【感想】『七つの大罪』第214話 あの日の君には もう届かない
週刊少年マガジン 2017年20号[2017年4月19日発売] [雑誌]
第214話 あの日の君には もう届かない
- 「あああぁあぁあぁぁああああああぁあぁぁああああ」
グロキシニアの器に宿るキングの、憤怒の絶叫が響き渡る。 - ぐったりと目を伏せて絶望の涙を流すゲラードを、ロウが ドサッ と地面に投げ落とした。
「…またな ゲラード」
「ロ… …ウ」
意識を失った少女に もはや目を戻さず、青年は、憎悪を叫ぶ少年を見据える。
「さあ殺せ」 - 押し出すように腕を振り下ろしたキングの頭上から巨大な
霊槍 が投げ放たれた。
その刹那。
逃げようともせず待ち受ける男の微笑みが、キングの意識を引っ掻いていた。
「…何がおかしい」
呟いたと同時に思う。似たことを、かつて言った。
『…何がおかしい?』『虚勢を張るなよ 本当は悔しいんだろう?』
死者の都で、似たような微笑みを浮かべて石化していった男に向けて。
――バン。
ひやりと、心臓を冷たい手で撫でられた気がした。
エレインの声が脳裏に響く。
『…バンは あなたが私の兄だとわかったから あえて挑発し その槍を受けたのよ……』 - 時間にすれば数瞬だっただろう。
- グッと、引き留める仕草で再び握りしめた手のひら。
ビタッ大槍 が止まった。その巨大な切っ先がロウの鼻先を掠める寸前のところで。 - 「ぐ…………… …くっ」
顔を伏せてギュッと目を閉じ、キングは砕けそうなほどに奥歯を噛みしめている。
握った手は冷や汗に濡れ、ぶるぶると震えていた。荒れ狂う魔力 を、感情 を、強引に抑え込んだために。どっと涙が溢れてくる。
「…………いいや…」
それも拭わずに顔を上げ、真っ直ぐロウに目を向けた。話をするために。
「オイラは キミを殺さない」 - ――だが。
- ドチャッと落ちる音がする。上半身が消し飛んだロウから、左右に残された手先の血肉が。
ロウは死んでいた。 - 「な…」「……え?」
言葉をなくすキング。
直前で止めた。そのはずだ。何が起きた? 当たった手応えはなかったのに。
そして気付く。背後に何かの気配が生じていることを。 - 「フーーッ」「フーーッ」「フーーッ」
獣のように荒々しい呼吸音。大槍を操る腕を振り下ろしきった、憎しみに歪んだ悪鬼のような顔。
振り向いた先に在ったのは、復讐の闇に堕ちた、もう一人の自分 の姿だった。 - 「う…」「わああああああああああああああ」
- 「ああ… あ …あれ?」
自分の悲鳴でキングは目を醒ました。神器 から顔を上げる。
「ここは たしか…」古 の妖精王の森ではない。洞窟のような屋内のようなここは、始祖王たちが魔力で造った建造物の内部だったはずだ。 - キングは己の両手を見つめ、次いでフードを つまみ、しまいにペタペタと顔や頭に触れた。
馴染んだ服を着ている。髪も長くない。つまりは。
「も…」「元に戻……ってる?」 - その傍らに、膝を抱えたグロキシニアが フヨフヨ と降りてきて、トンと つま先を地に着けた。
「あれが キミの選択なんスね」 - 「
初代妖精王 様… 今のは一体…!!」
「見たままっスよ」「あたしは自分を抑えきれず ロウを殺した…」
抱えた膝に顔を埋めて、グロキシニアは再び ふわ… と浮かび上がる。
「怒りと憎しみは 彼を殺しても収まらず 全ての人間と 妹を守れなかった<光の聖痕 >に向かい」「…気が付けば いつの間にか<十戒>として戦っていたんス…」「妹 が生きていたとも知らず―― いいや 確かめもせずにね」「…最低の兄貴っス」 - キングが勢いよく自分の胸を押さえて訴えた。
「いや! 最低の兄貴ってことなら オイラは負けてませんよ!」
「そこ… 張り合うところスか?」
フォローのつもりなのか素なのか。ともあれ、グロキシニアは伏せていた顔を向けた。
「じゃあ… キミは なぜ ロウを殺さなかったんスか?」 - 「本当の悪なんて そう在るものじゃないでしょう?」
脳裏に幾つもの姿を思い浮かべながら、キングは語る。
「少なくとも 今まで戦ってきた相手は それぞれに事情を抱えていました…」
魔神化したジェリコ、ギーラ、デール、ヘンドリクセン、…そしてヘルブラム。生かせた者も、やむなく手にかけた者もいる。そのつもりが生きていた者も。
◆ここでイメージの中に灰色ヘンドリクセンが入ってるってことは、ヘンドリクセンも赦したことになるんですね。
ヘンドリクセン自身は「報いは受けるつもりです」「でも(<十戒>から王国とドレファスを救うまで)少しだけ待ってください」と自らキングに申し出てたものでしたが(第132話)、さて、何をする気なのかなあ。
前も書きましたがキングに「さあ殺してください」とかやるのはアホ丸出しですから(キングが悪者みたいになるし、責任や判断の丸投げです)、何か違う形で大人のケジメを見せてくれたらいいですね。ドレファスやメリオダスやジェンナやハウザーに庇ってもらうのは、いいかげんナシで。大人の男だからね!
…や。十中八九、しれっと 無かったことになるんでしょうが(苦笑)。
最初からわかってたさ…「報いを受けます」って言ったのは その場逃れの口先で、能動的に受ける予定なんてないし・そういう展開にもならない(<大罪>らのような罪人呼ばわりすらされない)だろうってことは。
まあでも、普通に楽しく生きてくれればいいと思います。モヤッとはするけど、苦しんでほしいわけじゃないですから。 - 敵対者たちの次に脳裏に浮かんだのは、バンの姿だった。
「オイラにとってはクズみたいな男でも 妹にとっては かけがえのない存在なんです…」
バイゼルの大喧嘩祭り会場へ酒の配達へ向かう道すがら、妹 との仲睦まじさを見せつけられたものだ。身勝手で手癖と酒癖の悪い悪人面の男だが、妹を誰よりも大事にしてくれている。そして、妹も彼を。
「…それは あなたも同じでしょう?」
妹を誰より大切に思うからこそ、幸せになってもらいたい。
「もしかしたら ロウだって ゲラードにとっては――…」「そんなことを考えたら… 殺せなかった」
◆ゲラードとロウは出会って数時間なうえ、ロウは本物の裏切り者で虐殺者でした。それを『ロウはゲラードの恋人かも』と思ったキングさんは、電波レベルで察しがイイ(^^;)。この漫画世界では、ジェンナ曰く、むしろ「察しが悪い」らしいのに。
それはそうと、ここの台詞回し なんか不思議な感じです。「…それは あなたも同じでしょう…?」って台詞が、どうしてここに入るのか。
キングは、現時点で、本当にロウとゲラードが恋愛関係にあったか確信できていないはずです。しかしこれ以降(後の回でも)、周知の事実扱いで話が進むことになります。
神目線で(作者・読者に)だけ認識されていたはずの情報が、それを知らないはずの作中キャラに、説明なく共有されている。
奇妙ですね。
少し前も、3000年後の人形ゴウセルが記憶と感情を失ってることを術士ゴウセルが何故か知ってて、そんな事実はないのに「キングとディアンヌから話を聞いた」と言ってましたけど。
知らないはずの情報を作中キャラが把握してるという破綻が続いています。作者さん、疲れてます? - グロキシニアは膝を抱えるのをやめて、ドロールと並んで浮かんだ。
「そんな甘さじゃ この先の戦いが思いやられる…」
冷たい目で睥睨 していた顔を、スッと逸らす。
「本当の悪だって 実際いるんスよ」 - 「だから オイラは全身全霊で見極め 戦います」
一拍の迷いすらなく返されたキングの声に、揺らぎはなかった。傍らで未だ眠り続けるディアンヌに、真っ直ぐな目を向けて。
「大切な存在 を守り抜くために」 - 「…………」
ふ、とグロキシニアの口元に笑みが浮かんだ。
「………合格っス」
小さな声は、キングに届いていない。 - 「…ところで オイラが体験した聖戦は本物だったんですか? ――――それとも全て…幻…?」
「本物っスよ 幻ならば会話なんて成立するはずがない」
「そ… そっか」
「当然 向こうの世界で死ねば こちらに残った肉体も死ぬ…」「場合によっては試練に至る前に死んでしまうことも あり得るわけっス」 - キングは浮かび上がって、グロキシニアと目線を合わせた。
「じゃあ… オイラが戻ってこれたのは試練で正しい選択をしたから… ですか?」
「正確には あたしと違う選択をしたからっスよ」「歴史というものは そう簡単に ねじ曲げられるものじゃない」
グロキシニアは物知り顔で両腕を組む。
「些細な変化なら いざ知らず―― 大きく運命を変えようとすれば」「歴史を補正しようとする力が働いて 強制的に元の世界に戻される仕組みっス」
真に「あの日」をやり直すことは、もう できはしない。
「…だから もし君が あたしと同じ選択をしていたら―――」「怒りの渦に呑まれて全く同じ道を歩み 二度と戻れなかった可能性もあるっス…」
キングの顔がひきつり、半笑いの冷や汗を浮かべて ゴク… と唾を呑んだ。想像以上に危険な道を歩まされていたらしい。 - そんな現妖精王を、グロキシニアは横目で冷ややかに見やる。
そして、ニッと笑った。
「でも キミは あたしにできなかった道を選び こうして戻ってきた…」「これはきっと キミに大きな成長をもたらすはずっス」 - パアッとキングの表情が輝く。――が。
「…ん? まてよ」
たちまち曇り、ブツブツと呟き始めた。
「たしかに霊槍の力の引き出し方や魔力の配分は摑めた気がするけど――」「それは あくまで初代妖精王様の体だったからで…… 結局 元のオイラに戻ったんじゃ……」技術 が増したところで力 が伴わなければ意味がない。依然、闘級差は10倍以上あるのだから。 - 「?」と怪訝そうに後輩を見つめるグロキシニアに、騙したつもりは ないのだろう。強大な闘級を持って生まれた天才には、そもそもの地力の足りなさを どう鍛えるかなんて、思考の埒外なのだろうか。
- そしてキング自身も、それ以上は思考できなかった。
ドクッ
不意に全身が脈打ち、激痛が走ったからである。
「ぐ…あ!! 体が……」
浮遊は維持できたが、己の身を抱いて、ググ…と海老のように丸くなる。 - グロキシニアが眉根を寄せた。
「ドロール君 これは…」
ドロールは顎に手を当てて考える仕草をする。あるいは、キングを魔眼で『視て』いるのか。
「刻還りの術の副作用…」「もしくは――…」 - 改めて、この試練は無事では済まないものだったらしい。
激痛に歯を食いしばりながら、体を丸めたキングは眼下に眠るディアンヌに呼びかけた。
「ディアンヌ… キミも必ず…」「必ず 無事に戻ってきてくれ!!!」 - あどけなく眠るディアンヌの魂は、未だ3000年前のドロールの器に宿っていた。
「じゃあ ボクはキングが心配だから もう行くね …キミたちは?」古 の妖精王の森で、遠くに見える「恩寵の光」を指さしながら、彼女は二人のゴウセルに語りかけている。
◆「キングが心配だから」か…。
もはや彼女の頭からは、殺されていく仲間を救助に行くところだった、その状況を作り・救助への妨害を仕掛けてきたのがゴウセルだったという状況は、完全に消え失せているようです。忘れていいことではないと私には思えるのですが。これが「優しさ・心の広さ」なの? - 「言っただろう? 聖戦を止めるのさ」
壮年のゴウセルが答えた、その時だった。 - ビシッ
恩寵の光の頂上近くに蜘蛛の巣状の亀裂が走ったのは。 - 「!!?」
ぎょっとしてそちらに顔を向けるディアンヌ。 - 「すごい魔力…」
車椅子を押そうとしていた人形ゴウセルが目を丸くした一方で、壮年ゴウセルは表情を険しくしていた。
「気付かれたか」 - その時、「恩寵の光」内部に開かれた魔界の牢獄の門の奥から、歩み出てくる者があったのだ。
「…早かったわね 助かったわ!!」
頭を闇色の光に包まれたままのメラスキュラが、ホッとしたように表情を明るくする。
「これも仕事だ… 奴は まだ近くにいるようだな…」
カツ カツ と足音を響かせながら、剣を帯びた小柄な影が露わになってきた。
それだけで塔城に亀裂が走ったのだから恐ろしい。 - 「こ… この殺気は!?」
慄くディアンヌに、壮年ゴウセルが告げる。
「来るぞ」「処刑人が!!!」 - 次の瞬間、「恩寵の光」の頂上付近がカッと輝き、ドンッと粉々に吹き飛んだ。粉塵の中から垂直に飛び出した人影が、一息でディアンヌらの前に飛び降りる。
ダアンッ
地を鳴らす やや前屈みの着地から、淀みない動作で身を起こしたのは、少年の姿をした漆黒の魔神。
3000年後には「敬神」の<十戒>を名乗ることとなる。メリオダスの弟、魔神ゼルドリスだった。
◆グロキシニア(キング)すら、この場所から「恩寵の光」に飛んでいくまで少々時間がかかったのに、ゼルドリスは一跳びですよ…。 - 次回「処刑人ゼルドリス」
今回の扉絵は、
そんな可愛い絵の片隅に描かれていた
コイツ ↓ が、気になって仕方ありませんでした。
なんなのコイツ。ブタ…? シカ…??
あああ、気になるぅう~~。
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「刻還りの術」が、仮想過去ではなく本当の過去に干渉する術だった件
え、ええぇ~~(困惑)。
「本物っスよ 幻ならば会話なんて成立するはずがない」
じゃあ、ドルイドの聖地でのメリオダスの修行でも、過去のリズやワンドルと会話が成立してましたが、アレも本当の過去だったんですか?
リズと家で抱き合ってた場面から いきなり彼女が死ぬ場面に飛んだりと、場面が不自然に移行してたし、何十回と繰り返させていたから、アレは(それこそ会話が成り立つレベルで)限りなく本物に近い世界をシミュレート・再現した仮想過去だと思ってたのになあ。(アレが本物の過去なら、リズやダナフォールの人たちが可哀想ですよ。自覚がなかろうと、どんだけ死ぬとこ繰り返されてんだ。)
う~~ん??
「歴史というものは そう簡単に ねじ曲げられるものじゃない」「些細な変化なら いざ知らず―― 大きく運命を変えようとすれば」「歴史を補正しようとする力が働いて 強制的に元の世界に戻される仕組みっス」
えぇ~~。
じゃあ、リュドシエルがデリエリとモンスピートを殺そうとしたのを止めなかったとしたら、その時点で現代に戻されて試験失格終了だったんですか(苦笑)。危ないところでしたね。
キングとディアンヌは過去のメリオダスに思いっきり名乗ってましたけど、それは何の影響ももたらさなかったってことなんですかね?
キングらの言動が思い切り不審だったのにメリオダスは殆ど気にしなかったから、仮想過去の反応の限界なんだろうなと思ってましたけど、単にメリオダスが大ざっぱだっただけなんですか。
そのうち現代編のメリオダスが「そういえばあの時、ドロールがディアンヌだと名乗ってた」と気付く場面があったりするのでしょうか。
「もし君が あたしと同じ選択をしていたら―――」「怒りの渦に呑まれて全く同じ道を歩み 二度と戻れなかった可能性もあるっス…」
その場合、キングがグロキシニアの体を乗っ取った形になって、グロキシニアの魂は消えてしまっていたんでしょうか???
いまひとつ解らないですね…。
この設定は、ディアンヌに術士ゴウセルが与えた「贈り物」の効果を現代にもたらすためには「本物の過去」でないといけないというメタ的な理由?
しかしその場合、ディアンヌがゴウセルに贈り物をもらった時点で「未来に影響を与えた」扱いにならないんですか?
ゴウセルに贈り物を貰おうが貰うまいが、ディアンヌはいずれ自力で 同じ状態になったから、歴史の大いなる流れから見れば些細な差異に過ぎないということなんでしょうか?
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キングの試練のこと
まずは。
彼が無事に試練を終えたこと、自分自身の力で成し遂げたこと、すごく嬉しかったです。とても安堵しました。ホントによかった。
それを前提として、個人的に思ったことをば。↓↓
第210話の感想で既に書いた通り、私は
人を赦す(第一の)理由を「相手にも事情があるから、可哀想だから」とするのは、歪んでいる。
と考えています。
(あの感想を書いた時点で この回まで読んでいたので、あれはこの回への感想でもありました。)
加えて。
この漫画には「可哀想」または「愛のためだったから」を免罪符に振りかざすキャラがすごく多い。
特に第二部になってから、
「(可哀想な事情があるんだから、愛のためだったんだから)赦すのが正しい。それができないのは愚か者」
という空気が生じているように感じて、それが好きではないです。
今回はロウが最大限に美化されていて、仲間を殺され妹を傷つけられたことに怒るグロキシニアこそ愚悪である風に演出されていたのが、非常に苛つきました。
人を赦すことの大切さを説くにしても、もっと別の語り口に出来なかったのでしょうか。
これでは、可哀想な事情や愛さえあれば大量殺人しても罪がない、むしろ赦さない方が大罪人であると言っているかのように見えてしまいます。
「ロウは罪を犯さなかったのに誤解されてグロキシニアに殺された」みたいに、ホントにバンと重ねて冤罪にしてくれてた方が、自分はスッキリ楽しめたのになと思いました。
それだったら、殺す前に一度手を止めて話をする・赦すのは文句なく正しいから、頭空っぽにしたまま楽しく読めた。
そもそも、今回のエピソードは色々歪んでいた感があります。
一つ。
完全に冤罪だったバンの件と、本物の裏切り者であるロウの件は全く事情が違うのに、同じであるかのように扱われていること。
二つ。
グロキシニアの問題点は、ロウを殺した後に「何故か」怒りが収まらず・「何故か」ゲラードの生死を確認せず・「何故か」人間族全体はまだしも<
私個人の意見としては、(命を取るかは別にして)「ロウを断罪すること」までは間違ってないと思うのです。
(その後の逆恨みスパイラルには全く賛同できませんが。)
(私だったら、ロウの利き腕を砕いて二度と武器を使えないようにしてから森から蹴り出すかなあ。)
ロウを断罪することを否定するなら、今までのエピソードでメリオダスやバンが愛する人を傷つけた敵を倒したことも「間違っていた」と言わねばならなくなるのでは。
例えば、エレインを殺した赤き魔神をバンが殺したこと。
そもそも赤き魔神はエレインを狙っていたわけではなく、バンが先に攻撃したので反撃したらバンの後ろにいたエレインが死んだという次第でした。赤き魔神が森に現れたのも何か事情があるのでしょうし、もしかしたら悪意もなかったのかもしれませんね。
……とかいう「赤き魔神の事情」を考えて「バンは赤き魔神を赦さなければならなかった」と、そう思いますか?
例えば、リズを殺しドレファスらを苦しめたフラウドリンをメリオダスが殺したこと。
今回の過去編の理屈を適用するなら、フラウドリンも「仲間をリュドシエルに惨殺されて怒るのは当たり前で悪い子じゃない」のですから、赦して守ってあげなければならないはずですよね? グリアモールのおかげで最後には改心してましたし。
フラウドリンの可哀想な事情を考慮して、メリオダスは彼を赦さなければならなかったと、そう思いますか?
キングは
「だから オイラは全身全霊で見極め 戦います」
と言ってますが、具体的にどーすんのか。
これからは、殺さないで毎回生け捕りにして審問・裁判して殺すかどうか決めるんですか? 闘級が上がることで心を読む能力がアップして、閻魔様かオベロンみたいに一目で過去からの善悪が見極められるようになるのかしら。
それとも、作者さん側で「殺していい敵」と「殺しちゃいけない敵」を明確にカラー分けして出すようになるのかな。
殺していい敵は見るからに悪い顔して邪悪な言動をとる、みたいな。
いやいや。単に、これからは殆どの敵が「死なない」、不殺バトル漫画になるんですかね。ラスボスとかだけは心底悪い奴だから殺していい、みたいな扱いで。
キングは妖精界を守る王で、侵攻してくる人間たちを殺すことで妖精界の平和を保ってきたと語られています。
妖精や妖精界から奪うことばかり考えていた人間たちにも、きっと各々美点があり、事情があったことでしょう。
けれど今までのキングは、そこは甘さを捨てて、敵は殺すという方法を取っていたと。
でも これからは、いちいち敵の事情に配慮して、妖精たちが殺されても「事情があったんだから仕方ないね」と赦し、身内の死は泣き寝入りさせねばならないのでしょうか?
……と、こんな極論さえ考えてしまえるから、人を赦す(第一の)理由を「相手にも事情があるから、可哀想だから」とするのは、歪んでいる。と、やっぱり私は思うのでした。
「だから オイラは全身全霊で見極め 戦います」
この台詞を見て、小説の十二国記シリーズのエピソードを思い出しました。
主人公が王になる決意をする。そのためには偽王を倒さねばならず・大きな戦争をしなければならない。仲間は「前線に立たなくていい」と言ってくれたが、主人公は強いて前線に出て自らの手で兵士を殺すことを選ぶ。
で、主人公が言うのです。「その代わり、殺した人の顔はすべて忘れない」と。
これを読んだ当時、そんなことしたら心を病むぞ、何のために人間に忘却の機能が備わっていると思ってるんだ、と感想したものでした。主人公は綺麗なことを言っているんだけど、無用な高潔であるように、私には感じられたからです。
でもまた、こうも思いました。
本当に大切なのは、殺した人全ての顔を正確に記憶し続けることではない。それだけ多くの人の命・人生を犠牲にしてでも安泰な国家を作ったと生涯忘れないことだ。
主人公(作者)が言いたいのは、それだけの覚悟を負います、という決意なんだろう、と。
同じように。
今回のキングの決意。
本当に大切なのは、額面通り「戦うたび、いちいち敵が正しいか間違っているか見極める」ということではなく。
戦いの際に憤怒に囚われないこと、倒すべき敵を見誤らないように心がけること、って意味ですよね。たぶん。
冷静に、広い視野を以て、不正なく戦いに臨む?
キングさんは己に求めるものが高いですね。
普通の人間なら精神的に疲労して いつか潰れちゃいそうな気もしますが、考えてみたら、キングってメンタル滅茶苦茶強い気がするんで、大丈夫なのかもしれない。
(キングはよく泣くのでメンタル弱いかのようにも見えますが、ヘルブラムを殺し・仲間がアルビオンにミンチにされても、メリオダスを失ったエリザベスのように一ヶ月ひきこもるでもなく普通に活動し続けてて、そもそも弱音を見せるのは基本的にオスローの前でだけだし、実はむっちゃメンタル強い人ではないかと思う。)