【感想】『七つの大罪』第211話 さよならを告げる人
週刊少年マガジン 2017年16号[2017年3月22日発売] [雑誌]
第211話 さよならを告げる人
- 「俺がゴウセルではない…?」「どういう意味だ?」
不思議そうに返す男を見据え、グロキシニアの器に宿るキングは答えた。
「ハッキリとは わからない」「けど オイラの知るキミとは どこか違う…」 - 「…つまり 俺の知らない俺を知っていると?」「興味深い話だな…」
男の目が面白そうに輝いたとき、背後から尖った女声が届いた。
「ゴウセル!! もう閉じちゃうわよ!?」「今は門を完成させることに集中したいんですけど!?」
◆「俺の知らない俺を知っている」。
ついさっき(前話)ゴウセルはドロールとグロキシニアに「貴様らの情報なら 貴様ら自身が知らぬことまで頭 に在る」と言ったばかりですが、それがひっくり返りましたね。 - キングと、ドロールの器に宿るディアンヌが同時に息を呑む。
「「!!! あれは―――」」 - ゴウセルの背後、数mほど離れた空間に裂け目が生じていた。中にはカーテンが幾重にも掛けられた屋内らしき景色が見える。別の場所と空間を繋げているのだろう。縦に裂けた様子は、マーリンが作る
転移門 に少し似ている。 - カーテンの部屋には少女がおり、宙に浮いて両手で何かを操作しながら、片手間にこちらを睨んでいた。その姿には見覚えがある。バイゼルでメリオダスの魂を抜こうとし、バンに首を折られた<十戒>の一人だ。名前は、確か…。
- 「ああ 閉じてくれメラスキュラ」
肩越しに微笑むゴウセル。
「あとで酒ダル五本分 おごりなさいよ!!」
「了解だ」
「フン!」と女魔神が鼻を鳴らしたのを最後に、裂け目は ブンッ と音を立てて消えた。
◆何L入りの酒樽かな? - 「あれって<十戒>!?」とディアンヌ。
「ゴウセル… なぜ キミが<十戒>と―――――!?」キングは訊ねた。 - ゴウセルはキョトンとして見上げる。
「不思議な連中だな」「俺がゴウセルであることを知りながら <十戒>であることを知らぬとは…」 - 「キミが<十戒>だって!? キミは<七つの大罪>の団員だろう!!」
ムキになりかけたキングを、ディアンヌが焦った様子で止めた。
「キング!! それより今は 恩寵の光に急がないと…」 - キングがディアンヌに揺れる目を向ける。
- 「こうしてる間にも どんどん…」「たくさんの魔力が消えてるよ!!!」
- 恩寵の光の周囲では殺し合いが続いていた。
たった四人の人間と、妖精・巨人・女神の混合軍との死闘が。 - 巨人たちが大地を操って隆起させ、あるいは爆裂させる。
その爆風に舞い上げられる人間たち。
宙に舞う勢いのまま、人間の一人が斧の一撃で巨人の頭を輪切りにした。
その背に、女神族の放ったきらきらしい光の旋盤が突き刺さる。
光を放った女神族の翼を、別の人間が剣で叩き切った。
その人間は、別の巨人の岩山のような拳に殴り砕かれる。 - その間に、風のごとく地を駆けるロウが、血に汚れながら妖精を上下泣き別れに分断し、巨人の足首を断ち切り、女神を袈裟懸けに斬り裂いていた。
- 地獄の騒ぎの中、ゲラードは両手で顔を覆い、立ちすくんでいる。
《兄上…》 - 助けを求める妹の声が「聞こえた」。
ピクッと震えたキングの顔色が変わる。
「そうだ…! 急がなきゃ!!!」
羽を広げて全力で飛び出したキングに続いて、ディアンヌも地を蹴った。
「みんな無事でいて………!!」 - が。ハッとした様子で、キングが肩越しに返り見る。
「危ない!!!」
バチッ
左腕を大きく振ってタコ足状にした霊槍 を操り、ディアンヌを突き倒していた。
◆グロキシニアは霊槍 を手元に取り出すとき、宙に指で環を描くのが基本動作。
この場面のキングは それすら無しで、腕を振る一動作のみで「霊槍呼び出し→第十形態に変化→操作してディアンヌ突き飛ばし」をやってのけてます。器用。 - 「んに゛ゃっ」
受け身を取る間すらなく、勢いよく転倒するディアンヌ。 - 「え… え? 何? 何?」
(いきなり突きとばされた…)
倒された直後、己のいた空間を光の矢が貫いたこと。それを人さし指で撃ち放ったのがゴウセルであること。
それらに気付いていないディアンヌは、ただただ目を白黒させている。 - 未だ人さし指に光をまとわせるゴウセルに、キングは怒りを向けた。
「邪魔をするなゴウセル!!!」 - 「門が完成するまで お前たちを あの塔に近づけさせるわけにはいかない …許してほしい」
答えた彼は、にこやかである。
「謝ってる人の態度じゃないよ」と、流石のディアンヌも顔をひきつらせたものだ。 - キングは「
翠蛸 」をディアンヌの前に広げる。自分はその前に出て、彼女を背に庇うように右腕を広げた。
「彼の魔力は精神に影響を及ぼす… 気をつけて!!」
「精神…?」
ディアンヌは今一つピンときていないようだ。
「ディアンヌ」
キングは、ぐっと奥歯を噛みしめた。
「…キミの記憶を消した張本人は彼なんだ……!!!」 - 「え゛~~~~~~!!?」
ガーーンと、ショックを受けて叫んだディアンヌは。
「じゃあ ボクの記憶を返して!!!」
すぐさま半泣きでゴウセルに迫っていた。 - 横っ飛びにズッコケるキング。
- 「?」
ゴウセルも、思わず変なポーズをとって目をぱちくりさせている。 - どうも、ディアンヌは時間軸を踏まえた理論建てに弱いようだ。加えて、目の前のことに夢中になると他が抜けがちになるらしい。可愛いけど。
宥め笑いしつつ、キングはディアンヌに優しく説明した。
「ち…違うんだディアンヌ!! たしかに キミの記憶を奪ったのは彼なんだけど…」「それはあくまで三千年後のゴウセルで」
「そなの?」と、涙目で彼女は見上げる。 - 「…話が全く見えないな」
ゴウセルは口元に手を当てて考え込んでいた。
「ドロール グロキシニア 直接 お前たちに会うのは 今が初めてなんだが…」
◆直接会うのは初めて、とな? 前回「お前たち自身が知らないことも知っている」みたいに言ってましたし、ちょっと気になる言い回しです。
単に、伝聞や記録で知っていたり遠目に見たことはあるという意味か。まさか夢などを通じて彼らに精神介入して会ったことがあるとかいう意味か。(考えすぎですね 苦笑) - 「えっと え~~と」
四つの手でパタパタとジャスチャーを交えて、説明を始めるディアンヌ。
「ボクたちは本物の巨人の王と妖精王ってわけじゃなくて」「か… 体は本人のものだけど 中身は全然違うところにあって~」
過去の世界で真実を明かしてよいものか。試練に悪影響を及ぼさないか。当初はしていたはずの心配は、彼女の頭から吹っ飛んでしまったらしい。 - 「・・・」
それにしたって全く要領を得ない。一所懸命で可愛いけど。残念ながらゴウセルにも伝わった様子がない。可愛いけど。
しばらく黙って見ていたキングだったが、ついに前に出て、代わって口を開いたのだった。
「オイラたちは三千年後の世界 から来たんだ!!」「信じるか否かはキミに任せるよ」
伝える情報はシンプルに。この状況下なら最小限でいい。 - 「面白い……!」
漆黒の瞳を零れ落ちそうなほど見開いて、ゴウセルが笑った。
「その話…直 に聞かせてもらいたいな」 - 「「じか?」」
キングとディアンヌは顔を見合わせる。直 も何も、顔を合わせて直接話しているではないか。 - 「そろそろか………」と、ゴウセルは恩寵の光の方角に目を向ける。
- その頃、恩寵の光の内部。
「ウフフ…」「もうじき<魔界>の門の御開帳よ……」
鼻歌でも歌いそうなメラスキュラの背を、ネロバスタはジリジリした様子で見上げていた。
『どうして…!! どうして誰も突入してこないの…!?』『何をチンタラしているの!!?』『このままじゃ開いてしまう』『<魔界>の門が―――…』
心の声で呼びかけても、応える者は誰もいない。 - メラスキュラが差し伸べた両手の先で、侵食された門の内部が揺らぎ、ザ…ザザ…と、砂嵐のような音と映像がチラついた。
開く。門が。 - 「なんなの これ…」
しかし、落ちてきたのは女魔神の戸惑いきった声。
「?」
ネロバスタは伏せていた顔を上げた。
「これは…ちがう」「<魔界>の門じゃない…」
「?」
女魔神が何をそんなに狼狽えているのか。女神には解らない。ただ、うごうごと蠢く嘆きの顔で飾られた禍々しい門の内部に、幾重にも張り巡らされた太い鎖が現れているのは視認できた。
どこに繋がったというのか? - 「私は… 何を作ったの?」「こんなものを作る気は――」
呟いた女魔神は、ハッとする。
「ゴウセェェェェェェル!!!!」「私を操ったわねぇぇっ!!?」
目を剥いて血管を盛り上がらせ、口を耳まで裂いて怒声を上げた。
「私が<四大天使>との戦闘から離脱し 単独で塔へ来るよう操作し」「こんなものを作らせた…」「これは<魔界>の牢獄の門ね!!?」「答えなさいゴウセル!!!」 - 張り巡らされた鎖の奥、暗闇に動く何かがある。キイ…と、車輪の軋む音がした。
「人質奪還 が決まった時から 少し操作させてもらった…」「許してくれ これも“自由”になるためだ」 - 「ふっ…」「ふざけ」
怒鳴りかけたメラスキュラの顔面を、門の内部の暗闇から突き出した手が ガッ と鷲摑む。
「な…」「・・・」 - 「シーー… 静かに…」「魔神王に気付かれてしまう……」
口を塞がれたメラスキュラに言い聞かせながら、車椅子が宙を滑って出てくる。それに座るは、壮年の男。
品よくセットされた髪と顎髭。貴人めいた服装。漆黒の瞳と右目の周囲に縦にかかる闇の紋様は魔神族の特徴を示している。
「五百年ぶりか」「外界に出てくるのは」
周囲をゆったり見回すと、メラスキュラの顔面から手を放した。 - 手は離れても、メラスキュラの頭は彼の手から移った闇色の光に包まれている。
(体の自由が……!!)
操作されている。浮いていることは出来るが、動けない。この魔力は。
「あなたは……!!! あなた………が!!?」
それでも声を絞り出して睨むと、男は ゆるりと目元を緩めた。
「そうか メラ… お前は本当の私に会うのは初めてだったな」
「……私がゴウセルだ」
◆メラスキュラの愛称は「メラ」なんですね。可愛い。 - 男を見上げるネロバスタはガタガタと震えていた。
なんという存在か。
メラスキュラや、先程まで ここにいた『ゴウセル』とは比較にならない。 - 「…やはり 外の世界はいいものだ」と、男は独りごちる。
- 「…やはり 外の世界はいいものだ」
同時に、妖精王の森に佇む『ゴウセル』も、同じ表情で同じ言葉を喋っていた。 - 「きゅ… 急にどうしちゃったのこのコ……」
ディアンヌが戸惑っている。
「…さっきから誰と喋ってるの?」
先程から、まるで傍にディアンヌやキングとは別の誰かがいるように、宙に向かって喋って動いているのだ。 - 眼鏡の青年が、きちんとディアンヌに目を向けた。
「やあ すまない こちらの話だ」
そして、うっとりと目を閉じる。
「聞こえる…」 - 同時に、恩寵の光にいる壮年の男も同じ言葉を喋り、同じ表情で目を閉じていた。
「聞こえる…」「怒り… 嘆き… 畏れ… 痛み…」「荒々しい感情が 乱れ咲いている」
彼がうっとりと聞き入っているのは、恩寵の光の外側で殺し合う人間たちと<光の聖痕 >の死の声だ。死にたくない、という心の叫びだ。
「感情こそが生きている証明と価値に他ならない…」
まるで感動的な芝居でも鑑賞したかのように。両腕を広げて、どこか白々とした感嘆の声を上げた。
「感情の爆発は芸術だ」 - メラスキュラは悔しげに声を絞り出す。
「許され…ないわよ… ゴウセル 魔神王様に…無断で… どういうつもり…!?」「今は…聖戦の…真っ只中…なの……よ…!?」 - 壮年の男は微笑って目を伏せた。
「聖戦など どうでもいい」「どうでも…………」「俺には まるで関心がないよ」 - 「!!!!」
メラスキュラの顔が憤怒に歪む。 - 「信仰」の戒禁を背負う彼女は、己が一心に信じる魔神王の意向に従わぬ者がいるなど許せないのだろうが。
「妄信的信者 には理解しようもないだろうがな」と、男は彼女の信心を一蹴してみせた。
「魔神王に「無欲」の戒禁を与えられ五百年」「俺は自由を奪われ」 - 森で『ゴウセル』も同じ言葉を喋っている。
「自ら作った人形―――」「ゴウセルを通してのみ外の世界と接してきた」 - 「に…人形!? うそ…!!」
驚きを隠せないディアンヌ。キングは動揺して問いかける。
「それって… じゃあ 本物のゴウセルは!?」
◆キングはゴウセルが人形だと知らないままで(メリオダス、エリザベス、ホーク、マーリン、スレイダー、ジェンナは知ってましたが、誰もキングに教えてない)、ディアンヌは記憶を失くして忘れてた、と。 - 魔神の『ゴウセル』は語る。
「だが それも もう限界だ」「俺は この世に別れを告げる」 - 「バイバイ」
愛らしい笑みを満面に浮かべて、人形の『ゴウセル』は胸元で手を振った。 - 次回 ゴウセル外伝「人形は愛を乞う」
<七つの大罪>ゴウセルは、<十戒>ゴウセルが使っていた人形に過ぎなかったと判明しました。
…つーことは。
今まで、ゴウセルは元<十戒>なのだから、力と記憶が戻ったらメリオダス並みの闘級になるんだろうなと思ってたんですけど、あくまで人形に過ぎないなら、現時点の「闘級3100」から動かない可能性もあるんですね。
それでも、<十戒>級の敵に精神攻撃が効いちゃうし、人形なんで首を斬られようが腹に穴を開けられようが死なないので、不足はないかも。
しかし。
ゴウセルが
本体ゴウセルは牢獄に500年閉じこめられていたと。
そして、メラスキュラは本体ゴウセルに会ったことがなかった。
メラスキュラは362歳ですから、なるほど、彼女が生まれるよりずーーーっと前から、ゴウセルは牢獄に囚われていて、人形が表で活動してたんですね。
モンスピートは415歳、デリエリは377歳、エスタロッサは380歳。彼らもメラスキュラと同じだったんだろうなと思われます。
では、メリオダスはどうだったんでしょうか?
個人的な予想では、3000年前の聖戦当時のメリオダスは500歳前後だったんじゃないかなと思っているので、ギリギリ本物と会った可能性もあるかもと思ったりはしますが、第114話で、ゴウセルが人形だったことを知っていたのかとディアンヌに問われて
「うんにゃ 今 初めて知った」
と答えてますから、素直に受け取るなら、本体ゴウセルの存在すら知らなかった・人形のゴウセルを「<無欲>のゴウセル」だと思ってた、ってことになるんでしょうね。