【感想】『七つの大罪』第147話 死の猛追
週刊少年マガジン 2015年48号[2015年10月28日発売] [雑誌]
第147話 死の猛追
- 時間は少しだけ遡る。
粉々にした盗賊都市レイブンズの瓦礫の中を歩くガラン。「ん?」と足を止めて己の手を見つめ、ギリッと握りしめた。
「力が戻ったーーーーーーーーーーぞいっと!!!」
嬉しげに足元を殴りつける。それだけで大地がクレーターと化し、瓦礫の町はいよいよ粉々になった。
バンにかけられた「狩りの祭典 」の効果時間が過ぎたのだ。 - 「メラスキュラ! 奴らはどうじゃ?」クレーターの底から見上げて、ガランは空に浮かぶ女魔神に尋ねる。
「今は移動速度が格段に落ちてるわ」「どうやら許容ギリギリまでの力を奪ったことによる反動でしょうね」「ガランの武力は彼には 強大すぎたみたい…」
先程までの苛立ちはすっかり消え去り、彼女の顔には再び余裕の微笑みが浮かんでいた。 - 「カッ カッ カッ」「<
十戒 >に楯突く者は戒めてやらねばなぁ…」「どれ… 久々にアレをやって遊ぶかの~~」と、笑うガラン。 - そして、場面はバン&ジェリコを背負って逃走を続けているジェリコへ。
と言っても、二人分の重荷を負っての移動速度など高が知れていた。バンなど、彼女よりよほど体が大きいのだ。どう頑張っても彼の足を引きずってしまい、なおさら速度は落ちていく。
彼らを背負った時点で傾き始めていた日は いよいよ低く、不吉に赤い夕空の下、薄暗い針葉樹の森を、それでも一歩一歩と進んでいた。 - 「くっそ…」「こんなところで………」「へばって…」「たまるかよ!!」「お前らは…」「俺が必ず守って…」「わっ!!」
汗だくで唱え続けていたジェリコの足が、木の根に引っ掛かった。背負うバンたちを落としはしなかったものの、両手両膝をついて転んでしまう。 - 「う…」エレインの小さな呻きを聞いて、「わ… 悪ィ 大丈夫か!?」と慌てて謝った。
- こんな苦労をかけているのに、逆に謝るなんて。
「……っ」「ごめん……なさい」エレインの目から涙がこぼれた。
「あなたには酷いことをしてしまった… 何より 本当に酷いこと…言って…しまったわ」「優しい…人間なんて バンの…他にはいない …そう 勝手に誤解していたの……」 - 「なんだよいきなり」ジェリコは目を伏せてぶっきらぼうに言った。「俺は別に優しくなんか―――…」しかし、その頬は照れ臭そうに紅潮している。
- その時だ。
キィィィィンと空気を切り裂く音が近づき、ドンッと大地が揺れた。
「!!!?」
二人を背負ったまま50cmは跳ね上がったジェリコは、音のした方を返り見て一気に青ざめる。
「お…」「おい…」目を奪われたまま立ち上がり。「おいおいおいおいおい……」足は全力で走りだす。「やっ…」「やべぇ~~~~~~っ!!!」
森を破壊しながら何度もバウンドし、こちらめがけて転がってくる直径3mはありそうな巨岩。逃げるジェリコらの背後でもう一度跳ね、地面が抉られた衝撃で転んだ彼女らを飛び越えて、行く手10数メートル先でようやく止まった。 - 「なんだ!? 隕石…!?」いや。ここまで綺麗な球形の隕石などあるだろうか。まるでボールだ。そもそも、今の状況、このタイミングである。
「あんの化け物共」「遊んでやがる!!!」魔神達の仕業に違いなかった。汗に濡れてジェリコは歯を食いしばる。 - その頃、魔神たちは荒野のちょっとした岩山にいた。
「どうじゃ~~ 当たったか?」長柄の武器を片手に呑気に尋ねるガランに「残念 ハズレ」と答えながら、メラスキュラが闇の触手で岩山を削り出して、例の巨岩ボールを幾つも作っている。
「ならば 次は変化球じゃ」ガランは両手で長柄の武器を構え、先を巨岩ボールに添えるようにして、試すように軽く動かした。
「ギリギリ…」「ぽんっ!!」ゴルフの要領でスイング、巨岩ボールのショットを放つ。
◆メラスキュラさん…。ガランがわざとバンの「狩りの祭典 」を受けた時は「そういうお遊びは いつか身を滅ぼすよ?」と たしなめてたくせに、自分も遊びを手伝ってるじゃないですかー。 - それは一直線にジェリコらに向かった。
「ま… また来たぜ!!」二人を背負って全力で走るジェリコ。その球速に敵うはずはなく、今度も巨岩ボールは彼女らを追い越して、十数メートル先にドッと着地する。
「うわっ!!!」たたらを踏んでジェリコは止まり、ホッと胸を撫で下ろした。「あっ…ぶねえ!!」「奥に落ちて助かったぜ」 - ところがである。跳ね上がった空中で未だ縦回転を続ける巨岩を見たジェリコは、それに気付いた。「………逆回転」。ボールにバックスピンがかかっていたのだ。
- 変化球。もう一度地面に落ちた瞬間、爆発したかのように一気にこちらに跳び戻ってきた。
◆これ、作者の過去作『ライジング インパクト』(ゴルフ漫画)の主人公の必殺技「爆発 スピン」のセルフパロディらしいです。 - 巨岩ボールが真正面から迫ってくる。
「かわしきれ…」ない。そう悟った瞬間、ジェリコは背負っていた二人を投げ捨てた。巨岩の当たる範囲外へと。
そして、残ったジェリコに巨岩が迫る。 - グシャッ
肉の潰れる音と、飛び散る血。 - 「ジェ…」「ジェリコ!!!」倒れ伏したままバンが血相を変えた。
彼の視界の中で、立ったまま上半身を巨岩に潰されたジェリコの体が、ゆっくりと傾き倒れていく………ことはなかった!
ふらついた足が動き、踏み止まる。
「せ…聖騎士…見習い…」「ナメんな!!!」
巨岩は砕け散った。ジェリコが剣で粉砕したのだ。 - だが、完全に防ぐに至っていない。反応が間に合わなかったのだろう。強打したらしい額から滝のように血が滴り落ち、今度こそ千鳥足めいて膝が砕け、そのまま横にひっくり返ってしまう。
- 「大丈夫か!?」目線だけ向けてバンは尋ねたが、彼女は動かなかった。「くそっ」舌打ちしたバンの背で、恋人が苦しげに「かはっ…」とえずく。「エレイン!!」どうにもできない。八方ふさがりだ。
- いや。
諦めてはいなかった。ジェリコは。
数瞬前まで気絶していた彼女が、いかにも無理に力を入れている様子で立ち上がる。
「オラ… 行く…ぞ!!」
「!!!」「ジェリコ…」「もういい…! 早く逃げ…ろ!! 奴らの狙いは……この俺だ…」「今すぐ… ここから離れやがれ!!」
そう言いながらも動けないバンを「はいはい」と いなして背負い直し、「ああ そうする お前ら二人連れて…な!」と、どうにか立ち上がろうとしている。
「ダメ…!! ジェリコ逃げ…て」今度はエレインが言った。
二人はもはや、互いの恋人だけは助けてくれとも言わない。無理なのだと、願うことすら彼女への無体な仕打ちなのだと思い知り始めていた。 - しかし、ジェリコは言ったのだ。
「ふざけんな」「お前らが そんな簡単に諦めちまったらよ…」「俺が諦めらんなくなっちまうだろーが」
血と汗でべったり汚れた顔で、口元をひきつらせて笑う。その顔を見ればバンは何も言えず、エレインは「ありがとう…」とすすり泣いた。 - その頃、魔神達。
「ナイスショット! …でも まだ全員生きてるみたい」
メラスキュラの判定に、「うむむむ… 次こそは!!」とガランが悔しがっている。 - 次に打ち放たれた巨岩は、ほぼ狙い通り。重荷を負ってよたよたと進もうとするジェリコの真後ろ、かすめるほどの近くに落ちた。
- それが大地を抉った衝撃で、三人は軽々と吹き飛ばされる。
(ダメ…だ)
ジェリコは思った。飛ばされた先には地面がない。切り立った崖だったのだ。 - 引力にひかれるままに落下していく。崖下に激突する、その瞬間。
『”そよ風の逆鱗”!!!』
エレインが魔法を放ち、風で浮き上がった三人は、勢いよく転がりはしたものの、致命傷を負うことなく着地に成功したのだった。 - 「おい…」「洞窟だ!!」ジェリコの視線の先に、あつらえたように暗い洞が開けている。「いいぞ…」「ここに…隠れよう!!」再び二人を背負うと、中に入って行った。
- その洞窟には人の手が入っていた。壁のあちこちにランタンが吊るされており、その灯りは奥へと誘っているかのようである。
「洞窟に…ランタン」「鉱山……なのか?」「!」
突き当たりは板壁で塞がれ、木のドアがあった。
「扉…だ ”オープン”?」
『MY SWEET GLUTTONY』と書かれたドアには、まるで店のように「OPEN」と書かれたプレートが下がっている。
「一体… なんだ?」
躊躇や警戒をするには、あらゆる意味で余裕が足りなかった。ジェリコは真正面から、勢い良くそのドアを開けた。 - 「さ…酒場?」
なんと。扉の奥は、こぢんまりした酒場になっていた。岩を削って作った丸テーブルと椅子が数セット、その奥にはやはり岩を削ったカウンター席。
カウンターの中にはウェイター服を着た店主らしき男がいて、ジェリコを見てビクッと体を震わせている。
店主の背後には、天然の岩を利用した酒棚、奥へと続いているらしい やたら頑丈そうな鉄の扉。その上の壁には、ジェリコが見たこともないほど巨大な、それでいて可憐な乙女をあしらった戦斧が飾られていた。 - 「ビ… ビックリした~~」そう小声で呟いた店主は、人はよさそうだが気が小さいのかもしれない。丸眼鏡をかけ、なかなか立派なカイゼル髭をたくわえているのに威厳は感じられなかった。
「い…いらっしゃい」「よ… ようこそ<麗しき暴食>亭へ」
◆店主が手に持っている酒瓶、ラベルには「Seven Deadly Sins」と書いてあります。
そんな名前の酒を扱ってたり、店の名前が<暴食の罪 >マーリンを連想させる「麗しの暴食」だったり、店に堂々と神器(神斧 リッタ)を飾ってたりと、彼、自分の正体を隠す気がないですよね、実際は(笑)。
『エジンバラの吸血鬼』当時から思っていましたが、この人、昼は無論として、夜間の「おどおど君」の時でさえも、話題は自分の性格や能力が面倒だとか、好きな人が自分にいかに優しいかとか、自分のことばっかで。謙虚なフリして 恐ろしく自意識が強い人のような気がして。
なので、変装して辺鄙な場所に身を隠しつつも、本当は自分の正体を周囲に主張したくてたまらなかったんだろうなーと。 - 次回「ガラン・ゲーム」
本編のみの読者には新キャラ登場。『エジンバラの吸血鬼』を読んでいる読者にとっては、どこからどう見ても、あからさまにエスカノールです。
最後の<大罪>、<
ここでエスカノール登場かぁー…。
しょんぼりしてしまったのは、これでもうキング介入の余地は、ほぼ無くなったかなと思ったから。
「ディアンヌを捜すぞ!→捜索中止→説明なく放置」の展開には しょんぼりさせられたので、また同じようなことになるのかしらんと。
なんか私、あの展開が一種のトラウマになってるみたいです。(^_^;)
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エレインがジェリコのことを「初めて、バン以外で優しいと思った人間」認定。
思えば、バンもジェリコを「初めて、一緒にいて嫌な感じがしなかった人間」認定してたんでした。
ジェリコは「バンエレ夫婦にとって」信頼できた人間・第一号になったのか。
ホントに友達になってくれたらいいな。
エレインは真に生き返ったら、バンと一緒に人間界を旅して、基本、人間界で暮らすんでしょうし。人間の友達がいると心強いんじゃないかな。
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バイゼル喧嘩祭りで「
まさか一晩中虚脱したままとか!?
もしそうだったら、いくら10分前後<十戒>並みの闘級になれるからと言って、今後も軽々しく使うってわけにはいかないですね、「
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魔神族の心臓の話。
前回、ガランとメラスキュラの心臓を一つずつバンが潰しました。
20年前に赤き魔神とバンが戦った時「魔神の心臓は一つじゃないわ!!」とエレインが言い、魔神化デールと戦った時は、心臓を一つ取っても死ななかったので「こいつも魔神か!!」とバンが言い。
では魔神の心臓は幾つある?
現時点で本編で説明されたことはありませんが、ファンブックの用語事典の赤き魔神の項目には「心臓が二つある」と書いてあるのでした。
とは言え、下位魔神と<十戒>の心臓の数が同じなのかは、判りません。
一つ潰しても死にませんでしたから、複数あるのは間違いないですけど。二つどころか、もっと沢山あるのかもしれない。
魔神として格が高いほど心臓が多い、なんて可能性もあるのかも。
なにしろ、今回分ではガランばかりかメラスキュラまで、逃げたバンをすぐさま殺さず、呑気にゲームで遊び始めています。
心臓が二つしかないんなら、後一つ潰されたら死んじゃうわけだし、もっと怒り狂うんじゃないかと。
今回の呑気ぶりを見るに、心臓一つ潰されても大したことじゃないんだ、二つどころか、もっと沢山あるんだなと思ったのです。
或いは、潰されようとも再生しちゃうのかも。メリオダスは腕を斬り落とされようが、魔神の力ですぐ再生してたので、それもあり得るかなという気がします。
で。
メリオダスにも心臓いっぱいあるの?
エリザベスが彼の胸にそっと頬を寄せて心臓の音を聞こうとしたら、体のあちこちから力強い鼓動が聞こえたりして。
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どう考えても誰も客が来ないだろって場所に酒場を開いてるエスカノールさん。客が来たからってビビってるし。シュールだ。
それとも誰か来るの、ここ? 人間じゃなくて異種族とか。
最初読んだ時、あれ、昼なのに「おどおど君」なの? と不思議に思いました。
エスカノールの魔力<
午前0時、真夜中のエスカノールは王国聖騎士最弱。性格は、腰は低いが自己評価も低く、ネガティブで臆病で、そのくせ実際は自意識過剰でしぶとくて、とにかくウザい。
しかし日の出と共に刻一刻と力が増し、ヒョロヒョロだった体躯も筋肉ダルマに変わって、性格は冷たい傲慢となり、自らを「唯一無二の存在エスカノール様」と称して、全身から発する灼熱の魔力で、強大な敵でも虫ケラのように殺してしまうのでした。
闘級的にはメリオダスより強い。けれど、夜間に「おどおど君」に戻った彼曰く「いつも
力が
こんな感じで。
エスカノールは日中は「傲慢様」のはず。なのに、どうして「おどおど君」なんだろう?
『エジンバラの吸血鬼』では、吸血鬼族の王の魔力で一日中夜のままの空間にいたのに、夜明けの時間になると「傲慢様」に変化しました。よって、洞窟の酒場にいて日光を浴びていないから変化していない、ということではありません。
とゆーわけで、漫画を前回分から読み返してみて、ああ、と思いました。
前回のジェリコがバン&エレインを背負う場面のコマ辺りから始まり、今回もずっと「黒く平べったい雲が浮かぶ空」が描かれてたんですね。
トーンも貼ってないし、記号的にカラスが飛んでるわけでもないし、台詞の説明もないし、かなり解りにくいんですけど、これ多分「夕空」の意味なのか。
つまり作中時間の「今」は日没間際。エスカノールは力が衰えて「おどおど君」に変化しつつあるところ、だと。
ジバゴが前日の夜半に亡くなっていますから、埋葬したのは午前中で、エレイン戦・十戒戦・逃走を含めても一時間半~二時間程度と思われるから、「今」は正午くらいなんだろうと、勝手に思い込んでいました。
けれどそうではなく、埋葬したのは午後3時くらいで、今は夕方の5時前後?(この時期のイギリスの日没は午後6時くらいのはず。)
考えてみれば、バンの魂が食われかけてメリオダスが虫の報せを感じた場面、ヘンドリクセンはウェイター服でカウンターを拭き、メリオダスは酒瓶を並べていました。普通に見て酒場の開店準備中ですよね。そして<豚の帽子>亭は基本的に夜間のみの営業です。よって時間帯は夕方、と見ることができる。
そうか、ここで既に展開の前フリがされてたってわけだ。
まあそんな次第で。
せっかくのエスカノール登場ですが、彼はこれからどんどん衰えて行くばかり?
もしキングに介入の余地があるとすれば、エスカノールが衰えてる夜間に到着して、なんらか時間稼ぎに貢献してくれることくらいでしょうけど……どうもそういうことではなさそうですね。残念です。
来る途中で別の事件に巻き込まれて別ルートに突入しました、妹も義弟もメリオダスも投げ出して違うことを始めました、って展開も、例のディアンヌ捜索中断を思えば普通にありそうだから怖いんですよね… (;一_一)。
杞憂で済めばいいのですが。
せめて、エレインの真の蘇生に、最終的にでも何か関わってくれたらなあ、と期待したいです…。
あれだけの前フリで飛び出して行って、何一つ関わらないまま終わったら、読んでる私がスッキリしないよ!(苦笑)