『七つの大罪』ぼちぼち感想

漫画『七つの大罪』(著:鈴木央)の感想と考察。だいたい的外れ。ネタバレ基本。

【感想】『七つの大罪』第196話 君がいるだけで

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週刊少年マガジン 2016年47号[2016年10月19日発売] [雑誌]

第196話 君がいるだけで

  • 沈む夕日に照らされた王都は静まり返っている。
  • ぷりりっと糞をしたホークの変身トランスポークが解け、赤き魔神風の姿から元に戻った。
    「う……う~ん」「お… 俺は一体今まで何を?」
    プゴッと鼻を鳴らして、しばし考え込む。
    「……………はっ!」「そうだ!! 王国へ向かう途中… 魔神族たちに襲われて……」「そんで… そんで… おっ母が」
    ぶわっと、つぶらな目から涙が湧き出した。
    「お゛」「お゛っがあぁぁ~~~~~~~~~~~~!!!」
    悲鳴のような声で泣き叫ぶ。
  • 「ホークちゃん!!!」
    瓦礫の中をエリザベスが駆けてきた。
    「ぶ…ぶぇっ エリザベズびゃん…!」
    「よかった無事で!! 心配してたのよ!!」
    バッと顔を向けた豚を、少女は きゅっと抱きしめる。
    「でぼ… でぼ… お゛っがあが……」
    しゃくりあげる ホークの顔からは涙と鼻水が滝のように流れ落ち、べちゃべちゃの ぐちゃぐちゃだ。
    「お゛っがあが死んびばっば!!!」
  • どんっと響き渡る足音、そして鼻息。
    「ブゴッ」
    「プギャーーーー!!!」
    エリザベスに抱きしめられたまま、ホークは耳と背筋をピンと伸ばして飛び跳ねた。
  • いつの間に歩み寄ってきていたのか。間近に立っているのは紛れもなくホークママではないか。頭の上の<豚の帽子>亭こそ無くなっていたが、デリエリに殴られた脇腹含め、彼女自身はどこも傷ついた様子がない。
  • 「おか…おおお…おっか おっ母が…」
    ふらふらと近づくホーク。涙の滝は止まったが、今度は花びらのように大粒の涙が はらはら落ちていく。
    い゛きでぶ~~~!!!」
  • 母子の歓喜の再会に、エリザベスは嬉しげに微笑んだ。

  • 一方。
    くらくなりつつある王都の瓦礫の中に佇むマーリン。
    浮かない様子で一方を見つめ、無意識になのか、手の中の試験管(グレイロード入り)をクルクル回してはパシッと受け止めて弄んでいる。
    ◆うっかり落としたら…と余計な心配しちゃいますが、きっと完璧な対策がされてるんです…よね?
  • 「マーリンさーーん!!」
    「!」
    大声で呼ばれて、彼女は目をそちらに向けた。
    「…久しいな エスカノール」
  • 「やっぱりな~! マーリンさんの魔力だと思いましたよ~!!」
    黄金の鎧を鳴らして駆け寄ってきた中年男は、少年のように頬を染めて得意げに話し始めた。マーリンは女王のようにねぎらう。
    「活躍は聞いたぞ さすがは<傲慢の罪ライオン・シン> 無双ぶりは健在か」
    「いやぁ それほどですが」
    未だ太陽は沈み切っていない。力は弱まりつつあるようだが、まだまだ気の大きさは収まっていないらしい。謙遜など微塵もなく返した男は「あなたこそ石にされたと聞いて―――――…もちろん 僕は大丈夫だと確信してましたよ」と言葉を続け、彼女の冴えない表情に気が付いた。
    「どうしました? 久しぶりの再会なのに元気が……」
    憂いを帯びた彼女の視線を辿る。先程から彼女が見つめ続けていた、遠目に見える“彼ら”は…。
    「バンくんと……」「あれは… 団長…!?」
    エスカノールはマーリン大好きだから、彼女が石化されたと聞いたら 居ても立ってもいられず助けに駆け付けるんだろうと思っていたら。「大丈夫だと確信して放置」だったんですね。少し意外でした。実際、彼女は誰の助けも必要としなかったわけですが…。

    彼とマーリンの関わりは、他の男女カップルたちとは全く異なるものなんだなと判りました。
    エスカノールはマーリンを崇拝しているけれど、守らねばとは思っていない。彼女は助けなど必要としない完全な存在だから。ってことですか。


    それはそうと、エスカノールは時間帯で、一人称だけでなく、人の呼び方も細かく変化するんですね。
    夜はバンを「バンさん」と目上呼びしてましたが、夕方は「バンくん」と目下呼びなのかぁ。(バンの方が三つ年上です。)
    そして真昼になると、誰のことも呼び捨てになるっぽい。

    ちなみに、現時点で判明してる他キャラの夜の呼び方。
    ゴウセル→「ゴウセルくん」、ドレファス→「ドレファスさん」、ヘンドリクセン→「ヘンディくん」、キング→「キングくん」(おっさん姿の時も「くん」付けなのだろーか?)、メリオダス→「団長」
    年下(見た目だけも含む)の男性は、基本「くん」付けらしい。女性は全て「さん」付け。
    でも、初対面のホークを「豚さん」と呼んでました。豚に目上の貫録を感じたのでしょうか。それともメスだと思ってたのでしょうか(笑)。真昼は「ホーク」と呼び捨てるのか…まさか「豚」かしら。

  • 瓦礫に佇むメリオダスとバンの間には、不自然な距離と沈黙が横たわっていた。
    「…いつまで つったんてんだよ」「なんか言いてぇこと あんだろ?」
    笑って促すメリオダスの視線は、しかし、完全に地面に落ちている。
  • 「………………まあな」
    バンの方は、目をそらさずメリオダスの顔を見つめていたのだが。見ようとしないメリオダスには、それすらも知りようがない。(そして、マーリンとエスカノールの側からも、角度的にバンの表情は見えなかった。)
  • バンは大股にメリオダスに近付いた。肩にポンと触れ、
    「生きててくれて うれしいぜ 親友」
    そう言うと、足を止めず歩き去っていく。「さて…と 今夜は祝杯でも あげるか」と独りごちつつ、己の頭を掻きながら。
  • いつもなら、軽口を叩き合って共に行っただろう。だがメリオダスは動かない。俯いたまま、強張った唇を きゅっと噛んだ。

  • そんな様子を眺めていたマーリン、そしてエスカノール。
  • エスカノールの表情には怪訝さと戸惑いが浮かんでいる。
    「マ…マーリンさん 僕たちは団長が命を落とすところを この目で たしかに…」
    堅い表情でマーリンが答えた。
    メリオダスは何度死のうと蘇らせられる」
    「え?」
    「魔神の王にもたらされし 呪いの力でな」
  • 昏い空から、ポツ ポツ と雨粒が落ち始める。まるで涙のように。
  • 「?」「死なない…呪いですか? すごいですね」
    「…問題は 死から蘇る都度 感情を喰われ」「最凶の魔神と呼ばれた時代の彼に逆行しつつあることなのだ」
  • エスカノールに、その真に意味するところは解らないだろう。「最凶の魔神と呼ばれた時代の彼」を知らず、先程の戦闘での危険な非情さすら見ていないのだから。
    それでも、何か感じるものはあったらしい。
    「……………っ」「団…」
    同情の顔で踏み出しかけた彼を、マーリンが静かに止めた。
    「今は そっとしておいてやれ……」
  • 次第に激しさを増す雨の中、遠目にメリオダスを見つめて、彼女は考える。
    (フラウドリンが 数々の悲劇の種をまいた張本人とはいえ)(あの倒し方は まずかった…)
    ◆<十戒>登場以降、突出して自己中心ワンマン・唯我独尊・going my wayな言動を貫いてきたメリオダスやマーリンが、急に、センシティブな中学生のように仲間の反応を気にするように。どーした一体(笑)。

  • 夜になっても雨は降り続いていた。
    しかし雲はなく、大きな満月が明るく輝いている。天気雨ならぬ月夜雨とでも言うべきだろうか。
  • 墓地の入口の左右には女神像が建てられている。盾と槍を備えた翼ある女戦士の姿をしたそれは、死者を“自然ならざる魂”から守っているのだろうか。
    「――ここに四人の尊き聖騎士の魂は眠りにつかん」
    月に照らされた墓地には真新しい墓穴が四つ。それぞれに棺桶が納められたばかりだ。バルトラ王と十人にも満たない聖騎士たちが見守る中、聖句を唱えているのは王国に仕える若きドルイドである。雨に濡れる頬を、一筋の涙が伝い落ちた。
    「王国のため民草のために この命を賭し犠牲となった彼らに心から祈りを―――」
    ◆このドルイドちゃん、王都決戦時はドレファス(フラウドリン)に刺されたエリザベスに治癒術をかけ、ゼルドンの研究棟跡ではドレファス(フラウドリン)に刺されたデルドレーに治癒術をかけてましたね。幼く見えても、国王付きの優秀な治癒士らしい。
    未だ名前も性別も不明…。目が大きく可愛く描かれてるし、女の子でいいんでしょうか。
  • 四つの棺桶には花が敷き詰められ、醒めぬ眠りに就いた男たちが横たわっている。
  • 一つ目の棺桶には、円筒形に近い独特の甲冑を着た、小柄で癖毛の男。
    「マルマス………」「あっけなく 死んじまいやがって…!!」
    ハウザーが、強張った顔で戦友に呼びかける。
  • 二つ目と三つ目には老人が収まっていたが、一方は本当は若者だった。
    デリエリに真っ二つにされたデンゼルと、グレイロードに「時」を奪われ老衰死したドゲッドである。
    「う…うう…うう~~~」
    デルドレーとアーデンは声をあげて泣いている。
    「デンゼル…様… どうしてアタイたちに何も言わないで?」
    長身のデスピアスが二人の肩を抱き寄せ、涙を溢れさせながらも歯を食いしばっていた。
    「ドゲッド… どうか友と安らかに…」
    ワイーヨは涙を浮かべて静かに呟く。友の理不尽な死に憤っていた彼も、何も果たせぬまま理不尽に命を奪われた。せめて死後の安寧を祈るよりない。
  • 最後の棺桶には。
    「なんで……………」
    その墓穴の前で呟くのはジェリコだ。魔神化することなく氷結からも回復していたが、血の気は引いて、雨に打たれるまま全身を強張らせている。
    「なんで兄貴が死んでんだよ…」
    棺桶に横たわっているのは、ジェリコの兄・グスタフ。ジェリコに産み付けられた魔神の卵が孵化しないよう重傷を押して「氷牙アイスファング」を振り絞り、そのまま目を覚まさなかった、と。
    「俺を… 助けるため? 自分が… 死んで… どーすんだよ…!!」
    震える手で自分のスカートの端を握り締める。
    「俺 兄貴とまだ ちゃんと話… してないよ…」
  • 寄り添うように立っていたバンが、黙って妹分ジェリコの頭に手を置いた。その温かさに押されたように、涙と嗚咽が溢れ出す。
    「いつ…もっ 喧嘩っ…ばっか…で」「ひぐっ」
    耐えきれない。バンに縋りついて、子供のように彼女は泣き喚いた。
    「うわああああん」「やだあああああ」
    バンは黙って肩を抱いてやる。
  • 「グスタフ坊っちゃん
    傍らでは、ジェリコの家の年配の家政婦が、肩を震わせて泣いていた。
    ◆グスタフが死んだのは、とてもショックでした。悲しい…。生きのびてほしかったです。

    ジェリコとグスタフの家は、代々王家に仕える騎士の家系。その跡継ぎの長男が死んだのに、葬儀に来ているのは妹のジェリコと家政婦(ばあや?)一人だけです。11年前の時点では両親健在でしたが、今は二人とも亡くなっているっぽいですね。(もしくは、墓地まで来られない状態。)

    ジェリコが聖騎士になりたかったのは、兄に憧れると同時に反発して、見返したいと思っていたから。その兄が死んだ…。彼女の目標は無くなってしまいました。
    ジェリコは今度こそ、兄と同じ気持ちで、家や国を守る責任を負って聖騎士を目指すのでしょうか。それとも、全てから解放されて女の子として自由に暮らすのかな。


    幼い頃に妹を亡くしたバンは、兄を亡くしたジェリコを見て何を想ったか。守れなかった妹の分も、兄貴分としてジェリコを助ける?
    ちなみに、夕方までは上半身裸でしたが(防衛戦時にエスカノールの熱で服が燃えたため)、葬儀の場面ではロングコートを着ていました。彼にしては珍しく、場に合わせて服装を選んだっぽい。
    ここで死んだ聖騎士たちとは、ここ数日の防衛戦を ずっと共に戦っていたのでしょうから、特別な思いがあるのかもですね。

    …ところで、マルマスやグスタフを刺した、ゼルドリスの手下になった聖騎士や市民たちはどこに消えたんでしょうか。かなり危険な存在だと思うのですが。
  • 幾つもの泣き声を聞きながら、ドレファスとヘンドリクセンは並んで立っている。
    俯いていたヘンドリクセンの こめかみに、ガン と拳大の石がぶつかった。血が溢れた傷口を押さえて、痛みに屈むヘンドリクセン。
    「なんで魔神に操られて好き放題やってきた あんたらが生き残って」「デンゼル様たちが死ななきゃいけないのさ!!!」
    石を投げたデルドレーが、泣きながら二人を罵倒する。
    「バカヤローーーーッ!!!」
    もう一つ石を掴むと、今度はドレファスに投げつけた。過たずドレファスの眉間に当たったが、彼は微動だにせず、血も出ない。
    ドレファスさん、石頭だな!

    「なんで魔神に操られて好き放題やってきた あんたらが生き残って デンゼル様たちが死ななきゃいけないのさ!!!」
    読者人気の差ですね。シビア~(;'∀')。
  • 「お前らやめろ!!」「好きで操られていたわけねえだろが!!!」
    ハウザーが割り込んで、全身で二人の聖騎士長を背に庇った。
    「どきな!!」
    デルドレーの投げた石に「イデッ」と悲鳴をあげながらも動かない弟子に、「いいんだハウザー」と困ったようにドレファスが言ったが、「よくねえっスよ!!」と言い返す。
    ◆「お前 やめろ!!」とハウザーは言ってるんですが、石投げたのはデルドレー一人では?

    ここでドレファスとヘンドリクセンが「ドレファスは悪くない、私のせいで…」「私が弱かったからだ、ヘンドリクセンは許してくれ」などと、例のごとく庇い合い始めなくてホッとしました。受け止める覚悟を持ったんですね。

    ドゲッドがヘンドリクセンを非難したときは「今は そんなこと言ってる場合じゃない」と たしなめていたデルドレーが、ついに、石まで投げて激しく罵倒したのは印象的でした。
    「そんな場合じゃない、非常時だ、みんなで心を合わせるべきだ」。それは美しい文言ですが、実際は難しいです。

    憎悪は「執着」という意味では愛と似ています。恋愛感情を忘れろ・消せと言われても難しいように、憎しみや恨みを消すことは難しく、まして、第三者に説教されて どうにかなるものでもない。なるとしたら、本人が自分で執着を手放したいと思っていた時でしょう。

    ホークは、どんな酷いことをされても すぐ忘れます。「いい奴」ですね。しかし、そんなに簡単に忘れられるものは「憎悪」なのか?
    優しくされた刹那の「喜び」や「憧れ」が恋愛感情とは似て非なるものであるように、「怒り」や「悲しみ」は憎悪ではありません。 ホークやエリザベスが遺恨なく人を赦せるのは、元々、刹那の怒りや大きな悲しみの方向に感情が昇華されて、憎悪するに至っていないからではないでしょうか。

    自らが石に打たれてまでヘンドリクセンやドレファスを庇うハウザーは、すっごく「いい奴」。
    けれど、彼がその立場でいられるのは、彼の大事な人やものが「取り返せない」被害に遭っておらず、憎悪を知らないから、かもしれません。
  • バルトラ王が静かに言った。
    「みんな どうか この場は国王の儂に免じて」「死んでいったものの魂を ただ静かに見送ってやってくれ」
  • 涙は止められないまま、石を投げる手を下ろしてデルドレーは俯く。
    「陛下……」と呟く聖騎士たち。
    「そして願わくば… 一刻も早く 魔神どもに荒らされた王国を… 人心を元に戻すことに尽力してはくれまいか」「そのためには我々が一つに心を束ねねばならん!!」
  • ドレファスとヘンドリクセンは互いに顔を見かわし、無言で頷き合うのだった。
    ◆んん? バルトラ王が、もう戦いは全部終わった・後は復興だけ みたいな感じで喋ってますけど、そういう扱いなんですか。(^^;)
    まだまだ<十戒>は滅んでないし、一時的に追い払った程度だと思ってたのに。今後、「人間族の領域」での戦闘はないってことかしら。


    やっぱり、バルトラ王は甘く許しちゃいましたね。
    この王国、かつてバンやディアンヌには理不尽な裁判を受けさせてたくせに(容易く死刑判決)、身内にはズブズブに甘い。
    しかも、許す・許さないはハッキリ言わず、曖昧~にぼかして、なんとなく無かったことにしちゃう、狡い(上手い)やり方だぜ!(苦笑)

    非常時だから。優秀な人材が必要だから。
    それは解るけれど、人の心はそう都合よく理性で動かないから、ドレファスたちが何事もなく元の立場に戻ったら、今は良くても、後で、それが新たな不和の火種になる気がします。

    問題は、全ての戦いが本当に終わった後に、ドレファスたちが自分でどう(カッコよく 笑)動くか。ですよね。
    王の許しを盾に「王国のために働きます、それが償いです」と、聖騎士として居残り続ける?
    ある程度の復興の目途がついたところで後進に任せて新天地に立ち去る?
    自ら出頭して一定の刑を受け、けじめをつける?
    一市民になって新たな生き方を模索する?
    ドルイドの里に隠れこもる?
    難民になったマラキア王国の人々と共に新しい村を開拓する?

  • 雨が止んだ。
    満月はあまねく照らし、王都近くの森に横たわる<豚の帽子>亭の残骸を浮かび上がらせている。デリエリに殴られたホークママの頭から落ちて崩壊したのだ。
  • 「こりゃ 派手に ぶっ壊れたもんだな…」「見る影もねぇや…」
    瓦礫を漁るのは店主・メリオダスである。ただ一人で、殊更明るい口調で独り言を言いながら。
  • 「お? 何本か生き残ってんな」
    砕けた酒瓶の中から、割れていない何本かを拾い出し、
    「メシの材料も多少は確保できそうだ!」
    肉や魚やチーズ、瓶詰などを見つけ出す。
    散乱した店舗用の丸テーブルの一つに腰かけて火を焚き、枝に刺した肉を焙った。
    「さてさてさーて うまそーに焼けたな~~」「…まあ どうせ まずいんだろうけど… ははっ」
    独りで笑うと、拾い出したジョッキに なみなみと酒を注いだ。
    「リズの仇も討ったことだし 祝杯といくか」
    独り言を続けて手酌を始める。
    「…たまには一人で飲む酒も悪くはねぇよな」
  • 一人きりの酒宴は、しかし、そこで終わった。
    「やっぱり ここにいた」
    軒のように下がった壊れた壁を潜って、エリザベスが入ってきたのだ。
    「エリザベス… お前 なんで…ここに……?」
    「来たかったから…!」
    少女の笑顔には屈託がない。
  • 「…いいけど ろくなもんねぇぞ?」
    「うん… いい!」
    隣に腰を下ろし、黒焦げの串焼肉を手に取った。
    「いただきまーす」
    はふはふと息を吹いて冷ましつつ、嬉しそうに、はむっと頬張る。
  • じっと様子を見ていたメリオダスが呟いた。
    「……………やっぱ まじぃな…」
    「う… うん」
  • 肯定はしたものの、エリザベスの嬉しそうな顔は変わらない。
    「…でも やっぱり おいしい…!!」
    メリオダスも笑った。黒焦げで生焼けの肉をかじりながら。
    「どんな味だよ」「まずくて うまいって」
  • 「フフ」エリザベスは微笑む。
    「誰を頼ることもできずに一人でさまよい疲れ果てて倒れた女の子に」「優しく手を さしのべてくれた人が作った味」「とっても優しい人の味……」
  • 大切な宝物について話すように、嬉しそうに微笑むエリザベス。
    だが、メリオダスの顔からは笑顔が消え、無言で俯いた。
    ◆エリザベスは、メリオダスが「とっても優しい人」だと信じています。
    けれどそれは、3000年前に「エリザベス」を愛してから作った、「エリザベス」たちのための顔。元々のメリオダスは非情さで恐れられていました。
  • 俯いたまま、ぽつりと彼は呟く。
    「バンの奴 さっきはどんなツラで俺を見てたのかな…」
  • エリザベスの眉が僅かに曇った。
  • 「まいったぜ……」「もう 親友ダチツラもまともに見れねぇ」
    強張った空気は隠しようもなかったものの、バンが何をしたわけでもない。生き返ったことを喜び、祝杯をあげようとも言ってくれた。
    それから逃げたのは、顔を見ることもできなかったのは、自分の方だ。
  • 「どうしたもんかな…」
    メリオダスは、くしゃっと髪を掻き回す。食べかけの串焼肉が放り出され、カランッと地面に転がり落ちた。それにも構わずに。
    「フラウドリンを殺した時 すげえ気分がよかった」「いや 今でも気分がいいんだ……!!」
  • メリオダス………」
    エリザベスが目をみはった。
    今までなら有り得なかった、初めて見た彼の表情かおに。
  • 「俺は昔の自分に戻るのが怖いよ」
    強張った口元に笑みを浮かべた彼の頬は、溢れ落ちる涙で濡れている。
    泣いているのだ。あの、いつでも飄々と笑っていた、決して弱みを見せたことのない、誰よりも強い男が。
    「でも… 昔の俺に戻らなくちゃ…」「お前を救うことができねえんだ…」
  • (私を…)(救う…?)
    何のことなのか。少女には解らない。
    しかし、それは彼女にとって重要ではない。
  • 泣き続ける彼の頭を、エリザベスは優しく胸に抱きよせた。
    「……大丈夫 メリオダス」「私は何があっても誰を敵に回しても あなたの味方だから」
    この人が何者でも。過去に何があっても。これから何をするのでも。
    一切関係ない。聞く必要も知る必要もない。
    誰も いなくなったって構わない。
    「あなたの側に ずっといるから」
    あなたがいるだけで、私は こんなにも幸せなのだから。
  • 優しく微笑むエリザベスの胸に抱かれ、メリオダスは無言で泣き続けていた。
  • 次回「それぞれの答え」

世界を敵に回しても あなたがいればいい、私だけは あなたの味方、か。

二人だけの世界。二人だけの幸せ。

二人だけで完結するなら ご自由に、ですが、二人がブリタニア全土を巻き込んだ戦いと因縁の中心におり、周囲を「敵」と仮想してる時点で、なんだか不穏…。

 

 

元々、第一部序盤(第28話)、ベロニカに「(メリオダスは)かつて怒りのままに大破壊を繰り広げた化け物」だから別れろと口出しされた時点で

「私は… たとえ世界中を敵に回しても」「この人を信じます。」

と言ってはいたんですが。

その時は美しく感じられた言葉が、ほぼ同じことを言ってるのに、なんとなく恐ろしく感じられてしまいます。

 

てっきりエリザベスは、メリオダスが魔神化して孤立しようとする時、それを止めて仲間と繋いでくれる役なんだろうと思っていたのに。

エリザベスにとって、メリオダスを受け入れない者は「敵」なんですね。

こえー。

 

ヒェーと思いましたが、多分 作者さんは悪い意味で描いてはいなくて、メリオダスに惜しみなく注がれる深い深い愛、決して離れない・背かない理想のヒロイン……ということなんでしょうね。

でも こえー(苦笑)。

 

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メリオダスのこと。

 

 

やはり「メリオダスは正しい」方向のフォローが「間を置かず」来ました。加えて「可哀想」のオプション付き。

「団長、かわいそう…」と、きゅん♡ となった読者も多かったんじゃないでしょうか。

 

 

これまで(第二部)は超ワンマンで、周囲を引きずり回して我が道を行ってたのが、「友達に嫌われたかもしれないから怖くて顔が見られない」なんて、感じやすい中学生みたいなこと言い出すなんてビックリです。

 

まあでも、よくよく思い返せば、キングが<豚の帽子>亭から離脱する際に、行先も聞かず付いて行こうとしたり「何かあったら呼べ」と去る背中に叫んだりと、普段のメリオダスなら やらないような言動をとってて、不思議に思ったんでした。

まるで、ケンカ中のキングの ご機嫌を取ろうとしてるみたいに見えたから。

 

思えば、ドルイドの聖地で初めてキングに疑いの言葉をかけられた時も、悲しそうというか ふてくされてるというか、普段のメリオダスなら絶対しない表情を見せてたもんです。

 

つまりメリオダスは、<大罪>の仲間に、かなり強い気持ちで、嫌われたくないと思ってるんです、かね…。

大切な友達だと思っている?

だったら嬉しいんだけどなあ。

 

エリザベスと二人で完結して「全てを敵に回しても、君さえいれば」とやってないで、みんなのところへ来て気持ちを打ち明けて、協力を頼んでくれればいいのに。

 

 

 

今回、メリオダスはエリザベスを「救う」ためには、嫌だけど「昔の自分に戻らなければならない」と言いました。

どういうことでしょうか?

 

例えば、

魔神王にかけられた呪いを解くには、復活した魔神王を倒さねばならない。復活させるためには感情を与えなければならないし、そもそも昔の自分(最凶の魔神)でなければ魔神王は倒せない。

とか?

 

更に、

実はエリザベスも呪われていて(17歳くらいで早逝しては赤ん坊に戻り続ける呪いとか)、それを解くには女神族の長を倒さねばならず、長を復活させるには魔神王を倒さなければならない。

とか。

 

 

もしも、エリザベスが呪われているのならば。3000年前に呪いをかけたのは、メリオダスだというセンもあるかもしれない。

バンがエレインを蘇生させるためにメリオダスを殺そうとしたように、3000年前のメリオダスも、「エリザベス」を失いたくないあまりに禁忌を犯したのかもしれない。

もしそうだったら、彼が 嫌だ怖い と泣きながらでも最凶の魔神に戻って「エリザベスを救おう」としてるのは、自分のやったことの償いなのかもしれない。

 

 

とかゆー、ありがちな妄想はともかく。

メリオダスが目的を果たすために「最凶の魔神に戻る」ことが必須なら、今後の戦いでメリオダスがもう一度死ぬ……場合によっては、自ら周囲を挑発して「殺させる」なんて展開も有り得そうですね。

そんで、最凶になって魔神王を倒すつもりでいたら、「魔神王の復活」とはメリオダスの体を乗っ取ることだったんじゃーい! となって、<十戒>含む仲間がメリオダスを救う形で共闘。的な王道系の熱血展開も好きです。

 

 

余談ですが。

先日発売されたキャラガイドブック『<ペア罪>メリオダス&エリザベス』で、「エリザベスに前世の記憶を取り戻してもらいたいですか?」という質問に、メリオダスは「してほしくない。その話はエリザベスにするな」と、非常に強い調子で答えていました。

 

単に、前世は関係ない今のエリザベスが好きだぜ系な意味?

それとも、3000年前に悪いことをしていて、エリザベスに思い出してほしくない?

はたまた、3000年前の「エリザベス」こそが取り返しのつかない罪を犯していて、彼女を庇ってる?

 

 

 

 

昔の自分に戻りたくない、と泣くメリオダス

可哀想でした。

彼が 真に 恐れているのは「友達に嫌われる」とか「正義の心を失う(残虐になってブリタニアを滅ぼすかも)」みたいなトコロではないんだろうな、と思いました。

 

「好きだ」という気持ちを失うこと。それが怖いんじゃないかなあ。

 

今はまだ、エリザベスへの気持ちは消えていない。けど、全ての感情を喰われたとき、恐らく、エリザベスへの恋愛感情すら失うんでしょうから。

 

記憶を失うわけではないから、「好きだった」ことを忘れるわけじゃない。

大事に思ってたとか、一緒にいて楽しかったとか、その情報は消えない。

 

でも、大切だった友達や、魂かけて好きだった人への「熱情」を失う、一緒にいても何も感じない冷めた気持ちになるというのは、彼にとって、想像するだけで泣いてしまうほど恐ろしくて寂しいコトなんではないでしょうか。

 

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バンのこと。 

 

バンとは、ぎくしゃくした風に描かれていますが、そんな大したことにならず「団ちょは団ちょだろ♪」などと笑い合うオチになるんじゃないかなと思います。

なにせ、疑心に駆られて目をそらしてるのはメリオダスの方だけ。

バンの方は 目をそらさず ずっとメリオダスの顔を見ていますし、復活を喜んで、祝杯を挙げるとも言っています。悪い態度を とっていません。

戸惑いはしても、メリオダスが怖がるようなこと(友情の喪失)には至ってないと感じました。

 

 

ただ、バンの戸惑いが想像していたより大きかったのは確かです。ちょっと意外でした。

既に「疑念→争い→和解」を経ているので、もう腹が据わってるのかと思ってた。

 

 

 

今までバンがメリオダスを語るとき、決まって「甘っちょろい男」という文言が出てきたものです。 

思うに、バンはメリオダスの「クソみたいな奴にでも優しいところ」が大好きだったんでしょう。

 

何故って、彼は自分自身を「クソみたいな価値のない人間」だと思い込んでいて、そんな自分に優しくしてくれるメリオダスに救われたと感じていたから。

 

なので、メリオダスが「クソみたいな奴に優しくなくなった」のは、バンにとっては、自分自身が見捨てられたも同然なキモチだったのかもしれない。

なんてことを思いました。

 

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マーリンは最初から「事情を承知している共犯者」で、メリオダスが生き返る度に感情を失うことも最初から知っていたのに、妙に深刻な顔をしているので不思議でした。

何か、想定外のコトがあったんでしょうか?

 

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先日発売された23巻、描き下ろしの番外編『祭壇の王』が面白かった&興味深かったです。

なんと、描きおろしなのに「次巻へ続く」!

ジェンナ&ザネリは女神族? という気になるところで、続きは再来月か~。

(ホントに女神族なら、ファンブック『罪約聖書』に「種族 人間」と書いてあったのは何だったんだ~ 苦笑)

 

しかし。

メリオダスが魔神族だと見抜いたジェンナも、マーリンの正体は解らないんですね。「妖しい魔女」か。

魔神族でも女神族でもないこと確定? でも、人間に発音できない真名を持ってるんですから、人間族でもない、はず…。

うーん?

 

4歳のテオが、すごく可愛かった。

正直、この頃の方が、今の15歳のテオより賢そうに見えます。(^^;)

で。ドルイドの里にやってきたバンが、テオに袋一杯のお菓子をあげてたけど。

バンが普段からお菓子を持ち歩くとは思えないので、テオが4歳の少年だとドレファスに聞いて、予め作ってお土産として持ってきたんですよね、多分。

 

バン優しい…。

なのに、なんで王都中の子供のヌイグルミを奪うなんてことしたんだろ(苦笑)。

 

それはともかく、ドルイドの里で着てた11年前のキングの私服が、あんまりひどいと思いました(苦笑)。ピエロみたい。

先生~。流石に、もーちっとなんとかしてください。

 

 

 

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