【感想】『七つの大罪』第273話 聖戦の犠牲者
週刊少年マガジン 2018年 31号[2018年7月4日発売] [雑誌]
第273話 聖戦の犠牲者
- 雲海の上を、
飛びエイ 型に変身 したホークは飛んでいる。
「しっかしエリザベスちゃんを攫った あの豚野郎――――エスタロッサ…だっけ?」「あんなイカレぶっ飛んだ豚野郎は初めてだぜ!!」
追いついたと思ったエリザベス救出隊の四人は、再び雲の向こうに見えなくなっている。 - 「エスタロッサ………いや…あの男は――」
その背に またがるゴウセルは、言いかけた口を不自然に つぐんだ。 - 「?」
キョトンとするホーク。 - 幾分 強張った顔をしたゴウセルの脳裏には、3000年前の情景が浮かんでいた。
- 聖戦の最中、あちこちから上がる戦いの黒煙を森外れの高台から眺めて、飛行車椅子に座った『ゴウセル』は、傍らの人形に語ったのだ。
- 『聞いてくれゴウセル…』『聖戦を終わらせるために 私は今から全生命力 全魔力を引き換えに禁呪を発動させる……』
- 『禁呪…』
人形ゴウセルは あどけなく繰り返した。 - 『――それは たった一人の男の記憶と その男を知る すべての者――神々すら―――の認識を変えるものだ』
そう語る創造主に、人形は訊ねる。
『本当に聖戦は終わるの…?』 - 『ああ… それほどに男の存在は強大なんだよ この禁呪が成功すれば 女神族は常闇の棺を使わざるを得なくなる』
術士ゴウセルは人形に険しい目を向けた。
『…そして そのためには少しだけ魔力が足りない …お前にも力を貸してほしいんだ… ゴウセル』 - 『いいよ』
人形は無邪気に即答していた。造物主 を信じ切った幼い笑顔で。 - 術士ゴウセルの顔に、苦い微笑みが初めて広がる。
『…許しておくれ子 に こんな重い罪を背負わせてしまう親 を――――』 - その意味を、あの時、人形は理解できなかったのだ。
何が罪なのか。どれほど それは重いのか。愚かな人形 は考えることすらしなかったのだから。 - エリザベス救出隊の四人は、黙々と雲海の上を飛んでいた。
- 「ありがとう… エリザベス様 救出に手を貸してくれて」
最後尾のデリエリに、表情は緩めぬまま話しかけるキング。 - 「フン」「それだけが目的じゃねえ」
憎まれ口を叩いてから、デリエリは己の復讐を口にした。
「絶対に許さねえ エスタ―――…」「ロ…」
不自然に言葉が途切れ、デリエリは「…?」と眉根を寄せた。 - 黙り込んだ彼女を、キングが少し不審げに肩越しに見やる。
- 一方、サリエルも飛びながら顔を歪めていた。
「くそ! なんなんだ? さっきから あいつの… エスタロッサの憎々しい顔ばかりが頭にちらつく………!!」 - 傍らからタルミエルが茶化す。
「あらあら~~~ マエルの仇が討てるから神経が昂 ってるんじやないの~~~?」 - 「だとしたら なぜ彼の顔が思い出せない?」
苛立たしげに額を押さえてマエルが言えば、タルミエルはハッとした。
「まさか… サリエル あなたもなの~~? 実は さっきから私も妙な違和感が…」 - その時だ。先頭を飛んでいたキングが止まって
「なんだ!?」と驚きの声をあげたのは。 - 「これは―――」
雲間に現れた それを見下ろして、タルミエルが口を開く。
「天空演舞場の跡だわ~~~」 - 女神族の女性像が屋上に座る塔と、そこから橋で繋がった闘技場らしき遺跡。そこが演舞場なのだろう。人工的な岩島が高空の雲中に浮かんでいたのだ。
- 「いた!!!」
その一角を見てキングが叫んだ。 - 「!!!」
ハッとする残り三人。演舞場の中に大きな闇の塊が蠢いており、上部にエスタロッサの上半身が突き出している。
「奴め…!! 戒禁が暴走した 慣れの果ての姿か…!!」
とサリエルが言い、
「あの中からエリザベスの魔力を感じる!!」
とデリエリが指摘した。 - 「エリザ…ベス… オ…お…れの も…のォ…」
ドロドロと滴り蠢く闇は巨人のようでもあり、頭部に当たる部分に突き出したエスタロッサの左右には角か羽のように四つの突起が左右二つずつ形作られている。 - 真っ直ぐに向かった四人は、間髪入れずに攻撃を開始した。
朦朧として接近にも気付かなかったらしいエスタロッサは、ようやく驚いた顔をする。 - その頃、ホークとゴウセルは未だ雲海の上にいた。
- 険しい顔のゴウセルは、3000年前の父の言葉を頭の中で反芻し続けている。
『作り変えた認識は 二度と戻ることはないのか? フム… いい質問だ』『可能性は わずかにだが――――ある』
『禁呪にかかった すべての者の認識は共有される』『仮に そのうちの一人に なんらかの想定外事故 が起こり ほころびが生じれば』『全員の認識が徐々に… やがて一気に決壊する』
『気付きは疑問に――』『疑問は確信に』 - 雲間に天空宮を発見してホークが声をあげた。
「おお!! 雲の上に建物が!! ……って もうなんか おっ始 まってんだけど!!!」
演舞場部分から、連続して爆発音と土煙が上がり続けている。 - 怒涛の攻撃を続ける四人。闇を触手のように四方に伸ばして反撃するエスタロッサ。
- 「ハアアアッ!!!」
真・霊槍 第二形態「守護獣 」を操っていたキングは、近くにいたサリエルが攻撃の手を止めて「ぐ……なぜだ」と呟いたのを聞いて「?」と目を向けた。彼にエスタロッサの攻撃は当たっていないのに、額を押さえてフラついている。 - 「お前の顔は目を
瞑 っても浮かぶのに」
額を押さえたサリエルは苦しげで、びっしりと冷や汗を浮かべてエスタロッサを睨んだ。
「なぜ」「マエルの顔が思い出せないんだ!!」 - デリエリは闇の腕で闇の触手を殴り続けている。
「エリザベスを返しやがれ!!」「エスタロッサ!? 誰だ てめえは!?」「そんな奴は<十戒>にいねえ!!」 - 「ありえない…わ!! いつからマエルの顔が思い出せない…の?」
タルミエルは指が食い込むほど強く己の顔面を片手で覆った。
「どうして思い出せないことに なんの疑問も抱かなかったの~!?」 - 「うぐぐ…」と苦しむタルミエルを見て、キングが戸惑う。
「全員の様子が変だ…」
そこに闇の触手が鋭く伸びたが、見事な反射速度で「はっ!!」と身をかわした。改めて触手の主を見やる。皆がおかしくなったのは、
「エスタロッサの仕業なのか!?」
キングには何の影響もないというのに。 - 闇の触手で攻撃しながら、エスタロッサは喚き続けていた。
「エリザベスは… お…れの…だ!!!」「アニ……キ…」「メリオ…ダスが… わるいんだァァァ!!!」 - 対抗するキング、デリエリ、サリエル、タルミエル。
- 「オ……レ…の」「ニイ……サ…ン?」
両目を塗りつぶした闇を涙のように顔面に垂らしながら、エスタロッサは戸惑ったように呟く。 - エリザベスはエスタロッサの闇の中にいた。
閉じた両手両足をまっすぐ伸ばして仰臥し、水底に沈んだように髪やスカートを揺らしている。口元から僅かな泡を立ち昇らせて両目を閉じていた。 - (エスタロッサ… あなたは勘違いしているのよ…)(メリオダスは弟を傷つけるような嘘は つかない)(彼はいつだって気にかけていたわ)(ゼルドリスのことを―――)
- 違和感に、彼女は目を開けた。
(え?) - そうだ。メリオダスはゼルドリスの話しかしたことがない。
3000年前の天空演舞場で、並んで座って、彼の話を聞いたことを思い出した。
『……俺は どうにかしてゼルドリスと恋人 を救ってやりてえ……』
そう言った恋人 の横顔を、エリザベスは微笑んで うっとりと見つめたものだ。
『そうね… でも あなたは本当に弟思いなのね』
『ゼルドリスは たった一人の弟だからな』
彼も穏やかに微笑んでいた。 - 現実のメリオダスは、弟を裏切り、人伝に苦境を知って「いつか救ってやりたい」と遠くから夢を語るばかりの兄である。
だが、エリザベスには関係なかった。今ここで、彼は心の底から弟を案じている。それで充分ではないか。メリオダスは誰よりも弟想いの優しい男なのだ。
◆私が弟だったら、その時点でも絶賛裏切中だったメリオダスに 今更いい兄ぶられたり、兄の裏切りの元凶たる女に「本当に弟想いなのね」と 恋してる女の顔で うっとり言われたら、その無神経さと身勝手さにイラッとすると思います。
しかし、この漫画においてはメリオダスとエリザベスは常に正しいことになっているので、そう前提して読まねばなりません(苦笑)。
今までの感想でも何度か書きましたが、メリオダスが魔神族の裏切り者で<十戒>とは仲間だったと判明してなお、エリザベスが「彼を身内と戦わせていいのか、彼を苦しめているんじゃないか」と苦悩する場面が一度もなかったのは疑問であり、不満でした。
3000年前のエリザベスも、メリオダスを魔神族と戦わせること自体に苦悩や迷いを見せる描写はなかった。メリオダスの引き渡しを要求した<十戒>に一歩も引かずに反抗する描写はあったけど。
もしもメリオダスに裏切らざるを得ない「可哀想な事情」があったと、今後追加設定が来るとしても、それを せめて弟や<十戒>には伝えるべき・伝える努力をすべきだったと思いますが、何度 顔を合わせても それもない。
3000年ぶりに顔を合わせたゼルドリスへのメリオダスの言葉は「宣戦布告」でした。
それが今更、メリオダスは聖戦当時から とっても弟想いなんですと語り、エリザベスは他人事みたいに「あなたは弟想いなのね」と 頬染めて称えている。
もしや、<十戒>二人を殺し魔界を破壊して出奔したというメリオダスの裏切りも「術士ゴウセルの仕業だった」「本当は弟を捨てるつもりはなかった」と責任転嫁されることになるんでしょうか。(;^ω^)
うーん…。なんで、ここのエリザベスの表情は「うっとり」なんでしょうね。
悲しそうとか後ろめたそうとかの、罪悪感の感じられる表情だったら共感できたのになあ。
まあ、この会話時点でまだメリオダスが魔界を出奔してなかったと想定すれば、エリザベスが他人事な態度でも納得できるか? でも、ゲルダが封印されてない時点で「救ってやりてえ」という大仰な表現なのは変ですしね。 - (…………どういうこと…?)
エリザベスは記憶を探る。
(じゃあ…… エスタロッサは?)
少年エスタロッサと天空宮の草原で語り合った場面を探り当てた。
◆女神族の天空宮だと思われる、雲の這う草原ですが、奥に建ってる塔(?)がキノコみたいな形で、ちょっぴり妖精族っぽさもある。
- 『みんなが… 私を虫一匹殺せない腰抜けだって…』
『そんなこと気にしているの?』
『でも私が兄の顔に泥を塗っているのは事実です………』 - エリザベスは独りぼっちの少年を慰めている。足元から「オン!!」と子犬が鳴いた。
『…その犬は?』
『ケガをして動けなくなっていたの この子』
『名前は… あるんですか?』 - 抱き上げれば、子犬は尾を振ってエリザベスの頬を舐める。くすぐったさに笑いながら、あの時、自分は言ったのだ。
『エスタロッサ!!』『メリオダスがつけてくれたの いい名前でしょ?』 - (そんな…)(エスタロッサが あの子犬の名前?)
- 少年が苦しげに俯いたのにエリザベスは気付く。
『どうしたの…? 変な顔して…… 気に入らない?』
『あ…… いえ… 別に…』 - (じゃあ あなたは誰なの?)
記憶の映像がノイズと共に乱れた。
メリオダスと同じ魔神の紋様、同じ髪型、漆黒の瞳で、胸元を大きく開いた魔神族の服を着ていた少年の姿が変わる。
(そ…んな)(その姿は…)
気弱げな顔立ちはそのままに、瞳には女神の紋様 、明るい色調のカッチリした女神族の服、そして純白の二対四枚の翼。 - 銀色の長い髪を垂らした女神族の少年は、ぎこちなく微笑んだ。
『いい名前だと思います……』 - (あなたは まさか)
- 演舞場では、タルミエル、サリエル、デリエリの三人が、とうとう戦いの手を止めていた。
それぞれ顔を歪めて冷や汗に濡れ、床にうずくまって、混乱した目で頭を押さえて呻いている。
「うう…」
「ぐああ…」 - 彼らだけではない。エスタロッサも動きを止めて、「お゛」「お゛」と獣のように呻いていた。
- 平然としているのはキングだけで、「?」と戸惑って周囲を窺っている。
- 「おいおい見ろよ!! キングと俺たち以外 全員 苦しみ始めたぜ!!?」
演舞場の客席最上部に降り立ったホークが、エスタロッサと四人を見下ろして「プゴッ」と鼻を鳴らした。足元には ひりたて ほやほやのウンチが湯気を立てており、変身 を解いて元の姿に戻っている。 - 「…いよいよ共有する認識が決壊したんだ!」
隣で見下ろして、ゴウセルが独りごちた。
「彼を知る全員の記憶が」「あるべき姿に戻る――――」 - その時、闇まとうキャメロットにも異変は伝播していた。
潜入を果たした強襲部隊のリュドシエルが うずくまって苦しみ、ゼルドリスやキューザックは、程度は軽いが愕然とした様子で頭を押さえて立っている。 - そして、エスタロッサ本人は。
闇から突き出した半身を痙攣させる彼の脳裏では、凄まじい速度で記憶と認識の修復が始まっていたのだった。 - ゴウセルは語る。
「魔神族としての記憶は 女神族としての記憶に」「兄 メリオダスとの思い出は 兄 リュドシエルとの思い出に」 - 戦闘中に女神族から助けてくれた勇ましいメリオダス。兄メリオダスへの憧れ。エリザベスとの仲を取り持つと約束してくれた優しいメリオダス。抱き合うエリザベスとメリオダスを目撃した怒りと惨めさ。殺したマエルを足下に見て ほくそ笑んだ栄光の日。
その記憶が、変わる。
戦闘中に魔神族から助けてくれた勇ましいリュドシエル。兄リュドシエルへの憧れ。エリザベスとの仲を取り持つと約束してくれた優しいリュドシエル。抱き合うメリオダスとエリザベスを目撃した怒りと惨めさ。頭部をゴウセルの洗脳の光に包まれ、何もない足下に幻を見て佇んでいた破滅の日。 - 「ぐわあああ~~~~~~っっ!!!!」
エスタロッサは絶叫した。
叫びと共に風が渦を巻き、うずくまっていたサリエル、タルミエル、デリエリは弾き飛ばされ、浮いていたキングは「ぐっ」と身を庇って耐えた。 - 「うわわわわっ 何が始まんだ!? やっべーんじゃねぇのか~!?」
大小の瓦礫を巻き上げた風は演舞場の最上部にまで達し、ホークは耳をかざして己の目を守りながら逃げ腰を見せた。 - ゴウセルは身を庇うことなく、風に髪を弄ばさせて仁王立ちしている。
「万が一の場合は俺が止める この命に代えて」 - 「ゴ…」「ゴウセル………!?」「いでっ」
巻き上げられた小石が鼻づらに当たるのも構わず問いかけたホークの視線の先で、ゴウセルは覚悟の目で演舞場を見下ろしていた。
「それが ゴウセルと共に背負った 俺のもう一つの罪と」「責任だから」 - エスタロッサを包んでいた闇、その角のようにも見えた四つの突起から、殻が割れたように闇が剥げ落ちていく。中から純白の翼が現れ始めた。
- 「ほええっ!? 真っ黒な闇の塊から―――うそだろ!?」
鼻息荒くホークが叫ぶ。 - 「あれが真実だよ」
にべなく ゴウセルは言った。
「<十戒>エスタロッサなど はなから存在しない」「みんなが そう認識していた あの男の正体こそ」 - エスタロッサを包んでいた全ての闇が、乾いた泥のように崩壊していく。
- 「バカ……な!!」
激しい頭痛を感じているのか。苦悶に顔を歪めて、サリエルはそれを視界に捉える。 - 「うそよ… うそよ!!」
荒い息を吐くタルミエルは、頭痛のせいか精神的衝撃からか、涙まで流していた。 - 全ての闇が剥がれ落ちた後に残っている、裸体の男。
- ゴウセルは告げる。
「<四大天使>マエルだ」 - やはり頭を押さえて苦悶する男の背中には、二対四枚の純白の翼……女神族の証が突き出していた。
- 次回「絶望の堕天使マエル」
エスタロッサの正体が<四大天使>マエルだったという衝撃の真実が明かされました。
エスタロッサの正体はマエルではないかとは、第246話(エスタロッサが草原でエリザベスと会話する夢を見た回)の頃から、鋭い読者の方々の間で考察されていました。
けれど私は反対派だったので、自分の希望が外れて残念です。(;^ω^)>
なんで反対派だったかというと、以下の点で疑問があったから。
- 女神族が魔神族になるのはあり得ないと考えていた
~~女神族の血に触れるだけで魔神族は焼けただれ、女神族の光輝 に包まれれば泡のように崩れる。また、メリオダスは3000年前のインデュラ事件の際「自分の魔力ではエリザベスの魔力と相殺するので加勢できない」と言っていた。
以上から、女神族と魔神族は相反・相殺し合う存在であり、他種族が闇を得て魔神化することがあっても、女神族が魔神化することだけは あり得ないと思っていた。 - 魔神エスタロッサが、少なくとも少年時代から実在したと前提して考察していたので、正体がマエルなら時間的な辻褄が合わないと思っていた
- マエルがエスタロッサに擬態・憑依しても、誰にもメリットがないと感じ、無意味に大掛かりなことをするのは おかしいと思っていた
まさか、最もネックだったBの件を「術士ゴウセルが命をかければ、神々含むメインキャラ全員の記憶を書き換えることが出来るのです。これまで語られた回想や、ファンブックの情報は、どれも嘘でした」というトンデモな理屈で 片づけてこようとは…。
『天空のエスカフローネ』という、ファンタジーロボットアニメがありました。
ディランドゥという敵キャラは、十代半ばの将兵で、ゲラゲラ笑いながら残虐行為をしたり・突如キレたり・異常に執念深く主人公を付け狙ったりと、美少年なのに顔芸が得意な、頭のイカれた奴でした。彼が率いる部隊は全員 美少年で、彼らを性的に侍らせるゲイでもありました。
それが最終回近くになって、突然 明かされたのです。
彼の正体は、主人公の仲間の騎士アレンの生き別れの妹・セレナだと。
は? いや、ディランドゥは間違いなく男だったでしょ肉体的に。それに、これまでの回想で描かれてきたセレナとは、髪の色も髪質も目の色も性格も、ぶっちゃけ顔立ちも、なんもかんも全く違うじゃないですか。
…と、戸惑ったところが。
なんでも、幼い頃に攫われたセレナは「運命改変装置」で運命を書き換えられ、記憶は消え・容姿は変わり・性別すらも変わって、改変の影響で情緒も不安定になってイカれていたのだそうです。
ディランドゥなんて最初から存在しなかった。正体はセレナ。それが真実だと。
全然判らなかったスゴイ製作者は天才だ! と絶賛した視聴者もいたでしょう。フーンそうなんだ、と気にせず受け入れた視聴者もいたでしょう。
しかし「なんじゃそりゃぁあ!? 記憶も容姿も性別さえも変わったなら、それはもう別人じゃねーかああ! ビックリさせれば いいってもんじゃねーぞ、つーか運命改変で肉体も精神も別人にって、説明付けが無茶過ぎじゃああ!!」と、怒った視聴者もいたでしょう。
ハイ、私は怒った視聴者でした(苦笑)。
そして、今回のマエルロッサの件にも、よく似た怒りを覚えたのでした。
推理小説の十戒じゃないけど、例えて言うなら、密室殺人の謎を真面目に考察して推理小説を読んでたら、「犯人は たまたま生じた時空の歪みを使ってトリックを完成させていた」とか明かされちゃったみたいな。なんか、すごく理不尽な「ルール違反」をされたような怒りです(苦笑)。
「当事者全員の記憶を書き換えることで成立するトリック」なんて、私の感覚では作劇の禁じ手であり、ルール違反でした。
気にしない読者も多いのでしょうし、作者さんの作風ってやつなんでしょうけども。
できれば、多用はしてほしくないなー。(;^ω^)
なお、私と同じように怒りを覚えた読者は一定数 存在していたようです。
あるいは、単に お気に入りだった「魔神エスタロッサ」が存在しなかった・彼周りのエピソードの殆どが茶番だったことにショックを受けている人とか。
前話が掲載されてから二週間、国内外のファンフォーラムは荒れに荒れていました。長文での意見交換が許されている欧米文化圏の方が、より激しかったように思います。
しかし、これで作中の既存情報が、全て疑わしくなっちゃいましたね。
全生命力を使うまでしなくとも、術士ゴウセルや人形ゴウセルが、数人の記憶の書き換え程度なら多用していた可能性が否定できなくなったからです。
例えば、「メリオダスが<十戒>のアラナクとゼノを殺し、魔界を破壊して出奔した」件。
フラウドリンに語っていた様子からして、術士ゴウセルは現場を目撃していた・その場にいたっぽい。
アラナクとゼノをメリオダスが殺したのも、果ては、メリオダスが魔神族を裏切ろうと決意したのさえも、術士ゴウセルの記憶の書き換えの結果だった……なんてことも有り得ちゃうかも。
下手すれば、聖戦周りの殆どのエピソードがゴウセル劇場化して、茶番になるのかもしれません。
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読み返してみるに、エスタロッサ=マエルであることが、はっきり判る形で描かれ始めたのは、まさに第246話からですね。
この回の扉絵はカラーで、魔神三兄弟とエリザベスが長椅子に座っている絵でした。そして長椅子の背もたれの木彫りの装飾が、エスタロッサの背後が「女神族たち」の姿を彫ったものだったため、これはエスタロッサの正体が女神族だと暗示しているのではとは、多くの読者の人口に膾炙していたものです。
ただ、その伝で行くと、エリザベスの背後に「魔神族たち」の装飾があるのは、理屈が当てはまりません。なので私は考察を保留にしていたんですが、多くの方々の予想通りでした。
で。
改めて この回の扉絵を見てみて、やっと気づきました。
雑誌掲載時は文字が被さっていて、絵が見えなかった部分。
文字無し版を見てみますと。
あら?
右側に彫られている女神族(↓赤丸で囲った部分)、リュドシエルっぽくないですか?
じゃあ、その左側(後ろ)にいる長髪の女神族(↑青丸で囲った部分)は、マエルだったのか!?
なんと、この時点で早々にネタバラシがしてあったんですね。
なのに雑誌掲載時には文字で隠れてしまい、単行本収録時には白黒になって縮小されたため、読者の目に留まりにくかったという…。あはは(;^ω^)。
ところで、3000年前の過去修業編に、リュドシエルが「メリオダスとは手を切れ、あなたに相応しい相手は他にも…」とエリザベスに迫ったエピソードがありました(第203話)。
リュドシエルが弟の恋を応援すると約束していたと今回確定しましたから、リュドシエルが言った「あなたに相応しい相手」とはマエルのことだったのだ…と解釈できるようになりましたね。
ただ、私個人の意見としては、第203話が描かれた時点では、「マエルがエリザベスに恋しており、リュドシエルは弟との仲を取り持とうとしていた」設定は、まだ存在していなかったと思っています。
何故なら、この場面のリュドシエルは、エリザベスに いわゆる「顎クイ」して、少女漫画の当て馬役みたいに迫っていたからです。とてもじゃないですが「弟の恋を取り持とうとしている弟想いの兄」の態度ではありません。
もう一つ。この場面では、リュドシエルに恋するネロバスタが、静かに嫉妬していた様子も描かれています。「リュドが弟の恋を取り持とうとしていた」設定に基づいた場面ならば、そんな描写を わざわざ入れないでしょう。「弟のため」なら、それをネロバスタが知らずにいるとは思えないからです。
……と思うんだけど。(^^;)
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エスタロッサの正体がマエルと判明して振り返ると、腑に落ちないナと思うこと。
●どうして、エスタロッサの額に メリオダス・ゼルドリス・魔神王と同じ形の魔神の紋様があったのか?
他の魔神に あの文様はありません。戒禁の文様でもありません。魔神王の血統を示す文様だと思われます。
マエルが闇を得て魔神化したとして、どうして魔神王の血統を示す文様が浮かんだのでしょうか。
●どうして、エスタロッサは「触れるだけ」で小鳥を魔神化することが出来たのか?
他の魔神がそんなことをしたことはありません。グレイロードが人間を魔神化する際は、種を植えて卵の中で育てねばなりませんでした。
「自分は魔神だと思い込んでいた女神族」に過ぎない彼が、どうして そんな特技を持っていたのでしょうか。
●どうして、エスタロッサはメリオダスと対のような「
まさか、魔神化した後で独学で習得したんでしょうか(汗)。魔力依存の技らしいのに、練習すればできるようになるものなの?
なお、ファンブックには、エスタロッサの魔力は「
●どうして、エリザベスの夢でメリオダスとエスタロッサが混同されていたのか?
エスタロッサの正体がマエルだと示す夢…にしては腑に落ちません。
出会う場所が、マエルと いつも会っていた草原のイメージ…というのは解る。しかし、どうして「<七つの大罪>のメリオダス専用の鎧」を着たイメージだったのか。加えて言えば、アニメ版では この人物は髪の色は、エスタロッサ(マエル)の銀髪ではなく、メリオダスの金髪でした。
マエルは「メリオダスの弟」に擬態していたのであり、メリオダス本人に成りすましていたわけではありません。なのに、どこに二人を混同する要素があるのか?
まあ、こうした疑問も、作者さんはフワッとした感じに処理しそうですよね。
どうしてメリオダスと同じ紋様があったの?→マエルが自分をメリオダスの弟だと思い込んでいたから、思い込みで、文様の形もメリオダスと同じになったんじゃない?
どうして触れるだけで魔神化できたの?→女神族だから戒禁の力が馴染まずに肌に漏れ出ていたんじゃない?
どうして「
どうしてエリザベスの夢でエスタロッサとメリオダスが混同されてたの?→ただの夢です。意味はありません。
…とか(笑)。
ちなみに、指名手配のメリオダスの似顔絵がエスタロッサに そっくりだったのは、作者さん曰く「偶然」で、意味なんてないんだそうです(苦笑)。ひでえ。
え、フラウドリンがエスタロッサをイメージして似顔絵を描かせたんだろうって? 大人に成長したメリオダスは弟に似ているだろうと思ったんだろうって?
いやいやいや。フラウドリンはメリオダスが「成長しない」ことを知っていたんですから、そもそも「大人になったメリオダスの想像画」を指名手配の似顔絵として描かせるハズがありませんよね。よって、あの指名手配画にフラウドリンは関与していないと思います。
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エスタロッサがマエルだと判明して読み返すと、笑える場面が色々ありますね。
赤の他人でした。
(そーいや、ここの後引き文に「剥き出しの憎悪は愛ゆえなのか」と書いてあるけど、「慈愛」の戒禁が発動してない以上、この場面のエスタロッサは、メリオダスに一片の憎悪も抱いてなかったってコトになるのよね?)
赤の他人でした。
ゴウセル劇場、ウケる(笑)。
エスタロッサのこの歪んだ愛は、本来、リュドシエル兄さんに向けられるハズのものだったのでしょうか。
リュドさん逃げてー!
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エスタロッサは犬
「エスタロッサ」という名前は、本来、エリザベスが助けた子犬の名前だったと判明。
……なんで犬の名前なんて自分に付けたのマエルくん。しかも、憎い恋敵のメリオダスが付けた名ですよ。
それはさておき。
思わせぶりに『名前が思い出せない』と語られた、あの小犬の名こそが「エスタロッサ」だったんだろうなとは推測していたので、それだけは当たりました。(^^;) 全外れじゃなくてよかったです。
とは言え私、犬のエスタロッサと誰かの記憶や魔力を混ぜて作られたのが魔神エスタロッサという可能性もあるかも? などと考えていたので、そちらは大外れでしたね。
何故そう思ったかというと、エスタロッサの回想を見るに、メリオダスとエリザベスの密会の場面に、エスタロッサが常に同席していたかのように語られていたから。(エリザベスの回想だとメリ&エリ二人きりなのに。)
二人の密会にエスタロッサが混じるのは奇妙だと感じたし、それをエリザベスが覚えていないのも不自然だと感じました。
ならば、この記憶は魔神エスタロッサ本人のものではなく、二人の密会に常に同席しても不自然ではない存在……即ち「犬」の記憶ではないのか、と思ったのでした。
魔神エスタロッサに犬の記憶も混じってる? とか思ってた。
でも、今回のエリザベスの回想見るに、彼女はメリオダスと付き合っていることをマエルに隠していなかったようですね。
つまり、二人の密会にエスタロッサ(マエル)が同席していたというのは、事実だったっぽい。
……それ、正直、気持ち悪いんですけど。
メリオダスは魔神軍の実力トップで王子。マエルは女神軍の実力トップ。
その二人がエリザベスを挟んで仲良しごっこの密会して、戦場では互いの種族を大量に殺し続けてたんですか。そしてまた密会して仲良しごっこ。
それを、マエルが少年から青年に成長するまで…数百年(200~300年?)も続けていた?
なんか、とっても気持ち悪いです。うーん…。
犬のエスタロッサは、その後、どうなったんでしょうね。
魔神王がメリオダスの監視役にしたとか、ホークの超前世ですとか、語られるんでしょうか。
……いやいやいや。
よくよく考えてみたら、女神エリザベスが犬のエスタロッサを飼っていたのは、マエルが少年だった時代。聖戦末期にはマエルは青年に成長していたんですから、数百年経っているはず。
ただの犬が何百年も生きるわけないので、マエルが少年の頃に寿命で死んでいたはずですよね、犬のエスタロッサは。
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個人的には、
「聖戦を止めるために、関係者全員の記憶を書き換えて、女神族マエルを魔神エスタロッサにする」
というゴウセルの理論は、スッキリしない・納得し難いものがあります。
女神族の英雄だったマエルの関係者全員って、数十人、下手すりゃ数十万人単位ですよね。更に、神々の記憶すら書き換えたという。
命を捨てれば、そんなこともできちゃうよ、と。
そこまでの覚悟があり、そんな反則行為までできるのなら、こんなピタゴラスイッチ的に 回りくどいコトをせずとも、もっと「直接的に」聖戦を止められたのではと思わずにいられません。
魔神族は封印され、女神族は肉体を失った。
この結末を、「誰も死ななかった平和的な終戦」と思う人もいるのかもしれません。
しかし私は、これは事実上の両種族滅亡であり、バッドエンドだと思います。
女神族は以前から「常闇の棺」を用意していたけれど、それを使うことを躊躇っていた。使えば自分たちも肉体を失い事実上滅ぶと、解っていたからだと思います。
常闇の棺は、例えるなら「核ミサイル」だったのではないかと。絶大な効果は期待されるが、使うのは戦争とは言え人道的に問題があるし、自分たちにも被害が及ぶ。だから、なるべく使わずに済ませたい、と。
術士ゴウセルは、核ボタンを押させたかったのでしょうか。
単行本連載の番外編『祭壇の王』にて、女神族ジェラメットが語っていました。
「エリザベスとメリオダスが最高神と魔神王に罰を受けて姿を消した後、突如エスタロッサが台頭して、マエルを殺した」と。
ところが、実際にはメリオダスとエリザベスも、術士ゴウセルによる記憶改変を受けています。ジェラメットの話とは、時系列に矛盾がある。
まさか、術士ゴウセルの記憶改変は、今回 明かされたマエルロッサの件以外にも及んでいるのでしょうか。
魔神王と最高神が仲良く並んでメリ&エリに罰を与えた、あの奇妙な状況すらも、実は術士ゴウセルに操られてのことだったり?
メリ&エリが無事でいると和平してしまうので、神々を操って二人に罰を与えて退場させ、その隙に「核ボタンを押させた」、なんて可能性は…?
超規模の記憶改変なんて禁じ手を使われてしまうと、何もかもが疑わしくなってしまいますね。
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十人目の<十戒>
魔神エスタロッサが「存在しなかった」と確定したので、聖戦当時の<十戒>の人数が足りなくなりました。
メリオダス 出奔前 |
メリオダス 出奔後 |
封印直前 | |
---|---|---|---|
慈愛 | メリオダス | 欠員 | エスタロッサ |
敬神 | カルマディオス | カルマディオス | ゼルドリス |
信仰 | メラスキュラ | メラスキュラ | メラスキュラ |
沈黙 | モンスピート | モンスピート | モンスピート |
純潔 | デリエリ | デリエリ | デリエリ |
無欲 | ゴウセル | ゴウセル | 欠員 |
真実 | ガラン | ガラン | ガラン |
不殺 | ? | ? | グレイロード |
安息 | アラナク/ゼノのどちらか | 欠員 | グロキシニア |
忍耐 | アラナク/ゼノのどちらか | 欠員 | ドロール |
グレイロード以前に「不殺」だった、未だ語られていない<十戒>がいる…?
いやいやいや。エスタロッサの回想は嘘だったわけで、実はメリオダス出奔以前から、ずーーっとグレイロードが「不殺」の<十戒>だったのかも??
もしも、これまでの定説どおりグレイロードが比較的新しい<十戒>だったとしたら、それ以前に「不殺」の<十戒>だったのは、誰なんでしょうか。
個人的に推したいのは、第26巻の描き下ろし中扉でガランが思わせぶりに語っていた「インデュラ化してしまった同胞」バルージャです。
で。このバルージャさん、ガラン爺さんは「どこを彷徨っておる」なんて言ってますが。もしかしたら女神族の天空宮で大きな卵型の石に封印されちゃって、3000年そのままになってましたか? それを女神族の子孫の天翼人たちが護ってた?
いや、劇場版『天空の囚われ人』の予告編に一瞬だけ映ってる しっぽ(?)が、インデュラ化したバルージャさんっぽいかもと お見受けしたので。
劇場版のラスボスがバルージャさんで、元<十戒>か、チャンドラーたちのような実力者だったのかも、と勝手に思ったりしています。
例によって的外れかもですが、公開前の今なら想像は自由っス。(^^;)
劇場版の入場特典の描きおろし漫画では、3000年前の<十戒>統率者時代のメリオダスやマエルの姿が描かれるそうですが、バルージャのインデュラ化前の姿や、当時の<十戒>だったアラナクやゼノの活躍も見られるんでしょうか。