【感想】『七つの大罪』第140話 盗賊と少年
週刊少年マガジン 2015年42号[2015年9月16日発売] [雑誌]
第140話 盗賊と少年
- ベッドの脇に並んで座り、バンとジェリコは老いた
狐男 の話を聞いていた。(バンは背負い袋 、ジェリコは行儀悪くサイドテーブルを、それぞれ椅子代わりにしている。) - 「他人の物を盗むことでしか生きられねぇ者の気持ち……か」バンは呟く。思いは過去に飛び、視線は遠くさまよっていた。
- 「あんたら人間に獣人の気持ちを理解しろとは言わんさ」バンの気を知らぬ
狐男 は切り捨て、「……だがこれで…」「やっと息子共に会えるな……」と想いを漏らす。大切な息子が二人、あの世で待っているという。 - その言葉で、バンの思いは再び過去へ飛んだ。同じように語っていたからだ。思い出の中の彼…ジバゴが。
- アバディンの牢獄から揃って脱獄した後、ジバゴはバンを自分の拠点の一つへ連れて行った。放棄された半地下室で、窓や煙出しの穴もあり、賑やかな町なかにありながら誰にも気づかれていない具合のいい場所だ。
ジバゴは火を焚き、肉を炙った。夢中でかぶりつくバンを、酒 を飲みながら笑って見つめている。 - どうして見ず知らずのバンを気にかけたのか。それは、同じ年頃の息子が一人いるかららしい。
- 「お前… 酷い言葉遣いだな」いくらか言葉を交わした後でジバゴは苦笑した。バンの言葉は汚いものばかりだ。「知らねーよタコが!」「うめぇぞこん畜生」「わかったぜクソ野郎!」などと、ポンポン口から出てくる。しかし、どうやら本人に悪気はなく、ケンカを売っているつもりもないらしい。
「親はちゃんと教えてくれねえのか?」と訊くと、少年は肉を咀嚼する口は止めないまま無言になった。 - たらふく御馳走になってから、バンはジバゴと別れて家に帰った。
そう、この頃の彼には家があった。生まれ育った、小ぢんまりとした一軒家だ。……決して、帰りたい場所ではなかったが…。 - 「どういうことだバン…!!」「飯を盗ってこいと言ったが てめぇが食ってこいと誰が言った このクソ野郎!」
帰るなり、巨漢の父親は口汚く罵り、小さな息子の胸ぐらをつかみ上げて何度も平手で打った。
その様子を、安物の化粧の匂いをさせた母親が酒瓶を片手に見ていたが、冷めた顔のまま一言の制止すらない。 - 顔に続けて腹を殴られ、たまらずバンは吐いた。せっかく満たされていた胃の中身が床にぶちまけられる。それを見るや少年は這いつくばって、必死に己の吐瀉物を食べ始めていた。それを再び胃に戻すために。
- 「こ… こいつ 自分のゲロを食ってやがる」流石に父親が慄く。
無関心を決め込んでいた母親が金切り声をあげた。「やだっ 汚い!! やるなら外でやってよ!!」
「オラァ!! 出て行けタコが!!」即座に従った父親は、子供を家から閉め出した。
◆バンは被虐待児だったんですね。
実の両親は今も健在なのでしょうか。既に老人でしょうし、こんな荒んだ都市ですから、早々に病気や事件で亡くなっているのかもしれません。
バンの方も、実家を訪ねるなんて思いつきもしないようです。ジバゴは恨んでいなくても、実の両親へはそうではない?(エレインが彼の記憶から両親のことを殆ど読み取れていない点からして、バンにとって忘れたい記憶なのかも。)
とは言え、良かれ悪しかれ親から受け継いだものはあるんだなと、この場面を見て思わされました。
バンの汚い言葉遣いや長身、逆立つ髪質、腕っ節の強さは父親譲り。そして、銀髪や顔立ち、冷めた表情は母親譲りです。
彼らは「二度と戻ってくるな」というつもりでバンを閉め出したわけではなかったのかもしれません。が、息子が帰らなくても捜そうともしなかったのかもですね。 - 閉め出されたバンは、痛む腹をさすりながら町をさまよった。
こんな町でも、整えられた家で食事をしている幸せそうな子供もいた。バンが窓から覗いて よだれを垂らしていると、子供の父親があからさまに嫌な顔をしてバンを蹴り出した。
◆家を追い出されて居場所のなくなったバン。でも、この時はジバゴのアジトへは行かなかったようです。簡単に頼る気はなかったんですね。
この後のタル事件の時も、父親に殴られて鬱血した顔がそのままでしたので、家を出てさまよっていた期間は一日二日程度のことらしい。 - 空きっ腹を抱えて道の縁石に座っていたとき、顔見知りの夫婦が声をかけてきた。酒場の女主人とその亭主である。
「あ 酒場のメス豚ババア こんにちは」
父親らが言っていた通りに呼んだのに、何故か女主人は怒り出した。亭主が「まあまあ こいつに悪気は ないんだし」と宥めている。 - 女主人曰く、バンにいい仕事があるという。彼らは荷馬車に
空 のタルを積んでいたが、それに入るだけで金貨一枚やるというのだ。 - 前払いで金貨をもらってバンは歓声をあげたが、ポケットにしまう前に抜け目なく歯を立てた。案の定、メッキが剥がれる。偽金貨だ。
- 「いいから おとなしくタルに入れ!!」人がよさそうに笑っていた亭主が、バンをタルの中に押し込んだ。すかさず女主人が蓋を閉め、荷馬車が走り始める。彼らは人さらいだったのである。
- 「ねぇアンタ」「ロクサヌ様は 本当に買いとってくれるんだろうね?」
女主人が、荷馬車を御す亭主に話しかけている。
「ああ あの貴族様は ガキが大好物でな」「いい値がつけば 金貨20~30枚で買いとってくれる」「そんで いつも最後には いたぶって殺しちまうんだよ」「つまり 需要はなくならねえってわけさ!」
「んま~~コワイ♥ 」
◆念のため。ロクサヌは女性の名前です。つまり、貴族ロクサヌは変態女。幼児性愛者なのか、嗜虐趣味なのか、幼い血を浴びて若さを保つわ系なのか。 - この会話はタルの中のバンにも聞こえていた。
「開けろ!!」と中からタルの蓋を叩いたが、チビの子供の力ではビクともしない。女主人がタルの上に座り、自らを重しにしていたからだ。 - ところが、にわかに周囲が騒がしくなり、急に蓋が軽くなった。
力いっぱい蓋に拳を叩き込むと、それは砕け散る。勢いよく飛び出したバンの目に映ったのは、停車していた荷馬車、縄で縛られて半泣きの酒場夫妻と、荷物をたっぷり抱えて今にも逃げ去ろうとしている積み荷泥棒……ジバゴ。
彼は呆気に取られた顔でタルから出てきたバンを見やり「ん?」と目を丸くした。 - バンは、再びジバゴのアジトに入れてもらった。
盗んだ荷物から出した食べ物を惜しみなく食べさせてくれる。抱え込んで、頬がパンパンになるほどガツガツ口に押し込んでいる子供を見ながら、「今度は貴族様に売っ払われるとこだったか!!」と笑い飛ばすジバゴだった。 - 食欲も落ち付いた頃、バンはおもむろに口を開いた。
「……ジバゴ」
「ん?」と優しい視線を向けた彼に、こう告げる。
「クソ野郎」
ガクッと、倒れそうにジバゴはのけぞった。「「ありがとう」だろ そこは!!!」と突っ込みを入れる。 - バンはきょとんとするばかりだ。
「……あ…ありがとう……?」
「そうだ!!」と頷いて、まあいいけどな、どうせその食糧も盗んだものだからとジバゴは独りごちている。 - 「ジバゴ」バンはもう一度、彼に呼びかけた。
「俺に…」「盗みを教えて」 - 真っ直ぐな視線を受けて、ジバゴも神妙な顔になる。
「バン…… お前わかってんのか?」「盗みをするってことは まともな人間社会では やっていけなくなるってことなんだぜ…?」 - 「……」「じゃあ…… なんで ジバゴは ぬす… 盗みを…」
バンの瞼は重くなり、ろれつが回らなくなる。船を漕ぎ始めた子供を見て「腹がふくれて眠くなったか?」とジバゴが笑った。盗む理由は答えないまま。 - バンは頭をブンブン振って、無理に起きていようとする。
「眠いなら寝ろよ ちゃんと寝ねーと大人になれねーぞ?」呆れたジバゴの前で半分眠りながら、ぽろりと恐れがこぼれ落ちた。
「寝ると…親父 に腹をけられる」
様々なことを察したのだろう。「………そうか」とジバゴは呟く。子供の頭を片膝に乗せてやり、優しく頭を撫でた。自分の息子にするように。「なら 俺が見張っててやる……」
「…うん」産まれて初めてのことかもしれない。優しいまなざしと力強い腕に守られて、バンは安堵して眠りに落ちたのだった。 - それから、バンは家には帰らなかった。
ジバゴのアジトで暮らし、彼が盗んだもので生きる。
ジバゴはスリの名手で、往来を行く大勢の人の間を何気なく歩き抜けるだけで、財布も、背負っていた荷物も、まるで気付かれずにごっそり盗ってしまえるのだ。
その見事な腕をバンも真似したものだが、殆ど上手くいかず、ジバゴに助けてもらって逃げ出すのが常だった。 - 時にジバゴは、食事をしながら色々な面白い話を聞かせてくれることもあった。その一つが「
生命 の泉」の話だ。
この町の北にある妖精王の森には大樹がそびえ、その頂上に聖女が守りしお宝「生命 の泉」がある。飲んだ者に永遠の命を与えるというので、望む人間は後を絶たないと。
「永遠の命か~ すっげぇな♫」「盗みに行くぜ♫」と、俄然やる気になった子供に、ジバゴは人が悪い笑みでチッチッと人差し指を振ってみせる。
「バカ! 相手は軍隊も全滅させちまう おっかねぇ聖女だぞ」「お前なんてイチコロだ たぶん」
じゃあジバゴが一人で行けばと伺えば、片道四日かかるし、本当のことかも判らないし、そんな不確かな噂のために息子共の側を長く離れるわけにはいかないと笑ったものだった。 - そう、彼には息子がいるのだ。
ジバゴは朝になると町にやってくる。昼の間はバンと過ごして盗みを働き、夕飯を食べさせると町の外に出て行く。彼の本当の家は外のどこかにあって、実の息子が待っているのだという。 - 「なんで夜にしか家に帰ってやらねーんだ?」と問えば、明るいうちから頻繁に行き来していれば騎士共に住処がバレるからだと答えた。
- 「……息子ってどんな奴だ?」夕飯の焚き火を囲みながら、ずっと気になっていたことをバンは尋ねた。
「セリオンって言ってなぁ 人見知りだが優しいコさ」と、ジバゴ。
「ふーん……」詰まらなさそうに返して、バンは「ちぇっ」と舌打ちする。ジバゴは所詮、余所の子の父親なのだ。
「それから」したり顔のジバゴは『息子がどんな奴か』という話を続けている。「目つきと口の悪いツンツン頭の バンってガキだ」
バンは目を見開いた。嬉しさと恥ずかしさで一杯になり、たまらずに顔を伏せる。 - 優しいコだという まだ見ぬ義兄弟に、バンは思いを馳せた。「……」「セリオンは盗みのこと… 知ってんの?」
「ああ……」「俺もあいつも……自分たちの運命を受け入れてるからな」焚き火に照らされながら答えるジバゴの顔は、苦い諦めとほのかな憤りを滲ませている。「バン…」「人間を信じるなよ?」 - 何を思って彼がそう言ったのか。幼いバンは考えることすらしなかった。彼がそうしろと言うならそうする。けれど、信じられる人間がいないわけではないだろう。何故なら、
「俺は ジバゴを信じるよ」
最も信頼すべき男が、ここにいるではないか。 - それを聞いた瞬間のジバゴの顔を、どう形容すべきだろう。虚をつかれたような、嬉しいような、後ろめたいような、それでもやはり嬉しいような。
- 彼は がしっとバンの頭を掴んで自分の腹に押し付けた。そのまま抱き込んで、両手でわしわしと髪をかきまぜる。
「…ったく お前は~~~~!!」「バカだな~~~!!」その声は震えていた。 - 「さあ もう寝ろっ」「
明日 の盗み は早いからな!!」乱暴にバンを解放して、顔を見せないまま、足早にアジトを出て行く。ぐし…と鼻音がした。たっぷり涙と鼻水が出ているような。
いつものように、セリオンの待つ家に帰るのだろう。それを見送っても、バンはもう寂しくなかった。 - 翌朝早く。バンは待ち合わせ場所の高い塀の上に一人で座っていた。辺りを治める貴族ロクサヌの大きな屋敷の周囲に張り巡らされたものである。
「このお屋敷が今日の標的 か♪」「………………遅いなぁジバゴ」「!!」「そうだ~~♪ ジバゴが来る前に 俺一人で宝を盗み出してやるか~♪」
歌うような口調で陽気に独りごちると、バンは塀の中に飛び降りた。
「キヒヒヒッ♪ ジバゴ びっくりするかな~~?」「ほめてくれるかな~~~?」
ジバゴのやり方を真似て屋敷の窓を割る。
だが、すぐに「侵入者だーーー!!」という警備の叫びがあがった。
「やべ… うわあっ!」たちまちバンは捕らえられた。庭に引き出され、複数の男たちに容赦なく殴られ蹴られて、血だるまになる。
後悔し、勝手な行動を心の中でジバゴに詫びても後の祭りだった。 - 「……」
あの時、あのまま殺されていてもおかしくはなかっただろう。
思い出に沈むバンの顔を、「おい… どうかしたのか?」と、不思議そうにジェリコが覗き込んだ。現実に立ち返りながら、「いや…」と、バンは答えを濁らせる。どうしてこうも、この老人の言葉は「ジバゴ」を思い出させるのだろうか。 - 横たわる
狐男 は、険のある目でバンの顔をじっと見つめた。
「…不思議だな お若いの……」「あんたの目を見ていると…」「俺の息子の顔を思い出すよ」
しかし30年以上前の話だから、生きているなら壮年の男になっているはずだと続ける。 - 「獣人の息子は獣人…だろ?」と、ジェリコが首をかしげた。人間のバンを見て、どうして息子を思い出せるというのだろう。
- 「きっと あの子は俺を恨んでいる」「人に裏切られて傷つきながらも 俺のことだけを信じると――――そう言ってくれたあの子を 俺は…」
狐男 は…「ジバゴ」は、語り始めた。
あの朝、寝坊して待ち合わせに遅れたこと。慌てて駆けつければ、最悪の予想が当たってバンが屋敷の庭で袋叩きにされていたこと。だが、助けに飛び込もうとした、まさにその時、狐男 の子供を見つけたと山狩りに向かう騎士団の声を聞いたこと。
二人の息子のどちらを助けるか。
ジバゴは迷いに迷った。そして、実の息子 を選んだのだ。
どんなに心で詫びても、泣いても、意味はない。義理のとは言え、我が子 を見捨てたのだから。
◆セリオンのもとへ急行するべく獣人の正体を現したジバゴが、変身を解く際にバンダナを破り捨ててるのは、何か意味があるのか、別にないのか。
なお、ここでジバゴは上着をも脱ぎ捨てています。恐らく、それをバンが拾って、10年以上、形見のように大事に着ていたってことなのだと思います。 - 「俺は」「最低の男だ…」「結局 自分の息子も救えなかった……」
山の住処に駆けつけ、騎士は全て殺したが、既に息子 は虫の息だった。ジバゴの腕の中で「父…ちゃん…」「帰ってきて……くれたん…………だね」と嬉しそうに微笑んで、優しい子供は息絶えたのだ。 - もう一人の子供も死んだのかとジェリコに訊かれて、「おそらくな……」とジバゴは答える。
「俺は その後 しばらく町 へは戻らなかった 確かめるのが怖かった…」
そして、それからずっと独りで、コソ泥を続けて、ただ生き長らえてきたのだ。
「もし あの時 選択を間違ってさえいなければ 全てを失うことはなかったのかもしれないな……」 - 黙って聞いていたバンが口を開いた。「…あんたは何も間違っちゃいねぇよ」
「フン! 知ったふうな口を…」怒りが力になったか、老人は弱った半身を起こしてバンを睨みつけてくる。構わずに彼は言葉を重ねた。
「俺を助けてくれたとして 本当の息子を見捨てたことがわかったら」「俺は あんたを絶対 許さなかったろうな♫」 - ジバゴが、ジェリコが目を剥いた。今この場で、どんな奇跡が起こっていたのかを漸く理解したのだ。
- 「あんたを恨んだことなんて一度もねぇよ」「あんたは 俺の理想の親父だったんだ♪」「ジバゴ」
- この場で明かしていなかった己の名を呼ばれ、ジバゴの両目から涙が溢れる。
「バン…」「こんなにでかくなりやがって…!!!」
むせび泣く老いた父親の頭を、バンは黙って胸に抱き寄せた。かつて、彼が幼い自分にそうしてくれたように。 - 次回「父親と息子」
バンとジバゴが共に過ごした期間が、数日~せいぜい数ヶ月程度しかなかったらしいのは、かなり意外でした。外伝『バンデット・バン』や小説『セブンデイズ』の感じから、数年(バンが成人するくらいまで)は一緒にいたものと勝手に思っていたので。
そっかー。
ジバゴに子供がいた設定が新追加されたので、それを踏まえると成人まで一緒ってのは無理があるからかな?
しかしこれだと、外伝で「アバディンエールの味を教えてもらった」、小説で「(ジバゴに再会できたら)一晩中、飲み明かすさ。昔みたいにうまいエールでな♪」と言ってたのがおかしなことに。(^_^;)
この頃のバンは10歳前後だと思いますが、ジバゴがそんな幼い子供に酒を飲ませたうえ、バンの方も、そんなに幼いのに酒の味が判って、しかも一晩中酒盛りしてたことになっちゃう。
また小説では、棍を用いた格闘術はジバゴに習ったようなものと言ってたのに、彼は素手で戦っていて、棍は使っていません。
…うーん。「子供の頃にジバゴがアバディンエールは美味いと言っていたのを覚えていて、大人になってから飲んだら本当だった」とか「ジバゴは棍は使っていなかったが、拳を使った体術を見てバンは総合的な格闘術を学んだ」なんて風に解釈しておけばいいのかな。
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ジバゴの変身能力のこと。
最初パッと読んだ時は、
けど、読み返していて、それだと不思議な点が二つある? と思うようになりました。
一つは、ジバゴの息子が獣人姿で山に隠れ住んでいて、一度も町に出てこず、人間姿になっていないこと。
もう一つは、老いたジバゴが、迫害されると判っているのに人間の町で獣人の姿のままで、変身していなかったことです。(フードで顔を隠すのはしているのに。)
もしかしたら、
何かの制限があるんでしょうか。
とりあえず、二つ説を考えてみました。
説A
説B
若き日のジバゴが変身出来ていたのは、頭に巻いていたバンダナに変身の魔力があったためである。
危機にある息子を助けるには獣人に戻るのがベストだったので、バンダナを破り捨てた。その代わり、ジバゴは二度と人間に変身できなくなった。
バンのもとに戻らなかったのは、そのためでもある。
さすがにBは無いかな。(^_^;)
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バンに許されたジバゴの涙は感動的でした。
んで、以下は妄想です。勝手なバン語り。
バンの「あんたを恨んだことなんて一度もねぇよ」という言葉は真実だと思います。
けど、今までのバンを振り返って考えてみた時、少し前、第一部のバンだったら、もちろん詰りはしなかっただろうけど、「あんたは 何も間違っちゃいねぇよ」とまで言えたのかなと、ちょっと思いました。
エレインとの出逢いから始まって、<大罪>仲間との交流、王都決戦での苦い経験。そして、キングの罪と復権を見届けたこと。
それらを経たことでバンは成長したと思う。だから言えた言葉かもなあと。
小説『セブンデイズ』にて、「(ジバゴに)会いたいって……思わないの? もう一度」とエレインに問われたバンは、こう答えています。
「そう言われてもな♪」「どこにいるかも分かんねーし。大体、向こうが会いたがらねぇかもしれねーだろ♪」
「ま、偶然会っちまったら、そんときはそんときだけどな」
「そりゃ一晩中、飲み明かすさ。昔みたいにうまいエールでな♪」
また、「そのジバゴって人に――何か言いたいこととか、ないの?」と問われて「ねーよ♪」と、裏表のない笑顔で答えています。
バンは、自分の前から姿を消したジバゴを恨んでいなかった。
それは嘘ではないのでしょう。
けれど、何も感じてなかったわけではないんじゃないかと、読んだとき思っていました。(その辺はバンの考察ページに書きました。)
で。今回のエピソードを読んで、その思いが強くなりました。
私、バンとジバゴの別れは、妖精王の森でエレインと出会う、ほんの少し前(長くても一、二年程度前とか)だと思っていました。
前述のように、バンがジバゴと酒を飲んでいた(成人の飲み仲間として付き合っていた)描写があったからでもありますが、もう一つの理由は、彼が「何度も」ジバゴの名を口に出していたからです。
何年も前に別れた人の名を、そんな何度も口にするのは不自然じゃないですか? だからジバゴとはつい最近、ぶっちゃけ、森に来る直前まで付き合いがあったんだなと思ってたのです。
ところが、今回のお話で明かされたじゃないですか、バンがジバゴと別れたのは、エレインと出逢った時から数えて、なんと10年以上も前だと。
(バンがジバゴと共にいたのは10歳前後くらい、エレインと出逢ったのは23歳の時。)
更に、エレインと出逢った当時にバンが着ていた上着は、どうやら、バンの前から消える際にジバゴが落としていったものらしい。
子供の頃に拾ったものを、10年以上、サイズが合わなくなって ヘソ出しのつんつるてんになっても、ずっと大事に着続けていたっぽい。
これって、バンがジバゴに、すっっっ…ごく執着していた、という証左ではありませんか?
バンはジバゴを恨んでいなかった。
でも、執着はしていた。辛い暮らしの中の唯一の光として、心のよりどころにしていたんでしょう。
そんなに執着していたのに、ジバゴを捜そうとはしなかった。
何故?
バンは本当は、ジバゴが消えた真相を確かめるのが怖かったんじゃないか?
ジバゴが、バンの生死を確かめるのが怖くて町へ戻れなかったのと同じように。
ジバゴを恨んでいなくても、「捨てられたのかも…」という疑念はあったから、「クソみたいな自分を認めてくれたのは、世界でエレインとメリオダスだけ」と言い切って、ジバゴの名は挙げなかったのでは。
もしも、ジバゴが自分を見捨てていたら。嫌っていたら。
それどころか、もしもジバゴが死んでいたら。
それを確かめるのが怖かったから、捜さずに、でも心のよりどころにはして、お守りみたいに彼の残した上着を着続けていたんじゃないでしょうか。
それで、ジバゴが教えてくれた酒は美味い、ジバゴが教えてくれた
つまり、エレインと出逢った当時のバンは、ある意味、父親離れが出来ていなかったと見なせます。
ジバゴの上着は、赤き魔神との戦いで失われました。
代わりに、彼はエレインへの永遠の愛を得ました。
ここが彼の「父親離れ」の第一段階。
ただし、完全なものではなかったように思います。王国騎士時代にやらかした王都中のヌイグルミの強奪・収集は、幼少時の愛情不足による幼児性の発露かと思われます。彼はまだ、この時点で「寂しい子供」のままでした。
「親離れ」の第二段階は、王都決戦。
ここで、己の欲望を優先させて親友のメリオダスを殺そうとしました。
それ自体は未遂に終わりましたが、直後に起きたホークの死を通して「親友を喪う」恐怖を仮想体験したのだと思います。
それまでバンは、欲しければ他人の物であっても強奪していました。罪悪感は感じられなかったです。
それが、ここ以降は変わってきます。
メリオダスの命を奪ってでも、自分の欲しい「エレインの復活」を得る。そんな強欲な行動を放棄して、別の方法を探しに旅に出ました。
それ以降、第二部に入ってからのバンは、第一部と比べて明らかに変わったと思います。
周囲を気遣う姿勢が以前より強くなり、欲望のままの身勝手な強奪をしなくなりました。そう思いませんか?
落ちついた、大人になった。そんな風に感じます。
そして今回の、ジバゴとのエピソードです。
父の苦しみを知り、対等な立場から認め許した。
これでバンは完全な「父親離れ」を果たし、大人になったのだと思いました。
さて。ここからは更に高濃度の与太話です。お覚悟を。(^_^;)
ジバゴは己の罪を悔やんで言いました。
「もし あの時 選択を間違ってさえいなければ 全てを失うことはなかったのかもしれないな……」
彼が過去に犯した罪。
これって、キングの罪とよく似てません?
作者が意図したのか、たまたまそうなったのかは判りませんが、結構な相似形になってる気がします。
ジバゴは、実子と養子、二人の息子のどちらを助けるか、究極の選択を迫られました。苦渋の決断をし、しかし両方失い、以降、己を責めながら失意の中に暮らしました。
キングは、森の仲間と人間に捕まった仲間、どちらを守るか選択を迫られました。結果的に両方失い、失意の中、罪人として生きていました。
「あの時 選択を間違ってさえいなければ、全てを失うことはなかったのかもしれない」。それは、キングも一度ならず抱いたであろう悔悟の念ではないでしょうか。
妖精王という存在は、ある意味、妖精族の「親」なのだと思います。
愛ゆえに、無条件に一族(子供)を守り・恵みを与える。
バンとエレイン、そして妖精族は、「愛してくれていた親(保護者)が、ある日 行方不明になった」という、同じ痛みを抱えた子供だったと言えるかもしれません。
バンは、ジバゴを恨まなかった。
エレインは、恨みはしなくても、兄と以前と同じに接する自信がなかった。
そして妖精たちは、ハーレクインを恨んだ。
三者三様ですね。
妖精たちは、バンをハーレクインの代わりにすることで不安を埋めた。帰ってきたハーレクインを責め、受け入れませんでした。
彼が命がけでアルビオンと戦うのを見て、自分達は愛されていた、捨てられたわけではないと確信し、再び受け入れることができたのだと思います。(同時に、彼に頼り過ぎていたことを自覚した。)
キングが復讐者として現れ、エレインの兄だと判ったとき、バンは何を思ったでしょうか。
消えたジバゴと同じように、エレインを一人ぼっちにして行方をくらませた奴です。恨む妖精たちに聞かされていたかもしれません、エレイン様や自分達を「捨てた」んだと。
一方でバンは、<大罪>仲間としての関わりから、キングの「争いを好まない」性格を知っていたはずです。
そんな彼が、妹や一族のために、らしくなく復讐に狂った。
それだけ深く、妹や一族を愛していたということです。
つまり、不実から捨てたわけではないらしい。
そう思い至った瞬間があったならば、バンはもしかしたら、ちょっとだけ安心したかもしれません。
その後、妖精王の森で、キングが森から消えた理由を正確に知り、妖精たちとキングの和解を見届けました。
そして自身も、思いがけずジバゴと再会し、これまで目を背けてきた「ジバゴが姿を消した理由」を知ることになったわけです。
それは、キングが姿を消した理由とよく似ていました。
例えば王国騎士時代のバンがジバゴに会ったら、「恨んでないぜ」だけで済ませたのかもしれない、なんて思うのは、妄想し過ぎでしょうか。
「理想の父親」としてのジバゴ像が崩れなかったことは嬉しく思っても、悔悟するジバゴに「間違っちゃいねぇよ」と言ってあげるまでは思いつかなかったかも。
ここでバンがそう言えたのは、キングの一件を見届けた経験ゆえ…という面もあるのかもしれない?
はい、妄想過多ですね(苦笑)。
そんな解釈も、まあ、人によっては出来なくもないのかなあくらいに思っていただけるとありがたいです。
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バンは、寿命が尽きようとするジバゴに血をあげたりしないのかな?