【感想】『七つの大罪』第212話 贈り物
週刊少年マガジン 2017年18号[2017年4月5日発売] [雑誌]
第212話 贈り物
- 「魔神王に「無欲」の戒禁を与えられ五百年… 俺は自由を奪われ」「――自ら作った人形ゴウセルを通してのみ 外の世界と接してきた」
古 の妖精王の森で、<十戒>「無欲」のゴウセルは 人形を通して語る。
「だが それも もう限界だ」「俺は この世に別れを告げる」
バイバイ、と笑って手を振ってみせた傍らに、再び空間の亀裂が現れた。
「…………その前に」
続く声は亀裂の中から聞こえる。
「ぜひ キミたちと話がしたかった」
キイ キイ… と車輪を鳴らして、浮遊車椅子に座った人物が進み出てきた。 - 「!!!」
ドロールの器に宿るディアンヌが息を呑み、グロキシニアの器に宿るキングが声を張り上げる。
「キ… キミがもう一人の………いや」「本物のゴウセル!!?」 - 貴人の服を着た、壮年の見かけの魔神族の男。人形のゴウセルと外見は全く似ていない。
彼が出てきた空間の裂け目の向こうには、それを作ったらしい女魔神 の姿も見えたが、何故なのか、ひどく不本意そうな顔をしていた。彼女の頭部は見覚えのある闇色の光に覆われている。まさか、ゴウセルに身体を操られているのだろうか。 - 「「ああ… 俺もゴウセルだ」」
男は己の左胸に右手を添えて敬礼をとった。
「「…が 本物も偽物もない」」
声は二重になっている。男の後ろに立つ人形ゴウセルが、全く同じ表情・動き・タイミングで、同じ台詞を喋っているからだ。 - 「「…………」」
男が人形に顔を向ければ、人形もサッと後ろを向く。まるで鏡像のように。 - 「「ややこしいな」」
またも人形と声を重ねてから、男は淡々と命じた。
「“同調切断 ”」 - 途端に、人形の首が ガクン と垂れた。立ったまま固まり、漆黒だった瞳は真っ白になって、ぽかんと見開かれたままでいる。
「…彼は牢獄にいた俺の 目となり耳となり手足となって戦い続けてくれた同志だ」「もう一人の俺に他ならない」 - 本当に人形だったんだ。目を丸くして見慣れた方のゴウセルを覗き込むディアンヌの前で、キングは壮年の男の方に険しい目を向けていた。
「待て!! その前に… そんなことより先に聞くことがある!!」「…キミは さっき攻撃してきた時 門が完成するまでオイラたちを塔へ近づけさせるわけにはいかないと言った」「隠しても無駄だぞ」「今 恩寵の光で何が起きている!?」 - つまらなさそうに妖精王を眺めて、ゴウセルは目を伏せると淡々と吐き出す。
「人間による反乱だ…」「隠すつもりなどないよ」 - 「・・・」ディアンヌが息を呑み
「「ま… まさか」」
キングと声を合わせて叫んだ。
昨日、魔神族に滅ぼされた化石の谷から連れ帰った彼らが? 暖かな笑顔で護衛を引き受けてくれたロウが!? - 「“
光の聖痕 ”に強い恨みを持っていたようだ」「彼らは内部に潜入するために魔神族 と まさに命をかけた一芝居をうち 見事キミらの信頼を勝ち得た」
手引きしたのは自分だろうに、他人 事のように説明を続ける。
「彼らは目的のために魔神族を利用したんだ」 - 「ふざけるな!!」
目が眩むような怒りで、キングは怒鳴っていた。
「お前こそ 彼らを 自分が牢獄から脱出するための時間稼ぎに利用しただけだろう!!」「お前の自由のために どれだけの命を犠牲にするつもりだ ゴウセルーーー!!!」 - 「俺の目的は 自由の身となり――」「聖戦を終結させることだ」
不意に大義を掲げた男の目は、相変わらず、冷めたように静かだった。 - 「…っ」
ディアンヌは、またも息を呑む。 - 「!!」
息を呑んだのは同じでも、キングの目はいっそう煮えたぎった。
「お前と話すことは もう何もない!!」
独りよがりの大義に付き合って議論している暇はない。今しも消えていっている同胞 の命を、一つでも救うことの方が先決だ。
身を翻してディアンヌの目線まで舞い上がり、促した。
「ディアンヌ!! 急ごう!!」 - ところが、彼女は首を横に振ったのだ。
「キングは先に行ってて!! …後で必ず追いつくから!!」「…ボクは少しだけ彼 と話をしてみる」 - 「ディアンヌ……!」
キングは困惑するしかなかった。
彼女の人の好 さは知っている。だが、それが ここで発揮されるのか?
車椅子のゴウセルすら、少し呆気にとられた顔になっているではないか。 - 「ただの悪い人にも見えないし」「ゴウセルのことも もっと良く知っておきたいの あ 人形のね」
口元に手を当て、えへっと可愛らしく微笑んだ。
「大丈夫 ボクを信じて」「ね?」 - ディアンヌにそう言われたら、ハーレクインが信じないわけにはいかないのだ。
「………絶対 油断しないで」
ぎこちない笑みで、せめてもの注意を促す。 - こんな状況でなかったら彼女を一人になんてしない。だが、今は一刻を争う。それを理解しているはずの彼女が残ると言うからには、彼女なりの譲れない思いがあるのだろう。彼女は優しくて強い。今は任せよう。
- 「キングも気をつけてねー!!」
二対の手を振って注意し返す彼女に名残惜しく手を振り返して、キングは「恩寵の光」目指して一気に速度を上げた。 - 「彼はキミの恋人かな?」
「!!」
遠ざかる姿に手を振り続けていたディアンヌは、ゴウセルの言葉に ドキ と体を震わせた。 - 「へ!? ボ…ボボ ボクとキングが!?」
「まるで永い時を共に過ごしてきたような信頼関係だ…」 - 「ボ… ボクたちそんなんじゃ…」
真っ赤になって、彼女はフニフニと髪の毛先を弄り始める。もごもごと言葉を呑み込んでから「そうなのかなぁ?」と呟いた。 - ディアンヌには500年と16年分の記憶がない。
どうして、彼 は記憶のない自分を捜してくれていたのか。
どうして、命をかけて護ってくれるのか。
どうして妖精王の森に受け入れて、家族のように扱ってくれるのか。
『キミはボクにとって どんな存在なの? キミにとって ボクはどんな存在なの?』
バイゼル大喧嘩祭りでした質問の答えは、まだもらっていない。『キミに告白したいんだ』と予告してくれた「彼の気持ち」も。
<七つの大罪>の仲間だったとは聞かされているが、それだけではないはずという予感と、そうだったらいいなという期待を、ディアンヌは この一ヶ月、ずっと温め続けている。 - ゴウセルは静かに、しかし確信を込めた様子で薄く笑った。
「俺の戒禁 にかからないのが何よりの証拠だ」
もし掛かっていれば、どんな無残なことになっていたかを教えることはせずに。
「キミらは きっと互いを求めあっているのではなく 与えあっているんだろう
……羨ましいよ」
どこか しみじみと言葉を落とす。
「…全ての種族が キミらのように仲睦まじければ聖戦など起きもしないだろうに」 - 「……」
真っ赤な顔で黙り込んだディアンヌは、居た堪れなさそうに話を変えた。
「ねぇ ゴウセル さっきのキミの話だけど…」「ほ…本当に聖戦を終わらせるなんてことができるの?」 - 「可能だ」「俺の考えが正しければ 聖戦を確実に終わらせることができるはず」
はっきりと彼は答えた。
「ディアンヌ… 未来で聖戦は まだ続いているのかい…?」
「ううん… 終わってるよ三千年前に」「あ! ここが三千年前なら もうすぐ…ってこと?」
◆現在 再び起きている聖戦は、実質、3000年前の聖戦の まんま続きですよね。それを思えば、「聖戦は一度中断したが、3000年後に再開した」というのが正確かもしれません。
未来の情報を気安く訊いてくる割に、術士ゴウセルは、ディアンヌたちが何の理由と目的で3000年後から干渉してきたかは疑問に思わないのかな?
ロウたちの悲劇的な過去にも興味を抱いていなかったように、自分の目的達成に必要なこと以外はどうでもいい、ってスタンスですかね。 - 「フム… 少し安心したよ」「どうやら 俺の死は無駄にはならんようだ」
口元に手を当てて思考を巡らせるゴウセル。ディアンヌは慌てた。
「え…待って? 死ぬって? 何する気?」「キミがいなくなったら 人形のゴウセルは どうなるの!?」 - 「…そのことなんだが…」
突っ立ったままの人形に目を向けて、ゴウセルは命じた。
「“自我起動 ”」
キュウンと微かな起動音を立てた人形の瞳が、無機質な白から透き通った琥珀の色に変わる。
「おはようゴウセル」と お決まりの声を掛けると、人形は己の造物主を視界に捉え、明るい微笑みを作って模範的に応えた。
「…………おはようゴウセル」 - 「寝起きに突然の話ですまないが よく聞いてくれ」「今から お前はたった一人 自分自身の意志で生きていかねばならない」
「…………」
人形は造物主を見つめる。僅かに眉が下がった彼の頬に車椅子から手を伸ばし、壮年のゴウセルは話を続けた。
「知能は私並みとはいえ感情面は赤子も同然」「本当は 俺から色々 教えてやりたかったよ」
人形が、己に伸ばされた造物主の手首を そっと握る。 - 「…!」
ディアンヌは またも息を呑んだ。 - 「………ボクを」「置いていかないで……」
造物主の手首を握りしめて、人形が子供のように大粒の涙をこぼしたからである。 - 「に… 人形が泣いてる!!?」
言ってから、ディアンヌは慌てて自分の口を押さえた。
「あっ」「ごめんなさい」 - 「…ボクは人形……」
拾った言葉を繰り返して、人形は離れていく造物主の手を、ぽろぽろと涙を落として見送る。
「ボクが人形…だから……置いてくの?」 - 「…違うよ」
壮年のゴウセルは微笑んだ。これまでデイアンヌが見た中で最も優しい顔で。
「それに お前は ただの人形じゃない…」「よく聞くんだ」
そして、人形のゴウセルの胸…心臓 の上に手を置いて言った。
「お前の胸には 俺が ありったけの“心の魔法”を詰めた心臓が入っている」「これは」「俺からお前への最初で最後の贈り物 だ」 - 「ボクの」「心…」
キョトンと開いた眼鏡の奥の大きな目から、溜まっていた涙がまた零れ落ちる。 - 肯定するように優しく微笑んでみせてから、壮年のゴウセルは「…だが」と声音を曇らせた。
「困ったことに三千年後のお前は なんらかの事故 で心も記憶も失っているようなんだ」「本来ありえないことではあるが 友人たちの話は嘘に聞こえない」
◆「友人たちの話」? キングたち、3000年後のゴウセルに記憶や感情がないなんて話をしましたっけ??
今のディアンヌは、そもそも、ゴウセルに関する記憶がない。バイゼル大喧嘩祭りでチラッと すれ違った程度です。となると、3000年後のゴウセルについて語れるのはキングだけということになりますが…。
彼が口にしたのは、3000年前のゴウセルと自分の知るゴウセルが「何か違う、別人だ」「ゴウセルの能力は精神に影響を及ぼす」「3000年後にディアンヌの記憶を消した」「3000年後の彼は<十戒>ではなく<七つの大罪>の一員」だということだけ。
これらの情報から、どうやったら「記憶と感情を失っている」と結論できるの!?
なので、キング(と読者)が気付かないうちに勝手に記憶を読み取ってたのかなと邪推したんですが、台詞をよくよく読んだら「友人たちの話は嘘に聞こえない」と言ってます。記憶から直接 情報を得たんなら、こんな言い回しはしませんよね。
納得できない! 変なの~。
…どーにか辻褄を合わせるなら、ホントはディアンヌの封印された記憶(ゴウセルと対決して記憶を消される辺り)を勝手に読んでたんだけど、ディアンヌの心証をよくするために、いかにも口頭で話を聞いたみたいな言い回しをして誤魔化したのかな?
そして、ディアンヌさんてば一つも疑問を感じてませんでした。
なんて騙され…ゲフン、丸め込まれやすい子なんだ! - 「ゆ…友人? ボクとキングのこと…?」
流石のディアンヌも戸惑いを見せる。 - 「…キミたちにとって俺との出会いは ほんの一瞬なのだろうが」「俺にとっては一期一会の友人なんだ」
壮年のゴウセルは薄く笑った。
「その友人として頼みがある…」「未来 に戻ったら ゴウセルの友人になってほしい」「どうか道に迷う彼を 導いてやってくれないか…?」 - そこまで話を進めてから、殊勝に頭を垂れる。
「いや……彼がキミに働いた行為を考えれば 図々しすぎる頼みだな」「…いいんだ 忘れてくれ」
◆この殊勝な言動、半分以上は演技だと思いました(苦笑)。一旦押してから引き下がる交渉術ですね。ディアンヌに対しては「可哀想」で惹くのが一番効くと見越してたんだと思う。
残りは、本気でディアンヌの格別なお人好しさに縋りたかったのかもですが。
術士ゴウセルが、自分の分身がディアンヌの記憶を消したことを申し訳なく思うような心の持ち主なら、術で人を操ったり、自分の手引きで人々が感情剥き出しで殺し合ってるのを「芸術だ」と喜んだりしないと思うのです。精神破綻者でない限り。 - 造物主の隣に立って、人形のゴウセルはディアンヌを じ… と見上げていた。
「……」
ディアンヌも真顔で見つめ返す。 - すると、人形のゴウセルは涙を ぽろぽろ零して、母に縋るような目で言ったのだ。
「お願い」「ボクを正しい方向に導いて」 - ディアンヌの まなざしが温かく和らいだ。
「…うん」「やってみる!!」
優しく微笑んで、岩のように大きな右手を差し出す。
「はい!! 握手!!」
「うん握手」
素直に差し出された人形ゴウセルの右手を掴んだディアンヌは、同じ大きさの相手と握手 する要領で ブン ブン ブブン と上下に振った。
結果、人形ゴウセルは右手を掴まれたまま勢いよく振り回され何度も地面に叩き付けられていたが、頑丈な作りなので問題ない。
◆大ざっぱだねディアンヌちゃん…。普通の人間なら大怪我です。それとも、まさか多少の意趣返しだったのか(苦笑)。 - …と、汗タラしつつ眺める壮年ゴウセルが思っていたかはともかく。
「…お前は 俺の叶えられなかった夢を叶えてくれ」
どこか寂しそうな彼の声は、握手から解放されクラクラと目を回す人形ゴウセルの記憶領域に、ちゃんと記録されたのだった。
◆クラクラしてる人形ゴウセルが可愛かったです♡
- 「最後に会えたのがキミでよかった ディアンヌ……」「キミには ぜひ 御礼がしたい」
改まった壮年ゴウセルの発言に、ディアンヌは屈託なく笑う。
「いいよ 別に~! ボクもキミたちと話せてよかったし」
頓着せずに、壮年ゴウセルは人さし指の先に光をまとわせた。
「受け取ってくれ 心優しき友人」「二人のゴウセルからの 感謝の贈り物だ……」
目を丸くしたディアンヌめがけ、それは飛んでくる……。 - 一方。「恩寵の光」目指しキングは風を切っていた。
- 「まさかロウがオイラたちを裏切るなんて ……なぜ…」
<光の聖痕 >に強い恨みを持っていたとゴウセルは言った。化石の谷の人間の集落の滅亡すら、魔神族と手を組んでの一芝居だったのだと。
<光の聖痕 >への復讐? そのために同族 すら犠牲にしたというのか?
「ゲラード… 無事でいてくれ…」
なまじロウにバンの面影を見たせいで信じてしまった。よりによって妹 の護衛を任せたなんて。自分の判断ミスだ。
『行かないで兄さん!!』
耳の底に、700年前に森を出た時に聞いた妹 の声が木霊する。
「オイラは なんで いつもいつも…」
すぐに戻れるつもりだったなんて言い訳にもならない。妹たちを苦しめた。
『いつも チミは遅れてやってくる』
揶揄を装った亡き親友 の声も聞こえる。
責められて当然だ。いつも、いつも、間に合わなかった。王でありながら、守るべきものに手が届かなかったのだから。
「今度こそ… 間に合ってくれ!!」 - ハッとする。
「まさか…」「ゲラードを守ることが初代妖精王 の言っていた試練…なのか?」「だとしたら――初代妖精王は守ることができなかった?」「いや…!! でも三千年後の世界でゲラードは生きてる ……じゃあ一体!?」 - その時、正面に白く輝く塔城が見えた。
「!!!」「着いた!!!」
木々の合間から、「恩寵の光」前の広場に飛び出す。 - そして、その光景を目の当たりにした時。
全てが止まった。
少なくともキングにとって、その数瞬は。 - 「うそ… …だ…」「そん… ……な」
- 地に突き立てられた血まみれの剣。周囲には、真ん中から断ち切られた羽と、太腿から切断された脚が、それぞれ一対ずつ。
それらの中心に立っているのは、目ばかり光らせた血まみれの男・ロウ。
笑ってこちらを見上げている彼の片腕には、やはり血まみれの小柄な体が抱えられていて、ぽたぽたと血を滴らせている。
涙を流してぐったりと目を伏せた、その姿は。 - 「ゲラー…ド?」
- 右目と右耳を失い、両羽と両足を切断された、哀れな妖精の少女に他ならなかった。
- 次回「それをボクらは愛と呼ぶ」
あなたは、不良が雨の日に子猫を拾っていたら「いい人だ」と思いますか? …彼が傷害や殺人を犯していたとしても。
第210話で、ディアンヌが「<十戒>は大切な仲間を殺されて怒っていたんだから3000年後に大勢を殺しても悪い子じゃない、助けて守ってやるのは正しい」とケロッとした顔で言い切った時、とても驚きましたが、今回は それ以上でした。
申し訳ないけれど、ディアンヌの今回の行動には、理解も共感も出来なかったです。(´・ω・`)
つい1話前(第211話)では、むしろ、ゴウセルと話そうとするキングを止めて、恩寵の光へ救援へ向かおうと急かしていたのに、
今回(物語中では数分も経ってない)になると、恩寵の光へは行かないと首を振る。
その理由は、ゴウセルがこう言ったからですよね。
「俺の目的は 自由の身となり――」「聖戦を終結させることだ」
聖戦を終結させる。その一言を聞いてディアンヌは豹変し、「ただの悪い人じゃない」「知りたい」とゴウセルへの評価を改めたのです。
ゴウセルは何らかの自己犠牲で聖戦を終わらせることになるらしい。
戦争を終わらせる=正義
ディアンヌはそう感じたんでしょう。
加えて、今回の彼は
「全ての種族が キミらのように仲睦まじければ聖戦など起きもしないだろうに」
とディアンヌ(とキング)を褒め殺してますから、まるでエリザベスの理想に近い「全種族が平等に愛し合う世界」を、彼も目指しているかのようですね。
でも、待ってください。
彼はロウたちを手引きして<
自分の目的のために、他者の命を虫けらみたいに使い捨てて、お芝居でも見るように鑑賞し、顧みていないのです。
しかも
「聖戦など どうでもいい」「どうでも…………」「俺には まるで関心がないよ」
と言い切っていました。(第211話)
きっとゴウセルは「魔神族の勝利・魔神王を喜ばせるため」の聖戦に興味がないんでしょう。
自由をなくして魔神王に仕え続けるのに飽き飽きして、魔神族か女神族か、どちらが勝つかなんて どうでもいいから、とっとと終われと。もう死にたい(または寿命が尽きる?)し、どうせなら自分の命を使って聖戦を終わらせてやろうとか?
いずれにせよ、「独りよがりな大義」であると私には感じられました。
その意味では「魔神族の滅亡・女神族の勝利」という大義を掲げて聖戦を終わらせようとしたリュドシエルと変わらないと思うのです。
戦争を終わらせる、という行為自体には、善も悪もありません。
例えば、広島や長崎に原爆が落とされて第二次世界大戦が終結したこと。被爆国の国民としては これを肯定するわけにはいきませんが、アメリカ側には、これを「戦争を終結させるための正義の行いだった」と捉える人もいます。そして実際、戦争はこれで終わりました。
どんな手段であろうとも、戦争を終わらせて平和を生むことはできる。
それでも作中でリュドシエルの行いをディアンヌが嫌悪しているのは、彼が多くの命を失わせ、存在を軽んじたからでしょう。
でもそれは、ゴウセルも大して違わないのでは? 自分の目的を果たす過程で 命が失われても、ケロリとして、むしろ喜んでたんですから。
ディアンヌは「心優しい」という設定です。
そんな子が、殺されていく同胞の救援を実質放棄して、ゴウセルの話を聞く方を優先させるとは。
それが、最大にして根本的な違和感でした。
少々の命を犠牲にしてでも、戦争を終わらせる方策を得る方が大切だから? 実はディアンヌは「小を捨てて大を得る」大きな視野の持ち主だった?
…と思いきや、ゴウセルから具体的なことは何一つ聞き出せてません。丸め込まれてただけ。
一刻を争って殺されていく同胞の救援に向かうところだったのに、ケロリと笑って行くのを拒否。
聖戦の終結方法についてゴウセルと話すかと思いきや、具体的なことは聞き出せないまま「友達」になって「友達の子供(的存在)を育てる」約束をして楽しい雑談終了。
ディアンヌは、目の前で新しいことが起きたら前のことは忘れるのか? 三歩歩いたら忘れるトリアタマか、決まった容量以上は押し出されるトコロテン脳なのか?
はたまた、所詮は過去の世界だから、知らない巨人や妖精が死んでも別にいいやと思ってた?
これが、「心優しい」とか「心が広い」ってことなんでしょうか。
いや。
メタ的には、キングとディアンヌが二手に分かれる、って形にするコトこそが重要で、その状況を作るべくキャラを動かしただけなのかもですが。(ディアンヌが自主的に残るんでない限り、キングは彼女を放置して一人で恩寵の光へ向かわなさそうです)
それでも、展開(ディアンヌの動き方)が不自然で、無理があったなー。という感想でした。(一読者の見解です。)
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ゴウセルさんと「無欲」の戒禁と恋愛
ゴウセルの「無欲」の戒禁に掛かる条件は何なのでしょうか。
生き物は何かしら「欲」を持っています。食べたい、寝たい、繁殖したいといった欲を抱かなければ、生存することもできません。
世界中の生き物が片端から「無欲」の戒禁に引っかかってしまっては にっちもさっちもいきませんから、一定の基準があるんだろうなと思います。
極端に強い欲望しか引っかからない?
…いや。
今回分を読んでて思ったんですけど、「無欲」の戒禁の主な対象って、もしかして「恋愛における欲望」なのかも。
「俺の戒禁にかからないのが何よりの証拠だ」
と言うからです。(「戒禁に引っかかったら恋人じゃない」んですか?)
そして その後で、二人は互いを求めあうのではなく、与えあっているんだろうと補足しています。
恋人に「~してほしい」と求める欲望を抱くのなんて普通のことでしょう。となると、多くの恋人たちは「無欲」の戒禁に引っかかっちゃう?
つまり、術士ゴウセルに直接会った恋人たちは、多くが「記憶と感情を失って」愛を失ってしまった?(人形を介して会うなら戒禁は発動しない?)
術士ゴウセルは、キングとディアンヌの関係が「羨ましいよ」と言いました。
そして人形ゴウセルに「お前は 俺の叶えられなかった夢を叶えてくれ」と言い遺しています。
叶えられなかった夢というのは、ナージャの解釈では「人形ゴウセルが実体験を通して自分の人生を生きること」ですけど、それだけでなく「戒禁に引っかからないような、素敵な恋愛をしてほしい」って意味だったのかな、となんとなく思いました。
術士ゴウセルは、前々から、愛を得て魔神族を裏切ったメリオダスを気にかけていました。羨ましがっているようでもあった。
彼は、自分の愛を己の戒禁で失っていたのでしょうか?
それとも、閉じこめられていて自由がなかったから、誰とも恋愛をしたことがなく(または片想いに終わって)、愛に憧れていたんでしょうか。
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夏の夜の夢
ディアンヌが、「人形ゴウセルが正しい道へ進むよう導く」役に任命されました。
ゴウセル外伝以来、人形ゴウセルは「精神的に赤ちゃん」ぽく描かれてますし、彼を見つめるディアンヌの目が優しかったので、母親代わりに任命された、という印象が湧いちゃいました。(^^;)
今まで、ゴウセルはマーリンに保護・監視されていました。
一時期はスレイダーが母親のように面倒を見ていましたし、エスカノールやギーラとも縁がある。
ですから、ここに至ってディアンヌに保護者役の お鉢が回ってきたのは、結構 意外でした。
(確かに、ゴウセルが王都で暴走した際にはディアンヌが説教・同情してたけど…)
もしも、デイアンヌが母親のように人形ゴウセルを気にかけて面倒見るようになったとしたら。
『夏の夜の夢』じゃないけれど、養い子の美少年を構ってばかりの妖精王妃に、妖精王が嫉妬して、犬も食わないケンカになっちゃったりするかもしれませんね(笑)。