【感想】『七つの大罪』第139話 昔の話を聞かせて
週刊少年マガジン 2015年41号[2015年9月9日発売] [雑誌]
第139話 昔の話を聞かせて
- 第118話にて キングが妖精王の森でアルビオンを倒した、その少し後の場面からスタート。
- アルビオンに真っ二つにされた「妖精王の大樹」が、切断面から互いに枝を伸ばして絡み合い、くっついて、独りでに起き上がり、元通りの巨木の姿を取り戻していく。
「…元に戻った」と、妖精たちが感嘆の声をあげた。「しゅごい…」と舌足らずなのは、小さな少年のような妖精プオーラ。「化け物に倒された妖精王の大樹が…元の姿に戻った!!」「バン様だわ…」と感動しているのは、髪を逆立たせた少女のような妖精エンデである。
◆念のため。「妖精王の大樹」と「神樹」は別物。 - キングが粉々にしたアルビオンの残骸は森に埋もれ、焼け溶けるような音を立てて未だ煙をあげていた。
- 文字通り死力を尽くしてアルビオンを倒して以降、キングは昏睡から目覚めていなかった。
- 横たわる彼の頭を己の膝枕に乗せ、両手で支える。そのようにゲラードに固定された彼の口に一滴の血が落とされ、無意識のまま『ごく…』と喉が鳴らされた。
- スウッと筆で刷いたように、血まみれだった彼の傷が全て癒える。間を置かず、 パチ…と目が開かれた。
「バン…」
己の上で、握った拳から血を垂らしている男の名を呼ぶ。生命 の泉の力を宿す旅の英雄 の血によって、妖精王は甦った。 - 見守っていた周囲の妖精たちから一斉に声。「妖精王様が目覚めた!!」「妖精王様 万歳ー!!」
◆ここで歓声をあげてる妖精の中にプオーラがいるので、大樹の復活から時間を置いてキングの復活が試されたんだなと思います。
いくら森を癒した実績があっても、血で回復ってかなりイレギュラーなことじゃないですか? バンが今まで他で試してたとも思えません。(エレインの遺体に血をかけるとかはしてそうな感がありますけど。)妖精たちの喜びようも大きかったし、ゲラードもバンに「救ってくれた」と言ってたし、普段とらない方法を試すほど、深刻に目を覚まさなかったんじゃないかなあ、キング。 - 「え?」「オ… オイラの…こと?」半身を起こしたキングは、かつての罵倒から打って変わった歓呼の声に戸惑っている。
「…妖精王は あなた以外にありません」とゲラードが優しく微笑んだ。 - 「よかったなキング~♪」「俺も ようやく面倒な役とはおさらばだ♪」
跪 いていたバンが立ち上がり、バサッと背負い袋 を背負って笑う。 - ゲラードも立ち上がり、気まずそうに視線を落として口を開いた。
「バ… バン殿」「妖精王と大樹を救ってくださったこと心より感謝する そ… それと――…」
が。バンは彼女が謝罪を口にすることを許さず、胸ぐらを掴み上げていた。
「てめえが この俺に何を思おうと何をしようと 知ったことじゃねぇ」「だが 次 エレインに手を出しやがったら 迷わず殺すぞ…!!」ギリリ…と容赦なく締め上げ、こめかみに血管を浮かせ怒気に満ちた顔で睨みつける。 - 何も言い返せず、声を震わせてゲラードは約した。「エレイン様の御身は 必ず お守り…する」
「当然だ♪」やっと歌うような調子を取り戻して、バンはゲラードを投げ捨てる。
事情は知らないながらも、キングが慌てて神器のクッションで受け止めて背中を支え起こした。
◆キングがゲラード(年取った側近)を大事にしていて、ほっこり。 - 「またな」バンは微塵の未練もなく身をひるがえして歩きだす。
「あっ バン! 俺も行く!!」と、ジェリコが駆けて後を追った。
彼が森を去り、また訪れるのは この20年で繰り返されてきたことだ。それでもプオーラたち妖精は寂しそうに見送っている。 - 「待って バン」キングだけは呼び止めた。「もう一度聞くけど オイラと一緒に<七つの大罪>に戻る気はない?」
◆キングの方こそ、妖精王として妖精界に帰る選択肢はないんでしょうか。団長に何も言わず出てきたしディアンヌのこともあるから、一度は<豚の帽子>亭に帰らなきゃいけないけど、その後は。 - ジェリコは振り向いたが、バンは強いてそうしなかった。背中で一言だけを返す。「よろしく伝えてくれ♫」
そう。もはや会うことのできぬ親友、メリオダスに。
◆キング、結局、全然よろしく伝えられてないけどな(苦笑)。 - 「バン!!」「いい加減起きろーーーーーー!!!」
耳元で怒鳴られて、ようやくバンは夢から立ち戻った。
妖精王の森での出来事は とうに過去。ここは最低最悪の盗賊都市レイブンズ。クソのような連中が集まる猥雑な酒場だ。そのテーブル席で、何本もの酒瓶を転がして酔い潰れ、突っ伏していたのである。 - 「…っせえぞジョルコ♪」「いつまで寝ようが俺の勝手だろ~♪」
目線だけ上げてぼやくバンに構わず、ジェリコは強張った顔で辺りを見回している。周囲の客が、ニヤニヤ・ジロジロと見てくるので落ちつかないのだという。
◆いかにも怪しい、ガラの悪そうな客ばかりの酒場。ウェイトレスは巨乳のニューハーフさんです。 - あくびをしながらバンは身を起こし、教えてやった。見られているのは俺ではなくお前だと。「連中は身なりのいい人間には目ざとい」「金と女のニオイにもな」
- 女だなんだと侮られることが何より嫌いなジェリコである。「こいつら… やる気か!?」と、一気に頭に血を上らせる。
- 「聞き込みもアテが外れたことだし… 宿に行くぞ」平素の態度で立ち上がると、拍子抜けて戸惑うジェリコを連れてバンは酒場を出た。
今夜は満月だ。
夜道を歩きながら何気ない風に忠告する。「連中は何人でつるんでるか わからねぇぞ トラブルは極力さけろ♪」
「でもよ~~」と不満そうなジェリコから一定距離を離さず「早くしろ まだ眠いんだ」と先導していった。
◆バンがホントに面倒見よくてビックリ! 第二部になってから、急に丸くなりましたよね。王都決戦で起きた諸々が彼を成長させたのか。
自分がいかに危険の縁にいるカモネギなのか理解してない お嬢ジェリコも可愛い。 - 宿は先払いで銀貨5枚。部屋は二階一番奥でベッドは一つ。
当たり前のようにバンの分まで支払いを要求されて怒ったジェリコだが、ベッドが一つだと聞くや、一も二も無く快諾した。 - 恋する乙女は、今夜「一つのベッドで起きること」に想いを馳せて、茹でダコのように真っ赤になっている。無愛想な宿の店主に「ハリキってベッドを壊すなよ ボロいんだからな」と釘を刺されて期待は跳ね上がったが、バンの方は「あ?」と不得要領な顔だ。
- 一方で、バンは宿の主人に「生き返った死人」の噂について尋ねていた。情報料はジェリコが払うと。(浮かれる彼女は勝手な財布扱いに気付いていない。)
しかし、知らんね、どうせ悪ガキ共が流した くだらんホラだろと一蹴され、収穫はなかった。 - そして二人は「ベッドは一つ」の部屋へ…。
- 「お… 俺こういう
所 初めてだから バン… そっと… そっと…な?」心細げにジェリコは声を震わせる。
バンはお構いなしの傍若無人だ。「指図すんな オラッ♫」と強引に、それを覆い隠す布を取り払った。
「あっ やめ…」とジェリコの悲鳴。 - 「ギャーーーーーーッ!! 虫!!! ほらほら いる!!」
バンが取り払ったカビ臭いシーツの下から這い出した何匹ものゴキブリが、我先にとカサカサ壁を駆け登っていく。部屋の隅で血の気を引かせて悲鳴をあげながら「これで銀貨五枚はぼったくりだろ!?」とジェリコは叫んだ。しかも素泊まり料金で食事もつかない。バステ監獄よりひどいと。 - バンは呆れ顔だ。「この町じゃ マシな方だ さっさと寝ちまえ♪」そう言って、自分は
背負い袋 を枕にして床に寝転がった。 - 上着や籠手を脱いで髪を下ろしたジェリコはベッドに入り、緊張した面持ちで「コ…コホン」と喉を整える。「…バンはベッドで寝ないのか? 隣に来てもい…」
みなまで言わせず「俺は床寝の方が慣れてる」とバン。 - 「ふ… ふーん」ジェリコは口の中でぶつぶつ言葉を続けている。「でも風邪ひいたり」「一応 気を使ってやってんのに」
- 「プッ」とバンが吹き出した。「お前って 案外 お嬢なのなぁ♪」
ジェリコはムッと口を尖らせる。
◆つたない手管で誘うけど相手にされないジェリコと、相手にしないながら面白がる(前ほどつれなくはない)バンの様子が、なんとも可愛いです(萌)。
ジェリコの全裸を見ようが同室で寝ようが、バンは平然。一見、経験豊富なオトナの態度のようです。
でも作者によれば、バンは商売ですら他人と肉体的に愛を交わしたことはないそうで。つまり童貞?
他人に興味がなかったためらしく、だからジェリコの裸も同室もどうでもいい。エレインだけが例外。超一穴主義ですね。
一般論的な「男の本能」視点で見れば変わり者? ただし、この漫画のメイン男性キャラの多くが同じ病を患ってます(笑)。(メリオダスはエリザベス以外にセクハラしない、キングはディアンヌ以外に性的興味を持たない。)
おかげで安心して見守れます。ジェリコには気の毒だけど。
でも、ジェリコはベッドで寝かせて自分は床なんて優しいですね。第一部に比べてフェミニストになってきた? それとも子供扱いなのかな。
男で大人のキングやゴウセルとだったら、遠慮なく自分がベッド取りそうなんだけど(笑)。メリオダスとならベッドを賭けて勝負? - ムッとしていたジェリコが、ふと不思議そうな顔をした。
「お前 やけに この町に詳しいみたいだけど」「来たことがあるのか?」
「……」バンはつまらなそうな顔になったが、口はつぐまなかった。「ガキの頃に住んでたのさ」「もう随分 昔の話だ」 - 「へえ!!」ジェリコが目を輝かせる。バンの子供の頃の話を聞かせてくれよ。その懇願は、最後までは言えなかった。恐ろしい怒鳴り声に掻き消されたからだ。この部屋の中ではない。窓の外、夜の路上からである。
- 「オラァッ!!」「逃がすな!! 回り込め!!」「痛めつけて身ぐるみ全部はいじまえ!!」ヒャハハハッと笑いながら、三人の男が一人を囲み、何度も殴っている。
- 「お… おい 誰かがゴロツキに襲われてるぞ バン!!」突き上げ窓に飛びついて上げ板を押し上げると、ジェリコは階下の様子に慌てた。隣に来たバンは平然としたままだ。トラブルに首を突っ込むな、この町じゃ日常だ、と諫める。
- 「だからって…」と、今にも飛び出していきたそうにジリジリしているジェリコ。バンは何を思うのか、冷静に様子を眺めている。
◆暴力の声を聞いて、真っ先に窓を開け、止めるべきじゃと焦れるジェリコに驚きました。
そうか。第一部のジェリコは魔神の血のせいで良心が麻痺してたんでしたね。本当のジェリコは、こういう、ちゃんと騎士らしい正義感のある子だったのか。 - 殴られ続ける男が、ガクッと路上に両手をついた。彼を囲むゴロツキの一人が棍棒を振り上げ、下卑て笑いながら口を開く。
「わかってんだぞ この化け物野郎!!」「死人を生き返らせている張本人は てめぇだってことくらいな!!」 - 直後。
三人のゴロツキ各々の顔面、脳天、首筋に、ほぼ同時に拳が叩き込まれていた。何が起きたかも理解しなかっただろう。気を失って倒れる。
その中心に立ち、先程まで殴られていた男を担いでいるのは、バンだ。 - 窓辺のジェリコがあっけに取られ、たった今まで彼がいた己の隣と、路上の姿とに、何度も視線を巡らせている。
- 男を担いだバンは、ゆっくり歩いてドアから部屋に戻ってきた。
- 「何やってんだよ!! お前がトラブルは極力 避けろって…」ドアを開けてやりながら、ジェリコは不服顔だ。
「極力だ 絶対じゃねぇ♪」
「ったく~~」悪びれないバンの態度にぼやきつつ、「なら早くベッドに…」と、担がれたままピクリとも動かない男を介抱しようとした。 - が。
介抱どころか、バンは助けたはずの男を部屋の壁めがけて勢いよく投げつけたではないか!
「わーーーっ!!?」ジェリコの悲鳴。怪我人が壁に激突する! - その直前に、ぐったりしていたはずの男は空中で回転し、両手両足で軽く壁に取りつくと、身軽に床に降り立った。
とても怪我人の……いや、人間のできる芸当ではない。 - スッと立ち上がった男の頭部を隠していたフードが外れ、露になった顔にジェリコは息を呑む。人間ではない。毛に覆われ鼻が長く突き出した、犬のような獣の顔。
「じゅ…」「獣人…!!?」 - 「
狐男 か…」とバンが言った。「…どうりで人間離れした身のこなしだと思ったぜ~~♪」「やられたフリをして 打撃を全て紙一重でかわしてやがった」
バンは、この男がゴロツキどもから大したダメージを受けていないことを、最初から見抜いていたのだ。その割に倒れたのは不思議だが、何かを狙った演技だったのか。 - 「…それと手癖の悪さも相当だな」とバンは言葉を続ける。
それも『見抜かれた』と悟って、狐男はフンと鼻を鳴らした。仕方なく『返そう』と己の懐を探ったが、何故か目的のものを見つけられない。 - 「俺から返しといてやる」と、バンがジェリコの頭にドサッと金袋を落とした。
「お… 俺の財布っ!?」「いつの間に!?」うろたえた彼女は、中身を確認してホッとしている。 - 狐男はジェリコの財布をスリ盗っていた。バンはそれを見抜いたうえで、狐男からスリ返していたのである。
- 「やるな 若僧… …それで俺をどうする気だ?」と狐男が睨んだ。
バンは尋ねる。「…あんたが死人を生き返らせたって話 ――それは本当か?」 - 「ハッ」と狐男は鼻で笑った。「残念だが 獣人に そんな
能力 はない…」「人間は 己の理解が及ばぬ出来事を すぐに神や悪魔――もしくは化け物と呼ぶ者共のせいにしたがる」「全く質 の悪い種族だ」忌々しげに吐き捨て、フードを被り直すと、影のように部屋を出て行こうとする。「用がないなら俺は行くぞ…」 - ところが、不意に狐男はひっくり返った。
「お… おい どうした!?」財布を握って警戒していたジェリコが、たちまち心配を始める。バンの指示で狐男をベッドに寝かせ、今度こそ介抱することになった。 - ベッドに寝かされたまま、狐男は起き上がれなかった。そうとう体が弱っていたらしい。ゴロツキ共に襲われて倒れたのは演技ではなかったのだ。
「これまで 何度も人間の手から逃げまわってきたが…」「さすがに…… 寿命からは逃げきれんようだな」苦しげな息の下でそう呟く。 - バンは、老いた男の顔を静かに見つめていた。
- 狐男の恨み言は続く。
「狐男 は獣人の中でも知能は高かったが 力が弱く 数も少なかった」「絶えず人間に蔑まれ 住む場所を追われ 日々の食糧に飢えた」「あんた方 人間には わからんだろうな…」「他人の物を盗むことでしか生きられぬ者の気持ちなど……」 - その言葉で、バンの思いは己の過去へ飛んだ。
30数年前、飢えと孤独と蔑みの中でクソのような暮らしをしていた、幼かったあの日々へと。 - それは刺すように寒かった冬の日のことだ。
店先から食べ物を盗んだ子供は、店主に捕らえられ殴り蹴られた。降り始めた雪が積もるほどの長い時間、血まみれになるまでだ。
常習的に繰り返されていた犯行に怒り収まらぬ店主は、動けなくなった子供をアバディンの牢獄に入れたのである。
◆なんでこんな小さい子供を、わざわざ牢獄に入れたんでしょ? 親は? 子供は罰金払えないし、刑を処すなら最初から殺しちゃった方が早いのにね。
現代みたいな、更生や隔離の目的で入れる場所ではなかった気がします、当時の牢獄は。
(メタ的には、外伝『バンデット・バン』で出会いはアバディンの獄中だって語っちゃってたから、辻褄合わせのためなんでしょうけども。) - 入れられた牢獄の房には先客がいた。細身で背の高い男だ。
何を思ったのか、腹を鳴らしてうずくまるバンに、隠し持っていた食料を与えた。
◆ジバゴがくれた食べ物、バンが店から盗もうとしたヤツと同じに見えます。
…これ、何なんだろ? 丸っこくてデコボコしてて、まるでジャガイモみたい。けど、この時代のイギリスにあるはずないし、ナマで食べたらお腹壊しちゃう。食べる音が「ガリガリバリ」「シャグシャグ」なので、パンや肉、チーズとは思われない。……うーん。原種に近い洋梨か何かかなあ?? 冬だし。
改めて『バンデット・バン』の方も確認してみたら、そちらでは「へた」らしきものが描かれてました。洋梨で間違いないですかね。 - 「俺は これから脱獄するんだが 良けりゃ 坊主も一緒に来るか?」
むせながら必死に貪る子供を見下ろして、男は気安くそんなことを言う。睨みつけてきた顔を見て「……子供の目じゃねぇな」と呟き、名を尋ねた。 - 「バン」と答え、少年は問い返す。「おっちゃんは?」
- 「ジバゴだ」男は名乗り、「よろしくな………バン」と、険のあるまなざしで、それでも優しく微笑んだ。
- 次回「盗賊と少年」
すっごい久しぶりに苛々してないキングを見ました。
通常状態のキングは、やっぱり可愛いなあ。('▽`*)
復権を果たしたキングに、バンは「よかったな」と言ってくれました。優しいです。
でも、ちょっと前までは「<豚の帽子>亭に帰れ♪」と、森から追い出す態度を繰り返すばかりでした。もしアルビオンの急襲がなかったら、キングは本当に森を去って、自分は妖精族に必要とされていないと思い込んだまま、二度と戻れなかったでしょう。
バンが第一部の時点で「森の復活」をキングに教えなかったのは、妖精たちが いかにキングを憎んでいるか知っていたので、教えない方が彼のためと判断した優しさからだ…というのは解ります。
でも、森にキングが帰ってからのバンの態度は、どういうつもりなのか、連載当時はイマイチ解らなかったものでした。
第111話の、キングとジェリコへの
「お前らも早く森から出ろ」「俺がいるから
妖精共 はおとなしくしちゃいるが 本音は お前らを追い出したくてしょうがねぇんだ」
という台詞は、妖精王(森の主人)の立場で発せられたもののようにも思えます。「俺は王になんぞ 興味ねえ」と やんわり否定しつつも、このように事実上受け入れた形にもなっていて、彼を王と慕う妖精たちを従わせていました。
また、「俺を妖精王と呼ぶな お前らのボスはあいつ(キング)だろーが」と言いながらも、当のキングには「森から出ろ」「<豚の帽子>亭に帰れ♪」の一点張り。
そのうえで、ゲラードに「お前が王になりゃ周りの妖精共も喜ぶんじゃねぇの?」と言いさえも。えぇ? 王はキングだと認めてるんじゃなかったの?
バンは本当はどう思っているのか? どうしたいのか? と首を傾げさせられたのです。
そうしたモヤモヤが、今回、完全に晴らされてスッキリしました。
妖精王はキング。バンは妖精族の恩人。その立ち位置で確定しましたね。
は~。あるべきところに収まった感じで安心しました。
読み返せば、バンはずっと妖精たちを「妖精共」と、ほんのり蔑みが感じられるニュアンスで呼んでました。(口が悪いだけでもあるんでしょうが。)
また、ゲラードに手のひら返しで襲われても驚かず「(人間の)俺が妖精王と呼ばれることに 嫌な顔をする妖精族がいることは 知ってる…」「俺を嫌っていたところで なんの不思議もねえさ」と嗤いました。
つまりバンは、妖精たちを さして信頼していなかったのです、最初から。
憎んではいないけれど、好きでもなかったのだと思います。
勝手に決めつけて、崇めて頼ったり、憎んで利用したり。妖精たちの身勝手さが、よく解っていたということかもしれません。
アルビオン急襲の際、バンは(ゲラードのせいでもありますが、)殺される妖精たちにも破壊される森にも関心を払わず、エレインだけを守っていました。
妖精たちは、バンに「妖精王」の役割を……「父親のように、何があっても当たり前に自分達を守ってくれる」ことを期待したけれど、バンが本当に大事なのはエレインで、森や妖精族はオマケに過ぎなかったのですよね。
バンが「森を出ろ」とキングに勧めたのは、「つま弾き」にされてまで森に留まる必要はないと、他意なく考えたからだったのでしょう。こんな「クソ」な森にいても辛いだけ、<豚の帽子>亭での暮らしの方がよほど価値があると。
でも、キングにとっての森はバンが考えるものとは違っていた。森や妖精は、彼にとって自分の命を張ってでも守る価値のある、愛しく大事なものでした。
たとえ つま弾きにされようと妖精族は彼の家族であり、彼らの住む森は、再生されたものであろうと彼の故郷だったからです。
バンには、その感覚がイマイチ解らなかったのかなと、読み返して改めて思いました。
何故なら、彼は「帰りたい故郷」を持った経験がなかったから。
……と、いうわけで。
バンの「帰りたくなかった故郷」での過去編が開始です。(前置きが長すぎてスミマセン…。)
幼いバンが監獄で出会った盗賊ジバゴ。
今までは外伝『バンデット・バン』に名前が出ていただけの存在でした。
アバディンの獄中で出会い、アバディンエール(妖精王の森で採れるワイルドベリーで作ったビール)の味を教えてくれた。妖精王の森の「
語られていたのはそれだけです。
後の小説版ではもう少し詳しく、出会った時 バンは子供でジバゴは大人だったこと、盗賊としての生き方を教えてくれた師や父兄のような存在だったこと(バン曰く「相方」)、度々「人を信用するな」と言っていたこと。
そして、生命の危機にあるバンを裏切って姿を消したことが語られていました。
エレインやメリオダスと並び、バンの人生に大きな影響を与えた人物なのは間違いありません。
二人がどんな暮らしをしていたのか、ジバゴは何の理由でどんな風にバンを裏切ったのか。ついに明かされるんですね。すごく楽しみです。
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バンの服がヘソ出しローライズなのはファッションではなく、他人から奪ったサイズの合わない服を無理に着ているからではと、以前、バンの考察ページに書きました。
同時に、20年前にエレインと出逢った時のヘソ出し服も、本来は自分の物ではないサイズの合わない服だったのではと考察してたんですが。
はっ。もしかして当たってた!?
今回登場した30数年前のジバゴの服。20年前のバンの服と同じじゃん!
あれって、他人から奪った服じゃなくて、ジバゴのお下がりだったのかー!
ただ、ちょっと疑問点もあります。バン、ズボンも上着とお揃いなんです。でもジバゴはそうではありません。
なので、ジバゴのお下がりではなく、彼のと同デザインの服を着ていただけなのかも?(だとすれば、よほど流行った既製服? 実は囚人服とか。)
でもまあ、ここでは「ジバゴのお下がり」と仮定して話を進めてみます。
上着、ジバゴが着ていた時はサイズ「ピッタリ」でした。ところが、バンが着てるのを見ると明らかに「つんつるてん」です。特に裾丈が足りておらず、腹の露出っぷりが半端ない。前面もぱっつんぱっつんで、ボタン留められないですよね、これ。
そこから判ること。
バンはジバゴよりずっと大きく成長したんだ! 特に背が伸びたんですね、若木のようにニョキニョキと。
食事事情は良好ではなかったでしょうに、よくまあ、こんなに立派に育ってくれたものです。
あと、ジバゴが着てた時は、バンが着た時に比べて袖の折り返しが深いように見えて、我が意を得たりな気分でニヤリとしました。
ジバゴより背が高いなら腕も長いはず。なのにバンがこの上着を着ると、裾は短いのに袖丈は足りてた。
つまり、袖の折り返しを出して袖丈を合わせてたってわけだ。うんうん。
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バンの血によってキングが復活した件。
正直、あまり……。
一番大きな理由は、申し訳ないですが、ちょっと生理的嫌悪感が(^_^;)。血を飲んで回復って、禍々しくて、なんかキモチワルイ…。すみません。
それと近い(?)ですが、またちょっと違うモゾモゾ感(笑)もありました。
血を飲ませて回復させるって、「倒錯的な特別感」がありません?
年若い乙女同士とか、運命の恋人同士とかならまだしも、それを男同士でやられちゃうと……。
んもー、ホモホモしいなぁ!(あ、言っちゃった…)
そういや前に、ドレファス(フラウドリン)がヘンドリクセンに自分の血を飲ませて回復させる場面もありましたっけ、見開き大ゴマで。
なんなのもう! 作者さんの嗜好なの? おっさんカプ萌えか!!(苦笑)
(バンとキングも実年齢はおっさんだし。)
で。
バンの血で回復ってのが嬉しくなかった理由は、もう一つありまして。
設定上の破綻が生じる感があるからです。
バンの血にそんな力があるのなら、今までも(呪言の玉なんて盗まなくても)自分の血で仲間を回復できたんじゃない? これからも、バンさえいれば回復アイテムやエリザベスは不要なんじゃない?
『エジンバラの吸血鬼』で吸血鬼オルロンディがバンの血をたらふく飲んでたけど、彼は完璧な不死存在になってたりしないの?
ところが。バンの血は無限に湧き続けるのです。どんなに血を絞っても死ぬことはないし、尽きることもありません。
となると、超アイテムが無限に存在するということになってしまう。
しかも、バンは結界の中に匿われてるわけじゃない。その辺をふらついてて、戦うたびに盛大に血をぶちまけてる。簡単に入手できちゃうじゃないですか。
そもそも。
バンの血が植物を育てるなら、今までバンが血を撒き散らしたとき、血に濡れた地面の草木がザワザワ育つ描写がなかったのは何故? これからは描写が入るの?
戦いの最中にバンの血が敵にかかったら、敵は回復してしまうんじゃないの?
そして、これが一番問題なのですが。
バンの血に瀕死のキングを蘇らせる力があるのなら、かつてエレインが死にかかった時、血を与えていれば助けられたんじゃん!
……そんな風に、彼女の死を「バンの失態」であるかのように解釈もできちゃう余地が出てきそうで。
それが、すごく宜しくないです。
今後も、誰かが彼の前で死んだり傷付いたりするたびに「バンが血をあげたらよかったのに。あげないなんて冷たい」と、読者が考えてしまうようになりかねない。
それを避けるべく、たとえば「妖精王しか回復させられません」みたいなことにしたら、それはそれで、いよいよホモホモしい。(;一_一)
これを払拭するには、もはや、怪我したメインキャラにバンが片端から血を与えて、「こんなの日常の行為です」って雰囲気にでもするしかないんじゃ(苦笑)。
こんな次第で、バンの血に「生命の泉と同等(?)の力」設定を付与するのは、やめてほしかったのが本音デス。
キングの復活は、バンが隠し持っていた呪言の玉で……みたいなのでも足りたんじゃ。「バンがキングを救った」という形が整えばよかったんだから。
今後、スッキリできる形で「バンの血の効力」に制限が明示されるといいのにな。
つーか。
彼の血が凄すぎるので、平井和正のウルフガイシリーズなんかの昔の伝奇小説やバイオレンス漫画みたいに、不死身性を求める悪の組織に血を狙われまくるようになるんじゃとか、変に心配になってきちゃいましたよ(苦笑)。
悪の組織じゃなくても、マーリン辺りがバンの血を絞って研究したり、血で作った回復アイテム量産したりしてても不思議じゃないです。むしろしてない方が変。
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ジェリコが宿代から何から支払わされていて、笑いました。
貢ぐ女ジェリコちゃん。
そうか。バンがジェリコを旅の仲間に認めたのは、お財布として便利ってことでもあったのか(大笑)。
お触りなしでお金だけは払わせるとは、伝説級のジゴロの素質がありますね、バン。
一方、驚いたことが一つ。
第一部では、仲間の財布を勝手にスリ盗ったうえ、お金を全部使い切ってたじゃないですか。ほら、バイゼル喧嘩祭りの時、ホークのを。
それが、今回は中身に手を着けずに返してやってる。
へぇー!!
バン、ホントに変わりましたね。
いや、盗まなくてもジェリコなら簡単に貢いでくれるから、なのかもですが(笑)。
そういえば、16巻おまけ漫画のタイトルが、まさに『貢ぐ女ジェリコ』でしたっけ。
妖精王の森で、バンそっくりに変身したハイド&シークに愛を囁かせるのと引き換えに、妖精プオーラが銀貨を要求。ジェリコはまんまと払ってしまう、というやつ。
この時にバンは、ジェリコの財布がずっしり重いこと、それでいて財布の紐が緩いことを見て取って、旅の仲間にしてもいいかと思ったのかも(笑)。
しかしこのおまけ漫画、別の意味で印象に残った点がありました。
かつて妖精族は「金目当てで」人間に狩られ、ヘルブラムは「なぁ… 金ってなんだ?」と悲痛と侮蔑を込めて吐き捨ててたものです。
つまり、妖精族には金銭の概念がなく、それ目的で他者を操作したり傷つけたりなんて、想像すらしない種族だったはず。
それが、ごっこ遊び的とはいえ、非常にアコギな金稼ぎをするよーになってるじゃないですかー。
時の流れは残酷です。いつの間にか、妖精族は人間の価値観に迎合し「世間ズレ(誤用じゃない方の意味)」してしまったらしい(苦笑)。
人間風に染まった(?)今の妖精社会でなら、かつてのヘルブラムも疎外感を覚えずに済んだのかもですね。
つーか。真面目な話、プオーラはどこから金銭・商売の概念を学んだのでしょう?
……あー。バンか。他に情報源がないはずだから。(^_^;)
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『七つの大罪』世界の異種族について。付記として、
今まで確認されていた異種族は、妖精族、巨人族、トロル、竜族、吸血鬼族。あと、魔神族と女神族。
特に勢力が大きいのは魔神、女神、妖精、巨人の四種族。
けれど3000年前の聖戦で、魔神族と女神族は姿を隠し、妖精族と巨人族も衰退している、と。
「
「
今まで登場した異種族って、大抵は「独自の
キングやディアンヌの外伝から、人間が異種族を軽んじていて、隙あらば迫害・侵略しようと狙っていることは知っていました。
そんな迫害の末に衰退しきって、逆に人間社会に紛れざるを得なかった哀しい種族もいたんですね。
考えてみれば、巨人族も人間の傭兵として働いています。自分達の領域を保ってはいるものの、人間社会に半ば頼っている。
一切の交易も必要とせず、資源・食糧などあらゆる面で独立し、一定以上の勢力を保ちながら「不可侵」を貫くことができていたのは、妖精族だけっぽいです。
妖精族は争い事が嫌いで、基本、呑気に生きています。
それが出来るのは、きっと「豊か」だから。
彼らは老いないし病気にもならない。そして飢えることもありません。耕さなくても森が繁茂し、食料も資源も、労せず入手できるからです。多分、「魔力」にも不足してない。神樹から潤沢にもたらされているのだと思います。だから誰とも争わず・奪わずに遊んで暮らせる。
で。
思うに、その豊かさをもたらしている(神樹から引き出している)のが「妖精王」なんじゃないでしょうか。
妖精王は神樹の力を引き出し、森の木々を育てる力を持つと明かされています。つまり、妖精たちの住処も食べ物も資源も、妖精王が創り育てていると言える。
三代全ての妖精王に仕えたゲラードが、妖精王は唯一無二の存在、王がいれば森は甦るが、王がいなければ森も妖精族もダメになると必死に訴えていたのは、そういう意味だと思うのです。
今回、キングが妖精王として復権すると、バンが「俺も ようやく面倒な役とはおさらばだ♪」と言いました。
つまり、もうバンが数年おきに通って「血で森を育てる」必要はなくなった、という意味だと思います。これからはキングが、元のように自分の魔力で育てればいいんですから。
…と、このように考えていくと、バンの血に宿った「
ずっと、「
それを飲めば傷が治ったり不死者になれたりするが、妖精たちはその効果を全く重視していない。
重要なのは森に設置し続けることで、それがないと森が枯れるという。
森が枯れるのなら、それは妖精王よりも尊重・優先されるものなのか?
そんなに重要なものが、人間が簡単に入って来られるような場所に置かれていたのは何故か?
うーん、解らん!
で。
キングの本来の魔力が「森を育てる力」で、それは「妖精王ならではの力」で、
妖精王には、ゲラードやヘルブラムのような補佐役の妖精が付いています。けれど彼らが補佐するのは、困った時に相談に乗るなどの、精神的な面だけ。森を育て・状況を見通し・外敵と戦う実質の仕事は、妖精王ただ一人にしか出来ないことらしい。
王にはそれをこなすだけの力が備わっているけれど、一人で全部やるのは大変なことです。なので、王の負担を少しでも軽減するために設置されたもの。それが「
ゲラードは、バンを拘束して永遠に血を流させ、新たな
「神樹に選ばれし
真 の妖精王を補佐し 森の繁栄のために尽力する――――」「私は 自分の役目を果たしたにすぎん」
泉の設置は「妖精王の補佐」のため。そう明言しています。
それは、妖精王の「森の木々を育てる力」に似た力である。
それを設置することで、王の補佐となる。
つまり、森を育てる王の助けとして、
これがあれば王の負担は軽減されるし、王が森を留守にした(仕事を休んだ)としても、最低限の状態維持はできる。
そういう役目のモノだったんじゃないかと思うんです。
なので、ハーレクインが行方不明だった間は、この泉を守ることが何より優先された。王がおらず、その代用品の泉さえなくなってしまったら、(妖精界含む)森は少しずつ衰えて枯れてしまう。
そうなれば、全ての妖精が飢えることにもなるからです。
逆にいえば、王が森に戻った(いつでも戻れるようになった)今は、
……と。こんな風に考えてみましたが、どうでしょうか。
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甦った死者の噂のこと。
盗賊都市に蔓延する、「生き返った死人」の噂。
この話を辿っていくと、もしかしたら、「死んだはずなのにピンピンして現れた」マトローナにも繋がっていくのでしょうか。
だとすれば、バンルートはいずれディアンヌルートと合流する?
これだけ噂になってるってことは、かなりの死人が生き返ってるんでしょうね。
誰が、どうやって、何のために?
生き返った人の記憶や心がどうなってるのかが一番気になります。
そして、ここで
たとえば、
死者の復活の是非を問う展開はくるのかな。