【感想】『七つの大罪』第193話 覚悟の聖騎士長
週刊少年マガジン 2016年44号[2016年9月28日発売] [雑誌]
第193話 覚悟の聖騎士長
- 「なるほど… 我々の「
浄化 」じゃ<十戒>を討つことは不可…」
確かめるように、ザラトラスは口にした。
「ならば 命を絶つしか 方法はない――――か」 - ヘンドリクセンが目を剥く。
「!! ま… まさかドレファスを!!?」「私は反対です!! それでは なんの意味も ありません!!」 - ザラトラスの一喝。
「よそ見 厳禁!!!」
地を蹴って、フラウドリンが風のように躍りかかってきている。
“貫突”!!!!
左手の剣から放たれた一撃が、地を穿ち抉った。 - が、既に そこには誰の姿もない。
“雷神の閃動”
全身を雷気で包んだザラトラスが、ヘンドリクセンを片手で担いで、高速で跳び退いていた。 - 穿ち抉られた大地が
礫 となって二人に降り注ぐ。
「くっ」
地に降りて しのぐ男たちを、魔神は悠々と返り見た。
「どうした 聖騎士長様 …弟を救う術 もなく ただ 逃げ回るのみか」
口角を吊り上げて ニヤニヤと嗤う。
「もはや万策尽きたようだな…?」 - 冷や汗を垂らしながらも、ザラトラスとヘンドリクセンは それぞれ無言で剣を構えた。尽きぬ戦意を示すように。
- 「さて どうやって貴様らを料理してくれよう」
獲物をいたぶる獅子のように思案を始めた魔神の傍らに、どちゃっ と、赤い大きな塊が転がり落ちてきた。壁の残骸の天辺に半ばめり込んでいたものが、戦いの衝撃で剥がれ落ちたのである。
「?」「なんだ…これは?」
直径1m近くありそうだ。赤い肌には光沢があり、四葉のような大きな模様と、角や耳らしいものも見える。 - 「あれは――…」
ハッとするザラトラス。 - 耳らしき部分を片手で掴み、無造作に目の高さまで持ち上げてみたフラウドリンが見たものは。
「豚?」
そう、赤き魔神に変身 したホークだった。
デリエリに蹴飛ばされ、彼方の王都まで飛んできて、今の今まで壁に めり込んでいたらしい。 - 「プキャッ」
ぶら下げられたままの豚が ブリッ と吹き出した、猛烈な鼻息。
「ぐぼあっ!!?」
まともに喰らったフラウドリンは悲鳴をあげて豚を投げ捨て、よろめいて顔面を押さえた。
「ぬ…こ…この臭いは残飯息吹 !? め…目が…!!!」
◆色んなゲームで言うところの「くさい息」(状態異常をもたらすモンスターの攻撃)? もしくは昔懐かしい「ねずみ男の口臭」か(笑)。
ホークちゃんの息が、魔神の目が潰れるほど臭かったなんてショックです。しかも残飯の香りなんて…。一緒に お昼寝とか できそうにないですね。(^^;)
メリオダスがホークを店舗の床で寝かせて自分の寝室に近寄らせないの、納得だわ~…。
ヘンドリクセンが<豚の帽子>亭の店舗で寝泊まりしてた、恐らく二日間、よく眠れてたのでしょーか。
ホークが残飯臭いのなら、彼と同室は、生ける芳香剤なキングが向いてるのかもですね(笑)。 - 「どうやら運は尽きていなかったらしい」
束の間 視界を失った魔神の背後、息がかかるほどの近くから、ザラトラスの声が聞こえた。
「!!!?」
一瞬後には羽交い絞めにされている。 - 「なんの真似だ…? 言っておくが 貴様ごときの魔力では私を葬ることはできんぞ……!?」
肩越しに白けた まなざしを向けた魔神に、「そんなことは十分承知しています…」と笑みを返すザラトラス。
「だが 私の全生命と引き換えの「浄化 」なら」「弟の身体からキミを引っぺがすことくらい できるだろう…!!」 - 曇りなき覚悟の笑顔を見て、魔神が目を剥いた。
- 「やめ…」
ヘンドリクセンが片手を伸ばして叫びかけたが。 - 「
浄化 」!!!!!
言い終わるより早く、眩い閃光が周囲を灼 いていた。 - 先程のヘンドリクセンの
浄化 とは比べ物にならない。辺りが白く塗り潰されるほどに莫大な白光 。 - 「ま…眩しい」
やや離れた場所で。
瓦礫の陰を歩いていた小さな人影が、片腕で目を覆って呟いた。
「い… 今のは…?」
あどけない顔に驚きを浮かべて呟く。 - 一方、鎮まった光の中心地では。
魔神だった弟を抱きかかえたザラトラスが、ゆっくりと仰向けに倒れていった。
だが、それは今、ヘンドリクセンの視界に入っていない。彼の目は上に向けられていたからだ。
ドレファスの身体から魔法のように抜け出してきた、身の丈4mはあろう巨大な怪物。魔神フラウドリンの真の姿を目の当たりにして。 - 「お…」「おのれぇぇぇぇ!!!」
左目の下の紋様は、今までドレファスに浮かんでいたものと同じだ。しかし、それ以外は似ても似つかない。
背中から腕にかけてゴツゴツと生え出た剣状の突起。輪状の模様の浮いた岩のような肌。両手は先へ行くほど細く、五本の細長い指を閉じれば尖らせた杭のようである。
何より特徴的なのは、その顔だ。頭髪はなく、鼻や口もあるべき場所にはない。乱杭歯を剥きだした巨大な口は、厚い胸板全面に横一文字に開いている。 - 「!!」
(なんと禍々しい姿!! これが<十戒>フラウドリンの正体)
しばし唖然と見ていたヘンドリクセンは、ようやく、魔神の足元に仰向けに折り重なった男たちに気がついた。
「ドレファス!!」「ザラトラス!!」
彼らは人形のように動かない。 - 「他者のために せっかく得た命を捨てるとは…!! つくづく愚かな!!」
足元のザラトラスを見やって、魔神が吐き捨てた。
「命を引き換えに俺を追い出したところで もう一度ドレファスの中に戻れば済む話」 - 「そうはさせん!!」
飛び出すヘンドリクセン。魔神の背をめがけ、剣を突き立てようと――…。
「ぐあっ!!」
突き立てようとした剣は届かず、一顧だにしない魔神が背後に振り上げた右手の先に、その身は貫かれていた。 - 貫かれたのは左肩だ。致命傷ではない。それでも苦悶して剣を取り落とした彼を、そのまま高く ぶら下げて、魔神は語りかける。
「そんなに俺に殺されたいのかヘンドリクセン!?」
◆何故かヘンドリクセンを殺さないフラウドリンさん。
「そんなに殺されたいのか」って、何もしなければ見逃す気なのかな?
かつてドレファスと交わした、ヘンドリクセンは殺さないでいてやるという約束を、ドレファスの体から追い出されてなお、守ろうとしてるんでしょうか。ビックリするくらい律儀ですね。 - 「あ…が」
痛みに呻きながら、ヘンドリクセンは魔神を睨んだ。
「入るなら………」「この私に…入ればいい!!」 - 「お前のような貧弱な人間の身体に用はない」「何よりドレファスとは10年来の良き
相棒 」
魔神の答えに、ヘンドリクセンは問いを返す。
「それは…本心か?」
「何~~?」ムッとしたように魔神が振り向いた。 - 痛みに顔を歪ませながら、ヘンドリクセンは語る。
「貴様は…自分を倒したメリオダス殿への復讐のため 再び力を取り戻す その時までドレファスの身体を依り代に選んだ……そうだな?」「だとすれば 貴様はもう十分に力を取り戻しているはず… 何より復讐を果たすべきメリオダス殿は…死んだ!!!」「もはや貴様にはドレファスの身体に執着する理由はないはずだろう!!!」 - 「…!!」
衝撃を受けたように言葉を呑む魔神。 - その時だ。
「お父…… …さん?」
幼い少年の、不安そうに呼ぶ声が聞こえたのは。 - 耳に馴染んだ声に、ピクリと反応したのは二人。
地に倒れた男の腕と、醜い魔神の横顔。 - 「お父さーーーーーーーん!!!!」
少年が大声で呼んだ。一ヵ月も離れていた、大好きな父親を。 - 「グリア…モール!」
胸を突かれたように目を向け、子供の名を呼んだのは。
魔神の方ではないか。 - その左胸が、堅い『気』の塊で貫かれた。
「…な」
バレーボールほどの穴が開き、衝撃で、ぶら下げていたヘンドリクセンを地に取り落とす。 - 「貴様にその名を呼ぶ資格はない…」
厳しく断じる声がした。貫通の『気』を放った剣を突き出し、力強く立っている。先程まで命を失ったかのように倒れていた男が。 - 「ドレファス!!!」
その名を、魔神が呼んだ。
「バカな」「なぜ 人間ごときの魔力で 我に傷を負わせることが?」
人間なら心臓のある位置に大穴を開けられようとも、魔神には大したダメージではない。それでも、これだけの傷を付けられたという状況に、うろたえざるを得ない。闘級で言えば10倍の差がある。ヒヨコがくちばしで鉄扉を貫いたにも匹敵する、異常事態なのだ。 - ドレファスは両手で剣を握り直した。
「我が信念には一片の揺るぎも矛盾もない」「故に全てを撃ち貫く!!」
素早く踏み出し、
「…あまり人間 をナメるな」
フラウドリンの目前に突き出す両手構えの剣。そこから、極大の『気』を撃ち放つ。
“天貫破獄刃 ”!!!!! - 「ドレファ―――…」
目を剥いて言いかけた魔神を『気』が包み、爆発した。 - 次回「残酷なる希望」
ドレファス復活。フラウドリンに大穴を開けることもできました。
人間が一矢報いた! おめでとう!
ただ、流石に「気合い」だけで闘級10倍差の魔神を倒しちゃうのは 都合がよすぎなので、トドメを刺す役は、メリオダスかゴウセルかマーリンか、そのあたりの「真の実力者」に譲るのが順当でしょうか。
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反省しない男たち
魔神の支配から逃れたドレファスは言いました。
「我が信念には一片の揺るぎも矛盾もない」「故に全てを撃ち貫く!!」
これは彼の定番キメ台詞で、王都決戦でディアンヌを瀕死にした時も、ほぼ同じことを言ってたもんです。
でも今、この状況で それを言うのかなあ、と思いました。
だって、あなたが信念と矛盾する決断をした結果が、今の、ブリタニア中を巻き込んだ大惨劇なのではないですか。
10年前、ダナフォールの穴底でフラウドリンと初遭遇した時。
ドレファスは当初、その操心の術を容易く跳ね除けていました。なのにフラウドリンがヘンドリクセンに取り憑くや、自ら魔神に体を開け渡したのです。
その直前、彼は
「俺が目指すのは王国と平和を守る最強の聖騎士だ」「そして
息子 の…誇りでありつづけることなんだよ」
と、自身の「信念」を述べていました。
魔神に体を開け渡せば、家族の待つリオネスは おろか、ブリタニア中に危機が訪れることは、容易に予想できたはずです。
なのに、「王国の平和を守る聖騎士でありたい」と言った舌の根も乾かないうちに、この決断。
それは「信念を曲げた」ということではないのですか?
・・・問答無用で取り憑かれたとか、ヘンディを人質にされて動揺した一瞬の隙に憑かれたとか、そういう「不可抗力」ならドレファスに同情できました。けれど作者さんは「ドレファス自身の意思で体を開け渡した」という展開を選んだ。
恐らく作者さんは、この行動を是認しているのでしょう。友のため自ら身を差し出すのは素晴らしいことだと。
価値観の違いですね。当時の感想にも書きましたが、私には そう思えませんでした。
そして今回、ヘンドリクセンは魔神に言いました。
ドレファスではなく自分に取り憑けと。
これも、作者さんは是として描いているのでしょう。友のため自ら身を差し出すのは素晴らしいことだと。
でも、やっぱり私にはそう思えませんでした。
もし魔神が、拒絶せずヘンドリクセンに移っていたとして。
それで、また魔神の手先になって大勢を殺すんですか?
ついさっき、魔神化ヘンドリクセンに親友を殺されたドゲッドに怒りをぶつけられたばかりなのに、ヘンディの心には大して響いていなかったんですね。
ドレファスとヘンドリクセンは、10年前の時点で次期聖騎士長候補と目され、社会的に高い立場にいました。
聖騎士長になって後は、王を幽閉し、実質、国の主権を握っていました。日本で言えば総理大臣に近い立場だったと言えるかと思います。
たとえば、総理やそれに準じる要人が、テロリストに親友を人質に取られて「この東京破壊爆弾のスイッチを押せ」と脅されたとします。(そこには要人らの家族もいる)
要人はスイッチを押した。
それがドレファスのやったことです。
そして親友はテロリストに乞うわけです。「彼を解放しろ、代わりに私がスイッチを押す」と。
これが、今回のヘンドリクセンが言ったことです。
一番悪いのはテロリスト。しかし、要人と親友に罪がない・正しいとは、私には思えません。
自分は一片とて矛盾も揺るぎもしていないと断言するドレファスと、10年前と同じことを繰り返そうとするヘンドリクセン。
自分たちの何が悪くて大惨劇が起きたのか、彼らは考えていないし、反省する気もないんだな。そう思わされました。
このブログを ずっと読んでくださっている方は よくお分かりかと思いますが(笑)、私は、ヘンドリクセンが罪を糾弾されると、決まって「ドレファスを救い出すまで待ってくれ」と、それを至上の免罪符のように振りかざして言い逃れるのが、実に好きではありません。
命がけで救いたいほど大切な人がいるのは素晴らしいことですね。
でも、殺された人々だって、誰かにとっての大切な家族・恋人・親友だったはずです。
大切な人を殺されたり苦しめられたりして憤っている人に、それをやった当人が「私の大切な人を救うまでは文句を言わないでください」と要求するのは、なんとも皮肉で残酷です。しかも「人を救うためだから、当然 容赦してくれるよね?」という思惑が透けて見えるから、卑怯だとも思う。
そもそも、ヘンドリクセンは糾弾される際、相手に ろくに目を合わせません。キングにもドゲッドにも。
エスタロに対しては返事すらしませんでした。
「報いは受ける」と言いながら、自分のしたことにも、それによって向けられる怒りにも、向き合っていないようにも見えます。
第二部に入ってヘンドリクセンが人間に戻り、
「早く…」「あの魔神たちのことを知らせなければ……」
と言いながらズフールの谷を這い登り始めたとき(第119話)、当然、彼はリオネス王都を目指しているのだと思っていました。
腐っても聖騎士長。糾弾・断罪されること覚悟で、リオネスを守るため危機を報せに行くんだろうと。地べたに頭をこすりつけてでも謝罪して、共に戦いドレファスを救いたいと訴えるんだろうと。
でも実際に彼が向かったのは、彼を甘く庇う身内が住むドルイドの里。
結局、彼の「禊ぎ」は消化不全のままです。
ザラトラスが「命の肩代わり」さえしてくれたのですから、ドレファスとヘンドリクセンは無事に生きのびるのでしょう。
(色々文句を書いてますが、彼らに死んでほしいのではないです。ここまで頑張ったのだから、生きて暮らしてほしい。)
そして恐らく、彼らは王含む身内たちに甘く優しく庇われ、最後まで誰にも頭を下げないのでしょう。(文句言ったドゲッドやマラキアの民は、魔神が殺してくれたことですし。)
個人的には、戦後、何事もなかったかのようにリオネスで聖騎士(王の側近)に戻るとゆーオチにだけは、ならないでいてくれたらいいなあと思っています。
魔神に憑かれてのこととはいえ殺し過ぎ。そも、友を救うためとは言え、引き換えに他を捨てた時点で、その資格はない。私がリオネスの民なら嫌です。
それに、そんな程度の罰くらい、受けてもいいんじゃないかなーと思います。
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少し前、作者さんが質問コーナーで回答していました。
一冊目のファンブックに、ドレファスは両手利きだと設定が載っていますが、それはフラウドリンと混じっているからだと。
そして二冊目のファンブックには、フラウドリンは右利きだと書いてあります。
となれば必然的に、魔神に憑かれていない本来のドレファスは、左利きだということになります。
ところが。
今回の戦いを見ていると、ドレファスに憑いたフラウドリンは、ずっと左手で剣を振るっていました。
そして、フラウドリンの支配から逃れたドレファスは、右手で魔神を攻撃してるのです。
んんん?
利き手が反対になってませんか。
作者さんが利き手を勘違い?
それとも、この10年間の二心同体生活で、フラウドリンもドレファスも、二人とも両利きに変質してたってことでしょうか。
だとすれば、フラウドリンが10年の人間生活で すっかり人間臭くなってしまったように、ドレファスも、この10年で なんだかんだ魔神の影響を受けているのかもしれません。「魂の味」とか、普通の人間なら経験しないこと知っちゃってますしね。
今後ドレファスは、右を利き手として使うたびに(これは魔神の置き土産だな…)とか思うのかも。
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長~い友達のこと
ザラトラスに後ろから ドン されて、思わず前に一歩飛び出してしまったフラウドリンさん。
その姿が、ついに白日の下に。
この姿に、はっ…とした方も多いのではないでしょうか。
そう。
10年前のドレファスは短髪だったのに、今はロン毛。それはフラウドリンの趣味だと、作者さんが質問コーナーで語っておりました。
なるほど。
フサフサの毛に憧れていたんですね! フラウドリンさん。
ドレファスの毛を伸ばして、毎日ウキウキで手入れしてたに違いないわ。