の中ジョッキがテーブルに倒れる。
<七つの大罪>「怠惰の罪 」にして妖精王であるキング。おっさん姿に変身した彼は、真っ昼間から泥酔に近いレベルで酔っぱらっていた。 - ちなみに、裸だった上半身には新しいシャツと上着を重ね着ている。以前愛用していた上着に近いイメージながら、ボタンではなくジッパー、詰襟でフードがない。以前はフードに縫い付けていたヘルブラムの冑は、生えたばかりの羽(上着を突き破って出ている)を隠したくないからか、収まる位置を失って頭に斜めに引っ掛けられたままである。
- 向かい合ってテーブルに着いたゴウセルはと言えば、相変わらず<豚の帽子>亭の旧ウェイトレス服を着ていた。前に置かれた中ジョッキには
酒 が なみなみと注がれたままで、完全な素面 である。
「これで 説明12度目だけど… 俺は人形だから酒は飲まないよ」
組んだ両手で頬杖をついて、少女のように愛らしく微笑んだ。
「それと 今から酔い潰れてたら 夜の宴会 までもたないと思う」
微笑みから放たれる言葉には気遣いのオブラートがない。傍から見ると、絡み酒の中年男を少女がチクチク言葉で刺して撥ねつけているかのようだ。 - 「ゴウセルくん シーーーッ!!」
同じテーブルに着いたエスカノールが青ざめて人さし指を口に当てていたものの、彼に伝わる様子はない。
なお、エスカノールの前にはジョッキがなかった。呑むためではなく、二人を心配して、仲立ちのつもりで同席しているのだろう。 - ポンッと破裂音を立てて少年姿に戻ったキングは、泣きそうに顔を歪めた。
「オ… オイラはさぁ ただ キミとの間に空いた溝をね 少しれも埋めようと思って… れも… 何を話しぇばいいか わからんくて」
「酒の力を借りたの?」
些かも感じた様子なく笑って返すゴウセル。 - 「ゴウセルくん… 以前より切れ味 増してません?」
エスカノールは、椅子から腰を浮かせてオロオロしている。
◆彼らの席には料理がありません。互いに酒一杯ずつだけ。
キングは酒に弱いのに、つまみ無しで、とにかく呑んで話をしようとした模様。楽しく呑んで会話を弾ませて…みたいな心の余裕が無かったんだなというのが判る。
エスカノールが心配して付いて来たくらいですから、キングが相当 気負ってたんでしょう。そもそもゴウセルが飲食しないなんて知ってたはずなのに、それも失念しちゃってるほどに。 - そんな彼らの様子を、たまたま近くのカウンター席で(昼間から)呑んでいたグリアモールとハウザーが聞いていた。居心地悪そうに背を丸めて他人のふりをしている。
◆この人たち、いつ仕事してるのかしら…。(ハウザー、聖騎士長代理になってから、鎧着て城にいる描写見たことないです。私服で街をウロウロしてるか私服で酒場にいるか。) - 「い… 一度 腹を割ってキミと話がしたかっただけだよう…… うぅ」
キングの目に涙が滲んだ。
ポンッと破裂音を立てて、またも中年男に変身している。酔いが回り過ぎて制御が おぼつかなくなっているらしい。極度に緊張しているということかもしれない。 - 「ちなみに」
断ち切るように言ったゴウセルは変わらぬ笑顔だ。
「1時間後に お前が この会話を覚えてる確率は5%もないよ」
だから この対話は無意味だと言いたいのだろうか。
◆つまり、キングは普段から、酔い過ぎると記憶を飛ばすタイプなんですね…。 - 本日の妖精王の酔い方は、姿も感情も実に不安定だ。
「これだけは言っておく!! オイラはキミの全てを許したわけじゃない!!」
ポンッと少年姿に戻って怒りを露わに叫んだ。
「だってキミは…」 - 「…………わかってる」
笑みは絶やさぬまま、初めてゴウセルが俯いた。
「ま… まあまあ キングくん」
エスカノールが宥めようと口を開いたが。
「くかーーっ」
キングが急にテーブルに突っ伏したかと思うと寝息を立てたので、ダイナミックにひっくり返ってズッコケた。
「ズコーーッ!!!」 - キョトンと目を丸くするゴウセル。キングは へにゃっと笑って眠ってしまっている。
ようやく、仄かにながら切なげな色を浮かべると、立てた人さし指の先に闇色の光を灯した。
“探索の光 ”
眠るキングの頭を それで包む。 - いつかの宴会の際に覗いた時もそうだったが、酔いのせいだろうか、彼の思考は まとまりを欠いて混沌としていた。
- これが偽らざる彼の心。
「キングは俺を嫌っている…」
ゴウセルは呟いた。
「当然だよね… 彼の大切な女性 に 俺は酷いことをした…」
心を閉ざしていた当時は、酷いことだという認識すらなかった。己の大切な女性 との大切な記憶を思い出した今となっては、彼の怒りや心の痛みは沁みて理解できる。嫌われて当然だと思えるほどには。 - その肩に、優しくエスカノールの手が置かれた。
「………大丈夫」「キングくんは優しいですから」
こうして歩み寄ろうとしてくれているのだから。 - 「………………」
ゴウセルは嬉しそうに微笑んだ。
「俺は いい人形になりたい」「そうすれば… そうすれば きっとキングも <七つの大罪>のみんなも 俺を好きになってくれるかもしれない…」
自律稼働年数だけ見てもゴウセルの方が上のはずだが、エスカノールは年長者のまなざしで人形を見守っている。 - 「・・・」
一方、気まずそうに背を丸めて他人のふりをし続けているハウザーとグリアモールだった。
エスカノールが派手にズッコケたのでウェイトレスは呆れた目線を送り、店主は「ったく うるせぇ客共だ」と げんなり顔である。よもや彼らが伝説の英雄<七つの大罪>だとは夢にも思っておるまい。 - エスカノールは言葉を続けている。
「ゴウセルくん 僕は君が好きですよ?」
「ありがとうエスカノール」
「さあ 二人でキングくんを介抱しましょう」 - 二人で両脇からキングを支えて立ち上がらせた。落成式も終えただろう<豚の帽子>亭へ連れ帰って寝かせてあげよう。
「ううん もっと…呑む~」
朦朧としたキングが むずがりながら払った手の先が、ぺちっとエスカノールの顔に当たる。弾みで眼鏡が外れた。 - 「おこ…っ」「がましぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!」
ゴワァッ
途端に、エスカノールが筋肉ムキムキ高身長の巨漢に変身! 服はビリビリに千切れ飛び、溢れた魔力風で周囲のテーブルセットはなぎ倒され、挙句は柱や壁や扉までもが砕け散る!! - 「ひえっ」
怯えるハウザーとグリアモール。 - ゴウセルは床を蹴ってエスカノールの眼鏡を追いかけた。抱えていたキングを躊躇なく投げ捨て、眼鏡を床に落ちる前に無傷でゲット。空中回転してピュッと投げれば、「この私に介抱させようとは」などと声を荒げていたエスカノールの顔に見事に一発装着。まるで曲芸のようである。
- するとエスカノールは しゅるるるる と筋肉も背も縮んで、元のヒョロヒョロした中年男に戻ったのだった。
- 「いや~危ない危ない! マーリンさんにもらった魔法のメガネを外すと大変なことに なっちゃうんですよね~~~~~」
ビリビリに裂けた、元はシャツだったボロ布をまとった中年男は誤魔化すように笑うと、しゃがんで両手でキングを指し示す。
「さ キングくんを介抱しましょう」 - うつ伏せに倒れて動かないキングの頭の周りには血溜りが広がっていた。どうやら鼻血である。ゴウセルに床に叩き付けられて顔面を強打したらしい。
- 二人は再び、両脇からキングを支え起こした。
「いいコトが一つできた」
ゴウセルは満足げに微笑む。エスカノールの暴走を止めることができたのだ。これならキングも好きになってくれるかもしれない。
エスカノールは冷や汗をかいて顔を引きつらせている。
(覚えてないといいなァ キングくん…)
理不尽な暴力に見舞われた彼が、ゴウセルのガサツさを忘れてくれることを期待したい。二人の今後の友情のためにも。 - 二人の視線を集めるキングはと言えば、鼻から下を血で真っ赤に汚したまま、焦点の合わない目で「えへへ」と笑っていた。
エスカノールの期待通り、酔い過ぎて何が起きたか解っていないらしい。或いは頭を打ちすぎたのか。ともあれ、セーフ! - 「あとで なおしに きまーす」と言い残して、キングを支えて半壊した店から去っていく二人。店にいた者はみんな、唖然と見送っている。
- 「お… 恐ろしい…」
戦慄しながらグリアモールが呟けば、
「あ… ああ」
ハウザーも引きつり笑いで頷いた。 - 同じ頃、マーリンの研究所。
彼女は呪文を唱えている。
室内の薄闇に光が生じ、ボウッとマーリンの姿を照らした。
光ったのは正双十二角錐らしき形に加工された大きな水晶だ。輝く内部には、どこかの都市らしき風景が映し出されている。
「どこだ………」「応えてくれ…」
水晶に両手をかざして、彼女は映る景色の中に何かを探しているらしい。 - 水晶を通して見ていたのは、はるか南の新興国・キャメロット。若きアーサー王が治めていた国は、今や魔神の巣窟となっている。
都市をうろつく赤や灰の魔神。人間の姿も老若男女問わず少なからずあるが、魔神を恐れている様子はない。 - そんな中を ホワ ホワ ホワワ… と浮遊している、小さな魔物の姿があった。眼球にコウモリ羽と頭髪が生えたような姿をしている。
「ちぇ~~っ 王たる器の魔力を探せったって…」「感じるのは 魔神どもの魔力か 洗脳された人間の気配ばかり…」
『つべこべ文句を言わずに 捜せ オルロンディ!!』
マーリンの怒鳴り声が聴こえて、ビクッと震える。
「は… は~~い!! ごめんなさぁいマーリン様」
彼は吸血鬼王族・荊棘 のオルロンディ。元は少年の姿をしていたが、12年前のエジンバラでバンの無尽の血を飲み過ぎて動けなくなったところを粉々にされた。生き残った眼球はマーリンに採取されて、今や彼女の下僕である。
◆アニメ第一期BD/DVD特典が初出だった番外編『エジンバラの吸血鬼』から、まさかのオルロンディ再登場!
眼球だけになって瓶詰標本にされたと思ってたら、使い魔化してたとは。すっかりマーリンに従順になっちゃって、この12年間どんな調教をされていたのか想像するとドキドキしますね。(^^;) そのうちグレイロードもマーリンの使い魔になっちゃうのかしら。
ところで、マーリンが命令して怒鳴るのって珍しいですね。<大罪>やアーサーやエリザベスには怒鳴らないもんなあ。 - 「でも~~本当に どこを探ってもいないですよ?」
使い魔はその辺を飛び回ってため息を吐いた。
「もう 帰っていいですか?」 - 「オルロンディー!!!」
水晶の向こうで、ピクッと震えたマーリンが叫んだ。 - 「あれ? 急に暗………」
キョトンとしたオルロンディが認識したのは一拍を置いてである。
「何者だ貴様?」
一瞬で周囲を覆い隠した闇。それをもたらした魔神ゼルドリスが、鉄の表情で こちらに片手を伸ばした状況を。 - 「おっ… おおお… お前は~~~!!!」
3000年前、自分たち吸血鬼族を石棺に封印した処刑人ゼルドリス!
思わずバックステップで身を退きかける。 - 「まずい…」
水晶の向こうでマーリンが唸った。 - 直後に。
周囲を覆っていた闇が解 け うねり、オルロンディに襲い掛かっていた。
ゴッ
「ギャピィ~~~~~!!!」 - …ところが。
「……」
身を庇って咄嗟に閉じた羽を、小さな使い魔は恐る恐る開いた。
「…?」「へ? …へ?」「ボク… 生きて…る?」
無傷である。 - ゼルドリスは片手を攻撃の形に伸ばしたまま、口元を笑いに歪ませた。
「やるじゃないか この俺の手から逃れるとは……」
それはオルロンディに向けた言葉ではない。
彼は過 たず見通していたのだ。使い魔の向こうの、真の侵入者の存在を。 - リオネス王都、マーリンの研究所。
正双十二角錐の水晶は縦真っ二つに割れ、少なからぬ量の血が ボタタッ と床石に滴 った。
「ハアッ ハアッ…」「ぐふっ…」「………!!」
血はマーリンの口から迸 ったもの。手足にも血は滲み、服はボロボロに裂けている。周囲に置かれていた竜の頭骨などの魔法素材すらガラガラと崩れていった。 - 呪われた。
まさか見透かされたうえに攻撃されようとは。
今やキャメロットを支配する仮初 の王がゼルドリスなのは間違いないのだろう。…ならば、真の王は?
「アーサー………!!」「どこにいる!!?」
血にまみれた苦悶の顔で、マーリンは求める王の名を呼んだ。 - 次回「英雄たちの宴」
最後のマーリンとゼルドリスの場面、何が起きたのかよく解りませんでした。
オルロンディへの攻撃をマーリンが身代わりに受けた……ってわけじゃないですよね。そもそも己の身の安全を確保するため使い魔に探索させてたんでしょうから、術者のマーリンが身代わりになったら本末転倒です。
となると、ゼルドリスがオルロンディを媒介して彼方リオネスのマーリンを攻撃した、ということなんでしょうが…。なんか判りにくい。
あと、攻撃を受けたマーリンの周囲に崩れていく竜の頭骨が描かれていたのは何なのか。
元々、マーリンの研究所には怪しげな薬材や標本が積まれていましたから、それらが攻撃で砕け散った、みたいな描写なのかしら。
それとも、マーリンが竜の骨を盾にしてダメージを軽減したとかゆー意味?
わからーん。
ついでに。
オルロンディは結局どうなったのか? 今どこにいるの?
無傷で、キャメロットのゼルドリスの前にいるんでしょうか。ゼルドリスは彼を放置したの? 捕まえたの?
また、ゼルドリスに遭遇した瞬間、オルロンディは前を向いたまま後ろに下がりかけた風に描かれてました。「逃げた」と判定されたら「敬神」の戒禁に掛かりそうですけど、言動から見て掛かってない。
これは「逃げた」と判定されるほど下がる前に攻撃されたから?
…まさか、「背を向けてないから」逃げたと判断されてないとか!?
言葉の表現・あやではなく、マジに、敬神の戒禁って「ゼルドリスに背を向けること」が発動の条件だったのでしょうか!?
じゃあ、戦闘中にゼルドリスに背後を取られただけで戒禁に掛かっちゃう……わけないな。だって3000年前に先代の「敬神」戒禁持ちのカルマディオスに会った時、キングたちの背後から登場したけど、戒禁には掛かりませんでした。
(その時は「(敬神の)戒禁に かかりたくなけりゃ そいつから絶対に逃げるな」とメリオダスが言ってて、背を向けるな的なことは言ってませんでしたね。)
うーん。
たとえば、背を向けずに後ろ走りして逃げるとか、前を向いたまま瞬間移動して逃げるとかだと、敬神の戒禁は発動しないのでしょうか。それとも、しっかり発動するのでしょうか。気になりました。
敵地に取り残されたっぽいオルロンディ君の命運やいかに……。
(そーいや、昼間なのに平気で動き回ってましたね、吸血鬼なのに。マーリンに魔改造されたのだろーか。それとも『大罪』世界の吸血鬼族は、日光下でも闘級半減するだけで死なないのかな?)
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新<豚の帽子>亭 落成!
読者からデザインを募っていましたから、てっきり優秀デザイン画や応募者の名前が何人分か発表されるのかなと楽しみにしていたら、それは ありませんでした。
「読者のアイディアを基に」と煽りに書かれてはあったけど、実際は作者さんが ご自分でデザインしたということなのかな??
帽子型でなきゃいけないのかと思い込んでたら、まさかのビールジョッキ型! 遊び心満載のトレイ型の庭付き! 菱形の窓がおしゃれで素敵ですね。
この建物、マーリンの魔法にあらゆる点で頼っている。
まず、こんなデカい建物が豚の頭の上に倒れず載ってるのはマーリンの魔法のおかげで、豚が動いても振動が建物に伝わらないとのこと。
次に、くっついてる庭に生えた食材の木はマーリンが作り出した魔法植物だと。
四コマ漫画でディアンヌが夢に見てた「ジューシィな豚肉の味がする桃の実」も生るんでしょうか。
つーか、食材が採り放題ってことは、キングはもう仕入れに行かなくていいってコト!? 仕入れ係廃業で皿洗い専業に担当変更か!?
……いや。調味料とか酒は仕入れに行かなきゃいけないか、流石に。
小麦粉やミルクなんかはどうなんでしょうね。木から流れ出てきたりするのかな?
なお、建物内部の様子を見ると、酒場の店舗部分にオブジェみたいに木が生えて枝が伸びてて、従業員のベッドのヘッドボードからも枝葉が伸びてます。
前述の食材の木の庭の土台も、裏から太い木が支えてる。
…うーん? 実はこの建物自体が魔法の木だったりするのでしょうか。
従業員の部屋の間取り。
この部屋は「俺ら」がいただく、いや「オレたち」の部屋だと言い争ってるからには二人部屋なんでしょう。
……狭くない?
床が四半円型なので、1フロアに これが四部屋あるっぽいけど。
建物自体は四階建てっぽく、一階が店舗。となると従業員の居住スペースは二・三・四階+屋上分? どんな間取りなんでしょう。
部屋の右下隅にあるバスタブっぽいモノが、とても気になりました。
あそこで風呂に入るのだろーか…。シャワーカーテンとマット一枚しかないし、床ビチャビチャになりそう…。それとも、バスタブじゃない別の何かなのかな?
メリオダスがエリザベスと同じ部屋に暮らすつもりで新築したのなら、鏡台くらい用意してあげて~と思いました(苦笑)。女の子は住みにくそうな部屋ですよね。
他キャラたちの部屋割りがどうなるのか、明かされるのが待ち遠しいです。
さて。
新<豚の帽子>亭で最も気になった点!
それは、建物の屋上でディアンヌが巨人サイズのまま昼寝できるという設定でした。
ディアンヌが乗っても大丈夫な屋上。(お昼寝もできる!!)
時にはここに乗ってお店の宣伝も!!
へえ、そうなんだ。
……ん、んん…?
はぁああああ??(汗)
いや…なんか……おかしくないですか? スケール的に。
ホークママの「頭の」上に建てた建物の屋上に、「巨人サイズの」ディアンヌが乗れて、お昼寝までできる?
んんん、ん、んんんんん……!!?
↓ちなみに、第一部時点のホークママとディアンヌの大きさ対比はこんな感じでした。
無理だろう…。ホークママの頭上の建物屋上で昼寝はできないだろう……。
ホークママが急成長してデカくなったとかなのかな、と疑いましたが、メリオダスら人間たちの大きさから見て、ホークママが大きくなってるとは思い難い。
んん~…。
なんでしょうか、この
アニメ第二期で、これがどう扱われることになるのか、興味が湧いてきました。
↓ちなみにアニメ第一期でのホークママとディアンヌの大きさ対比はこんな感じでしたよ。
そしてもう一つ気になったのは、巨人サイズのディアンヌが、どうやってホークママの頭上の建物の屋上に上がるのかってことです。
人間サイズで建物の内部を通って屋上に行ってからサイズを巨人に戻すのか?
巨人のまま、外からジャンプして屋上に飛び乗るのか?(ホークママの頸椎がぁあ…。マーリンの魔法でホークママに掛かる重量も軽減されてるのかな?)
キングやマーリンが魔法や神器で浮かせて、そっと乗せてあげるのか?
気になる…。
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エレインとバンの小さなお家
エレインの生存が確認されました!
ずーーーーーーーーーーっと、読者にとっては生死不明でしたから、生きてるだろうと思ってはいたけど、安心しました。
しかし、ずっとリオネスにいたんですか…。
王都防衛戦の時はどこに匿われてたんでしょうか?
だって市街地は魔神に制圧されてましたし、王城に避難してる人たちの中にも見当たらなかったです。
バンがエレインを案じる様子が全く描かれてませんでしたから、あの時は、王都以外の場所に疎開させてたのかなあ? でも どこの村や町も魔神に支配されてたな…。ドルイドの聖地? いやいや、そんなところに匿うくらいなら妖精王の森に匿った方がいいよね。謎ですね。
↓エレインの住んでるお家。
キノコみたいな形の塔が にょきっと突き出てて、とっても可愛かったです♡
妖精の姫君のお家に相応しい。
ここでバンと暮らしていたんですね。(バルトラ王が手配してくれたのかな)
エレインの体調は かなり悪いようなので、甘々な暮らしとはいかなかったかもしれませんが(下世話な話ですが、えっちなことは出来なかっただろうと思う)、彼女の好きそうな植物の鉢植えが沢山 置かれてあって、バンの愛情が感じられました。
さて。
エレインが読んでいた本。
これ、バンが作った「呑んだエールのラベルを集めたスクラップブック」なのかな?
かつて妖精王の森で出会った時にバンが見せてくれたヤツは、森が大焼失した時に一緒に失われたはず。
その後、<大罪>として王都で暮らした時代に新しくスクラップブックを作り直してたとしても、クーデター騒ぎ~投獄で失われただろうと思う。
<豚の帽子>亭に再結集してから新しく作り直したとしても、これまた、ガラン&メラスキュラとの戦闘、或いはデリエリによる<豚の帽子>亭破壊で失われただろうと思うのです。
とゆーわけで。
今回エレインが見てたスクラップブックは、メリオダス死亡からの一ヶ月間に、新たにバンが作ったものなんだろうな、と思った次第でした。
恐らくは、エレインを喜ばせるために。
この一ヶ月、バンは嬉しいと同時に、ずっと不安だったでしょうね。
生きているからこそ、失う心配をしなくてはならない。
念願叶って二人で暮らせているけれど、彼女はいつ死んでもおかしくない状態だから。
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エレインの読心術
エレインが、家の外にいるエリザベスとディアンヌの心を読んで接近を察知していたのには驚きました。
ちょっと怖い(汗)。
小説版だと、普段は心を読んでなくて、読みたいときに意識して力を使う、みたいに語られていましたけど、意識しなくても周囲の人々の心が勝手に分かっちゃうの?
もし妖精族の多くがそんな状態だったら、互いの意識の境界が薄くなって、意識を共有した集合生命体になり、個の自我が薄れていくだろうと思うのですが、そんな様子はなかったです。
妖精族同士だと、実は「任意で心を読まれないようにする」方法も わきまえてたりするのでしょうか。
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羽と新しい服と冑
キングの服が新デザインになりました。
で。
羽が服の背中を「突き破って」出てたので笑った。(;^ω^)
蝶の羽みたいに柔らかくて繊細なものなのかなと思ってたら、重ね着した布を突き破るくらい、ナイフばりに頑丈なんですね、妖精の羽って。
ヘルブラムや女神エリザベスの服は、羽と服が一体化したみたいになってて、羽を出すための穴みたいなものは服に見当たりませんでした。魔法で最初から体にまとった状態で服を作ってるからじゃないかと思ってます。
ところがキングの服は、明らかに羽が服を突き破ってる。
となると、魔法で作らず、人間式に縫って作った服を着たっぽいですね。
それならそれで、羽が突き出て破れたとこの端処理をすればいいのに~。キングさん、裁縫するひとなんだから。服がそこから ほつれていっちゃいますよ。
…とかゆー、どーでもいいことを考えました(笑)。
ヘルブラムの冑がキングの頭に斜めにひっかけられたままなのも気になります。
これまでのように背中に装備したら、羽が隠れちゃうんで、冑の置き所が無くて こうなってるのでしょうか。
どこか背中と頭以外に、カッコイイ冑の装着場所がないかなあ。
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キングとゴウセルのこと
キングは本当に真面目なひとで、でも色々と不器用なんだなあと思いました。手先はとっても器用なのにね。
彼がゴウセルに歩み寄りたい・仲直りしたい・ごめんねと思いつつ、「嫌いだ」という感情を抱えたままでいること。
それをゴウセルが「正しく」理解したうえで受け入れてくれたこと。
良かったなと思います。ちゃんと腑に落ちました。
こういう風に描いてもらえると思っていなかったので、嬉しかったです。
ゴウセルは人の心の痛みが解るようになったんですね。
前は、キングが怒っても「何が問題だ?」的な態度しかとれなかった。
ただ、対人スキルは子供レベルのようで。
悪気はないんでしょうけど、言葉がむき出しで、思ったことや事実をそのまま口にしちゃう。好かれたいはずの場面なのに…。柔らかい言い回しで相手に気を遣う、みたいなことは、またまだ出来ない模様。
顔で笑って言葉で刺して、実はケンカ売ってるのかしらと傍から聞いてると思ってしまいそうな数々の言動に、エスカノールは青ざめてオロオロ、酔っ払いキングは泣いちゃってたのは面白かった(笑)。
キングとゴウセルは、多分 親友にはなれないんだろうなと思いますが(性格の相性的に。今回の会話見てて思いました 苦笑)、仲間として絆を取り戻して、より深めていけたらいいですね。