【感想】『七つの大罪』第197話 それぞれの答え
週刊少年マガジン 2016年48号[2016年10月26日発売] [雑誌]
第197話 それぞれの答え
- リオネス王都防衛戦から一夜が明けた。
- 「いい加減に起きやがれ バカ息子!!!」
王都の西の外れにある鍛冶屋に、いつもの怒鳴り声が響く。
「ムニャ… あと もーちょい」
丸まって布団に潜り込もうとした息子の部屋に、バンッと扉を叩き開けて、鍛冶屋の主人・ライザーが怒鳴り込んだ。
「今日も仕事が山ほどあるんだろーが!!! 急げ ハウザー!!!」 - 寝ぼけ顔の息子に畳んだ着替え一式を渡しながら、母親が あれこれと世話を焼く。
「ちゃんと顔は洗ったのかい?」
「んーー あとで」
「朝食は どうする?」
「んーー いいや」 - 「いい
齢 こいてダラしねえ」
苦虫を噛み潰した顔で朝食を食べている父親 を余所に、鏡に向かったハウザーは髪を整えるのに真剣だ。
寝坊しようと、朝食を抜こうと、こればっかりは譲れない。 - 父親の愚痴は続いている。
「浮いた話の一つもねえ」
これには言い返した。「親父に似たせいだろが」
「それでよく聖騎士が務まるもんだ」 - ハウザーはこの鍛冶屋の一人息子である。しかし、幼い頃から騎士になることを夢見、ギルサンダーとの出会いや魔力の発現もあって、平民ながら聖騎士に上り詰めた。今や聖騎士ランクの上から二番目に当たる「
白金 」だ。 - 「んじゃ行ってくるわ」
やっと髪に満足したハウザーは、キメ顔で鏡から振り向いた。
「あ」「しばらく城や町の復旧作業で家には帰れねえからな!! シクヨロだぜ!!」 - 慣れたもので、父親は構った様子がない。
「そんなことより大切な話があるから急ぎ城へ来いとさ」「ついさっき お城の使者が来てったぞ」 - 「!!」ハウザーは顔色を変えた。
「そんなこととはなんだ!! 魔神どものせいで 王国は半壊状態になってんだぞーーーーー!!」 - 本気で怒っている顔を、少し呆れたように見やり、
「いいから その寝ぼけた目をしっかり開けて行ってこいや」
「いって!!」
父親は息子を容赦なく家から蹴り出した。 - 「つーー…」「覚えてろ~ クソ親父…」
蹴られた尻をさすりながら目を上げた、ハウザーの見たものは。
「え」 - ハウザーの家こそ無事だったものの、昨日まで、近所の家並みは めちゃめちゃに壊れていた。王城に至っては全壊して、壁の一部くらいしか残っていなかったのだ。
それら全てが。
「う… うそ…」
目と口を丸くして、唖然と呟く。
破れのない屋根の連なり。瓦礫一つない石畳の坂道。それを上がった先に そびえる、堂々たる王城の楼塔。
「町が…………」「城が…」「元通りに戻ってる!!」 - 「元通り?」「それは間違いだ」
薄笑いを浮かべて、大魔術師マーリンは言った。
「たしかに建物は私が一夜で復元した まあ…私が半分以上破壊した手前な…」
リオネス王城の一室。そこに置かれた脚無しのバスタブで、本を片手に、彼女は入浴中である。
◆マーリンがお風呂で読んでる本のタイトル「Commandments」と読めます。「戒め(戒禁)」のことですね。
ドレファス(フラウドリン)が調べていた、魔神(メリオダスら三兄弟)の紋様の図像の載ってた本といい、人間にも魔神や聖戦に詳しい専門家がいるんでしょうか。 - 「お疲れ様です マーリンさん」
「うむ」
湯の表面に満たされた泡のおかげで身体は見えない。突き出た白い肩を、甲斐甲斐しくマッサージしているのはエスカノールだ。<麗しき暴食>亭の制服を着て、マーリンから再びプレゼントされたのだろう新しい丸眼鏡をかけている。そのおかげか、昼なのに夜の姿のままだ。
◆やっぱり、あの眼鏡は変身抑制の魔法具 だったっぽい。 - 赤い顔にびっしり汗を浮かべて胸をドキドキ震わせながらも、彼はサッと移動して、大胆にも、バスタブから突き出た ふくらはぎをマッサージし始めた。
「いかがでしょうマーリンさん?」
「ん… 上手いぞエスカノール」
マーリンは顔色一つ変えず、落ち着いたものである。 - 彼女は話を続けた。町を復元しても元通りではないと。
「だが あくまで それは表面上の見た目に過ぎん」
「たとえ建物が復元しようと 魔神族どもに殺された者たちが生き返るわけでも」「恐怖に傷ついた人々の心が癒えるわけでもない…」
「そして戒禁にかかった多数の聖騎士と民がキャメロットへ逃亡した」「つまり現在の<十戒>の根城はキャメロット… 戦いは まだこれからだ …忙しくなるぞ?」 - そこまで語ると、マーリンは僅かに身を起こした。
泡は完璧な仕事をして、大事なところは決して見せない。それでも、きわどく露わになった胸の谷間を、エスカノールが横目で、食い入るように盗み見ている。
◆
エスカノールさん…(笑)。 - 「とはいえ今度の戦は 我ら<七つの大罪>の勝利に間違いない…」
女王のようなマーリンは、バスタブの前に従者のように並ばせた三人…その中央の少年に向かって笑いかけた。
「少しは うかれても罰は当たらんぞ 団長殿?」 - 「ん? ああ…」
メリオダスに いつもの覇気はない。笑顔ではあるものの、視線は彷徨って、またも足元に落ちてしまった。 - (メリオダス………)
隣に立って、恋人の様子を気遣わしげに見つめるエリザベス。 - 「団ちょ」
その時、後ろからバンが呼んだ。
「………なんだ?」
彼らしからぬ、喉が詰まったような小さな声。
素知らぬ風を装っていても、メリオダスは振り向けなかった。未だに、まともに親友の顔を見ていないのだ。 - その首に、長い腕がガッと巻きつく。
「!!」
左腕でヘッドロックをかけて右の拳でメリオダスのこめかみをグリグリしつつ、バンが殊更大きな声で言った。
「昨日の晩は どこ行ってやがった!!?」「せっかくの祝杯が盛り上がらなかっただろーが!!!」 - 首に腕をかけられたまま、おそるおそると肩越しに見上げるメリオダス。
「……バン」 - 「……昨日は悪かったな」
屈託がないわけではない。バンの顔にも、隠しようがなく きまり悪さは刻まれていた。
「あん時… どんな顔して声をかけりゃいいのか わかんなくてよ…… 俺とお前の何が変わるわけでもねーのにな♪」
それでも、拒絶や嫌悪ではない。受け容れ、歩み寄ろうとしている。 - 久しぶりに。じわりと、メリオダスの顔に作らない笑みが滲み出た。
「お前は別に悪くねぇさ」 - バンも笑う。
「だよな~~♬ 団ちょは いつだって そのトボケ面 だしよ 心配して損し…」
「うっせ」
たちまち、メリオダスの裏拳がバンの脇腹に炸裂。
「ごあっ!!」
無造作な一撃だけでバンは雑巾のように胴を捩じらせて吹っ飛び、石畳にへしゃげたカエルのごとく壁に潰れた。壁も床も夥しい鮮血で汚れ、惨憺たる有様だ。 - エリザベスが心配と恐れを半ばしたように見たが、近付きはしない。不死身の彼は自ずと復活すると知っているからだ。
- 昨夜、メリオダスが子供のように泣いたことをバンは知らない。メリオダスとて絶対知られたくない。
とは言えども。「心配して損した」と笑われれば、面白くはないのである。 - 「「おお 我が友 気高き憤怒」」「「たとえ呪いが我らの身を
冒 そうと」「心に咲く美しきバラを冒せはしない」」
拳にべっとり付いた血をピッと振り飛ばしていたメリオダスは、朗々と唱え始めた主に目を向けた。
「「おお 我が友 勇壮なる罪は」…」
したり顔で唱えているのは、吟遊詩人ならぬ、エスカノールである。 - 「…
詩 ?」
唐突に始まった朗唱に、この中年男と殆ど付き合いのないエリザベスは戸惑った。彼女は知らぬことだが、この男の趣味は詩作なのだ。 - ひとくさり終えるや、解説が始まる。
「あ… 誤解しないでくださいね?」「団長の気持ちが全てわかるとか偉そうなことは言いません!!」「ただ… 互いに呪いを受けた身として…」「その辛さだけは わかるというか…」
間近まで歩み寄り、男は少年を覗き込んだ。
「だから その… 元気を出してくださいね?」 - 腕組みをして、少年は返す。
「8点」
「え」「は…8点? 何点中8点なんですか!?」
「あのな お前 いちいち詩 った後に説明する奴があるか?」
「そ… そうですか~~?」 - 二人の気の置けない やり取りを聞きながら、湯に浸かるマーリンは得たり顔で微笑んでいる。
バンは、ようやく体を再生させて壁から離れ、「いってーな…」とぼやきつつ口元の血を拭っていた。 - 正面から言われて なお、エスカノールは解説をやめる気はないらしい。得意げに笑って、
「ちなみに美しきバラというのは僕にとってマーリンさんで 団長にとっては――――――…」
声をひそめて、きょとんとしているエリザベスを暗に示すのを「はい もう よろしい」と、シラけ顔で打ち切るメリオダス。「最後まで説明させてくださいよ」と、エスカノールはくじけない。気弱とされる夜の姿の時でも、自己主張は激しい男なのだ、結局。 - ぎこちなさは一掃され、空気は変わった。
「エスカノール」「バン」
一人一人、仲間の名をメリオダスは呼ぶ。伸びやかな大きな声で。
「サンキュ!!」
にししっと笑った顔には、なんの曇りもなかった。 - その瞳を、傍らのエリザベスに向ける。見つめ返す少女も笑みを浮かべ、その目の端には安堵の涙が滲んでいた。
- 同時刻、リオネス王城の中庭にある集会場。
「<七つの大罪>の活躍により<十戒>の脅威は去った……」
壇上に立つバルトラ王が、集められた聖騎士たちに向けて演説している。
「だが これで<十戒>を 魔神族を倒しきったわけではない! 厳しい戦いは長く続くだろう…」「そのためには聖騎士 の統率者が絶対不可欠だ」「よって急な話ではあるが」「新聖騎士長を任命したいと思う」 - ざわめく聖騎士たち。
「新…」「聖騎士長だって…!?」
顔を見合わせて話し始める者たち。何故か深刻な顔で冷や汗を流す者。値踏みするように周囲を見回す者。 - 騒ぎの中、デルドレーとデスピアスは唇を引き結び、堅い表情で立ち尽くしている。デルドレーの目元は、未だ泣き腫らして真っ赤だ。
- 「スレイダーがなればいいのに」
笑って放言した若き部下 の肩を、仮面を着けた大男は、窘 るようにポンと叩く。
「それはないわ あくまで私は陰 よ…」 - 同じように放言する若者が、もう一人。
「いよいよ正式な任命っスよ 二人とも!!」
ハウザーが、嬉しげに前聖騎士長の二人に話しかけていた。 - 「…なんのことだ?」とヘンドリクセン。
彼もドレファスも、一見して普通に聖騎士たちの中に混じっていた。ハウザー以外に話しかける者がいる様子はなく、腫れもの扱いに近いのかもしれないが。 - 元々、ドレファスとヘンドリクセンが二人で聖騎士長を務めていたのは異例なことだった。前々聖騎士長ザラトラスの急死に伴い、力不足のところを二人に分担させて補おうとしての、仮の任命だったのだ。
今となっては力は充分。魔神からも解放されたのだから、正式に聖騎士長に任命され直すのは当然……そう、ハウザーは考えているらしい。 - 「大丈夫!!」「文句を言ってくる奴は 片っ端から俺が ぶっとばしてやるっス!!」
ニヤリと笑って、筋骨隆々たる己の腕をパンッと叩いて示した。
◆一面から見れば、身内を守ろうとするガキ大将気質で可愛らしくも頼もしい。他面から見れば、身内を受け容れぬ者を暴力で従わせようとしている短絡思考。
聖騎士よりも、むしろ一般民衆に、ドレファスらが元の立場であり続けることに反発する者は多そうですが、そうした人々も、ハウザーは殴って黙らせるつもりなのでしょうか。
ドレファスらは悪くないと思っている読者はハウザーに好感を抱くでしょうし、ドレファスらにも罪や責任はあると考えている読者は「お調子者過ぎない…?」と戸惑うところ。かもしれません。 - 「気持ちは うれしいがハウザー」
ヘンドリクセンは僅かな苦笑を返した。昨夜デルドレーに石を投げられて付いた傷跡は、未だ こめかみに残っている。敢えてなのか、治癒術は施さなかったようだ。
「私たちには 資格も その気もないよ」
ドレファスはニコリともしない。真顔の固辞である。 - 聖騎士たちはザワザワと語り合った。
「デンゼル様は お亡くなりになられたし…」
「やはり ギルサンダー様しかいないな」
「しかし話では ギルサンダーは行方不明だと」
彼らの話題の中には、そもそも、ドレファスらの名は挙がらない。
そんな中、もしやの期待でドキドキと胸を高鳴らせているワイーヨもいる。
◆ギルサンダーのこと、「様」付けで呼ぶ聖騎士と呼び捨ての聖騎士とが入り混じっていますね。
ギル、どこに連れて行かれちゃったんでしょうか。転移魔法を使われちゃ探しようがない…。マーリンなら探せて、すぐ連れ戻せそうなものだけど、気が向かないとやってくれなさそう。
マーガレット姫の精神が心配です。 - 頃合いを見計らい、バルトラ王が口を開いた。
「では任命する 新聖騎士長は…」「ハウザー」 - ざわめきは起こらなかった。
サイモンのように唖然とする者もいたが。どこからも反発の声はあがらない。 - 「お…」「俺ぇ!?」
当のハウザーは、ダラダラと冷や汗を垂らして数瞬 絶句したものだ。
「いや… でも俺は平民の出だし… 頭悪いし…」
「それがどうした」とバルトラ王。
「で… でも」 - 王は続けた。
「お前は この度の絶望的な戦いの中 冷静に状況を把握し 仲間を鼓舞しつづけ 己が身を盾に奮闘した それこそが聖騎士の長 の あるべき姿と儂は思う」「もちろん お前は まだまだ未熟… よって あくまで代理という形ではあるが」 - そこまで言われても応諾できずにいるハウザーに、周囲の聖騎士たちが口々に声をかける。
「しっかりしないと食べちゃうわよ… 新聖騎士長様♥」とスレイダー。
「かなり頼りないですが」「がんばってください 聖騎士長代理殿」とギーラ。
ドレファスとヘンドリクセンは、嬉しそうにニコニコと笑っている。
更に、あちこちから声援 があがった。
「いいぞハウザー!!」
「髪型は直せよ!!」 - 「つか髪型関係ねぇし!!」
こればっかりは譲れない。ニヤニヤしている聖騎士たちに、くわっと目を剥いて反論のハウザーである。 - 王が促した。
「して」「返答は?」 - 戸惑ったように声を呑んだのは、一瞬。
「必ずご期待に応えられるよう」「全力全開 頑張るっス!!!!」
大きな声で宣し、己の心臓の上を ドンッ と拳で叩いた。
◆心臓を捧げよ! - 聖騎士たちが やんやと叫ぶ。
「いいぞ がんばれ代理!!」
「代理!! 代理!!」
「ギルの代理」 - 「お前ら 代理言い過ぎだろ!!!」
本気で怒鳴り返すハウザー。 - 新たな長を戴いて活気づいた聖騎士たちを眺めて、バルトラ王は満足げに微笑むのだった。
- 同時刻、リオネス城の一室。
入浴を終えたマーリンが、尻尾のように伸びた裾を翻して服を着終え、含み笑って仲間たちに向き直った。
「さて… 我らは今回の勝利に慢心せず 次の一手を打たねばならぬ」「それには まず 七人全員がそろわねばな」
◆七人そろえる必要…あるの?
現状、<十戒>を倒すだけなら、メリオダスとマーリンとエスカノールの三人だけで何の不足もないようにしか見えないです。
現時点で完全に戦力外のキングやディアンヌまで、強いて仲間に加えないといけない『何か』が、この先に あるんでしょうか。 - 「だな」
同意を返すメリオダスにの顔には飄々とした闊達さが戻っている。並び立つエリザベスやエスカノールの表情も明るく、バンは首を傾けて、ゴキ、と関節を鳴らした。
◆バンって、よく首の関節を鳴らしてるけど、首や肩が凝ってるのでしょーか。背が高いから凝りそうではある。
それにしても、<七つの大罪>の団長が、メリオダスではなくマーリンに換わったかのごとき状況です。入浴中の浴室に立たせて話を聞かせ、次の行動の指示をするマーリン。それに従うだけのメリオダス。
これまでなら、参謀のマーリンが筋道を立てても、決定するのはメリオダスだったのに。
元気になったよーに見えて、彼の精神状態は まだまだ本調子じゃないのでしょーか?
だったら、バンに嫌われたんじゃないかとビクついていたように、ケンカ別れ状態のキングに会いに行くのを、少し怖がってたりしてね(苦笑)。
ところで、メリオダスと同じように、バンの服も第一部の定番服(へそ出し赤レザー)に戻りましたね。こうなると、ゴウセルの服も戻るんでしょうか。アニメ第二期ではずーっと同じ服装のまま、なんてことも有り得そう。 - 少し後、リオネス王城の(?)地下牢。
「バルトラ国王陛下 および<七つの大罪>マーリン様の命により」「あなたを釈放します」
ワイーヨを従えたデスピアスが、鉄格子を開けて中に告げた。 - 狭い牢には壁に埋め込まれた鎖。囚人は、その鎖に付いた枷で両手を拘束されている。
彼がここに入れられて一ヵ月。日の射さぬ石の部屋で、身動きさえ ままならず、並の人間なら憔悴しきっているところだが。 - 「俺は<七つの大罪><
色欲の罪 >」「ゴウセル」
「キュピン♡」と奇妙な効果音を口で唱えて、彼は少女のような横ピースサインを決めてみせた。
なんと奇妙なことか。髪も髭も伸びていない。簡素な囚人服も少しも垢じみていない。 - 「……十分 存じています」「…鎖を お外しいたします…」
薄く冷や汗を浮かべたデスピアスは、歩み寄ると鍵を取り出した。
「俺は<七つの大罪><色欲の罪 >ゴウセル」「キュピ~ン」
手枷のはまった両手を差し出しつつ、ぽかんとした表情で同じ台詞を繰り返す彼に、ワイーヨは無言で呆れている。 - 鍵を回しながら、デスピアスは冷たい声音で釘を刺した。
「言っておきますが あなたが魔神族<十戒>の仲間であるとの嫌疑が晴れたわけではありません」
デンゼルが指揮した作戦だ。リオネスの未来のために命を懸けた彼の想いを、できることなら無為にしたくはないのに。 - 外れた手枷が ガシャッ と床に落ちる。
「どうぞ」とデスピアスが促すと、ゴウセルは靴音を鳴らして牢から歩み出た。デスピアスたちの脇を通り抜けたところで足を止め、再び唱えた台詞は。
「……俺は<十戒>……「無欲」の…」「ゴウセル」 - 「・・・」
ゾクッと戦慄するデスピアス。 - 「キュピーーン」
何かが変わろうとしているのか。
効果音を唱える虚ろな横顔は、先程までとは、どこかが違っているような気がした。 - 場面は変わる。
リオネス王国から湾を挟んで50kmほど北に位置する、新・妖精王の森。
中央にそびえる妖精王の大樹は、前の妖精王の森から託された種をバンが植え、己の血で育てたものだ。タコ足のように分かれた複数の幹が捻じれ絡み合い、内部に天然の広間や通路を擁した、城のようにも見える巨木である。 - その根元近くに湖があり、湧き水によるものか、澄んだ水を湛えていた。
鏡のような水盤に映る人影がある。服を脱いで浅瀬に太腿まで浸かり、水浴びをしているらしい。キングこと、妖精王ハーレクインである。 - 「くそ…!!!」
罵り声をあげ、彼は両拳で水面を叩いた。
「どうして… どうして… オイラには」「まだ生えてこないんだ!?」 - その時だ。
「あ~~~ん もう どうしてボクってば」「うまく踊れないのかなぁ」
灌木をへし折って、巨大な足が地響きと共に岸辺に踏み下ろされたのは。 - 「「あ」」
振り仰いだ少年と、見下ろす少女の声が綺麗に重なる。
「ニ゛ャーーーーーーーーーーーッ!!!」
巨人族の少女・ディアンヌが、絶叫しながら全裸の胸を両手で隠した。剥き出しの下半身を隠すのは失念したまま。
「ノォーーーーーーーーーーーーッ!!!」
キングも絶叫した。彼も また、剥き出しのソレを隠すのを失念していたのである。 - 次回「巨人と妖精」
まずは、聖騎士長(代理)就任おめでとう、ハウザー。
異を唱える者は一人もおらず、全員ニコニコして祝福していました。
皆に愛されているんですね。
今回の冒頭、ハウザーの実家の様子が詳しく描写されていました。
「寝坊したハウザーをお父さんが叱って仕事に行かせる」くだりに、スペシャルTVアニメ『聖戦の
ハウザーって、毎朝こうなのかな?
(実際どうかは現時点で不明ですが、)「朝に弱い・寝坊」っぽいイメージがあるキングやバンと同じくらい…もしかしたらそれ以上に、
小説版の子供時代のエピソードや、今回 聖騎士長に任命された際の「でも俺は平民の出だし…」という台詞を見るに、ハウザーは、自分が平民出身である(騎士の家柄ではない)ことに多少のコンプレックスを抱いているようです。
でも、待て待て。
ハウザーって、メインキャラ中でトップクラスに幸運で、恵まれてませんか?
平民とはいえ、腕利きの鍛冶師である父親は昔から聖騎士と繋がりがあり、その縁でギルサンダーと幼馴染になって、才能を見出され・聖騎士を目指してはと向こうから勧められて、ドレファスに師事してトントン拍子で聖騎士に。
鍛冶屋の跡取り息子なのに、両親は息子の意志を尊重して聖騎士への道を応援。
三王女と幼馴染になり、タメ口をきく気安い仲に。それを誰にも咎められない。
これ以上ないってくらい、周囲の人間や環境に恵まれていますよね。
加えて。
前回の王都決戦時では王都のあちこちが破壊され、今回の防衛戦では都市全体が壊滅。ところが、ハウザーの実家は常に無事。家族も怪我一つ負わないのでした。
防衛戦後の あれだけの惨劇の後に、普通に家に帰って・自分の部屋で寝て・のんびり朝寝坊して・お父さんが起こしてくれて・お母さんが着替えを出してくれて・温かいご飯が用意してあって・でも それは食べずに髪型を整えるのに夢中になって。
変わらない朝。変わらない暮らし。
日常が何一つ損なわれていません。
なんて幸福で強運なんでしょう。
そしてとうとう、21歳の若さで、棚ボタ的に聖騎士長就任へ!
(20歳で聖騎士長になったザラトラスの史上最年少記録には負けていますが、十分、驚異的な若さです。)
唯一足りないものと言えば、恋人がいないってことくらいですか(笑)。
お父さんの「浮いた話の一つもねえ」という台詞から察するに、「年齢=彼女いない歴」っぽい。
いい奴だけどモテない、と作者さんが言っていた気がしますが、聖騎士長になったので、言い寄ってくる女性が ぐっと増えるかも。
災害時は人々の結婚願望が高まるって言いますしね。
聖騎士長就任した時に かけられた
「髪型は直せよ!!」
という野次に、ハウザーくんったらマジ怒りしてました。
そんなにあの髪型が好きなのか~。
朝も、ご飯より髪を整える方を優先してましたね。
作者さん曰く、この漫画の男メインキャラで髪をセットしているのは、ギルサンダーとハウザーくらいだそう。(バンの髪は癖毛で、勝手に逆立つ)
ハウザーがオシャレだっていうのは間違いない。
けど、彼が あれほど あの髪型にこだわるのは、それだけじゃないのかもな、と思いました。
何故って、ハウザーの髪型(リーゼント)って、お父さんのライザーそっくりなんですよ。
ハウザーは家業こそ継がなかったけれど、お父さんが大好きだし誇りに思っている。その表れが、お揃いの髪型なんじゃないでしょうか。
だから、あの髪型への否定や悪口は、親の悪口言われたのと同じくらいムカつくんじゃないかなあ(笑)。
余談ながら。
髪を下ろしてるハウザーが、新鮮で可愛かったです♡
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マーリンのこと。
マーリンの立場が、すごく高くなってませんか?
自分が入浴中の浴室に仲間たちを入れて作戦会議をしたり、
(入れるマーリンもオカシイですが、入るメリオダスたちも マトモじゃないぞ。どーしたのキミたち。 ^^;)
今後の方針をマーリンが一人で全部決めて、メリオダスは「だな」と従うだけだったり。
ゴウセルの釈放も、バルトラ王とマーリンの連名になっていましたが、実際はマーリンの命令に、形式的に王の名を添えたんだろうなと感じました。
壊滅した王都を、マーリンが一夜で修復してのけた。更に、あの恐ろしい力。
このため、王すらも、彼女に全く頭が上がらなくなったのでは。
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浴室の作戦会議のこと。
度肝を抜いてくれた、<大罪>たちが入浴中のマーリンの浴室(エスカノールのマッサージ付き)で作戦会議するという、珍妙な状況。(;'∀')
少年漫画として「お色気シーンを入れたかった」ってだけかもしれません。
けど、穿って想像するなら、彼らは「浴室に逃れていた」のかもしれないな、なんてことも思いました。
<大罪>たちが浴室に集まっていた頃、聖騎士たちは集会場に集まって、ハウザーの新聖騎士長就任が宣言されていました。
あれ?
そんな大事な集まりに、どうして<大罪>は参加していないの?
バルトラ王は「<七つの大罪>の活躍により<十戒>の脅威は去った」と演説しています。なのに、功労者であるはずの<大罪>が一人も来ていない。
王都決戦以降、<大罪>は王国聖騎士の立場を取り戻していたはずです。
王国騎士団<七つの大罪>として勲章を授与されましたし、バルトラ王の命で「任務」としてキャメロットへ向かいましたから。
その立場で言えば、彼らも あの集会に参加して然るべきなのに。
実績や能力を鑑みれば、メリオダスが新聖騎士長に選ばれても おかしくないはず。
しかし聖騎士たちの誰も、聖騎士長候補にメリオダスら<大罪>の名を挙げません。
もしかして。
<大罪>は聖騎士の集まりに呼ばれてない。端的に言ってハブられていたのでは?
王や聖騎士たちと<大罪>との間に、細いが深い亀裂が できているのかも。
私の邪推でしょうか。
元々、王都決戦後の勲章受章式の時点で、<大罪>が表彰されることを、集まった聖騎士の多くが不満に感じている描写がありました。
<大罪>は やっかみや嫌悪の対象。ギルサンダーのように憧れの目で見上げる者の方が希少なのです。
増して、今回の戦いでマーリンやメリオダスが見せつけた、あまりに強大すぎる力・危険な精神性・人ならぬ出自。
仲間のバンですら「どんな顔して声を かけりゃいいのか わからなかった」と戸惑ったくらいなのですから。
聖騎士たちもバルトラ王も、恐れを……そこまでいかずとも「彼らは異質な存在だ」という不安を、より強めてしまったのではないでしょうか。
聖騎士の集会に呼ばない、または、来なくても知らぬふりをする程度には。
そうした諸々を感じ取っているマーリンや、(目下 センシティブ中な)メリオダスは、あえて聖騎士の集会は無視して、自分たちだけの作戦会議を行ったのかも?
それはまた、彼らの側にも王国の聖騎士たちと必要以上に連携する気持ちがない(自分たちがリオネス聖騎士団の組織の一部だとは考えていない)、という表れなのかも。
・・・とゆー、考え過ぎの想像でした。
<七つの大罪>は、今まではバルトラ王旗下の リオネス王国騎士団でしたが、これからは独立集団として、特定の国や勢力に依らず活動するようになるのかもですね。
そーなったらキャメロットでも活躍できるよ!
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メリオダスのこと。
二回前の感想で予想した通り、
「メリオダスは悪くないという方向のフォロー」が「間を置かず」来て、「メリオダスが(情報の隠蔽や暴走を)反省する展開にはならず」「仲間の方が「疑うなんて自分が間違っていた」と反省して付いていく」オチになりました。
そしてメリオダスは「お前は悪くないさ」と、仲間を「許してやる」のです。
今までも繰り返されてきた このパターン。
最後まで このまま?
メリオダスの辛さを、彼が何も語らずとも察して歩み寄ってくれる、バンやエスカノールの友情は、本当に温かく美しい。
でも、このパターン「だけ」で最後まで通すつもりなら、ちょっと ムシが良過ぎだぞ、メリオダスさん。
第一部にて、奪われた刃折れの剣を取り戻しに王都に乗り込むぞと唐突に宣言したメリオダスが「ついて来てくれるな!?」と訴えたとき、仲間たちは全員「団長個人の責任だから行かない」と断ったものでした。
メリオダスは落ち込んで、エリザベスに慰めてもらってましたっけ。
けれど、その後で「刃折れの剣は常闇の棺の欠片だ」と説明したところ、少なくともキングは顔色を変えて話に食いついてました。
しっかり説明すれば、仲間も自ら乗ってくる、とゆー道理です。
仲間といえども、事情も知らないまま「協力するよ」とは言い難い。
いくら仲間でも、事情も説明せず一方的に巻き込むのは おこがましい。
この先も、メリオダス自身の口から事情が語られる可能性は低そうです。
マーリン・魔神王・<十戒>・記憶の戻ったゴウセルなど、事情を知ってるキャラが、「悲劇的な過去」「メリオダスや「エリザベス」の罪」を小出しに説明してくれそう。
それはそれで いいことです。展開としては王道ですもの。
それでも、最後の最後くらいには、「話しても信じてもらえねえ」とか「怖くてダチの顔も見れねえ」とか ぐじぐじ言ってないで、語るべき情報を「自分で」「仲間に」打ち明けてほしいんだけどな。
そのうえで「ついて来てくれ」と言ってくれたら。
あくまで「仲間の側に察させる・歩み寄らせる・哀れませる」スタイルを貫くのかしら。どうなるんでしょうね。
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ゴウセルのこと。
まさか、地下牢に繋がれていたとは。
すっごくビックリしました。
え。
このこと、フラウドリンさんは知らなかった…ってことですよね。
知ってたら、王城を攻めた時、真っ先にゴウセルの解放をしたでしょうし。
…しかし、グレイロードさんってば、「城中の者を捕獲した」とか言っておきながら、トイレにいたグリアモールを取り逃してたり、牢屋のゴウセルに気付いてなかったり。んもー、抜け目あり過ぎじゃないですか(笑)。このドジっ娘ちゃんめ!
てっきり、ゴウセルは一ヶ月前にリオネス王城に転移した後、捕まりそうになって・逃げて・放浪してて、オーダン村辺りから再び彼の物語が始まるのかと思ってました。
そっか。ペリオと絡んでオーダン村を救うのかなと期待してたけど、それはないんですね。ちょっと残念。
メリオダスの死後、すぐに捕まったのなら、なんと一ヶ月も獄中に!?
ひぃ~。(;゚Д゚)))
なんで、バンやエスカノールは、仲間が牢に入れられてるのを容認・放置してたんでしょうか。
そもそも、「元<十戒>だから」という理由で一ヶ月も牢に入れられてて、同じ「元<十戒>」のメリオダスは英雄扱いで野放しにされてる。
なんなんでしょう? この奇妙な格差は。
すごく不思議です。
…まあ。
そもそも、ゴウセルの能力なら、人間の聖騎士ごときに捕まるはずがない。捕まってもすぐに脱獄できるはずなワケで。
なので、かつてバンがバステ監獄に入ってた時と同じように、思うところあって自ら捕まり・牢に留まっていた、と考えるのが自然なんでしょうね。
第113話、ディアンヌとの大喧嘩の後、ゴウセルは膝を抱えて、こう呟いていました。
「…このままだと俺は……」「閉じこめてくれ」「誰もいない所へ」
「俺が―― 俺でなくなる前に」
その一方で、キャメロットを襲ったガランを追い払った後、「…お前たちとはここでお別れだ 俺にはやらねばならないことがある」と、仲間たちが気絶している隙に どこかへ逃亡しようとしました。マーリンに捕獲されて失敗しましたが。
ゴウセルの中には『今のまま<七つの大罪>でいたい(閉じこめてくれ)』という気持ちと『<十戒>だった頃の記憶と力を取り戻したい(仲間から離れてでも・傷つけてでも それを得たい)』 という気持ちが せめぎ合っているらしい。
大人しく牢に入っていたのは「<大罪>でいたい」方の気持ちが勝っていたからでしょうか。
でも。
牢から解放されたゴウセルは、どうやら<十戒>としての記憶を取り戻しつつあるようです。自分が「無欲のゴウセル」だと自覚し始めている。
代理だったフラウドリンの死が、なんらかの影響を及ぼした?
いやいや。
それ以上に重要なことがあります。
囚われたゴウセルの両手首には、武骨な鉄枷がはめられていました。
外した後の手首の描写は今回ありませんでしたが、常識的に判断して、その下に腕輪をはめているとは考え難い。
(ところでゴウセルさん。下、穿いてますか…?)
つまり、彼の左手首にマーリンがはめていた
牢に入れたとき、何も知らない愚かな聖騎士たちが、他の衣服や所持品と共に没収してしまったんでしょう。
アレは、ゴウセルの暴走を抑制して<大罪>の一員のまま安全に留めおくための枷だったのに。
マーリンの方も、一ヶ月ゴウセルを放置していたわけで。
くびきから解き放たれた彼は、これからどうなるんでしょう?
…って。
例によって、それほど大したことには ならないんでしょうけど。(^^;)
とりあえず、「やらねばならないこと」のために<大罪>から離脱して、短期間 行方不明になるくらいのことはありそうか?
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キングとディアンヌのこと。
キングさんのラブコメ力が、またも発揮されました。
ラッキースケベの伝統的シチュエーション、「お風呂場で ばったり」だァーーーーっ!!
(余談ですが、今回の後引き文「むきだしの雄叫び、炸裂!!」は秀逸だと思いました。笑)
お湯のお風呂に入る文化のない妖精族にとって、水浴びはお風呂と同義。
いやあ、スペシャルTVアニメ『聖戦の
こうなったら、二人には これからも様々なラッキースケベに挑戦していってほしいです。
「事故キス」とか「転んで押し倒しちゃう」とか「狭い場所に二人で閉じこめられて密着」とか「濡れ透け&着換え中に ばったり」とか「酔っぱらって絡む」とかの定番は勿論、以前の「お胸にイン」みたいな、巨人と妖精ならではのシチュも いいですね(笑)。
期待して待ちたいと思います。ふふふ。
ところで。
今回、読者の殆どが思ったらしいこと。
そうか…。やっぱり生えてないんや、キングさん……。色々と……。