【感想】『七つの大罪』第255話 希望の子
週刊少年マガジン 2018年 12号[2018年2月21日発売] [雑誌]
第255話 希望の子
- 「マーリン本気!?」「先に一人でアーサー王を救出に行く!?」
ディアンヌの声が響いた。巨人サイズに戻った彼女は、<豚の帽子>亭の傍らから、二階の庭園バルコニーに集う仲間たちを覗き込んでいる。 - 「何を焦ってるの… キミらしくない 今から<
光の聖痕 >とキャメロットに出発するって直前に…!!」
困惑したように言ったのはキングだ。周囲にはエスカノールとエリザベス。ホークは もっもっ と専用の餌皿から残飯を食んでいる。 - 両腕を組んだマーリンは むっつりと目を伏せていた。
「…向こうが こちらの進軍を察知すればキャメロットの警戒網は より厳しくなろう… 捜す機会は 今しか――」 - 「反対です」
はっきりと響く否定。マーリンは驚いたように目を見開いた。
「自分の尻も満足に拭けぬ小僧のために」「あなたが危険を冒す価値はない」
口ひげをしごきながら、傲慢に言葉を重ねるエスカノール。 - マーリンが キッ と睨みつけると、男は、気まずげに さっと視線を逸らした。
◆まだ朝だから、気弱な部分が残ってる? 正午近くなったら「本当のことだ」とか平然と言い返しそうです。 - 残飯を平らげて満足げに ゲップしたホークが、鼻息を吹いて尋ねた。
「なあ マーリン… お前がアーサーに そこまで肩入れする理由は なんなんだ?」「あいつは まだ 魔力にも目醒めていないんだろ?」 - 「その通り!!!」
眉根を寄せて、力強く追随するエスカノール。
「お前は知らんかったろー!!」
例によって彼に両手で頭を挟まれたホークが、ムニッと押し潰されながら突っ込んだ。 - アーサーに眠る強大な魔力は未だ発現に至っていない。その覚醒こそが魔神族に対抗するには不可欠なのだと、ガラン大敗後のキャメロットでマーリンは語ったものだ。けれど、その時エスカノールは いなかったのだから。
- マーリンは顔を上げ、視線を彼方に向けた。
「アーサーは いずれ このブリタニアを導く者として…」「聖剣に選ばれし希望の子なのだ」 - キャメロット王都。王城の聖剣の間。
焼け落ちたマントの残骸を払い、聖剣エクスカリバーを下段に構えるアーサー。
対峙するは魔神メリオダス、魔神ゼルドリス、魔神キューザック。
そして、壁の大穴から、のっそりと老魔術師が入ってきた。 - 「おい<うたたね>の なんじゃ この妙な気配は…?」
のほほんと尋ねた老魔術師…魔神チャンドラーに顔を向け、キューザックが平素の様子で答える。
「侵入者だ」
「ほぉ~~~~ん?」 - 外野の声に気を散らすことなく、アーサーはメリオダスの目を ひたと見据えていた。
- 「…いい目だ… マーリンを護れずベソをかいた あの時とは まるで別人だな」
と、メリオダス。 - 「…それは あなたも同じこと」
アーサーは剣を片手持ちにすると、ス…と剣先を水平に動かした。
「…あなたは もはや私の知るメリオダスではない……!!」 - 冷ややかな失望と怒りに動じる様子もなく、メリオダスは尋ねる。
「本気でオレたちと やり合う気か?」「たった一人で」 - つい先程まで追いつめられて泣いていたのだ。四対一で、しかも人間の子供に何ができるというのか。
- だが。
アーサーの口元に浮かんだのは、かつてない余裕の笑みだった。 - 「あの聖剣とやらが放つ おかしな気配… なんだと思う?」
ゼルドリスは両腕を組んで、アーサーを眺めながら尋ねる。 - 「さあな」「魔神族のものでも まして女神族のものでもねえ…」
傍らからメリオダスが返した。 - その間に、アーサーは剣先をメリオダスに向けて声高に宣する。
「魔神メリオダス そして それに与 する者たちよ!!」「この私が お前たちを討ち滅ぼし 王国を取り戻す!!!」 - ポーカーフェイスのメリオダスの後ろで、剣呑に顔を歪めたのはチャンドラーだった。
- アーサーが両手で剣を構え直した、直後。
「人間如きが生意気な!!」
左斜め上の空中に転移出現したチャンドラーが、突きつけた大杖から光線を撃ち放ったのである。
“殲滅の光 ”
ズッ
光の奔流はアーサーの上半身を覆って突き抜け、床を焼き砕いた。
◆「殲滅の光 」は、リオネス王都防衛戦の際、マーリンがグレイロードの頭を撃ち抜いた光線技ですね。マーリンの固有技ではなく、魔界の普遍的な魔術だったのか。 - 平然と見ている、メリオダス、ゼルドリス、キューザックら魔神たち。
- だが、崩れ落ちたのはアーサーではなかったのである。
チャンドラーの首が飛んで、頭を失った身体が重い音をたてて床に転がったのを見て、魔神たちは軽く目を見開いた。
◆「殲滅の光 」に撃たれたアーサーを、メリオダスが助けようとした様子は、全くなかったです。見てただけでした。(そして、アーサーが死ななかったのを見て軽く驚いていた。)
前回「とっとと失せろ」と言って見逃そうとしていたから、積極的に殺す気はなかったんでしょう。けれど積極的に助ける気もなかったんですね。警告はするけど逃げないなら死んでも仕方ない程度に思ってたっぽい。(まあ、アーサーにとってのメリオダスは、伝聞で子供の頃から憧れていた英雄だけど、メリオダスにとってのアーサーは、つい三ヶ月くらい前に初めて会った異種族の少年に過ぎないからなあ。)
そういえば、メリオダスに「とっとと失せろ」と言われて、言われた通りに退散していたとしたら、あの場にはゼルドリスもいたので、敬神の戒禁に掛かって、ゼルの奴隷になっちゃってたんじゃないでしょうか? …メリオダスは常に行き当たりばったりで深く考えずに行動する人なので、そこまで見越して、わざと「失せろ」と言ったわけじゃないだろうけど…。
ついでに。前回の感想に書き忘れてましたけど、アーサー、鎧の廊下でゼルドリスに背を向けて逃げましたよね。なのに戒禁に掛からなかったです。キャスが念動力で運んだから「逃げた」と見做されなかった? いやいや、すぐ自分の足で走って逃げてましたし。まさかマーリンと似たような「特例」で、アーサーは「選ばれし希望の子」だから戒禁が効かない、とかなの?(苦笑)
つくづく、戒禁はご都合で効いたり効かなかったり・イマイチ活用できなかった・むしろ お荷物化した、消化不良設定でしたね。 - 「…人間を なめるな」
魔神の首を横薙ぎにした剣を振り戻して、アーサーが低く言う。土煙の向こうから現れた姿に、損なわれた部分はまるでなかった。 - 「!!」「無傷…だと?」
キューザックは僅かに身構える。 - 「今の剣技… どこかで見た記憶が……」
その前で、ゼルドリスは身構えることなく思考を巡らせていた。 - 「キャス……」
アーサーが哀しみと憤りの目で見つめるのは、キューザックに鷲掴まれたままの血まみれの相棒である。 - 「!!!」
息を呑むキューザック。 - 一瞬後、三魔神の脇を音もなく すり抜けたアーサーは、振りぬいた剣を片手にキューザックの背後 数m地点、壁の大穴の前にいた。二の腕から断たれて跳ね上がった魔神の左腕が、掴んでいたキャスごと天井近くの空中で ヒュン ヒュン と回っている。
- 左手から離れて落ちてきたキャスを、アーサーは片手で優しく受け止めた。
「ごめんな… 私のために」
そのまま胸に抱き寄せて、哀しみと慈愛の目で見つめれば、猫は微かに応える。
「アー… …サ…」 - 「この太刀筋 なぜ貴様が」
顔色を鋭く変えたキューザックが振り向いた時、既に懐に入り込んでいたアーサーが、全身を竜巻のように横回転させて剣を振るっていた。
ドンッ
床を踏みしめての斬撃は、隻腕の魔神の胴を鮮やかに斜め二分割にしてのけたのである。
◆キューザックさんの大事なアレがっ…真っ二つに…! - 二つの肉塊となった男が床に崩れ落ちるよりも早く。
- 「……」
流石のゼルドリスとメリオダスも緊迫した面持ちで振り向いた。
そこに間髪入れず、アーサーは更なる斬撃を叩き込んだのである。 - ゴッ ドドドドドッ
- 左腕にキャスを抱えての、右片手剣の連続斬撃。絶え間無きそれはゼルドリスたちの背後の壁を押し出し、ついに外に向けて爆散させたのだった。
- 完全に崩壊して、石畳の敷かれた庭と繋がってしまった聖剣の間に、アーサーはひざまずいて そ… とキャスを降ろした。
「ポク… おなかすいた」
「ああ… 後で一緒に食べよう」
◆この非常時に「おなかすいた」と訴えるキャスが怖いです。念動力の発揮で魔力を使い果たして、食事(魔力ある生き物の捕食)が必要になったとかじゃないよね…?
<大罪>と合流したら、キング辺りを食べたそうにするんじゃないかと不安です(苦笑)。 - 優しく微笑んだ次の瞬間、アーサーは真顔で背後からの斬撃を剣で受け止めていた。
- ゼルドリスの奇襲である。
続けられた背後からの連続斬撃を、表情も変えず、ひざまずいたまま右腕だけで全て さばいてのけるアーサー。 - 「これは… “
無明 の舞い”」「昔 存在した あらゆる奇襲を返り討つ 盲目の人間の戦士の技と まるで同じ…」「なぜ それを お前が?」
斬りかかる手を止めぬまま、ゼルドリスが尋ねた。 - 「言ったはずだ」「人間を なめるなと」
受け止めながら、静かにアーサーは振り向く。 - “デスペッカー”
ガガガガガガガガガガガッ振り向きざま、突き出した剣先から目にも止まらぬ連続打突を繰り出した。あたかも、キツツキ が嘴で大樹の幹を穿つように。 - 剣で防ぎながらも断続的に突かれたゼルドリスは、空高く数10mも押し離された後に落下。
「この技にも覚えがある」「たしか戦王 タラテノスの―――!!」
ダン と敷石を踏み砕いて跳ね上がり、闇の翼を広げた。 - じっと見ながらメリオダスが口を開く。
「チャンドラーとキューザックを やった技も」「剣聖と謳われた人間の英雄カルフェンと同じもんだった」 - 「フン……」「正体が見えてきたようだな」とゼルドリス。
- 「…マーリンは常に私に こう言い聞かせてきた…」
強い風になびく前髪が、アーサーの表情を隠していた。
「この剣は あまりに強大ゆえに 安易に振るってはならぬ」「未曽有の脅威が訪れる その時までは―――と」
風が治まり顕わになった目元には…メリオダスに向かう視線には、鋭さが宿っている。
「皮肉なものだ… その未曾有の脅威が あなただなんて…」 - リオネス王都<豚の帽子>亭では、<大罪>たちの会話が続いていた。
- 「ねえ マーリン そもそも どうして聖剣に選ばれたら王様なの…?」
バルコニー庭園に両肘を乗せて、デイアンヌが尋ねている。
◆ディアンヌちゃん、そういう寄り掛かりを繰り返してたらバルコニーが壊れるよー。旧<豚の帽子>亭の煙突も しょっちゅう壊してたみたいだし。 - 「…聖剣は
古 の時代 ある泉の姫より 人間の戦士に もたらされた なんの魔力も持たぬ剣だったらしい…」
マーリンは語った。
「初めに剣を手にした者は 剣聖と謳われしカルフェン王」「彼は魔神族と戦う勇敢な人間だった しかし どんな英雄にも最期の時は来る…」 - 「彼は死の間際 自分の跡を継ぐ者のために己の血と魂をもって その剣を清めた」「不思議なことに 剣は血で錆びるどころか より強度と切れ味を増し 受け継がれたのだ」
- 「次の持ち主は 魔神族に戦王と
畏 れられた人間の英雄」「彼もまた カルフェンの意志を継ぐように 病で死ぬ間際に 剣を自らの血と魂で清め 次へ託した」 - 「
儀式 は幾度幾千年 繰り返され 剣には数え切れぬ英雄の魂が宿ったのだ」「…いわば聖剣とは 人間の英雄が次の英雄のために生み出した意志の集合体」 - 「聖剣は いつしか持ち手を自ら選ぶようになった」「人々を導く者として剣を持つ者として ふさわしい人物か否か」
- キャメロットでの戦いは続いている。
メリオダスの闇の腕、ゼルドリスの剣を華麗な身のこなしで かわしたアーサーは、流れる動きのままに、ゼルドリスの真後ろから必殺の斬撃を打ち込んだ。 - 仰け反って空高く吹っ飛ばされていくゼルドリス。
◆空中イナバウア~。 - アーサーの動きは止まらない。次いで跳躍すると、闇の腕を振るおうとしたメリオダスの真正面から、袈裟懸けに渾身の斬撃を食らわしたのである。
- 「そして今 あの子は選ばれた」
- 吹っ飛んだメリオダスは瓦礫と土煙を飛ばして石敷きの床に叩きつけられた。
- 血まみれのキャスは、
主人 の戦いを見つめている。 - 長衣の裾をフワリと舞わせて、アーサーは軽く石の床に降り立った。
- 「アーサーこそ ブリタニア歴代の英雄たちが認めし」
- 少年王の背に折り重なるのは歴代の英雄たちの不屈の意志。
- 「王の中の王なのだ」
- 昂然と顔前で聖剣を掲げ構えた姿は、まさに英雄だった。
- 次回「貫く聖剣」
読者間で大変な物議をかもした回でした。
国内外どこのファンフォーラムを覗いても、読者が心を一つにして叫んでいたという。
「アーサー無双、ないわ!」と。
作者さんは「この物語は自分なりのアーサー王物語の前日譚」だとか、アーサーは<七つの大罪>をしのぐ強さになるかもとか、第一部の時点でコメントしていましたし、<大罪>たちが闘級3000前後だった時期に闘級4万(魔力が未発現なので真の強さが発揮できていない設定)だったり、アーサー自身も「エクスカリバーさえ取り戻せば一人でキャメロットを取り戻せる」とドヤ顔で宣言してたりと、最強ランク化は予告されていたようなものではあったのですが。
それでも、(いくら<大罪>にとっての神器に相当する武器であろうと、)剣一本を入手しただけのサブキャラが、<大罪>たちが数人がかりで倒せなかったチャンドラーを容易く一刀両断したり、闘級14万台のメリオダスと対等であるかのように渡りあったりしたのには、ショックと憤りを感じたようです。
なお、具体的にどこに憤ったかは、幾つかの派に分かれていた気がする。
「メリオダスが最強でないと嫌だ」派や
「
「魔神たちと新<
みなさんは どう感じましたか?
私は、『七つの大罪』で描かれる時代内では、アーサーにはあくまでサブキャラ(に相応しい強さ・英雄たちに憧れる少年の立場)でいてほしかったです。
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報・連・相は社会人の基本
マーリンが、単独でアーサーを助けに行きたいと、<大罪>たちに「事前に報告・相談」したのには、大変 驚きました。
ほう・れん・そうが…ついに……!!
だって、少し前までは そんなことせず勝手に行動していたから。
マーリンだけでなく、メリオダスやバンもでしたが。
バンは王都決戦の最中、囚われたエリザベスを捜しに行くと嘘をついて、ケルヌンノスの角笛に「エレインを生き返らせてくれ」と交渉に行きました。
マーリンやメリオダスは、重要な情報を自分たちだけで共有・秘匿して、結果的に 他の仲間を利用し・引きずり回していました。
ところが。
ここ最近(メリオダスの離反以降)、マーリンの言動が明らかに変わってきましたね。
ゼルドリスと「交渉」した際も、わざわざ
キングたちに情報を隠さなくなり、むしろ積極的に情報共有するようになってきた。
どんな心境の変化でしょうか。
マーリンは作中で つい三、四日前、自分だけで黙ってアーサーを捜そうとして、
この件が きっかけとなって、エリザベスの記憶が戻り死の呪いが発動・メリオダスが魔神族側へ寝返り直しちゃいましたから、さしものマーリンも、独断専行を反省したのでしょうか。
もしくは。メリオダスがいない以上、エリザベスを守るには、本当の意味で<大罪>と協力するしかないと……彼らを対等の仲間と見做そうと、やっと思うようになったのかなあ。
(キングたちが命を懸けてチャンドラーと戦ったり、バンが煉獄へまで行った姿を見て、何か思うところがあったのかもしれない。)
ついでに。
メリオダスが魔神族側へ去った後、マーリンが<大罪>を導いて、本来の目的「キャメロットに囚われた民の救出」を任務遂行したのにも、すごく感心・安心しました。
正直、どーせ有耶無耶になって、最悪 任務放棄するんだろと疑ってた、出発した当初から(苦笑)。
だって、記憶喪失のディアンヌの捜索をフワッとした理由で打ち切って そのまま放棄した件みたいに、「当初の目的の放棄」ってのを散々 繰り返してきましたからね、第二部になってから。
何かが、少し変化してきたのでしょうか。
(まあ、何もかも情報開示はしてないみたいだけど…。ゴウセルがマーリンに何かを頼んだ件などは、ギリギリまでキングたちには黙っていそう?)
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エスカノールとマーリン
アーサーを案じるマーリンに、エスカノールがあからさまに嫉妬を見せました。
夜エスカだと嫉妬を口にすることすらできなかったのだから、昼エスカならではの傲慢さなのだろうけど、未だ朝なので傲慢さが足りない(笑)。
マーリンに睨まれて さっ と目をそらしてるのか可愛かったです♡
また、マーリンが取り澄ました胡散臭い笑みの仮面を外して、エスカノールに素の感情を見せてくれるのも嬉しい。
自分的には、アーサー×マーリンよりもエスカノール×マーリン派かなあ。
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俺の屍を越えていけ
聖剣エクスカリバーの「力と由来」について、情報が開示されました。
「アーサーは いずれ このブリタニアを導く者として…」「聖剣に選ばれし希望の子なのだ」
「…聖剣は
古 の時代 ある泉の姫より 人間の戦士に もたらされた なんの魔力も持たぬ剣だったらしい…」「初めに剣を手にした者は 剣聖と謳われしカルフェン王」「彼は魔神族と戦う勇敢な人間だった しかし どんな英雄にも最期の時は来る…」「彼は死の間際 自分の跡を継ぐ者のために己の血と魂をもって その剣を清めた」「不思議なことに 剣は血で錆びるどころか より強度と切れ味を増し 受け継がれたのだ」
「次の持ち主は 魔神族に戦王と
畏 れられた人間の英雄」「彼もまた カルフェンの意志を継ぐように 病で死ぬ間際に 剣を自らの血と魂で清め 次へ託した」「
儀式 は幾度幾千年 繰り返され 剣には数え切れぬ英雄の魂が宿ったのだ」「…いわば聖剣とは 人間の英雄が次の英雄のために生み出した意志の集合体」「聖剣は いつしか持ち手を自ら選ぶようになった」「人々を導く者として剣を持つ者として ふさわしい人物か否か」
「そして今 あの子は選ばれた」「アーサーこそ ブリタニアの歴代の英雄たちが認めし」「王の中の王なのだ」
歴代の英雄たちが「己の血と魂で清めた」って…。
「清めた」「聖剣」と言ってはいますが、これ、見方を変えれば「呪いの剣」なのでは…(汗)。
だって、最初の持ち主が血と魂で清めたのはまだしも、以降3000年の無数の持ち主が それに倣うって、異常でしょう?
この剣の持ち主になった者は、多少なりとも精神に影響を受けて「死ぬときは剣に自分の血と魂を捧げねばならない」と思い込むようになるのでは。
また、跡を継ぐ者のために剣に意志を遺した…というと聞こえはいいけど、これも見方を変えれば、死にゆく人間の未練・欲望でもありますよね。死ぬことで自分の心や技が消えるのは嫌だ、世に残り続けたいという。
そんで、新しい剣の所持者の肉体を使って、それらを誇示し続けるのだ。
だってね、ただ「跡を継ぐ者の助けとなりたい」だけなら、剣がその所持者を「選ぶ」のは おかしいではないですか。
剣は道具なのに、それが権威を有して「王の中の王」を選定するなんて。
カビの生えた死者たちが、自分の選んだ者だけに使わせて名誉を与える。代わりに、その者も死ぬときは血と魂を捧げて仲間にならなければならない。
そういうのは、しがらみであり束縛であり契約であり、呪いだよなあと思いました。
アーサーが「人間を舐めるな」と繰り返していたのが印象的でした。
私も人間族ですから、人間の王アーサーが他種族を凌駕して活躍するなら、喜ぶべきなのですけども。
なんとなく釈然としない気持ちになったのは、
「短命種たる人間が、世代を重ねて思いや技術を継いでいくこと」が
「長命種」に比べて、格別に優れたことだとは思えなかったからです。
だって、長命種はキャリアを途切れさせずに己を研鑽できるし、死ぬときは人間族と変わらずに、次の世代に思いや技を継がせることができるんですよ? たとえばディアンヌはドロールから意志や技を継いでいます。
リアルでは、アーサー王の時代(5~6世紀)の人間って寿命が30代くらいだったそうで(お金持ちには40~50代まで生きる人もいたらしい)、その頃に比べると今の人間の寿命は三倍くらい長いです。
では、寿命の短かった時代に比べて、寿命の長い今の人間は文化の進歩的に劣っているのでしょうか。
そう思うと、寿命が短く世代を重ねることを長命種に対する優位点として掲げられると、あまりピンとこないなぁなんて感じます。
個人的な見解ですが、人間族の長所の主なところは、キングやエレインが軽蔑していた「欲深さ」ではないかと思っています。
それ故に、キングが気に入った服飾技術、ヘルブラムを魅了したガラクタ、メラスキュラたちやリュドシエルたちを唸らせた美味い酒を造れたのではないかと。
聖剣エクスカリバーに蓄積された英雄たちの意志も、死にたくない消えたくない遺したいという「欲深さ」の産物ではないかなあと思ったのでした。
話は変わって。
エクスカリバーを最初に人間にもたらしたのは「泉の姫」だという。
この人、何者なんでしょうか。
伝承上のエクスカリバーは、一説に、湖の貴婦人(湖の姫)が もたらしたとされます。
湖の貴婦人とは、異界アヴァロンに住む、不思議な力を持つ乙女たちのこと。一説に、妖精王の娘たる九人の姉妹です。
つまり妖精族なんですよね。(古い伝承では妖精と神に あまり差異が無いので、女神と見てもいいかもですが。)
この漫画で妖精で姫で泉というと、どうしても「エレイン」が連想されてしまう…。彼女と同じように
しかし、この漫画のエクスカリバーは、あくまで「人間の力」の象徴。
それを他種族がもたらすのは変かも。
ならば、カルフェン王に剣をもたらした「泉の姫」とは、人間の女性なのでしょうか。
ゼルドリスはカルフェン王の剣技を知っていました。
つまり、彼は3200~3000年くらい前の人間です。(ゼルドリスは封印された時、252歳だったから。)
となれば「泉の姫」もその時代に生きた人物です。
もしも「泉の姫」が元ネタ通り妖精族だったならば、3200~3000年前の妖精の姫というと…現在4200歳のゲラードの名が真っ先に挙がるでしょう。
さて。「泉の姫」は何者?
アーサーが「いずれプリタニアを導く王になる」という話。
以前から言われてたように思いますが、正直、あまり面白く思っていませんでした。
「ブリタニアを導く」って、人間族のみならず、妖精族や巨人族やブリタニアにいる全種族が人間に…アーサーの支配下に置かれてしまうのだろうか? 何かそういう強制的な運命でも定められているのだろうか? と思ってしまったからです。
でも今回、アーサーを「ブリタニアを導く王の中の王」と認定した存在が「歴代の人間の英雄の意志」と判明したので、気が楽になりました。
あくまで人間の王のトップって意味なのね。