【感想】『七つの大罪』第240話 未来への礎
週刊少年マガジン 2017年47号[2017年10月25日発売] [雑誌]
第240話 未来への
- それはもう、200年前のことだ。マーガレットの白い花が咲いていた あの場所を夜明けに去った、あの日のこと。
- 昨夜まで人間の村だった地には、日が高くなっても炎と黒煙が上がっていた。家が焼け見通しの良くなった場所には、男も女も老人も子供も、逃げまどって背を裂かれたまま、村人たちの遺体が哀れな様子で散らばっている。
- そんな中に、一人だけ、背に大きな羽を生やした妖精の少年が仰臥していた。物言わぬ彼の胸には、何かに貫かれたような傷口が紅い薔薇のように開いている。
- 沈黙した村人たちに代わり、今、この地を慌ただしく動き回っているのは甲冑に身を固めた聖騎士たちである。
『よーし このまま王都に連行しろ!! 町々を襲った犯人の妖精を捕らえたとな』
彼らは小柄な少年に手枷をかけて縄で引いていた。行く先に待つのは物々しい護送馬車だ。前後を聖騎士に挟まれて大人しく引かれていく後ろには、同じくらい小柄な金髪の少年聖騎士が歩いていた。 - 車輪をガラガラ鳴らして馬車は走る。
従順な少年を侮り切っているのか、聖騎士たちは皆、席で居眠りをしていた。
一人だけ眠らずにいた金髪の少年聖騎士が、ぼつりと問いかけてくる。
『…なんで真実を言わねえんだ? やったのは死んでいた妖精だろ?』『このままじゃ お前が犯人にされちまうぜ』 - 『……』『
人間 に何がわかる……』
手枷をはめられた少年…ハーレクインは、無表情に応えた。
『五百年苦しみ続けた親友に気付かず… 森で帰りを待つ妹を忘れ去り――』『大切な女の子 との約束さえ……… 破って…しまった』
表情の抜け落ちていた顔に、洗ったような微笑みが浮かぶ。
『オイラは最低な王様さ!!』
同時に溢れた涙が、とめどなく丸い頬を濡らしていった。 - 声を殺して泣くハーレクインに、少年聖騎士は少し驚いた様子で確かめる。
『お前… まさか…』『妖精王だな?』 - 枷のはまった手で涙を拭うのをとめて、ハーレクインは身を固めて少年を窺った。
返答はしない。 - 『…王なんて
自分 のやりたいことをして 気に入らねえ奴は殺すだけのクズとばかり思ってた』
しかし構わずに、少年は飄々と毒を吐いて、ニカッと笑った。 - 『…お前みてえな王も いるんだな』『誰かを想って泣ける王が』
- ハーレクインは顔を上げる。
- 『…お前は立派な王様だよ』
- その頬に、再び涙が流れ落ちた。
- チャンドラーを沈め、飛び散った瓦礫がガラガラと鳴っている。あの日の馬車の車輪のように。
- 勢いづいたホークが怒りの鼻息荒く、横たわるチャンドラーに駆け寄っていく。
- (忘れてないよ 団長…)
キングは返り見た。再びエリザベスの胸に抱かれた、眠り続ける金髪の少年を。
(初めて出会った時の あの一言にオイラは救われたし)(キミのことが好きになった)
エリザベスは安堵した様子で、腕の中に愛おしげな眼差しを向けて微笑んでいた。
(オイラ… 少しは立派な王様になれたかい?)
そんな二人を見るキングの顔にも微笑みが浮かぶ。 - その肩を、ポンッと大きな手が叩いた。
「団ちょも俺たちも みんな助けられたぜ」
「バン」
いつの間にか傍らに歩み寄っていた義弟の顔を、キングは見上げる。彼も二人の方を見て微笑んでいた。
「キング… てめぇのおかげでな~~♬」
初めてかもしれない。バンに手放しで労 われたのは。 - 「そうそう♡」
今度は足元から可愛い声がした。
「えい!」と肩に飛び乗ってきたのは、小さなディアンヌだ。
「えへへーーー♡ たまには こんな大きさになるのも悪くないかもね?」
ちょこんと肩をまたいだ彼女は、改めて意識するに全裸である。 - たちまちキングの顔に血が昇り、鼻から たらりと流れ落ちた。卒倒するほど鼻血を吹いていた一年前に比べれば、だいぶ慣れたと言えるのだろうが。
- 「…その前に まず服を!!」
理性の総動員で目を逸らしたものの、顔はニヤけて息は勝手に荒くなる。
「じゃあ このサイズ用に新しいやつ作って♡」
くすくすと笑う彼女は、愛撫するように つんつん と恋人の耳をつついた。 - ホークは動かないチャンドラーの前で しゃっしゃっ とステップし、「超必殺アトミックチョリソーーー!!!」と体当たりしている。
- 「ああ…
でもチャンドラーは倒したんだし 元に戻ってもいい頃じゃ…」
チラ、と横目で恋人を盗み見ながらキングは呟いた。
「この「夜」だって消えておかしくないんだけど…」
チャンドラーが もたらした 時ならぬ「夜」は、未だ天地に居座ったままだ。
「………………」 - 何かがおかしい。そう
訝 り始めた時だった。バキンッ みし みし… パキ パキ パキンと、硬いものが割れる大きな音が響き始めたのは。 - 全員がぎょっとして周囲を見回し、ホークも死体蹴りをやめて「ほえ? なんの音だ!?」と狼狽えた。
- 「ゴウセル…様?」
音の出所らしい彼にエリザベスが戸惑った声をかける。キングとバンらも、不思議そうな顔を向けた。 - 「みんな ごめん」
そう言った彼の右肘が、バキ と音を立てて捻じ折れる。
「…俺は ここまでみたい」
体全体が バキリ、と音を立てて よじれ、不自然に捻じれた首筋に ペキ とヒビが走った。
目を開けたまま表情を失った身体が両膝をついて くずおれ、折れた両腕をぶらつかせて顔面から地に倒れる。 - ゴウセルは壊れた。
- 「なん……で?」
呆然と呟くホーク。
「呪文は俺が消したはず」 - 「ゴッ…」「ゴウセルーーー!!!」
仲間たちは彼の名を叫んだ。 - 体中ズタズタの彼に、エリザベスが治癒術を使ったが。
「ダメ……」「私の魔力ではゴウセル様の傷を癒せない」
彼は生き物ではなく人形だ。治癒術で癒せるはずがない。 - ゴウセルがチャンドラーに「
絶対強制命令 」を掛けられていたことを知らないバンたちは、理由も解らず うろたえるばかりだ。 - そこでハッとするホーク。
傍らに横たわるチャンドラーの右掌。そこに『目』の形の呪印があるではないか。
呪印が消えぬ限り、命令に逆らえば壊れる。そう聞いたホークは、血で描かれた呪印を舐めて消したつもりだったのに。
「そんな… うそだろ」「呪文は… 消えちゃいなかったのか!!!」 - 呪印の描かれた右手の指が、ピクッと動いた。
- その頃、キャメロット城。
「魔術士チャンドラー破れたり……か」
未だ日は高い。晴天を背に、キューザックが右手でティーポットを高く掲げ、左手の盆に載せたティーカップに紅茶を注いでいた。
「<七つの大罪> なるほど なかなかの強者 ぞろいらしい…」
如何なる方法で それを知り得たのか。悲報を口に上らせ、しかし笑みは少しも崩れていない。
◆一見、通っぽくカッコイイ キューザックの紅茶の淹れ方。
でもよく見ると、んん? 一説に、ヤカンからティーポットに湯を注ぐ際に高い位置から注いで空気を含ませるといいと言いますが、 茶をカップに注ぐ際にティーポットを高く掲げています。地味に謎です。
ミルクティーを泡立たせて まろやかにしたい? それとも、実はゼルドリスが猫舌で、冷ましてあげたいのでしょうか。 - 「だが その半端な強さが 奴らの命取りになる…」「さっさとメリオダスを手放すなり殺されればよかったものの」
そう言って、気取った仕草でティーカップをゼルドリスの着いたテーブルに置いた。 - ゼルドリスは茶を一口飲み、目を伏せて眉根を寄せる。
「まずいな」
苦虫を噛み潰した顔でカップをソーサーに置いた。 - 「おや ゼルドリス様 それは私の
淹 れたお茶への… それともこの状況に対しての苦言でしょうか?」
「両方だ」
ガーン、と トホホ笑顔で固まるキューザック。 - ゼルドリスは ゆっくりと言葉を続ける。
「弟子 を慮 るばかりに 好々爺を演じ 生きているような男だぞ?」「弟子を取り戻せないとわかれば 奴は本性を顕 にするだろう」
「もはや 誰の手にも負えん」
◆ホントに、ゼルドリスたちはどうやって戦いの状況を知り得ているんでしょう。水晶玉みたいなのもないし…。実はキューザックも魔眼の持ち主とか?
チャンドラーが本性を出すのは「まずい」ことなんですね。インデュラや殲滅状態 メリオダスよりヤバいんでしょうか。
にしても。全然そういう意味ではないんでしょうけど、このタイミングの「まずいな」って、ゼルドリスが<大罪>の心配してるようにも聞こえるなあ(笑)。 - その頃、時ならぬ夜に包まれた荒野では。
顔色を変えて振り向くバン、キング、その頭の上に乗ったディアンヌ。ゴウセルに術をかけながら ハッと顔を上げるエリザベス。
◆ここ、よく見たら、エリザベスの治癒術に包まれたゴウセルの周囲の植物が にょきにょき育って花が咲いてません?
術はゴウセルに効かなかったけど、周囲の植物には効いたんですね。 - ホークが冷や汗を浮かべて凝視する前で、後ろの景色が見えるほどの大穴を腹に空けたチャンドラーが、幽鬼のように立ち上がっていた。
- 青ざめ伏せられていた まぶたが開かれ、白い髪や髭に闇が生じる。闇が ズズズ と蠢いて侵食を始めたかと思えば、ズッ と一気に全て漆黒に染まった。
顔の紋様も血管のように広がり、白目は黒くなる。
太鼓腹に開いた大穴からも闇は四方に根を広げ、これまた バキンッ と一気に筋肉が膨張して筋骨隆々となった。袖や指輪は砕け、以前より二回りは太い両腕にはトカゲのような縞模様が現れる。
腹の大穴は ビチィッ と音を立てて閉じてしまった。 - 「ガ…!!! ア!!! オォ!!!」
唸りながら更なる変貌を続けるチャンドラーの前から、泡を食って とんとこ とんとこ とんとんとーーん と駆け戻ってくるホーク。
「ま… まだ生きてやがった~~~!!!」
「ホークちゃん早くこっちへ!!」
立ち上がったエリザベスの腕の中に「ヒイイッ」と逃げ込んだ。 - 「………!!」
キングは顔を強張らせて左手指を パチ と鳴らす。浮かべていたクッションがシュッと解 けて大槍に変化した。 - 同時に、彼の頭の上でディアンヌが息を呑む。チャンドラーの背に二本の突起が生じたからだ。ビキビキッと音を立てて膨れたそれは、バサッと開いてドラゴンの翼となる。
- 硬く握りしめたキングの拳が震えた。
「………無理だ」
食いしばった歯の間から声を絞り出す。その怪物を睨み据えたまま。冷や汗がびっしりと浮かんだ。
「次元が違う!!!」 - もはや
老人 に見えはしない。
背にドラゴンの翼を広げ、はち切れそうな筋肉を誇示した半異形の男が、憤怒の相で尖った歯を剥いた。
「…喜べ!!!」「お主らは今!!! 「確実な死」を!!! 手に入れた!!!」 - 「や…やべえよ」「みんな トンズラするぜ」
ホークが鼻先をゴウセルの下に突っ込んでヒョイと己の背に乗せ、皆を促す。 - チャンドラーは ゆっくりと足元の大杖を拾うと、水平に持って、両手で左右に引いた。シュララララッと中から現れる細い刀身。
- 「仕込み杖!?」と、バン。
それは間違いない。だが、魔術士の杖に仕込まれた刃は普通ではなかった。『物干し竿』どころではない。なんと、十数mは ある長さだったのである。 - その刃が全て現れたのと同時に。
- “
飛び回る蜂 ”!!!!
ドドドドド
キングは大槍を放ち、高速で舞わせる連続攻撃を仕掛けていた。 - 「ここはオイラが時間を稼ぐ!! バン!! キミは今のうちに団長たちを連れて逃げろ!!! 早く!! 早く!!!」
目線をチャンドラーに固定して叫ぶ彼に、バンが叫び返す。
「バカ野郎!! てめえ一人を置いてけるか!!」 - 「…っ」
一瞬、キングは言葉を呑んだ。振り向かない彼の表情は判らない。
「足手まといのキミに何ができる!!?」 - 「!」
バンは言葉をなくす。 - 「エリザベス様 ディアンヌを!!」
次いでキングは、大槍を放つ際に左手に握っていたディアンヌを後ろに投げつけた。
「に゛ゃ!!」
咄嗟に受け止めたエリザベスの手の中でディアンヌは悲鳴を上げる。 - その間も大槍はチャンドラーの周囲を高速で舞い続けていた。
- 「キング!!」「いやだよ!! ボクも一緒に戦う!!」
エリザベスの手の上に身を起こしたディアンヌの目に涙が滲む。 彼 らしからぬ苛烈な言動が雄弁に伝えていた。今がどれほど切迫した状況であるか。そして、彼が何を覚悟したかということを。- 大槍の攻撃の全ては、超長剣の無造作な動きに容易く受け止められている。
- 「ディアンヌ ごめんね …オイラはダメな王様だから…」「ヘルブラムも 妖精王の森も
妖精 たちも 護れなかった」
チャンドラーに目を戻したキングの表情は、背後からは見えなかった。
「だから せめてキミと――― <七つの大罪 >を護らせて…」
けれど、その頬に ぼろぼろと涙が伝い落ちていくのは判る。
「最期くらいは王様らしく死にたいんだ」 - 「やだ… やだっ いやーーー!!」
ディアンヌの頬も涙で濡れた。 - 「お願いだ!!! 行ってくれ!!!」
仲間たちに背を向けてキングは絶叫する。 - 守りに徹していたチャンドラーが、ついに一撃を放った。
パンッ、と大槍が呆気なく真っ二つになる。
迫りくる終焉を見つめるキング。 - ザンッ
- 斬撃は、大地に長大な亀裂を刻みつけた。
逃走を試みたところで許されなかっただろう、数kmにも及ぶ深い傷だ。その証拠に、隕石群で抉れた荒野に動くものはない。 - だが、チャンドラーはピクッとして顔を上げた。満月を背景に、夜空を巨大な母豚が飛んでいたからである。
- ホークママは大きな花の上に載っていた。花弁と咢が プルルル とプロペラのように回転していて、どうやらそれで飛んでいるらしい。
乗員を優しく地上に下ろすと、フワァ…と花弁が散って消えた。 - 「なんでもかんでも しょいこみすぎっス」「王様だって 時に誰かを頼ったっていいんスよ」
覚えのある声がした。
それを、岩のような巨大な掌の上で呆然とキングは聞く。 - 周囲にはバン、エリザベスとメリオダス、ホークとゴウセル。小さなディアンヌが飛びついてきて、濡れた頬をキングのそれに こすり付けた。
- 「<七つの大罪>よ……」「ブリタニアの明日は 汝らに託そう…」
掌の主の声が響く。
「そして どうかメリオダスとエリザベス…」「我らの古き友人を護ってくれ……」 - そう述べた3000年前の友人たちをエリザベスは見上げた。
- 「さあ相棒 行くっスよ」
赤い長い髪、虹色の大きな蝶の羽。 - 「…我ら古き王――」
岩肌のようにザラついた青い肌、左目を潰す傷。 - 「喜んで 未来の
礎 とならん!!!」 - 初代妖精王グロキシニア。巨人族の祖ドロール。
古 の二人の王が、チャンドラーの前に立ち塞がった。 - 次回「受け継がれる魂」
案の定チャンドラーは滅んでおらず、あろうことか第二形態に進化・パワーアップという展開。
ああ…。やっぱり、下位メンバーたちに完全には倒させてくれなかったか…。
もちろん、前々~前回のキングたちは本当に頑張ってくれたし、今回も最後まで足掻いてくれたので、満足感は損なわれていません。
それでも、ちょっぴり残念な気持ちがあるのも確か。
これから最終回までの間に、キングたちが単独で上位の敵を きっちり負かす展開って、果たしてあるのかな。あるといいですね。
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キングとメリオダス
<大罪>メンバー中でも 、バン、ディアンヌ、キングは特に団長大好き。
バンとディアンヌが「団長 大好きになった理由」は第一部時点で明かされていましたが、キングのは長らく不明でした。
知りたいなあと切望していたのは第二部序盤の頃。
第134話、ドルイドの修練窟での喧嘩エピソードで、キングが「オイラと初めて出会った時のキミの言葉… 覚えてる?」とメリオダスに言ったので、ついに明かされるのかとワクワクしたものです。
ところが、喧嘩状態はリアル時間で年単位も続き、キングが団長大好きという印象が希薄になったうえ、和解した時にも触れられませんでした。
そのまま有耶無耶になって、はや半年…。
それが、ついに明かされた。ヤッター!!🏁
少し待ちくたびれちゃった感もありますが、語られるとしても単行本描きおろしの番外編や質問コーナーで軽くかなあと、すっかり諦めていたので、本編内で語られたのも感動でした。
さて。
第20話、死者の都入口の廃村で10年ぶりに顔を合わせた時、キングはメリオダスの容姿が10年前と変わっていなかったことを
なので、当時の彼はメリオダスを「人間」だと思っていたのだと解釈していました。
200年前にキングを逮捕した騎士の中にメリオダスがいたことは、キング外伝で明かされていました。
けれど、200年前から彼を認知していたのなら、10年 風貌が変わらなかった程度で奇異には思わないはず。
だから、メリオダスにとっての「初めて会った時」は200年前でも、キングにとっては16年前の大罪入団スカウト時だったんだろうなと。
ところがどっこい。
今回、メリオダスとの初めての出会いは200年前だとキングが認識していた、と判明。
ええええ。
じゃあキングは、メリオダスを何者だと思ってたんだろう。なんで10年 容姿が変わらなかったからって不思議がったりしたんだろう。
第20話時点では普通の人間だと思ってた、ってことなのかな。
「200年前に話した騎士」と「メリオダス」が同一人物だとキングが気付いたのは、いつだったんでしょうね。
ずっと「200年前の騎士と似てるな~。でも人間が そんなに長く生きるはずないしな」と思ってて、メリオダスが3000年前から生きてる魔神族だと判明してから「あの騎士はメリオダスだったのか!」と確信したのかな?
200年前、メリオダスは、自分は最低な王だと泣くキングに「人のために泣けるお前は、立派な王だ」と言いました。
そう言われたからって、キングの認識が変わったわけではない。彼はその後も自分はダメな王だと思っていたし、だからこそ、過剰に重い禁固1000年の刑を受け入れたハズです。
でも、肯定の言葉をくれたメリオダスに感謝していて、だからメリオダスを あれほど慕っていたんですね。
素敵なエピソードです。
けど、初読のとき、ちょっと「んぐっ」と思ったのは、メリオダスの言葉がやけに尖っていたから(苦笑)。
「…王なんて
自分 のやりたいことをして 気に入らねえ奴は殺すだけのクズだとばかり思ってた」
まるで社会的弱者による支配者層への怨嗟みたいな発言です。どーした、メリオダス(汗)。
何となく釈然としない気分になった理由は二つあって、
ひとつ
メリオダス自身は弱者ではなく、支配者(王)側の存在である
- 元 次期魔神王候補の王子様で、腕の一振りで民衆を皆殺しに出来る力を持ち、<十戒>統率者時代は冷酷非情の最凶の魔神だった
- この発言の200年後になるが、<十戒>を分散させて町や国を襲っている間に撃破しようぜと笑顔で発言・独断実行した(幾つもの町が滅んだ)
- この当時のメリオダスは聖騎士。人間の王に仕える公務員であり、高給を取っていたと思われる(クズだと思いながら、金のために王に仕えていた?)
ふたつ
メリオダスには「王」の肩書を持つ友人知人が何人もいるのに「王なんてクズだと思ってた」と断言
- 特に、キングが妖精王だと確認してからの「王なんてクズだと思ってた」という会話の流れなので、まるで、友人であった初代妖精王グロキシニアを、心の中では「クズ」だと思っていたかのように読めてしまう
……いやいやいや。
いくらなんでも、メリオダスがグロキシニアらをクズ認識してたとは思い難いし、思いたくありません。
ちょうど今、グロキシニアとドロールがメリオダスらを救うために駆け付けてくれたところなんだし。「本当はクズだと思ってた」なんてことじゃ悲しすぎますよね。
また、いつも飄々と笑って大らかな態度で、どんな種族や立場の相手にも差別心を見せないように思えていた彼が(彼のそういう性質に、バンやディアンヌは救われて、彼を慕うようになった)、「王はクズ」という「差別」をしていたとも思いたくない。
だから、この「クズ」発言は、ちょっと違う意味があるんじゃないかなと考えてみます。
メリオダスは圧倒的強者です。
そんな彼が「王なんて弱者を虐げるクズだと思ってた」と、弱者の立場で発言する。
これは、たった二人だけ彼の上に立っている圧倒的強者にして王、魔神王と最高神に虐げられた体験に拠るのではないでしょうか。
この二人の王に呪われて、3000年も弄ばれている。その怒りと恨みが、彼に「王なんてクズだと思ってた」と言わせたのでは。
確かに、キングが父親だったら、むやみに戦争を続けたり、息子の恋路を否定して呪ったりなんてしなさそうですよね。
善政を敷く仁王の印象のあるバルトラ王すら、不都合のある人間を陰で<
その観点からすれば、キングは非常に潔癖で、王としては変わり種なのだと思います。
閑話休題。
初邂逅の様子が明かされてから第134話を読み返すと、「初めて出会った時のキミの言葉… 覚えてる?」とキングに問われたメリオダスが、沈黙して答えなかったのは何故だろうと、少し不思議に思いました。
だって、別に言い淀むようなことじゃないですもんね。
それで思ったのですが。
メリオダスの言葉「お前は立派な王様だよ」はキングを救い、200年経っても忘れ得ない金言になったワケですが、もしかしたら、メリオダスの方は自分が何を言ったのか覚えてなかった、なんて可能性もあるんじゃないでしょうか?
何気なく言った ひとことが、言われた方には重みをもつということがある。
200年前のメリオダスにとって、キングが一時的にすれ違っただけの他人でしかなかったことは、彼が重刑を処されている結果から明らかです。
それでも、打ちひしがれていたキングに、せめてもの励ましの言葉を贈った。
この当時のメリオダスにとっては それだけの相手だったのかもしれませんが、200年後に予言に導かれた仲間として再会し、何気なく励ましていたことが、キングがメリオダスを慕う(絆を強固にする)大きな要因となっていた。
そして恐らくは、今後メリオダス自身を救う未来に繋がることになる。
そんな風に考えてみると、なるほど、確かに「運命の仲間」って奴なのかもな、と思えてきます。
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ゴウセルと呪印
胴に大穴が空こうが首ちょんぱされようが平然、気付けば自己再生している。不死といえる存在だったゴウセルが、普通の人形みたいにバキバキ捻じれ割れて、壊れてしまいました。
ショック!
この戦いが ひと段落ついたら、修理の腕を持つ伝説の職人でも探しに行く展開になるんでしょうか。それとも、マーリンがお手軽に直しちゃうのかなあ。
(術士ゴウセルが生き返りました系の展開は、出来れば御免こうむりたい。)
チャンドラーの手の呪印、自分の血で即席に描いただけのものだったのに、ホークがあれだけ舐めても消えなかったんですね。まさか、という思いでした。術が発動している限り消えない、とかなのかなあ。
ところで、ゴウセル自身は呪印が消えていないことに気付いてたのか。
気付いておらず、ホークが呪印を消してくれたと安心してキングの援護をした?
気付いていたけど、ホークの心意気に応えて、壊れるのを承知で援護した?
よりドラマチックなのは後者でしょうか。
ゴウセルは暫くリタイアでしょうが、人形であるがゆえに、修理されれば元通りに復活してくれるはず。
ただ、人格や記憶を司る部分に損傷が及んでいないかが心配です。
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剣士チャンドラー
魔術士のチャンドラーが剣士のメリオダスの師匠とは、これ如何に? と思ってたら、チャンドラーの本性は剣士でした、というオチでした。(;^ω^)
メリオダスを「慮る」あまり好々爺を演じていたとゼルドリスが言ってたけど、それ、どういう意味なんでしょうね。
周囲に怖くてワイルドな連中ばかりいるのが、メリオダスにとって負担だった?
家族愛に飢えたメリオダスのために魔神族らしからぬ「優しい おじいちゃん」を演じた??
いやまあ、そんな深い意味はないんでしょうけど(笑)。
単純に、メリオダスが好き過ぎるあまり甘々になってたってだけかも。
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トラウマと暴言
チャンドラーから仲間たちを逃がそうとした際、居残ろうとしたバンにキングが
「足手まといのキミに何ができる!!?」
と暴言を吐いたこと、なかなか読者の評判がよくなかったようです(苦笑)。
その発言の直前、バンに
「バカ野郎!! てめえ一人を置いてけるか!!」
と言われて、キングは一拍言葉を呑んでいる。
嬉しかったのだろうけど、これじゃ キツい暴言でも ぶつけなければ、バンは(キングを見捨てて)逃げてくれない、とも思ったんでしょうね。バンもそれは解っているのだと思います。
本当を言えば、時間稼ぎの盾役は不死者たるバンにこそ相応しい。
また、バンが逃げずに残ってくれたとして、彼は死なないのだから心配しなくてもいいはずです。
それでも逃がそうとしたのは、彼なら仲間たちを率いて無事に逃がしてくれると信頼しているからでもあろうし、また、たとえ死なないのだとしても居残らせたくない…バンを、自分が守るべき対象(大切なもの)の一人と見ているからなのかな、と思いました。
『エジンバラの吸血鬼』でも、吸血鬼に支配された都市に単独先行したバンを、キングだけが「心配だなァ…」と気にかける場面がありましたっけ。
今回は、キングにとって非常に残酷な話でした。
「やっと皆を護りきれた、少しはいい王様になれたのかな」と達成感を味わわせておいて、すぐに「やっぱり護れなかった、自分はダメな王様だ」と引き戻す。
どんだけキング(と読者)の精神を抉るのでしょうか(苦笑)。
正直、こんだけ精神的打撃を受け続けてて、よく病まないなと思う。
例えば妖精王の森でのアルビオン戦、キングを庇った一般妖精たちが、次々と目の前でミンチになっていったじゃないですか。
キングは森に帰った時、妖精たち一人一人の名を呼んでいました。人間の王と民よりも、ずっと近い関係性なのだと思う。
それが自分を庇って何人もミンチになっちゃって、普通なら、それだけでPTSD発症してもおかしくないレベルです。(だから、そうならず戦い続けてるキングは、すごくメンタルの強いキャラなんだなと解釈しています。)更に言えば、この時はまだ、ヘルブラムを殺して数日しか経ってなかった。
それから三ヶ月後くらいに、ヘルブラムの霊が身を挺して庇ってくれて魂の消滅。
もう真っ平だ、と思うのは当たり前では。
だからキングは、バンにも絶対 居残ってほしくなかったんじゃないかなあ。
自分を庇って大切なひとが死ぬより、自分が大切なひとを庇って死ぬ方がよっぽどマシだと思ったのかも。
(バンも近い想いは持っているはずだと思っているけど…。エレインもジバゴも、バンを庇って死んだり消滅したりしたから。)
また、
「せめてキミと―――<
七つの大罪 >を護らせて…」「最期くらいは王様らしく死にたいんだ」
という台詞からは、キングが「王」というものを どんな存在だと考えているかが伝わってきますね。
彼にとって王とは、支配者でなく守護者なのだと。
願わくば、最終回までに、「皆を護れた」という完全無欠な達成感がキング(と読者)に与えられますように。(;^ω^)
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最期くらい王様らしく死にたい「のです」「っス」
ギリギリの場面で、古の王たちが颯爽登場!!
ついさっきまでメガドーザにいたはずですけど、ドロールの魔眼でゼルドリスたちの動向をチェックしてて、メリオダスたちの危機を悟って駆けつけてくれたのかな?
彼らは最初から
「喜んで 未来の
礎 とならん!!!」
と言っていて、盾となって犠牲死する気 満々です。
万に一つも勝てるとは思ってないっぽい。
彼らは、王であった自分らが一族や友を裏切ったことを恥じていて、贖罪し死ねる場所を求めていた。この戦場が それに相応しいと思った、のだろうかと思いました。
人間の王だったら、ここまでしないんじゃないかという気がする。
良かれ悪しかれ、妖精族や巨人族は潔癖で純粋なんですね。