【感想】『七つの大罪』第152話 燭光にさそわれて
週刊少年マガジン 2016年1号[2015年12月2日発売] [雑誌]
第152話 燭光にさそわれて
- あくる日もザルパ一家は仲睦まじかった。
座る継母 の肩に立つ長男・ゾルが、弓矢で見事に飛ぶ鳥を射落とす。
「よくやったゾル!! うまいぞ!!」と手放しで褒めるマトローナと、無言 無表情ながら、腕組みして満足げに頷く父・ザルパ。
長女のデラは継母の胸の谷間に挟まっており、お前も弓をやってみるかと誘われても、のんびり首を左右に振るばかりだ。
「デラは母 様と こうしてるのが一番いいの!」
「フフッ」「仕方のない甘えん坊だな」
巨人族の里にいた頃とは真逆である。マトローナの顔も声も蕩けるように甘い。 - 「そうだ!! 俺 今から川に行ってくる!」不意にゾルが言って、身軽に継母の肩から跳び降りた。「
母 様とディアンヌのために でっかい魚釣ってくるぞ!!」
「デラも母 様のために釣る!」釣られて胸から這い出した娘を「おっと」と手に乗せて降ろしてやりながら、「なら 私も行こう」とマトローナは言った。 - 「
母 様が手伝ったら意味ないだろ」ゾルは呆れたように眉根を寄せる。彼は、母と客人に男を見せたいのだ。
「そうか? だが…」
「川は浅い 大丈夫だ」心配性の妻にザルパが言い、ゾルはそんな父を示して「ホラ」と母を見上げる。 - 「それよりも」とザルパは続けた。「ディアンヌを呼んできてくれ 朝から何も食べていないはずだ」
「そうだな」と、気を落ち着かせたマトローナも微笑む。 - 子供たちは母に見送られて、巨岩の石垣を出て外の川へ出かけて行った。
◆子供たち、魚籠 を持たずに出かけてるけど。お父さんのを借りればよかったのにね。 - その頃、巨岩の石垣の外の荒野で、ディアンヌは踊り続けていた。
獣たちの頭上を跳躍、軽やかに舞い降りる。ブワッと風が舞い起こりはしたが、昨日のように地響きを立てて地面を抉ることはない。 - それでも驚いて少し逃げ、遠巻きに見ている獣たちに「えへっ」「驚かせてごめーん」と恥ずかしそうに謝りつつも、ディアンヌはくるくると回り、軽快にステップを踏み続けた。その表情は明るく、半ば陶酔状態である。
- その様子を、少し離れた場所でマトローナが見ていた。
- 目を閉じて、ディアンヌはくるくると舞い続けている。
(ああ)(マトローナの言ってたことは難しくて よくわからないけど)(何も考えずに踊るって楽しい!!)
(心臓がドキドキワクワクしてるのがわかる)(気持ちいい…)
(草や木々もざわざわ喜んでるみたい)(気のせいかもしれないけど)
(ホラ 鹿や狐もこっちを見てる)
獣たちの様子が判る。そして、地面に転がった小さな種が微かに身じろぎし、殻を割って芽が伸びるのが『視えた』。
(あ)(種から芽が出た)
そんな小さなものが判るはずはないし、そもそも発芽はこんなに速く起きることではないのに。
(あれ? なんでだろ 目をつむってるのに)(景色が手にとるようにわかる…)
考えてみれば、獣たちの様子とて見えないはずなのだ。なのに、周囲の彼らも足元の小さな芽も、遥か彼方の景色までが感じとれた。この大地の続く限り、小さいもの大きいもの、近いもの遠いもの、そこにある全ての生きる姿が。
(まるで)(大地の一部になったみたい)(まるで大地に呑み込まれるみたいに…) - 「……」
地響きを感じた気がして、ディアンヌは目を開けた。
「わあぁあああぁああああぁあああああああぁああぁあああぁああああっ!!」
絶叫する。大地が彼女の何十倍も高く高く、天まで届く壁のように盛り上がって、木々や岩を巻き込みながら、巨大な津波のごとく押し寄せてきているではないか!
「…!!」
駄目だ、呑み込まれる! - 「ディアンヌ 大丈夫か?」
「はっ」
ディアンヌは、咄嗟に固くつむった目を開けた。すぐ傍にマトローナが立っている。
「マトローナ逃げて!!」
「逃げる? 何から?」
「あ…あれ?」ディアンヌはうろたえた。周囲は何事もない。「今 たしかに地面がわーって」
「空腹で幻覚でも見たのか?」
「ほ… 本当だよ!! 地面が波みたく…」
マトローナは苦笑して首を左右に振っている。
◆ディアンヌは、ドロールの踊りの神髄とやらに触れたのだと思うのですが、マトローナはその境地に達したことがないようで。
つーか、ディアンヌって本当に超天才なんですね。たった半日、自己流で練習しただけで神髄の扉に手をかけてしまえるなんて。 - その時だ。微かな悲鳴が聞こえたのは。
二人はゆっくりとそちらを見やった。嫌な予感がする。 - 少し離れた川辺。
ゾルとデラが魚釣りに行ったその場所で、惨劇は起きていた。
全身真っ青の、鳥のような頭と脚を持つ魔神。昨日空からチラシを撒いていった個体とは異なり、丸々と肥えている。
川辺の岩に足をかけて丸い腹を呑気に掻いている足元には、頭から血を流して半身が川に浸かったゾルと、腹を血まみれにして口から血を流したデラが転がっていた。二人とも、ぐったりと目を閉じて動かない。 - 青い魔神が無造作にデラを掴もうとした時、フッと影が差した。見上げれば、人間の三倍はある彼より更に更に巨大な金髪の女が、冷たい顔で見下ろしている。
「私の子供たちに触れるな……!!」
振り下ろされた鉄拳を、魔神は一瞬で回避したうえ闇の翼で空高く舞い上がった。 - 構わずに、マトローナはそっと子供たちを手のひらに載せる。彼らを大事に片手に包み込むと、もう一方の手を勢いよく天に突き上げた。
その動きに合わせ、大地が生んだ無数の石つぶてが魔神を蜂の巣に貫く。間髪入れず、突き上げた手のひらをグッと握りしめた。
先日ガランを足止めした技「獄握」である。舞っていた石つぶてが一気に集中、魔神を包んで押し潰す。 - 上半身をすり潰された青い肉塊は地に落ちていったが、もはや、マトローナの視界には入っていなかった。彼女は手の中の子供たちを見つめて肩を落とし、声もなく泣いている…。
- その後ろ姿を、ザルパとディアンヌが見つめていた。
◆前回、一匹足りないと思わせぶりに語られてた青い魔神。マジで「外界に出てハシャいで遊んでた」だけだったのかい(苦笑)!
特殊能力を披露する暇さえ作れず呆気なく倒されてしまいましたから、闘級は2000くらいなのでしょうか。
ザルパさんが、人間の足で巨人のマトローナらと同時に この場に駆けつけてる(槍を持ってるので、子供達の危機に戦おうとしたっぽい)のは凄いなと思いましたが、悲鳴を聞いてすぐマトローナは直行し、ディアンヌは一旦 家に戻ってザルパを連れて来たって感じだったのかな。 - 子供たちは、一家の暮らす草葺きの竪穴式住居に寝かされた。ザルパによって的確に傷の手当ては行われたが、彼らは高熱を出して朦朧としている。
- 「私が…」「私が子供たちに ついてさえいれば こんなことには…」「…っ」
巨人は家に入れない。外から覗き込んで、マトローナは繰り言のように悔やみ続け、歯ぎしりしていた。 - 「それは私も同じことだ」ザルパは乱れない。人や己を責めることに捉われず、すべきことを行っている。「あのような化け物は見たことがない… 何かよからぬ前兆やもしれん…」妻をなだめながらも、子供たちに掛けた毛皮をそっと直してやっていた。
- 「
母 様…」
か細い声に呼ばれて、マトローナはハッと目を向けた。高熱で上気した顔で、デラが笑っている。
「ごめん 魚… 取って…」「あげられなかった…」
マトローナの目が潤んだ。「いいんだ」「…お前たちは何も悪くない」 - 身を屈めて室内を覗き込み、ディアンヌは不安な顔で尋ねる。
「ザルパ… ゾルとデラは助かるよね?」
「ひどい傷だ… どこまで持ち堪えられるか」
「そんな…」
子供たちへの まなざしは片時も離さないながらも、ザルパは気休めを言わない。そういう男なのだろう。
◆ザルパさん、冷や汗もかいてないんですよね。慌てもおどけもしない。でも心配してるのは伝わってくる。とても心の強い男性なのだなと思います。
見た目は筋骨隆々の髭面で、実際、狩りの腕も確からしい。反面、冷静で理知的で、優しさもあって、蛮族と言われながら野卑た面が全くない。
完璧じゃないですか。こりゃ「戦って勝利することこそ全て、愛や優しさなどくだらぬ夢」と言い捨ててたマトローナさんも、種族の壁さえ超えてメロメロになっちゃうわけですよ。超納得。 - マトローナが立ち上がり、背を向けた。
「ザルパ… 子供らを頼む」
「マトローナ!!」「どこへ行くつもりだ!?」
小屋を飛び出て珍しく大声を出した夫に、背を向けたまま告げる。
「バイゼルに行く!!」 - ハッとしたのはディアンヌだった。
「バイゼル…!! まさか… 昨日のおかしなビラ!?」「優勝者の望みを 何でも叶えるなんて あんなのどう考えても うさんくさいよ!!」
ザルパも言う。「ディアンヌの言う通りだ そんな真似ができるのは神か… 奇跡しかない」
マトローナは答えた。「わかっている… だが 今は その神か奇跡にすがるしか方法はないんだ…!」
◆そうかなぁ…。母親が、怪我で苦しんでる子供を置いて、どっか遠くで行われる、よく分かんない大会に出るしか、方法はないのかなあ。
藁にもすがる気持ちにしても、もっと現実的な方法もあるんじゃ? ドルイドの里に走って治癒術を使ってくれと頼むとか、人間の町に行って医者を呼ぶとか。
つーか。魔神主催の大会だと知ってたなら そう思えるのかもしれませんが、普通「大会優勝者には何でも望みを叶える」と言われたからって、死にかけた人間を助けてもらえるかも、なんて思うものでしょうか。
キャラクターの行動が ちょっと強引に思えます。
第二部に入ってから、そう感じること多いです。ディアンヌ捜索中断、<十戒>挑発、エスカノール捜索開始。その都度「なんで?」「無理矢理っぽいなぁ」と思ってきましたが、またですね…。
あまり関係ないけど、巨人サイズにでかくて強いが子の無い女が人間の幼い兄妹の養母になって深い愛をそそぐとか、死から家族を救うため危険な戦いで奇跡の力を勝ち取ろうとするとかで、『ピグマリオ 』のメデューサとマリウス&エルザ兄妹のエピソードを思い出しました。そういえば妖魔(メデューサ)の血を飲むと魔力アップして肉体が変異して妖魔の仲間になる点も同じですね(笑)。 - 振り向かない妻の背を見つめ、ザルパは強く語りかける。
「行くな マトローナ! 嫌な予感がする」「お前は 私の…………子供たちの大切な家族」「行くな!」 - 彼女は、僅かだけ夫を返り見た。「私のような女には もったいない言葉だ」「ありがとう」
泣き笑って微かに紅潮した頬を、美しい涙が伝い落ちたと見えたのも束の間。
彼女は大股に歩きだしていた。バイゼルへ向かって。 - 「マトローナ 待って!!」立ち上がりかけたディアンヌに、ザルパが呼びかける。
「ディアンヌ!!」「あの戦鎚を持っていけ!!」「マトローナを頼む…!!」「二人共 必ずここへ帰ってこい!!」
一息に言った彼に、ディアンヌは神妙な顔で頷きを返した。 - 肩を怒らせて荒野を歩いて行くマトローナと、戦鎚を抱え小走りに追っていくディアンヌ。
並みならぬ決意の顔で、マトローナは高らかに祈りを唱えていた。
「大地の神 巨人族が始祖ドロールよ…」「我に力を与え 我が子らを守りたまえ!!」 - その頃、バイゼル跡地の喧嘩コロシアム。
闘技場の上に腰を下ろし、<タコ娘>と<多腕の巨魔神>は、それぞれ別の彼方を「視」やっている。 - <タコ娘>がププ…と含み笑いをこぼした。
「う~~~ ビシビシ感じるっスよぉ」「バイゼル に向かって強い魂がわんさか集まってきてるっス」「宣伝の効果バッチリっスね」 - 「…こちらも興味深いものが
視 えました」と、傍らの<多腕の巨魔神>が報告する。「お? なんスか なんスか~?」と<タコ娘>。
「ガランとメラスキュラが敗 れました…」「…フラウドリンも何者かの襲撃を受け 行方不明のようです」
風が強い。<多腕の巨魔神>の顔を隠す面布がバサバサとはためき、真下に近い位置で見上げる<タコ娘>には、彼の整った口元や鼻梁が見てとれた。
◆「敗れた」か…。「殺された、死んだ」とは言わないんですね。復活しそう。
そして、フラウドリンが誰に襲われたか、どうなったかは、彼にも「視えない」のか。何かの術で隠蔽されてるの? 彼の「眼」の力の限界? - 大事件のはずである。仲間の三人までもが『しくじった』というのだから。だが、<タコ娘>の反応は道化じみていた。
「ワオ」とタコの触手をバンザイするように掲げ「マジスか~」と、おどけて見せる。それだけで終わり、笑って<多腕の巨魔神>の「眼」を褒めた。
「さっすがはバロール君!!」 - バロール。マーリン作の闘級を視る
魔法具 <バロールの魔眼>の、名の由来となった古 の神である。災禍をもたらし敵を見抜く目を持つ独眼の神だと、彼女はホークに説明していたものだ。
◆なんと、バロール本人ですか。
ガランVSバンの時(第144話)、メラスキュラが「バロールの魔眼があれば(バンの闘級が)わかるんでしょうけど…」と言ってたのは、魔法具のことじゃなくて、仲間のバロールのことだったんですね! - 多腕の魔神バロールは、しかしその名を拒絶した。
「やめてください それは人間共の呼び方です」
風が彼の面布をめくり、整った顔が露になる。
右目は魔神族の特徴を示す漆黒。左目は黒髪に隠れ、そこから頬にかけて無惨な傷痕が伸びていた。隻眼なのかもしれない。 - 「アハハ ごめん ごめん」と<タコ娘>は軽い調子で謝る。そして、彼の名を『正しく』呼んだ。
「ドロール君!!」
巨人族の始祖。今なお一族に神と崇められている、その古い名を。 - 次回「戦慄の告白」
多腕の巨魔神が、バロールの魔眼の由来たる「バロール」だったことにも驚いたのに、まさか「巨人族の始祖・ドロール」だったとは。
想像もしてなかったので、びっくりぽんでした。
(せいぜい、体の大きさが ちょうど巨人族サイズだなあと思ってたくらい…)
サブタイトル見るに、次回も ぴっくりぽんなことが明かされそうだし。ここから色々急展開していくのかなあ。
そして思いました。
魔神族って何なんだ!?
だって、ドロールは巨人族だったんですよね、普通の。
前回のイメージ映像見るに、腕は一対です。
しかし魔神ドロールは、瞳は魔神の漆黒、肌には土壁みたいなザラザラした感じの点々が描かれてて、カラーイラストで見るに肌色が青黒く、腕が二対もある。明らかに普通の巨人族じゃない。異形じゃないですか。
更に言えば、ドロールは「ブリタニアに最初に生まれたとされる種族・巨人族の始祖」です。つまり、三千年どころではない、もっとずっと、何万年も昔の人なのでは?
普通なら、三千年前の時点で、とっくに「生きてはいないはず」なんじゃ。
何でその人が生きていて、しかも魔神族に変貌して魔神族の精鋭<十戒>になってて、自分の子孫(巨人族)と敵対していたのでしょう。
想像A
魔神の血を飲んで、または取り憑かれて魔神族になった。
想像B
死体に魔神族が取り憑くか、何らかの術で魔神族として蘇生した。
想像C
元々魔神族だが、正体を隠して巨人族の長をしていた時期がある。
うーん?
まさか、魔神族って例の「闇」が本体で、生死問わずに色んな種族に合体して、肉体を魔的に変異させ、(ギーラやジェリコ、ヘンドリクセンがそうだったように)記憶や人格はそのままながら精神が多かれ少なかれ変容して、魔神族として活動してるんでしょうか?
ちょっと『デビルマン 』のデーモン族みたいな。
(とか思っちゃうと、不動 明→メリオダス、飛鳥 了→エリザベスもしくはマーリン、神→女神族のキャスティングで、例の最終回のパロディ映像が脳裏に浮かんじゃいました。笑)
にしても。
<タコ娘>が初代妖精王グロキシニアだったりして。
もしそうだったら嫌ですね。
だって、初代妖精王が「~っス」なんて三下口調なんて!
いや、わりと真面目に。
前回、<タコ娘>がメリオダスと自分たちは古い友達だと言ってました。あれ、<十戒>の仲間という意味じゃなくて、魔神族になる以前の、普通の巨人族や妖精族だった数万年前からの知り合い、みたいな意味だったらどうしよう(苦笑)。
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ドロール(バロール)の元ネタのこと。
中世ウェールズの伝承集『マビノギオン』に『キルッフとオルウェン』というお話があります。
王子・キルッフ(「豚の柵」という意味の名)が、巨人族の娘・オルウェンを妻にめとるまでは、どんな女性にも触れられないという呪いをかけられます。彼は従兄弟のアーサー王に助力を求め、ケイやガウェインを始めとした、それぞれ特殊能力を備えた頼もしい騎士たち六人と共に旅立ちました。
ところが、オルウェンの父である巨人族の王(魔王)イスバザデン・ペンカウル(イスバザデンは「サンザシ」、ペンカウルは「巨人の王」の意)は、娘と結婚したいならアレを用意しろコレを持って来いその際の手順は何々だと、40もの過酷な難題を押し付けてくるのです。
というのも、娘が結婚するまでしか生きられないのが彼の運命だったからでした。もちろんキルッフは全ての難題を果たしたうえで、イスバザデンを殺して予言を成就させ、花嫁を連れて凱旋しましたとさ。
…という、まぁよくある話です。難題の数が40もあるのは いただけませんが。(大抵の類話では、難題なんてせいぜい3つなのに。先延ばし連載してる少年漫画かっつーの。)
さて。この「巨人の王イスバザデン」、ケルト(アイルランド)神話に登場する「魔眼のバロール」と同根のキャラクターであろうと言われています。というのも、エピソードや特徴がよく似ているからです。
- 巨人族であり、その王である。
(バロールの属するフォモール族は異形の巨人族とされる。) - 人食いの怪物である。
(イスバザデンは近隣の子供たちを食べていた。フォモール族は人食いの蛮族。) - 瞼が非常に重くて普段は目を閉じており、必要な際は数人の部下たちに持ち上げさせていた。
(イスバザデンは熊手で、バロールは滑車で。) - 戦いの中で、槍が眼球に突き刺さる。
(イスバザデンはキルッフに投げた槍を投げ返されて片目に刺さり、バロールは孫であるルーの投げた槍が片目に刺さる。
イスバザデンはこれにより隻眼になったと考えられる。バロールは、元々単眼だったとも、常に片目だけ閉じていたとも、第三の目が額にあったともされる。) - 娘の結婚関連で死の予言を受けている。
(イスバザデンは娘の結婚までしか生きられない、バロールは娘の産んだ子供(孫)に殺されるとドルイド僧から予言された。) - 予言どおりに死ぬ。
バロールが属するフォモール(「海の下」の意)族は、アイルランドに「最初に住んだ一族」で「魔力持つ巨人の蛮族」でした。また「異形の魔神族」だったとも言われます。
『七つの~』の巨人族がブリタニアの一番古い先住民で、蛮族然とした原始人ルックなのは、これが元ネタでしょうか。
フォモール族の後に、四つの種族がアイルランドに侵入してきました。第一と第二の種族を退け、第三の種族と融和した後、四番目に侵入してきたのが、女神ダヌを始祖とする、魔術と文化に優れた巨人の一族、ダーナ神族です。雲に乗って姿を隠してやって来たそうです。
多分、これが『七つの~』の「女神族」の元ネタの一つなのだろうと思います。
ダーナ神族がフォモール族との勢力争いに負けて支配されていた時代、フォモール族の王だったのがバロールでした。
バロールは、魔神バロール、邪眼のバロール、魔眼のバロールなどと呼ばれています。
彼の目一つには邪視の魔力があり、「見た」だけで相手を殺してしまうことができたのです。
さて。
前述したように、バロールは「自分の孫に殺される」とドルイド僧に予言されていました。そのため一人娘を軟禁して、男に会わせないようにしていたわけです。
ダーナ神族の男が策略を用いてバロールの娘に子を産ませます。彼は殺されましたが、赤ん坊はダーナ神族の元で密かに育てられ、成長したその子・ルーが、祖父たるバロールの魔眼を投げ槍で貫いて殺したのでした。
一説に、このとき槍はバロールの頭部を貫通し、彼の魔眼が背後に転がり落ちてフォモール族を「見た」ので、彼らは ことごとく滅んでしまったのだそうです。
これによりフォモール族の天下は終わり、ダーナ神族の支配する世となりました。
フォモール族は海の底の国などに隠れ、「異形の妖精(魔物)」になったと語られています。
ちなみにダーナ神族も、後に侵入してきた五番目の種族に敗れ、海の彼方や地下に創った美しい異界に隠れて、姿が縮んで「美しい妖精」になったと言われているのでした。
ファンの間では言わずもがなのことでしょうが、『七つの~』のドロール(バロール)が巨人の王でありつつ魔神だったり、目に魔力があったり、片目が隠れてて傷があるのは、こうした神話が元ネタなんでしょうね。
それと、もう一つ。
ドロールさん、腕が二対あります。
上半身裸で、腰巻を着けてて、二の腕にはバングル。
また、カラーイラストで見るに肌の色が青黒い。
加えて、「ドロールの踊り」なるものが得意だと明かされました。(この踊りは戦闘に活かせる?)
シヴァ神は一般に青い肌で描かれます。また、腕が二対ある姿で描かれていることも多いです。
彼は、世界の寿命が尽きたとき、新たな世界を創造する下準備として、古い世界を破壊する担当だと言われています。(世界を創造するのはブラフマー神(梵天)の担当。)
そんな彼は、「舞踏王」としても知られています。彼の働きが世界の脈動とリンクしていることを示す姿なのだそう。よって「彼の踊りが終わるとき世界も終わる」と言われることがあります。
手に持った鼓型の両面太鼓を叩きつつ、そのリズムで踊るそうです。
こんな話があります。
シヴァは一万人の聖仙(賢者)を尋ね、自分を信仰するよう命じました。彼らは怒って罵倒し、のれんに腕押しだと気付くと、虎をけしかけました。
ところが、彼は爪でひっかいたただけで たちまち虎の皮を剥ぐや、それを体に巻いて踊り始めたではありませんか。次にコブラをけしかけると、踊りながらそれを捻って、首飾りや帯代わりにする始末。邪鬼をけしかけても、それをリズミカルに踏みつけて踊りは終わりません。
見れば天界の窓が開き、神々もシヴァの踊りに見とれていました。
聖仙たちは驚き、シヴァこそ宇宙の王だと認めて ひれ伏したということです。
『七つの~』の「ドロールの踊り」は、大地の内の脈動と 上に生きる命、全てを感じて一体化するもので、踊れば大地が打ち震えて見る者を圧倒したというけれど。
シヴァ神の踊りのように、踊りのリズム=世界のリズムで、殺そうと襲ってくる相手すら華麗にいなして、周囲の誰もが見とれてしまう……ってのが目指す地点なんでしょうか。
ちなみに、シヴァ神の額には第三の目があります。
普段は閉じていますが、たまに開くと、恐ろしい炎を発して全てを灰にしてしまうのだそうです。
ケルト神話のバロールも、時に「額の第三の目が魔眼だった」と言われますが。
色々面白いです。
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今週の作者さんへの質問コーナーで、ヘルブラムらの体臭の設定が明かされてましたね。
ヘルブラムに関しては、読者の方が作者さんと会った時に直接訊ねて、キングがヘルブラムの胸を貫いた薔薇に因んで、その場で「白バラ」に決めた、んでしたっけ?
つーか。
花の香りなんて、基本的には、色では違わないはずです。
そこをあえて「白」バラだと色を指定してるところを見るに、例によって、花言葉絡みなんだろーなぁ。
キングやエレインの体臭とされる花も、それぞれ、花言葉がキャラの性格や背景事情と合うようになってましたもの。
覚醒エリザベスの目の色と合わせて扉絵に描かれたマリーゴールドの花と、その花言葉まんまの彼女の台詞とか。ディアンヌの記憶を消したマーガレットの花言葉とか。
多分 偶然ではなくて、作者さんは花言葉がお好きで、意図的に組み込んでいるのだろうなと思っています。
とゆーわけで。
今回明かされた、妖精キャラの体臭の花。その花言葉を調べてみました。
ヘルブラム…白バラ
心からの尊敬(深い尊敬)、無邪気(純粋・純潔・素朴)、私はあなたに相応しい、相思相愛
ゲラード…ミント
かけがえのない時間、私達もう一度やり直しましょう、懸命さと美徳、貞淑、暖かな心づかい、爽やか、(元気を回復させる)効能
初代妖精王グロキシニア…ジンジャーリリー(花縮砂、マリポーサ)
あなたを信頼します、人に惚れられる(受け身の愛)、心豊か、淡い恋心、大きなお世話(余計な配慮、無駄なこと)
初代妖精王の体臭の花は「ジンジャー」と書いてあったんで、最初「生姜!? 生姜湯の香りですか? なんか年寄りくさいな…」と思っちゃったんですけど、多分「ジンジャーリリー」のことですよね。(^_^;)
ショウガの仲間でインド~東南アジア原産の花です。草丈は1~2m。夕方から、大きな蝶型の白い花が咲きます。(園芸品種にはピンクやオレンジの花もあるそうです。)
この花、クチナシのような素敵な甘い香りで、香水の材料にもされているそうですよ。
当代の妖精王さんがメリオダスを信頼できなくなってる昨今、「あなたを信頼します」の花言葉を初代妖精王さんが引っ提げてくるなんて、何か意味があることなんでしょうか?
おまけ。
ずっと前に書こうと思って忘れてて、そのまま書く機会を逸してた小ネタを、ついでに書いておきます。
バンの義父である獣人ジバゴの実の息子の名前は「セリオン」。
「セリオン」はタロット用語として使われます。ギリシア語の「テーリオン」を英語に転訛したもので、意味は「獣」。
同じくギリシア語で「人」を意味する「アンソロープ」と、例の「テーリオン」を合成し、「獣人」を英語で「
セリオンは獣人の子供。ここから名前を採ったんでしょうか。