【感想】番外編 やさしい魔法の解きかた
週刊少年マガジン 2017年1号[2016年12月7日発売] [雑誌]
番外編 やさしい魔法の解きかた
『週刊少年マガジン』本誌掲載の4P番外編です。
作者さんが手術のため入院されたので、今号から一ヶ月ほど本編は休載。(本編再開は2017年7号(2017年1月18日発売)からの予定。)その間は、事前に描き溜めしておいた ミニ番外編を掲載するとのこと。
思えば、一ヶ月くらい前から じわじわとフラグは立てられていた気がしなくもなく。
『マガジン』2016年49号(11月2日発売)の編集者の柱コメント
人間ドックの検査結果がそろそろわかることに気づき、お酒禁止と言われるのが不安になってきた鈴木央先生にお便りをお願いします!
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翌50号は休載
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53号(前号)の巻末著者コメント
今年 手術をすることになってしまったかも…。
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翌54号(12月7日発売)に本編休載の告知
『七つの大罪』は鈴木央先生手術による入院のため、今号よりしばらく休載いたします。念のための入院であり、深刻な病状ではありませんので、ご安心いただけますと幸いです。
人間ドックで判明して深刻じゃないけど手術するものって、ポリープ切除とか血管の狭窄にステント入れるとか?(無責任な推測すみません)
描き溜めは常々していたものではなく、今回の入院のために新しく描き下ろしたのかなと自分は感じました。そのために一週休んで準備してたとか。
当面の休載を覚悟してたので、描き下ろしの新作が本編再開まで載るなんて、すごくビックリしました。
嬉しいしスゴいけど、申し訳ない気持ちにもなりますね。(^^;)
おかげさまで、本編休載にも しょんぼりしなくて済みました。
ありがたく楽しませていただきます。感謝です。m(_ _)m
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では、内容の感想。
リオネス防衛戦後、マーリンによって完璧に修復された王都には、彼女の小さな研究所も元通り建っていました。
そこを訪れた男二人。ドレファスとヘンドリクセンです。一ヶ月前から幼子の姿になったままのグリアモールを元に戻せないかと相談に来ていたのでした。
マーリン
「混沌の母より生まれし 太古の幽鬼 アオナン」「人の深層心理を読み取り 対象の姿を その者が本能的に畏 れている物へ変身させてしまう まあ 一種のいたずら魔法だ 例えば 毛虫を嫌う者を毛虫に 老いを畏れる者を老人に――とな」ドレファス
「では グリアモールはドルイドの修練窟で その化け物と出会って…」マーリン
「グリアモール殿が 一番嫌悪するものは 力なき 幼き日の自分… あの鍛えあげた肉体を見れば 一目瞭然だがな」
そう言われて、何やら思い当たるフシがある風に深刻に黙り込むドレファス。気遣わしげに見つめて「ドレファス………」と声を掛けるヘンドリクセン。夫婦か。
マーリンはと言えば、宙に浮かべたレシピを見ながら大釜を おたまで掻き回しています。
何作ってるのでしょう? 魔法薬と見せかけて、ご飯作ってるだけという疑念も捨てきれません(笑)。
未知の料理なんてものも、探求心を刺激するモノであるには違いない。
「どうか 息子にかけられた魔法を解いてください!!」と請われても「私も 他にやらねばならんことがあるのだ」と けんもほろろです。
ドレファス
「そ… そこを なんとか…!!」マーリン
「最後まで聞け! 解く方法はある」ドレファス&ヘンドリクセン
「「へ?」」
さて、その夜のこと。
修復された王城では、幼いグリアモールが寝支度をさせられていました。
「まじんの おじさん …かわいそう…」「ヒック………ヒック」
最後に改心を見せたものの、赦さぬメリオダスに無慈悲に殺されたフラウドリン。彼を想って泣きじゃくるグリアモールを、ベロニカ王女は自室に入れて、自分のベッドで一緒に寝かせていました。
グリアモールが子供の状態でリオネス王都に戻って一ヶ月経っているはずですけど、その間ずーっとベロニカと一緒に寝てたんでしょうか?
…いや、いくら子供でも流石に分不相応ですから、泣きじゃくるグリアモールを見かねて、今晩だけ特別に一緒に寝ることにしたのかな?
ベッドの中で小さなグリアモールを優しく抱きしめると、薄く涙を浮かべてベロニカは言いました。
ベロニカ
「私がどんだけ心配したか わかってる?」「…二度と あんな無茶をしたらダメだよ…?」幼グリアモール
「うん…」
グリアモールが、自爆しようとしたフラウドリンの足にしがみついて結界を張り、自分を犠牲にしてでも周囲を守ろうとしたことは、彼女にとって 胸が潰れるほど恐ろしいことだったんでしょう。あの勝気なベロニカが涙を浮かべています。
そして、グリアモールの額に、ちゅっと 優しい キスを落としました。
さておき。
グリアモールにかけられた魔法を解く 易しい 方法を、マーリンはどう言っていたのかというと。
「愛する者からの接吻だ…」
とゆーわけで。
王女の部屋から響き渡る、時ならぬ悲鳴。
ベロニカ
「わーーーーーーーーーーっ!!!」「グ…」「グリア…モール?」グリアモール
「ベロニカ………様」「俺は ここで何を…?」
子供用のパジャマはビリビリに破れ散り、逞しい全身を惜しげもなくさらした21歳のグリアモールが、王女のベッドに呆然と膝立ちしているではありませんか。
その股間を眼前にして、腰を抜かした風にへたり込んで「あわわわわ…」と真っ赤な顔で泡を食っているベロニカ。
彼の逞しさは、腰を抜かすほどでしたか。
「ベロニカ様!? どうされま…」
即座に駆け付けるは、今やベロニカ王女付きの第一の騎士であるギーラ。
あらら。
グリアモールが留守にしたり子供になってる間に、最も傍近い お付き騎士の座を奪われちゃってますよ(苦笑)。
ネグリジェを着てるところを見るに、ベロニカの寝室のすぐ近くに私室(もしくは宿直部屋)を与えられてるようです。
彼女は部屋の状況を一瞥するなり、問答無用でショット・ボムを撃ちました。
不埒な男は吹き飛ばされ、全裸で王城の塔から落ちていきましたとさ。
おしまい。
…え。折角 元に戻れたのに、これ、死にませんかグリアモール(苦笑)。
それは置いといても、王女の部屋から全裸で若い聖騎士が落ちてきたなんて…。スキャンダル待ったなし!(苦笑)
まあ、ベロニカとグリアモールは殆ど婚約状態みたいなものでしたから、別にいいのかな。(これを機に正式に婚約すると よいよ!)
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面白かったです。
子供になったグリアモールをベロニカの前に置いたら何が起きるか見たい、可愛がるのか戸惑うのか…と思ってましたが、可愛がる方でしたね。
ベロニカは いいお母さんになりそう。
ファンブック『罪約聖書』に、グリアモールの人生で一番恥かしかったことは「ペーネスでベロニカに裸を見られた」ことだと書いてありました。
第一部でベロニカが瀕死の大怪我を負った後、二人はペーネスの湖畔に行って、その岸辺にある小屋で暫く二人暮らししていたそうで。なんかイロイロあったらしい。
その期間中に、湖で水浴びしてたのをベロニカに見られたのかな?
で。今回、またまたベロニカに裸を見られちゃったんですね(笑)。
普通逆じゃないのか。なんでキミは好きな女の子に裸を見られてばかりなんだ!(大笑)んもー、どんだけヒロイン体質なんですか。
ちなみにベロニカの人生で一番恥かしかったことは「グリアモールにおんぶされたこと」。
は…裸を見ちゃったのよりも、おんぶが恥ずかしいの? 密着するから?
なんなんでしょうね、このズレは(笑)。
そういや、第一部で全裸のエリザベスに服を貸した時、ベロニカは上半身チューブトップだけの、かなり際どい、殆ど下着みたいな姿になってましたが、特別に恥ずかしそうな素振りはなかったです。(グリアモールは息を荒げてガン見してました。)
ベロニカは、自分が裸同然になったり他人の裸を見たりしても、そんなに頓着しない
今回のも、裸を見ちゃったことより、おでこちゅー(したことを青年グリアモールに認識されること)の方が、ベロニカ的には恥ずかしかったり?
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僅か4Pのミニ番外編なのに、気になる要素もてんこ盛りでした。
まずは。
このお話、時期的にはいつのことなんでしょうか?
●フラウドリンの死をグリアモールが生々しく嘆いている
●リオネス王都が完全に復元されている
●満月(防衛戦終結当夜も満月)
以上から、多分、王都防衛戦終結の翌日(午前中にハウザーが聖騎士長就任)の午後~夜。遅くとも、せいぜい その翌日じゃないかなと。(それ以降だと満月なのは おかしいです。)
で。
一日程度のこととはいえ、マーリンが研究所に戻って腰を据えていたのは、少し気になりました。
マーリンの浴室で「次の一手を打たねばならぬ」と言ってましたし、てっきり、<大罪>は あれからすぐにリオネス王都を出発して、キングらと合流しに行ったか、キャメロットに向かったのかと思ってた。
まあ、<豚の帽子>亭が全壊してますから、建て直すまで出発できないのかもですが、王都全体を一夜で修復したマーリンがいるのですから、酒場一軒の復元くらいチョチョイのチョイ☆てなモノのよーな気がするのに。
それに、マーリンが「私も 他にやらねばならんことがあるのだ」と言ってるのも気になりました。
<十戒>との戦いは当然として、変身の魔法を解く暇もないほど急を要して、何をしなくちゃいけないんでしょうか。
それこそ<豚の帽子>亭の修復?
あるいは、呪言の玉みたいな魔法具の作り置き?
ゴウセル用の「沈静の
…自分が出るまでのことじゃないなと思ったから、断りの口実?
二つめ。
「グリアモール殿が 一番嫌悪するものは 力なき 幼き日の自分」と言われたドレファスが、何やら深刻そうに黙り込んでいたこと。
深い意味はないのかもですが…。
グリアモールが己を鍛えて強くなろうとしたのは、ベロニカを守るため、ですね。
でも、ドレファスがあんまり深刻そうな顔で黙りこくっていたので、もう一つ理由があるのかもなあ、とぼんやり思いました。
小説版によれば、グリアモールがベロニカに初めて引き会わされたのは、彼が5歳、ベロニカが2歳の時。
で。
ベロニカの母であるキャロライン王妃と、グリアモールの母 アンナ、ギルサンダーの母 レネが、三人揃って魔物に殺されたのは、ベロニカが4歳、グリアモールが7歳くらいの時です。
そして、グリアモールやギルサンダーは7、8歳くらいの頃から聖騎士見習いになったっぽい。
なんとなくですが、母を魔物に殺されたことも、幼い彼が自分を「力なき」存在だと思った理由の一つなんじゃないかなあ、とか。
母を失ったから、同じ痛みを持つベロニカを、より強く「守りたい」と思うようになったのかも。とかとか。
そーいや、この辺の設定で、ずっと気になってたことがあります。
ついでに書いちゃう(笑)。
単行本16巻に収録されてる、若き日のヘンドリクセンとドレファスを描いた番外編『泣くな 友よ』。
そこに、幼いグリアモールが「今日はギルとハウザーと山に行ってくるね」と母アンナ(らしき女性)に言って遊びに出かける場面がある。
しかし、前述したように、アンナはグリアモールが7歳くらいの時に死んでます。
で。
ハウザーがギルサンダーと友達になって聖騎士見習いになったのは、彼らが8歳の時なんですよ。(わんぱく三人組は同い年)
んんん…??
これ、番外編がマンガボックスに初出した当時からずーっと気になってました。
…まあ、ギリギリ、アンナたちが殺される直前にハウザーが友達になったと思えばいい、のか?
もしくは、アンナらしく思われる家事をしている女性が、実はアンナではなく、彼女の死亡後に家事をしてくれていたというアンナの妹(叔母)だとか。
三つめ。
「混沌の母より生まれし 太古の幽鬼 アオナン」のこと。
パッと読んだとき、「アナオン※」かと思っちゃいました。「アオナン」ね。
ゾンビっぽくて怖いです。こんなのに洞窟の中で遭ったら腰抜ける。
なんか元ネタがあるのでしょうか。
※「アナオン Anaon」の方は、フランスのブルターニュ地方(ケルト文化圏)に伝わる死霊もしくは あの世のことです。ウェールズのアンヌンに相当します。
天国へ行けず地獄にも落ちない、贖罪のため苦しみ彷徨う煉獄の亡霊のことを、ブルトン語でアナオン、もしくはアナオンの民と呼びます。
追記:単行本(26巻)に収録された際、アオナンから「アナオン」に修正されていました。
ここの台詞、何気に重要な要素が出ている気がしました。
「混沌の母」。
これはファンブック『罪約聖書』に書かれてた「マーリンが好きな動物」ですけど、私は勝手に、ホークママのことではないかと推測しています。
で、アーサーにくっついてる猫っぽい謎生物キャスも、ホークママから生まれたんじゃないかと思ってまして。
もしも、アオナンもキャスも「混沌の母」から生まれた存在なら、彼らが同じドルイドの修練窟にいたのは納得できるかも?
つーか。こんな太古の怪物がいるなんて、ドルイドの修練窟って何なんじゃろ??
姥捨て山ならぬ魔物棄て穴か?
それはそうと。
アオナンは生まれた時から「幽鬼」なんでしょうか。死んで幽鬼になったんでなく。
なんだか気の毒ですね。彼に青春はあったのだろーか。
あと、アオナンのいたずら魔法はシャレになんないと思いました。
毛虫とか炎とか、アオナンそのものに変身させられてたら、誰にもキスしてもらえないから元に戻れないじゃないですか。
グリアモールは「子供」に変身して よかったですね。
もし饅頭が怖かったら、ホークに食べられて終わりでした間違いなく。
にしても、修練窟で修行してて子供になったから、てっきりパワーアップに繋がる子供化かと思っていたら、単に修行に失敗して呪われてただけだったとは。(^^;)
おでこちゅーで元に戻れた辺りは親切だなあと思いました。
唇へのキスに限定されてないってことは、愛情のあるキスなら恋愛に限らないってことですよね?
親子愛とか友愛とかでもよかった…のかも。
…そう考えてみると、挨拶的なキスのハードルが低い文化圏で、一ヶ月も元に戻らなかったグリアモールは……。
…いかん、なんか寂しくなってきたから考えるのをやめよう。
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最後に。
元の姿に戻ったグリアモールが、子供化していた間の記憶を失っていたのは、少し残念だなと思いました。
フラウドリンの死を悼む者が、一人もいなくなったからです。
彼は憎まれるだけのことをしたので仕方ないですけど、最期に愛に殉じて、それは幼いグリアモールにだけは届いていたのに、無かったことになってしまうんだなあ、と。