『七つの大罪』ぼちぼち感想

漫画『七つの大罪』(著:鈴木央)の感想と考察。だいたい的外れ。ネタバレ基本。

【考察】キングのこと(第二部中盤時点)

※2015年11月時点の文章です

 

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キングは『七つの大罪』のメインキャラクター。副主人公の一人です。

 

現時点で抜きん出て心理描写が多く、背景事情も多めに明かされています。メイン主人公ながらそれらが意図的に伏せられているメリオダスとは対照的ですね。

また、ディアンヌやバンの過去には直接・間接に深い関わりがあり、その意味でも存在感のあるキャラクターです。

 

12~14歳程度の人間の子供のように見えますが、実際はよわい1300前後の大人で、異世界(妖精界)を本拠とする異種族・妖精族の王。

本名はハーレクイン。「キング」は<大罪>で活動するにあたって自ら名乗った通名です。妖精王フェアリーキングなので「王様キング」なのだそう。

 

文字通り「人外」の魔力を誇り、妖精の領域への侵攻を目論む人間達に、1000年以上前から数百年に渡り恐怖を与えてきました。

ただし、魔力を使わぬ肉体のみの力なら、猫に負けるほど ひ弱です。

 

体臭は金木犀キンモクセイの花の香りに似ています。バン曰く「甘ったりィニオイだ♪」、ホーク曰く「花臭ぇ」。(作者曰く「高貴さを感じ」る香り。)

変身すると消えてしまうらしく、本性の少年姿の時しか香りません。便利ですね。(特徴的な香りのままだったら、どんな姿に変身しても すぐにバレてしまいますから。)

ちなみに妹のエレインはラベンダーの香りとのこと。全ての妖精族が花の香りなのか、妖精王一族だけの特質なのかは、現時点では不明です。

 

 

程度に個人差はありますが、妖精族には「ひとの心が読める」という種族特性があります。キングの妹・エレインは特にそれに優れ、心の声を明瞭に聞き取り、断片的にながら過去の記憶まで読めてしまうほどです。

妹には遠く及ばないものの、キングにもその能力はあります。

第51話で、バンとの特訓中に何かに気付いた顔になって「どうしたの バン いつもの君らしくない 何かを考えないようにしてるみたいだけど?」「団長のこと?」と見抜いていたのは、その力でバンの心を読んだ(感じた)からです。

小説『七つの大罪 セブンデイズ』での説明によれば、具体的に何を考えているかまでは判らないものの、「隠し事をしている」というような漠然とした思考程度なら感じ取ることができるのだそう。

思えば、キングは人語を喋れない黒妖犬ブラックハウンドオスローと自在に会話していました。もしかしたらこれも、読心系の力の一種なのかもしれません。

 

 

<大罪>中ではマーリンに次ぐ博識・分析家で、彼女の登場以前は、解説・蘊蓄うんちく係の立ち位置にいました。

 

 

食嗜好はベジタリアン寄り。

肉や魚が食べられないわけではなく、鳥肉入りスープを飲んだことがあったり、小説版では魚と野菜の煮込みを食堂で注文したこともあります。しかし基本は好まないようです。果実を食べることが多く、特に豚肉は、強く勧められても決して口にしません。

ファンブックによると、好物はチーズ。伝承上の妖精はミルクやクリームを好むとされることが多いですが、彼も乳製品がお気に入りなのでしょうか。

なお、作者がファンとの交流会にて、妖精族は花や蜜を食べると発言したことがあるそうです。現時点では公式資料化していませんが、一部読者間にはこの設定が浸透しています。「花を食べる」って可愛いですしね。

 

 

バンほどではないものの、酒はさして強くありません。(しかし潰れている描写は基本なく、むしろ「これだから呑んだくれは嫌いなんだ」と酔い潰れたバンを運ぶ役なので、普段から飲む量をセーブしているのでしょう。)

エジンバラの吸血鬼』や第95話扉絵を見るに、酔うと陽気になって歌を披露することがあるようです。作者が言うに<大罪>メンバーは全員歌が上手いそうで、そもそも伝承上の妖精は歌や音楽を得意とするものですから、きっと彼も結構な美声でしょう。

アニメ第一期BD/DVD7巻初回特典ドラマCD(パラレル設定の学園物)では、ヘルブラムと一緒に、ちょっと不思議な妖精族の歌を披露していました。(メリオダスとバンは微妙な顔になりましたが、ギルサンダーは癒しの歌だと感動していました。)妖精王の森で二人でよく歌っていたそうです。

 

一方、第47話扉絵では飲みながら辛そうに泣いています。大罪人として後悔は多いでしょうし、深酒し過ぎると人生の辛苦が露出して泣き上戸になるのかもしれません。

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今を生きる妖精王

キングの年齢は、およそ1300歳です。

親友で妖精王補佐のヘルブラムは ほぼ同い年(享年およそ1100歳)。妹のエレインは およそ1000歳。

 

ところで、妖精族の平均寿命は1000~1500歳なのだそうで。

えっ、だったらキングやエレインは、もう寿命で死んでもおかしくない齢なの?

 

いえいえ。実は、妖精王の寿命は全種族でも最も長いかも、と作者がコメントしているのでした。

また、もう一人の妖精王補佐のゲラードは、少なくとも3000年以上は生きています。アルビオン戦の様子を見るに、前回の聖戦を経験していますから。彼女が現在の妖精族の最長老とのこと。

妖精王でなくても、その側近や血族は、普通の妖精より長く生きるのでしょうか? ならばヘルブラムやエレインも、事件に巻き込まれなければ寿命は長かったのでしょうか。

 

ラードが3000年以上生きているとなると、最も寿命が長い妖精王はそれ以上ということになります。4000年、5000年…。場合によっては10000年の大台に乗って長生きするのかもしれません。

 

 

ところで。

『七つの~』世界はアーサー王の時代ですので、現実に当てはめると、5世紀末~6世紀初頭とみなすことも可能です。

そう仮定すると、その時代から1500年程度しか経っていません。

ならば現代のキングは2800歳前後。妖精族は病気になりませんから、戦いや事故で命を落とさない限り、今も余裕で生きていると考えることができます。

 

現代も妖精族が健在なら、きっと妖精界の扉を閉ざして人間界から遠ざかっていることでしょう。

それでも、こっそり遊びに来ることはあるかもしれません。

イギリスを訪ねたら、どこかで彼に会えるかも? 人間の真似をして家族で日本に海外旅行に来てることもあったりするかも? そんな妄想をしてみたくなりますね。

 

 

永遠の少年

巨人のディアンヌや長身のバンと共にいることが多いせいか、かなり小柄な印象がありますが、キングの身長は160cmあり、エリザベスと殆ど変わりません。しかし童顔のせいでそれ以上に幼く・小柄に見られがちのようです。

そのため人間社会では子供扱いされて何かと侮られ易く、彼の見栄張りの性格を大いに刺激したようで、王国騎士団時代は巨漢の中年姿(キング曰く「正装」)に変身して通し、本来の姿は隠していました。

 

中年男性姿の時は、身長は180cm、どっしりした体格と100kgを超える体重、髭が濃くなかなかの強面、腕・胸・脛には毛がモジャモジャ…と、本来のキングとは真逆の様相で、これらがまさに彼の「コンプレックス」なのだと読み取れます。

即ち、童顔、筋肉の薄い・細い体格と軽い体重、髭や脛毛などが薄いこと、です。

 

それらは「少年らしさ」ですが、「中性的」と言い変えることもできるでしょう。

彼が、変身した中年姿の自分をダンディだと思い、ツイーゴやドレファスのようなゴツゴツして体毛が濃い中年男性を「渋くてカッコイイ、イケメン」だと感じるのは、それが「中性的な姿」から、より遠く離れているからかと思われます。

世間一般にイケメンと評価されるギルサンダーのような優男に無関心なのは、甘いマスクには「少年的、中性的」な要素が残っているからなのでしょうか。

(ちなみに、髭面のおっさんでも、老ヘルブラムはキング的にはイケてないそうです。顔立ちが「甘い」方向に整っているから? …いえ、妖精族の仇の顔なので高評価しないということかも。)

 

要は、「本当の自分」の対極、正反対の姿に憧れているんですね。

子供でなく大人、童顔でなく強面、低身長でなく高身長、華奢でなく強剛、細身でなく肥満、体毛は薄くなく毛深い、と。

無い物ねだりです。彼の姿は永遠に細身の少年のままで、自然には太った中年になれませんから。

 

 

彼のこの美意識、<豚の帽子>亭の仲間たちはどう考えているのでしょうか。

皆が「キングの美意識はおかしい、おっさん姿はカッコ悪い」と思っている?

いえいえ。そうでもないのかも。

 

まずメリオダス

彼はキングがおっさんになっても動じません。少なくとも表面的には。変身によって服が変わることばかり気にしており、おっさん姿になっていても彼が大泣きすれば「よしよし」と撫でて慰めたりして、おっさんでも少年でも、対応が変わっている様子はありません。

ただし<お絵かき騎士団>コメントを参照するに、ツイーゴをイケメンと感じるキングの美意識を「奇特」だとは思っている模様。

 

次にディアンヌ

彼女もキングがおっさんでも少年でも気にしません。どちらでもキングに変わりないから、どちらでも懐かしいし癒される。

(逆に言えば、キングがカッコイイつもりで変身しているおっさん姿は、肝心の彼女には特にプラスアピールになっていないのでした。)

 

次はホーク。

彼はおっさんキングを「…ブタだな」「なんでわざわざあんな豚に変身するんだよ?」と辛辣に評価していますが、作者が質問コーナーで語ったところによれば、実は、キングのおっさん姿はそう悪くないと思っているのだそうです。

 

ゴウセル

彼はキングの変身を「骨格・体臭が変わる」としか認識していません。同一人物と確認できれば それでよく、美醜の評価はないようです。

 

エリザベス。

彼女は……。キングのおっさん姿に、少なからず引いているようですね。尤も、礼節があるので殆ど表面には出しません。

 

そしてバン。

彼は何故か、過剰なレベルで おっさん姿を拒絶・否定しています。

最初に変身を見て驚いたのは当然として、その後も、キングがおっさん姿でウェイターをやろうとすれば「客が来なくなる やめて」と言い(客が逃げるほど醜くはないと思いますが…)、<お絵かき騎士団>コメントでも、キングがおっさん姿を高評価する度に「マジで てめぇの美的センスはど~~なってんだ」だの「一回死んどけ♫」だの、とにかく辛辣です。

なんでそんなにおっさんキングを許容できないのか?

王国騎士時代に その姿で説教されてたことを思い出して、ムカついてしまうのでしょうか。

…あるいは、エレインの兄で、背格好は似ている彼が、似ても似つかぬおっさんになるのが生理的に耐えられないんでしょうか(苦笑)。

  

このように反応は多種多様で、全く否定しないディアンヌゴウセルもいれば、拒否反応を示すエリザベスやバンもいるといった具合なのでした。

 

 

ちなみに、全ての妖精族が「永遠に子供の姿」というわけではありません。

妖精族の姿は多種多様で、人間に近いもの、異形、獣形と色々。体の大きさも、人間と同スケールの者から、抱き人形のように小さい者、その中間の小人サイズと様々。

そして外見年齢も、幼児のような者、ティーンのような者、成人のような者、果ては中年のような者や老人のような者と、各年代が取り揃っているのでした。

どのくらいの外見年齢で成長・老化が止まるかに、個体差があるのかもしれません。

 

妖精王一族とその側近(妖精王補佐)は、「人間のローティーンくらいの背格好・外見年齢」で揃っているようです。

 

 

キングは<七つの大罪>のマスコット?

キングが<豚の帽子>亭の仲間入りする少し前、キング様ってどんな方なんですかと訊いたエリザベスに、メリオダスはこう答えました。

「そうだなー どんなって…」「一言で言や<七つの大罪>のマスコット …ペット的な位置?」

マスコットにペットって…。成人男性の仲間に対する評価じゃない(苦笑)。

まさか、以前からキングのことペット的に可愛いと思ってたのか。

 

メタ的に考えれば、「ペット・マスコット→可愛い→正体は少年姿の妖精族」と、当時の読者に示唆する暗示的表現に過ぎなかったのかもしれませんが、それを取り払ってしまうと、メリオダスは何でこんなこと言ったんだろうと不思議に思います(笑)。

 

 

人を集団のペット、マスコット的な立ち位置という場合、「皆に可愛がられる、いじられ役」というようなニュアンスがあるでしょうか。

まあ、いじられ役なのは確かかな。

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余談ながら。

マスコットは「(身近に置いておくと)幸運をもたらすもの(人、動物、人形)、護符」という意味の言葉。元はそれ以外に「おまじない(魔術)、幸運をもたらす親切な妖精」という意味で使われていたそうです。

それを踏まえれば、メリオダスがキングを<大罪>のマスコットだと言うのは、彼が団に幸運をもたらす妖精だと考えているから……と考えることも可能でしょうか。

 

  

妖精の手仕事

キングは手先が器用です。

戦いで力を振るう際にも、遠隔操作したり・複数の術を同時かつバラバラに操ったりと、指先を細やかに動かしながら器用な操作を見せるのは勿論、日常では様々な手仕事で器用さを発揮しています。

 

例えば、裁縫。

第142話のエレインの様子を見るに、妖精族は花びらなどを魔法で変化させて一瞬で服を作ってしまえるようです。

ところがキングは、革や布などの材料を用意して裁断し糸で縫い合わせる人間風の服作りが好きで、数百年作り続け、ディアンヌにも伝授しています。

その技術は人間に直接教わったのではなく、作っているのを偶然見かけて、こっそり観察して覚えたのだそうです。ほぼ独学なんですね。それもまた器用です。

 

あるいは、大工仕事。

第52話で、ディアンヌが壊した<豚の帽子>亭の煙突を、トンカチを使って器用に修理していました。

メリオダスが「また煙突こわしやがった」と珍しく渋い顔で呟いていましたので、ディアンヌが煙突を壊すのは日常茶飯事なのでしょう。けれど作中で壊れたままのことはなく、壊した端から修理されているものと思われます。キングの手慣れた様子からして、彼が毎回引き受けていたのではないでしょうか。

 

その他、彼が寝ているハンモックも、恐らくは彼の手作りかと思われます。また、彼とバンの部屋のドアには「BAN KING」と書かれたプレートが下がっています。エリザベスが作ってくれた可能性もありますが、もしかしたらこれも、キングが自分で作ったものかもしれません。

 

 

煙突をすぐに直してしまえるように、彼は仕事のスピードも きわめて速いです。

巨人のディアンヌの服をデザインから始めて一晩で縫い上げてしまったり、王都中の子供のヌイグルミをバンが奪った際は、その全てを元の持ち主に返しつつ、破れやほつれまで綺麗に縫い直す仕事を、バンが眠った後の深夜から夜明けまでの短い時間内に、たった一人で成し遂げていました。

 

 

キングのこうした器用さ、特に「一晩で大量の仕事をこなしてしまう」面は、非常に妖精らしい性質だと思っています。

伝承上の妖精は、優れた宝飾品・武器を作れる器用さを持つ、一晩で立派な橋を架けたり教会を建ててしまう、疲れて寝てしまった善良な職人や主婦の代わりに、夜のうちに裁縫や糸紡ぎなどを見事に仕上げておいてくれる、などと語られることがあるからです。

そう、妖精とは「一晩で、人間にはできない量・質の仕事をこなす」モノなのです。

 

 

また、妖精は整頓好きの綺麗好きで、だらしないのは大嫌いであり、主婦が怠け心で仕事をやりかけて眠っていたり、家が不潔だったりすると、懲らしめようと、やりかけの仕事をめちゃくちゃにする悪戯をしたり、青痣になるほどつねる、妖精の矢で射て手足を石のように動かなくしたり・リューマチにする、などの祟りをなすとも言われています。

 

考えてみたら、キングもだらしないのが嫌いで、王国騎士時代はバンに散々説教していたんでした。懲らしめようと、バンを狼に噛ませる過激な悪戯を仕掛けたこともありましたが、十倍返しされて狼の群れに蹴り込まれて以来、悪戯は諦めたとのことでした。

彼とバンの部屋を見るに、バンのベッドの周りには酒瓶だの本だのが散らかって汚いですが、キングのハンモックの辺りは綺麗です。服も、バンは寝る時も全部着たまま。キングは上着を脱いでポールハンガーに几帳面に掛けてありました。

 

キングのこうした性格や手先の器用さは、まさに「妖精ならでは」なのでしょう。

 

 

妖精王のお仕事

 妖精界に生える神樹によって選ばれた者。基本的に身分の上下など存在しない妖精界にあって、ただ一人、すべての妖精を従えることを認められたおさ。その強大な魔力は妖精王の森のみならず、この妖精界すべてを防護するに足る。敵対する人間は容赦なく殲滅し、その一方で、同族に対しては慈悲深い。

 妖精王ハーレクイン。

 エレインの兄である。

(小説『七つの大罪 セブンデイズ』より引用)

 

ここでは、小説『七つの大罪 セブンデイズ』で語られた情報を主に、妖精王と彼の守るものについて説明し、自分なりの考察を付記してみます。

 

 

妖精王とは、妖精界を中心とした妖精族の領域を守り、一族を守り育む存在です。

人間の王とは異なり、国を統べる代わりに税を取り支配を行うことはありません。

基本的に身分の上下のない妖精族において、唯一、全妖精を従えることを認められた存在ではありますが、受け取るのは無邪気な敬愛程度のもの。彼らの幸せを見返りに、ただひたむきに一族を守ることを己の性とするのです。

その愛の形は、人間の思う「王」と言うより「親」に近いものかもしれません。親は見返りなど考えずに子を愛し育むものですから。

 

妖精界は妖精族の生まれ育つ本拠地。人間界とは別に存在する独立した異世界です。

中心には「神樹」と呼ばれる、山脈より遥か大きな巨木がそびえ、大地や山に絡み広がる根の上に、様々な植物や巨大キノコが繁茂して、果てまで続く深く豊かな森が形成されています。

この豊穣は神樹に蓄えられた莫大な生命力がもたらすもの。まさに世界樹で、妖精界は神樹の恩恵によって形作られ、支えられているのでした。

 

神樹は、外敵が迫ると己に生える苔を守護獣ガーディアンの形にして戦わせます。とは言え人間のような意識はなく、善悪の感情もありません。妖精界を悠然と見守る「自然」そのものであり、自然の意思のように世界を守る王を選びます。

神樹に選ばれた者…妖精王は、誰よりも多く神樹の力を引き出すことができる者。その恩恵に浴して、絶大な魔力を誇るのです。

感情がない神樹は、選んだ王を途中で見限ることがありません。王は終生、王であり、生きている限り新たな王が選ばれることはありません。

 

かつてギーラが、キングの魔力<災厄ディザスター>は「(霊槍シャスティフォルの)全ての特性を引き出す」ものだと語ったことがあります。シャスティフォルは神樹から作られており、いわば神樹の一部。ですから「神樹の力を引き出す=シャスティフォルの力を引き出す」と解釈することができるのでしょう。

 

神樹の幹は天地を結び支える巨大な柱のようです。その根元近くに大きなうろがあり、それが人間界…厳密には「妖精王の森」へと繋がる転移門になっています。

 

妖精王の森とは、人間界に存在する妖精族の領域。神樹の影響を強く受け、その意味で「妖精界の一部」でもあります。

二つの世界の境界であり出入口であるこの森にも、幾らかの妖精たちが暮らしています。

ここには人間を始めとした異種族が入り込むこともありますが、ささやかに果実を摘む程度なら黙って見逃されても、悪意を以て森の奥へ、更に奥の妖精界に侵入しようと目論もうものなら、妖精王という絶対の守護者に阻まれ、死を与えられるのでした。

 

 

700年前まで、キングは妹と一緒に妖精界で暮らしていました。

強大な魔力を持つ彼は、妖精界にいながらにして妖精王の森の様子を詳細に透視することができ、異変に気付くと神樹のうろを通って妖精王の森へ出向くのです。

 

現時点で明かされている情報では、この「透視」がどういう方法で行われるものか、今一つ不明瞭なのですが、漫画の絵を参照する限り、例の転移門でもある神樹の根元のうろに、妖精王の森の様子をスクリーンのように映し出すことが出来たと思われます。

 

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そのうろの正面に生えた、塔ほどに高く巨大なキノコの株の上が、彼の定位置。そこに座ったり寝そべったりして監視をしていたようです。

神様が泉や鏡に下界を映して見ている…というイメージに近いでしょうか。

 

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この巨大キノコは、いわば妖精王の玉座。

他の妖精たちも、彼に用がある時はこのキノコに集まっていたようです。

かつてエレインやヘルブラムに人間風の服をお披露目したのも、ヘルブラムが「そん時は俺っちを止めてくれよ!!」と約束させたのも、「行かないで兄さん…」と引き留めるエレインを置いて飛び立ったのも、全てこのキノコの上での出来事。

  

妖精王の森だけでなく、その外の人間界の様子も透視できたようですね。(人間界に連れ去られたヘルブラム達を映し出していました。)

これはキング固有の能力で、他の妖精には真似できない模様。そのため、ヘルブラム達を助けに森を飛び出した彼が、その後どうなったのか、残された妖精たちには判りませんでした。

 

なお、番外編『ハーレクインとヘルブラム』を参照するに、異変がなくとも「見回り」と称して妖精界や妖精王の森を巡ることもしていたようです。

そして『セブンデイズ』によれば、妖精王の森に巡回に出たついでに、こっそりと、森の外に足を伸ばすこともあった模様。

これは好奇心によるもので、人間の前に姿を現すことはしませんでしたが、隠れて彼らの様子をうかがい、服の作り方など興味を惹かれたものを覚えたり、笛などの落とし物を持ち帰ったこともあって、エレインに渋い顔をさせていました。

 

 

さて。

妖精王の仕事は、領域の防衛だけではありません。

生命の状態を良い方にも悪い方にも促進させられる、生と死の両極面をもたらす彼の魔力<災厄ディザスター>は、本来は植物を育て、あるいは枯死によって間引いて、森をよりよく繁栄させていくための力です。

妖精族は森で暮らし、その恵みで衣食住を賄っていますから、王が森を育てるのは「一族を養っている」と言い変えもできることかと思います。

 

バンが、焼失した妖精王の森の種を植え、己の血で育てて、妖精たちに一時「妖精王様」と呼ばれていましたが、まさに、その仕事は以前はキングが、妖精王の仕事として己の魔力で行っていたものだったわけです。

 

バンの血に宿る「森を育てる力」は、彼が飲んだ「生命いのちの泉」によるもの。

この泉が失われれば妖精王の森が枯れるとされ、キングが行方不明の間はエレインが常駐で守り続けていました。

 

ところがです。考えてみれば、キングが森にいた頃にそれを守っていた描写が、今のところありません。そもそも、妖精王に森を育てる力があるのに、同じような効力のアイテムまで設置されているのは不思議ではないでしょうか。

そこから考え得るのは「キングがいた頃は、生命いのちの泉はさして重視されるものではなかった」、「キングがいなくなったからこそ、何より優先して守るべき宝になった」という状況です。

 

第139話の感想で一度書いたように、生命いのちの泉とは「森を育てる妖精王の仕事を補助する」ためのアイテムだったのではないかと、現時点では想像しています。

 

森は基本的に王が育てるもの。けれど彼の負担を軽減するため、もしくは彼に何かがあった時の保険として、同じように森を育てる力のあるアイテム「生命いのちの泉」が用意されていたのでは。

キングの行方不明後にこの泉の守護が最優先されたのは、彼の代用品として運用するためだったのではないでしょうか。

 

このように考えれば、アルビオンを倒したキングが妖精王として復権した際に、バンが「俺も ようやく面倒な役とはおさらばだ♪」と言ったのも頷けます。

この20年は、彼が数年置きに通って、生命いのちの泉の力を宿した己の血で森を増殖・維持させてきました。結果的に、妖精王の代理として。

けれど、本物の妖精王が帰ってきた(いつでも帰れるようになった)ならば、彼がそんな面倒を続ける必要はないからです。

 

 

『セブンデイズ』によれば、生命いのちの泉も「神樹の恩恵そのものとも言える」ものなのだそうです。これがある故に妖精王の森と神樹にリンクが生じ、王には及ばぬものの「森を守る力」が生じると。エレインはその力を借りて泉を守っていました。

泉が失われれば神樹とのリンクが切れる。リンクが切れて神樹の恩恵を失えば森が枯れる。森が枯れれば守る力が失われて、妖精界に異種族が侵攻するかもしれない。だから泉を死守しなければならない、と。

 

けれども、神樹から直接恩恵を受けている妖精王がいるならば、泉が失われようと森は枯れないはずです。

そもそも「森を守る力」に頼らずとも王個人の力だけで外敵と戦えるので、王がいるならば、泉の重要性は高いものではなくなるのでしょう。

 

 

ところで、生命いのちの泉は「水の入った杯」の態をしています。妖精王の森で最も大きな「妖精王の大樹」の上に置かれ、その台の下には、まさに泉と言っていい量の水が溜まっていました。

一見して、杯から溢れた水が溜まっているかのようです。しかしそうではなく、そちらは妖精王の大樹が地下から吸い上げた普通の清水なのだそうです。

 

金属の杯の中に、常に一杯分だけ存在し続ける不思議な水。溢れているように見えて溢れていない。

どう見ても自然物ではなく、誰かが作ったものですね。

 

神樹の恩恵というからには、神樹の何かを加工したものなのでしょうし、神樹は基本的に妖精族しか入れない妖精界にあるのですから、妖精族の誰かが作ったはずです。

 

一体誰が、いつ作ったのか?

 

量産できるものならば、あれほど必死にエレインが守る必要はありません。

太古の秘宝で今は作る技術が失われている?

神樹に実が生らないと作れない・数千年に一度の時期にしか作れないなどの特殊な条件がある?

或いは、これも「妖精王がいなければ」作れないものだったりするのでしょうか。

  

 

王たる所以ゆえん

10巻の<お絵かき騎士団>のコメントに、キングが「団長って 普段と戦ってる時のギャップがありすぎない?」と言って、ディアンヌ、エリザベス、バンが「そこがいーんだよ!!」と口を揃えるものがありました。

でもキングもメリオダスに負けず劣らず、もしくはそれ以上に、普段と戦闘時のギャップが大きいキャラクターだと思います。

 

普段は、呑気でいじられ役で、バイゼル喧嘩祭りの時など、他の参加者に怯えて青ざめたり緊張でお腹を痛くしていたり。愛嬌はあるけれど、ちょっぴり情けなくて ひ弱な少年といった風情です。

ところが戦闘を始めると冷徹になり、高みから容赦ない攻撃を繰り出してきます。戦いが激しくなればなるほど、怒りが増せば増すほど、冷ややかな静けさも増していくようです。

 

第75話には、キングに不意打ちを一蹴されたうえ、一瞬で反撃を封じられ、喉元に大槍を突き付けられたドレファスが、「この強さ… この威圧感…」「これが妖精族の王たる所以ゆえんか…!!」と戦慄する場面がありました。

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普段の可愛らしい様子からは かけ離れた、けれど間違いなく彼の持つ一面です。

 

バイゼル喧嘩祭り後にギーラ&ジェリコと対戦した際には、最初は手加減して軽くあしらい、とどめを刺さずに見逃そうとしたものの、しつこく食い下がられると「オイラの邪魔をしたら 今度は」「仕留める」と、本気で殺そうとしました。

ヘルブラムの介入がなければ、彼女らはここで死んでいたでしょう。

 

バン曰く「どんなクソみてぇな相手だろうと 殺さねぇ」「甘っちょろい男」であるメリオダスとは違って、キングは、必要と感じたならば殺害を躊躇しません。

無論、殺戮自体を好むようなことはなく、バンがギーラを殺そうとした際に「野蛮だな… 石化させる」と止めたこともありました。

バンには「同じことだろが♪」と一蹴されていましたが、前述のギーラ&ジェリコ戦でも最初は見逃そうとしたように、簡単に殺せる状況であっても何らかの救いを残そうとする寛容さ…ここはあえて「慈悲深さ」と表現してみますが、それがあるのも確かです。

王都決戦時など、実は二度も、その時点で敵だったジェリコの命を救っています。(彼女は気絶していて、それを知りませんが。)反面、ジェリコが魔神化してディアンヌを襲うと、即座に殺そうとしました。メリオダスに止められて実行しませんでしたが。

 

キングは、基本的にはケンカや争い事は嫌いです。メリオダスやバンが喧嘩勝負を楽しむのにも参加せず、大抵は、一歩離れて冷めた目で見ている。戦うこと、勝つ(一番になる)ことに価値を見出せないようです。

その一方で、必要と判断すれば戦い、躊躇いなく殺すのでした。

  

慈悲深いが恐ろしい。彼のそんな性質は、一族を守るため、侵攻してくる人間たちと戦い続けてきた妖精王としての経験から生まれたものなのでしょう。

 

 

小説『セブンデイズ』には、兄に代わって森を守り、多くの侵入者たちの死に接することになったエレインが、兄は自分よりもっと苛烈な守り方をしていたはずだ、優しい彼が、どうして平気だったのだろうと不思議に思う場面があります。

 

 エレインがそうしているように、兄もかつてこの妖精王の森を守護していた。

 あるいは、そのやり方はエレイン以上に苛烈だったのかもしれない。なにしろ、兄のことを恐れた人間の側から、和平の盟約を持ちかけてくるほどだったのだから。

 しかし、それでいて兄はそのことを嫌がってはいない様子だった。実を言うと、兄に代わって妖精王の森を守り始めてから、エレインはその点を少し不思議に思っていた。エレインが知る兄は、たとえ相手が人間であったとしても、無闇に殺戮を好むような性格ではない。だが、森を守るために殺戮は決して避けて通れない。避けるどころか、むしろ積極的に行わなければならないことだ。妖精王の森に無断で侵入すれば生きて帰れない――その事実こそが、欲望過多な人間たちを抑える重石となり、森の安寧にも繋がるのだから。

 ならば、兄はどこで気持ちの折り合いをつけていたのか?

 王としての義務感か? それとも、人間に対する不信感か? 

 

数百年かけてエレインがたどり着いた結論。

それは、「それが兄のやりたいことだったから」でした。

妹を、親友を、一族を守る。それが彼のやりたいこと、生きる目的、バンが言うところの「自分てめえの命を投げ出してもいいと思える「何か」」だったから。彼は苦にも思わず守護の戦いを続け、殺戮も厭わなかったのだろうと。

 

 

バンの血で再生された森にキングが帰った時、妖精たちは彼を罵り、石まで投げて追い出そうとしました。そんな仕打ちを受けたのに、森でアルビオンが暴れると、誰に望まれたわけでもなく、彼は躊躇いなく己の命を賭して戦いました。

彼が森を守る理由は、誰かに強制されたからでも、見返りがほしいからでもない。一族が「大切」だから。それだけでした。

そのためなら自分がボロボロになっても構わないし、相手を殺すのも迷わない。

 

 

番外編『ハーレクインとヘルブラム』にて、一番「大切」なものは何か、一つだけを選べと迫られた700年以上前のキングは、こう答えました。

 

ハーレクイン(キング)
「…オイラは妖精王だから」「妖精界と妖精王の森を守ること……」「でも 妖精族みんなを守ることも大事だよな…」「エレインは オイラのたった一人の妹だし」「ヘルブラムキミは かけがえのない大切な親友だ」 

ヘルブラム
「…その中から もしも一つを選ばなくちゃいけないとしたら?」「さあ一番をキメロ」 

ハーレクイン(キング)
「ど… どういう状況なのさ?」 

ヘルブラム
「いーのいーの」 

ハーレクイン(キング)
「うん……うーん…」「じゃあ………」「全部 一番かな」 

ヘルブラム
「へ?」「それじゃ「一番」の意味ないだろ!?」

ハーレクイン(キング)
「いーのいーの」「見回りしてこよーっと」

ヘルブラム
「良くない!! ズルいぞ!! 欲ばりめ!!」

ハーレクイン(キング)
(だってさぁ)

「だって オイラは王様だもん!!」
(―――大切なものを全部守れたら それが一番 素敵じゃないか)

 

この後、彼は僅かな判断ミスと油断によって、親友も、妹も、森や一族も、全てを守れず失ってしまうわけですが…。

 

 

「全部一番」だというキングの考えは、人によっては納得し難いものに思えるかもしれません。

全部一番なんて、一番がないのと同じことだ。そもそも無理だし現実的でない。幼稚な考えだ。ディアンヌと出逢って「本当に一番大切なもの」を見つけたことで、やっと大人になれるに違いない。…そんな風に解釈する向きもあるかもしれません。

 

しかし、そうではないようです。

恋人のディアンヌ、妹婿のバンと、新たに大切なものが増えても、そのどれかだけが一番だとは、彼はやはり考えません。けれどそれは、一番がないのと同じ、ということでは決してないようです。

 

アルビオンと戦う際、ディアンヌにもう一度逢いたいと願いながらも、逃がしてくれようとする妖精たちや、王の責務など棄ててディアンヌと暮らせと言ってくれたヘルブラムに従わず、踏み止まって戦い、こう独白しました。

 

「オイラは… 欲ばり王様だから…」「森も… 妖精なかまたちも… ディアンヌも―― 全部… 守りたいんだ」
(それに オイラが守れなかったエレインの心を救い)(今もなお 守り続けてくれる――)(バン)(キミのことも!!)

 

700年以上経っても、何も変わっていません。

彼は、昔ヘルブラムに「欲ばり」と言われたことを忘れていません。失敗して全てを失い、妖精たちに「お前など王ではない」と見限られもしました。

それでも諦めていない。

むしろ以前より抱えるものを増やして、やはり、全てを守ろうとしている。

きっと、これから何度失敗したとしても、「全部守る」ことを諦めることはないのでしょう。

 

普通ではないことは確かです。

しかし、彼にとっては苦ではなく、むしろ自然なことで、「自分の命を投げ出してでもやりたいこと」であるらしい。

これが彼の性であり、王たる所以ゆえんなのだと思います。

 

 

妖精王の羽

700年前、ヘルブラムに従って人間と親交を持とうとした妖精たちは、羽をむしり取られて殺されてしまいました。

人間にとって、虹色に輝く妖精の羽は不老長寿をもたらす薬ともされる珍品で、高値で売買されるお宝だったのです。(現実には、妖精の羽にそんな効能はありません。)

 

キング外伝でこのエピソードを見た時、多くの読者が考えたようです。あれ? そういえばキングやエレインには羽がないけど、どうして? と。

 

実際は、羽のない妖精族は沢山います。オスローら黒妖犬ブラックハウンドもそうですし、白夢の森にディアンヌを匿っていた いたずら小鬼のハイドアンドシークや、エレインに懐いていた小鬼三兄弟もそうですね。

羽のない妖精は基本的に飛べず、第118話の妖精たちがアルビオンに立ち向かう場面では、羽のない妖精を羽のある妖精が抱えて飛んでいる様子も確認できます。

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キングやエレインにも羽がありません。けれど飛ぶのに不自由していませんし、それどころかキングは羽のあるどの妖精より早く飛ぶことができます。

また、エレインの主観で綴られた小説『セブンデイズ』でも、自分や兄に羽がないことを、彼女が「特異なこと、劣ったこと」と感じている描写はありませんでした。

 

以上から、キングに羽がないのは、単にそう生まれついただけで、特別なことではないのだろうと思ってきました。

 

ところがです。

第二部に入って早々の第104話にて、ジェリコに「だって 絵本の妖精には羽が生えてるぜ? なんで お前には生えてないんだよ?(だからお前は妖精じゃないんだろう)」と言われた時、キングはギクッとした様子になって「そ… それは」と言葉を濁したのです。

 

そしてついに第134話にて、メリオダスにまで指摘されてしまったのでした。

メリオダス
「なぁ キング… お前こそ 本当に妖精王なのか?」「先代の妖精王ダリアも 先々代… 初代妖精王グロキシニアも立派な羽を持ってたけど」「なんで お前には生えてねえ?」

そう問われたキングはピクッと反応し、嫌なことを指摘されたとばかりに「黙れ…」と、唸るように怒っていました。

 

羽がないって、そんなに変なことなの?

まさか本当にキングは妖精王ではないのでしょうか? それどころか、ジェリコが疑ったように妖精ですらない?

 

この件について、「キング&エレイン兄妹は妖精と人間のハーフ」と見る考察があり、第一部の頃から根強い人気です。第二部半ば時期の商業考察本にも書かれていました。兄妹が、ヘルブラムらとは違う人間のような丸耳である点も根拠とされます。

 

真相は判りません。でも今のところ、私はそう思わない派です。

前述したように羽のない妖精は珍しくないこと、容姿も、耳の形どころか獣形の妖精すらいるのだから、他と同じ形でなくとも特におかしく思われないこと。

何より、妖精族は基本的に人間を蔑んでいるのに、キングが妖精たちに罵倒される場面でもそのような悪口がされていないこと。特に人間を蔑む傾向の強い、先代妖精王から仕える老臣のゲラードが、キングを唯一無二の妖精王と認めて尊崇していること。

そもそも、自分に人間の血が入っているなら、キングもエレインも、あれほどに突き放して人間を見下し、己と人間を完全に切り離した発言はできないでしょう。

 

 

ともあれ、キングが本物の妖精王であることだけは確実です。動植物を芽生え・枯死させ、神樹の力を誰よりも引き出す彼の魔力は妖精王ならではのもので、疑いようはありません。

では、どうして彼には羽がないのでしょう。

 

一つのヒントとなり得るのが、アニメ第一期完結時に発売されたミニムック『七つの大罪 公式アニメガイド アニシン』の妖精王の森の解説ページに書かれていた一文です。

妖精族はかなりの長寿で、1000歳を越える者も少なくない。また、成長すると生えてくる虹色の羽は、人間界で高値で取り引されている。

羽は成長すると生えてくる!?

では、キングは未だ成長途上なのでしょうか、1300年も生きているのに。

ほぼ同じ年のヘルブラムには、700年以上前から立派な羽が生えていたのに、遅すぎませんか?

 

この記事を読んだ当時は、妖精族の平均寿命は1000~1500歳程度という情報しかありませんでしたので、1300歳前後のキングは もはや老齢に近いはずと理解しており、なおさら釈然としませんでした。 

しかしその数ヶ月後、妖精王の寿命は全種族でも最も長いかも、という設定が公開されましたので、1300歳のキングが未だ成長途中でもおかしくない、と考えることができるようになりました。

 

でも、それなら羽がないのは当たり前のことのはず。キングが羽なしを指摘されるのを嫌がっている様子なのは何故でしょう。

1300歳になって生えないのは、妖精王としても発育が遅く・恥ずかしいことなのか?

 

この回答は第二部内には明かされるでしょうから、考察はここまでにしておきます。

第134話には、キングが自らの「状態促進ステータス プロモーション」の魔力をメリオダスに反射され浴びてしまい、背中が痛くなる場面がありました。この流れを見る限り、羽は未成熟ゆえに生えておらず、己の魔力で成長が促進されて生えた、となるのが濃厚でしょう。

 

まあ、穿った事を考えるなら、かつて羽が生えていたのに何らかの事件で失っており、それが「状態促進ステータス プロモーション」によって再び生えることになった、なんてセンもあるのかもしれません。 

 

 

いにしえの妖精王のこと

キングの羽なしをメリオダスが指摘した際、先代と先々代の妖精王について言及しました。先代は妖精王ダリア、先々代(初代)は妖精王グロキニシア。二人とも立派な羽を持っていたと。

 

現時点ではこれだけ。彼らは漫画に登場しておらず、姿どころか性別すらも判りません。

このエピソード前後に「(古の妖精王の本編登場を)楽しみに待っててください。」と作者がコメントしましたので、遠からず登場するでしょうが…。

 

 

実は、第二部が始まった頃に発売された3DSゲーム『七つの大罪 真実の冤罪アンジャスト・シン』に、キング以前の妖精王がオリジナルキャラクターとして登場し、「いにしえの妖精王」と呼ばれていました。 

オリジナルキャラとは言え、このゲームのシナリオは原作者監修を経たもの。古の妖精王のキャラデザインも作者によるものか、少なくとも監修を受けたものと思われます。

また、同じ頃に発売された原作のファンブックに、キングとヘルブラムの尊敬する人物が「古の妖精王」だと記載されていました。

 

以上から、ゲーム版の古の妖精王が、原作と全くの無関係とは思われません。

しかし、ゲーム版の設定が その後の漫画で否定された例もあり(ゲームのディアンヌは「自分以外の巨人族とは殆ど会ったことがない」と述べていたのに、後の漫画では普通に巨人族社会で暮らしていたと語られた)、古の妖精王の設定やデザインも、ゲームと漫画では異なる可能性は大いにあります。

 

それを前提にしつつ、ここでは、ゲーム版を主に参照して、古の妖精王がどんなキャラクターか、キングとはどんな関係にあるかを、予習を兼ねて考察・まとめておこうと思います。軽~く読み流していただけるとありがたいです。

 

 

さて。

七つの大罪 真実の冤罪アンジャスト・シン』は、原作のパラレルストーリーです。バイゼル喧嘩祭りの試合中までは原作と同じですが、試合後の老ヘルブラム戦で刃折れの剣を奪われません。そこから異なるストーリー展開になっていきます。

 

ゴウセル加入後、バンの前にエレインの亡霊が現れて、死者の都の異変を伝えて助けを求め、何かに脅え苦しむ様子を見せて消えてしまいます。

バンとキング主導で、<豚の帽子>亭一行は死者の都に突入。

人語を喋る大フクロウに出会い、<忌まわしき魂>なる存在が死者たちを怨霊化して操りつつあり、放置しておけば現世に死者が攻め込む事態になると知らされました。

 

<忌まわしき魂>とは、死者の都の最下層に封じられた、強い無念や怨念を残して死んだ者たちの魂で、10年前に殺された聖騎士長ザラトラスの魂を拠り所とした集合体になったことで、強力な怨霊と化していたのです。

一方、死者の都にはリオネスの聖騎士たちも部隊を成して侵入し、<忌まわしき魂>を<大いなる魂>と呼んで、利用するため手のうちにしようと目論んでいました。

 

人語を喋る大フクロウは、あらゆる魂の守護者であり、死者の都の門番たちの任命者です。死者の都の入口は、ルイジ&エレン兄妹の守る廃村以外にも各地にあり、それぞれ違う死者が門番を任されているのです。

そして、大フクロウにその仕事を任せた、死者の都の真の守護者こそが「古の妖精王」なのでした。

 

古の妖精王は、エレインによく似た少女の姿で現れました。

面白いのは、バンとキングは彼女を見てエレインそっくりだと思ったのですが、エレインと面識のないエリザベスは「どこか、キング様に似ておられたような……?」と言ったことです。妖精王としての気配が似ていたとも考えられますが、第三者から見て、ちゃんと兄妹らしく、エレインとキングはどこか似ているということかもしれません。

 

 

さてさて。

前述したように、漫画では過去の妖精王は立派な羽を持っていたと語られたのに、ゲームの古の妖精王には羽がありません。ついでに耳の形もキングやエレインと同じ丸耳です。

(古の妖精王の思念が宿っていた祭器「妖精の女神像」は、耳が尖っているし虹色の羽も生えていましたが。)

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どういうことなのでしょうか?

メタ的に考えれば、この古の妖精王がデザインされた頃はまだ、過去の妖精王に立派な羽があったという設定が無く、キングやエレインと似た姿だったとしか想定されていなかった…というだけなのかも。

或いは、妖精王一族は普段は羽を消すこともできて、いざという時に大きく広げる、なんて設定なのかもしれません。

 

 

以下、古の妖精王との出会いの場面の会話を、抜粋・引用してみます。

#死者の都、氷の回廊。妖精の横顔を象った巨大なレリーフが壁に刻まれている場所に、エレインによく似た少女が佇んでいる。

????
「…………」

キング
「待って! キミは一体、誰なんだ!? ボク原文ママやエレインと関係あるのか?」

????
「やはり、思い出せませんか。私は、お前の……。
 ……っ!?」

ヘルブラム(老兵)
「は~い、捕まえた~っと。この子は、そっちの知り合いかい?」

キング
「ヘルブラム! そ、その子から手を離せ!」

ヘルブラム(老兵)
「そういうわけにはいかないんだよん。この世界じゃ、人質を確保するのもひと苦労だからね」

????
「…………」

ヘルブラム(老兵)
「さあ、祭器を渡してもらおうか? それがないと、俺っちも死者の都の最深部に入れないからね。ついでだから、常闇の棺ももらっておこうかな~?」

????
「……私を気にしてはいけません。戦いなさい。妖精王、ハーレクイン」

キング
「……!? なぜ、キミがその名前を……?」

 

#中略。ヘルブラムが敗北して撤退。

 

????
「深追いはなりません。目的はあくまでも<忌まわしき魂>です ハーレクイン」

キング
「キミは……消えたんじゃなかったのか。馴れ馴れしく、その名前で呼ばないでくれないか?」

????
「……やれやれ。自分の血族の声も、忘れてしまいましたか」

キング
「血族……!? そ、それじゃキミは……」

????
「そう……私は古の妖精王。ハーレクイン、お前の遠い先祖」

キング
「古の、妖精王……!?」

メリオダス
#笑って
「へえ……こりゃ驚いたな」

旧妖精王
「正確には、歴代妖精王の思念の一部。その集合と知りなさい。
 私達は、名もなきフクロウに死者の都の管理を任せ、<忌まわしき魂>を封じ続けていました。しかし、それも限界のとき……
 力を強めた<忌まわしき魂>は、お前達が鎮めなくてはいけません」

 

 

この会話から判ること。

 

●古の妖精王はキングとは血縁関係にある。

別の部分で「エレインが使者として現世にやってこれたのも、元から、オイラと同じ妖精王一族の血が流れていたから」とも語っていました。

つまり、妖精王とは妖精族の中から神樹にランダムに選ばれるものではなく、選ばれるべき血筋・家系があるらしい。

また「遠い先祖」とも言っています。ならば親や祖父母ではありません。

 

ただし、妖精族に人間と同じような親子(血縁)関係があるのか、それすらも現時点では不明です。

キング外伝を参照するに、妖精族には「結婚して子孫を残す」概念が存在していないようです。人間は寿命が短いからそうする、と語ったところを見るに、寿命の長い妖精族はパートナーを作ることや子孫を残すことにさして興味がないらしい。

 

そもそも、人間と同じように生殖するのでしょうか?

なにしろ、現時点で作中に登場した妖精族に「親子」がいたためしがありません。「兄弟」ならば、キング&エレイン兄妹、小鬼三兄弟など、何組か見当たるのですが。

 

親はいないが兄弟はいる。

ここからイメージしてしまうのは、妖精の両親から生まれるのではなく、植物や泉などの自然物から発生する、なんて設定です。

伝承上の妖精を参考にするなら、人間と同じ方法での繁殖も可能かと思うのですが、『七つの~』世界では滅多にないことなのかもしれません。

 

そう考えるなら、妖精王一族とは「神樹から生まれた妖精たち」を指すのかも?

神樹とは妖精界の世界樹。妖精界そのものを支え育む生命の根源です。それから生まれる妖精ならば、神樹の力を最も引き出す妖精王に相応しいかもしれません。

 

 

●キングは、古の妖精王との記憶を失っている!?

これが最も気になった点でした。

 

キングは古の妖精王と面識がありませんでした。なのに彼女は言いました。

「やはり、思い出せませんか」

「……やれやれ。自分の血族の声も、忘れてしまいましたか」

 

普通、血族だからと言って、会ったこともない相手の顔や声を知っているはずはありません。

ここから読み取れるのは、キングは過去に古の妖精王と面識があった。より厳密には声を聞いたことがあった。なのにそれを完全に忘れている、ということ。

更には、古の妖精王が「やはり、思い出せませんか」と言っているので、忘れても仕方ないだけの何かが、過去のキングの身の上に起きている、とも読み取れると思うのです。

 

ヘルブラムも古の妖精王の顔を知りませんでしたが、幾つかのイベントでの台詞を参照するに、妖精王一族が死者の都を守っていることは承知していたようです。

ところが、キングはそれすらも知りませんでした。

妖精王補佐が知っていることを、当事者の妖精王が知らないなんて、あるでしょうか?

 

以上から推測するのですが。

キングは、過去に古の妖精王と会話したことがあるのだと思います。妖精王一族が死者の都を守っていることも知っていたのかもしれません。

ところが、それを綺麗に忘れている。

彼には、名前以外の殆どの記憶を500年間喪失していたという前科があります。過去に「記憶を失っても仕方ない」と古の妖精王も納得する何かがあって、記憶が欠落しているのかもしれません。

 

なお、原作17巻の<お絵かき騎士団>コーナーのコメントでは、キングは過去の妖精王たちについて「~ってたって話だよ!」と、伝聞形式で語っています。

漫画本編の設定でも、キングは古の妖精王と直接の面識がないようです。果たして、ゲーム版と同じような「本当は面識があるはずなのに忘れている?」描写はあるのか。そんな設定はなかったことになるのか…。

 

 

●妖精王一族は、死後に死者の都を守っている。

「正確には、歴代妖精王の思念の一部。その集合と知りなさい。
 私達は、名もなきフクロウに死者の都の管理を任せ、<忌まわしき魂>を封じ続けていました。」

歴代と言っても、キング以前の妖精王は二人しかいないと、後に原作で語られてしまいましたが(苦笑)。ともあれ、過去二人の妖精王の思念が集合体となり、死者の都を守っている、と現時点では考えておきます。

 

「思念の一部」と言っていますが、これをどう解釈すればいいのかは、よく解りません。

古の妖精王たちの魂の本体は、生まれ変わるなどして死者の都にはおらず、その一部である思念だけが残留して働いているという意味なのか。

そうではなく、生まれ変わらず魂も死者の都にいるけれど、本体は<忌まわしき魂>を封じるのに忙しく、そこから別れた思念の一部が祭器「妖精の女神像」に宿って、キング達を導きに来たという意味なのか。

 

「名もなきフクロウに死者の都の管理を任せ」と言っているのも、解釈の余地があります。

最初からその分担で、王とフクロウの二人三脚で死者の都を守ってきたという意味か。

それとも、本来は古の妖精王が単独で全ての管理をやっていたが、ここ10年で<忌まわしき魂>が活性化して強力になってきたため、それを封じるので手いっぱいになり、一時的な代理としてフクロウに管理を任せたということか。

 

なんにせよ。

生きている間は妖精族を守り、死んでからは死者の都に来る全ての種族を守っているんですね、妖精王。どんだけ守るのが好きなんだよ(笑)。

サブシナリオでキングに無理矢理 特訓を課した際も、やり遂げた彼に「よろしい。その力をもってすれば、いつの日にか大事な人を守ることができるでしょう」と言っていました。

ホントに守るのが好きなんだな! そう言われたキングも、勿論「は、はい!」と頷いていたものです。守れる力を持つことこそ重要なんですね。

まあ、それを望み、進んでやる気質の持ち主だからこそ、「妖精王の血筋」の中から神樹に選ばれるのかもしれません。

 

 

余談ですが、ゲームのキングは古の妖精王を「妖精王様」と呼び、「今はあなたが妖精王でしょう」と突っ込まれていました。「先輩方」とも呼びましたが、こちらには突っ込まれなかったです。

原作17巻の<お絵かき騎士団>コーナーのコメントでは、キングは過去の妖精王たちを「昔の妖精王様たち」と呼んでいます。

 

 

霊槍シャスティフォルと十の形態

キングの神器は霊槍シャスティフォル。

神樹から作られた武器で、大槍は枝、<増殖インクリース>は葉、クッション・<守護獣ガーディアン>・<導苔ルミナシティ>は苔、<光華サンフラワー>は花と、植物の特長を持つ十の形態に変化します。

それぞれが特定の用途に優れ、特殊効果付きの形態もあって、メリオダスも「お前の神器って本当 便利な」と感心したものでした。

第一形態 大槍
(名称不明)
基本の大槍。
第二形態 守護獣ガーディアン 熊っぽいヌイグルミ。腕は二対。
遠隔操作のゴーレムのように使用し、運搬、救助、格闘にも使える。大きさを変えられる。
第三形態 化石化フォシライゼーション 刺した対象を石化する。
第四形態 光華サンフラワー ビーム攻撃。
威力・方向は調整できる。
第五形態 増殖インクリース 無数の刃で攻撃。追尾可能。
第六形態 現時点で不明
第七形態 導苔ルミナシティ 照明
第八形態 花粒園パレン・ガーデン 広範囲をバリアで覆い、内部の者を徐々に回復。
第九形態 現時点で不明
第十形態 クッション
(名称不明)
大きさを変えられる。モフモフで気持ちいい。
運搬にも利用。

驚いたことに、第二部半ばとなった現時点でも、十の形態の全ては明かされていません。うーん、まだまだ底が知れませんね。

 

これに加えて、第二部からは神器解放による「真・霊槍シャスティフォル」なる異形の巨大槍形態も登場しています。

そこから更に十の形態に変化するのか、「真」には巨大槍の形態一つしかないのかは、現時点では判りません。

 

使用者であるキングの器用さでもあるのでしょうが、一度に複数の形態にしたり、入り混じらせて使うことも可能。

第21-22話では<守護獣ガーディアン>でバンを拘束しつつ<化石化フォシライゼーション>を使い、第90話ではクッションにバンを乗せて運びつつ<増殖インクリース>で魔神の芽を刻んでいました。

 

 

大槍形態時の刃先に至るまで、全てが木製です。金属は使われていません。(伝承上の妖精は金属を嫌うものです。『七つの~』世界の妖精族も、あまり金属が好きではないのかもしれません。)

木製であっても硬度は鋼以上。炎に格段に強く、<守護獣ガーディアン>形態時は水気を多く含んで、焼けることはまずありません。

北欧や中国少数民族の神話では、世界の終わりの大火の中で世界樹だけが焼け残り、幹の中に隠れていた人間のつがいが新たな人類の祖となったと語られますが、神樹とはそういう、焼けにくいものなのかもしれません。

反対に、含む水分ゆえに凍結には弱いです。

 

凍結や切断でバラバラになっても、僅かな時間で自己再生します。

思えば、神樹の恩恵たる「生命いのちの泉」で不死身になったバンも、バラバラになっても短時間で自己再生するのですよね。

となれば、これも「莫大な生命力を蓄えた」神樹の特性ということなのでしょう。

 

 

 

17巻の<お絵かき騎士団>コメントによれば、過去の妖精王たちも、霊槍シャスティフォルのような神樹から作った武器を それぞれ持っていたそうです。

 

即ち、シャスティフォルは代々の妖精王に受け継がれてきたものではなく、あくまでキング専用武器ということ。

……それを<大罪>結成時にリオネス国王から賜ったとは、どういうことでしょう? 神樹は妖精界にしかなく、基本的に妖精界に異種族は侵入を許されません。人間が作ったとは思い難いのです。

 

妄想ですが。

シャスティフォルは元々、キングのために妖精界で作られ、彼が持っていたのではないでしょうか。それを何らかの理由で手放して、人間の王家に渡り、巡り巡って彼の手元に戻ってきたのでは。

 

では、いつ手放したのでしょう。

700年前にヘルブラムを助けに飛び出した際には、もう持っていません。

 

ファンブックの年表によれば、キングは1000年前(エレインが生まれた頃)に人間の王国と和平の盟約を結んだそうです。もしかしたらその際に「妖精族側からは人間界に攻め込まない証」として人間の王国に渡したのかもしれない、と妄想します。

人間側は、妖精王が武器を手放したなら勝てると、さっそく盟約を破ったかもしれません。しかし、そうは問屋が卸さなかったことでしょう。小説版の描写や第134話を見るに、素手でも、彼は人間の軍隊を撃退できる程度には強いです。

また、妖精王の武器は彼以外、まして人間には使えないようなので、その点でも当てが外れたことでしょう。

それで役立たずの珍品として人間の王家の宝物庫にしまいこまれ、1000年眠り続けることになっていたのかもしれません。 

 

 

怠惰の王

<大罪>メンバーが背負った罪は、必ずしも彼らの性格と直接関係しているわけではありません。けれど不思議と、それぞれの性質を言い当ててもいます。

たとえば、<嫉妬の罪サーペント・シン>のディアンヌがヤキモチ焼きだったり、<強欲の罪フォックス・シン>のバンが人から物を奪う盗賊だったり。

キングの<怠惰の罪グリズリー・シン>もしかり。彼がその罪を負ったのは本当の意味で怠惰だったからではありませんが、それとは別口で「怠惰」と言える性質を持っているのでした。

 

 

キングはごろ寝が好きです。クッション形態の神器に抱きついて、ぷかぷか浮かんで昼寝している印象が強いですよね。

<豚の帽子>亭で「働け・ただし給仕不可」と要求された際、その姿を客に見せて和ませるのはどうか(本人曰く「マスコット的な?」)と提案して、ディアンヌ除くメンバーに却下され「怠惰…」認定されたこともありました。

 

ごろ寝の好きなキングの私生活は怠惰すぎる?

 

反面、だらしないのは嫌いな几帳面な性格でもあり、質の高い仕事を手早く行う技能スキルも持っています。好きなこと・必要なことには根を詰めますし、妖精王の仕事も王国騎士の仕事も、すべきことを怠けていた様子はありません。

してみるに彼の怠惰さは、「すべき仕事をしない・できない」方向とは異なるものと思われます。

(必要な仕事は手早く済ませて、空いた時間に寝ていた、のか…?)

 

 

番外編『ハーレクインとヘルブラム』にて、キングは「競争・勝負で一番になる」楽しさが理解できないと言っていました。

ヘルブラムが人間の遊びとして持ちこんだ「かけっこ」。当初キングは最下位で、自分が一番だとはしゃぐヘルブラムに「一番だと いいコトでも あるのかい?」と素で尋ねます。二回目の勝負では本気(?)を出して、圧倒的な速さで一番を取りましたが、それでも「順番をつけることに なんの意味があるんだろ」と首をかしげていました。

 

アニメ第一期14話の(原作者がコンテを描いた)オリジナルエピソードでは、三人で狩り勝負だと楽しげに競い合うメリオダスとバンの傍らで、キングは昼寝して参加せず、二人に叱られていました。彼曰く「いいじゃないの。二人がとった獲物だけでさ」と。

 

原作欄外の質問コーナーで、読者の「(キングは)高い山の上まで飛ぶことや、一日中飛び続けることも可能ですか?」という質問に、作者が「浮かんでる分には特に疲れませんが、やはり全力で飛んだりすれば疲れます。あと、基本は怠惰ですから。」と答えていたこともあります。やろうと思えば出来るかもしれないが、疲れるし、必要ない限りはやらない、という意味なのでしょう。

 

 

キングは勝負事に興味がなく、競争心が希薄です。また、自分が必要と思わないことはしたがりません。

ディアンヌにいいとこ見せたい、くらいの気持ちはあって、それがモチベーションになることも多々ありますが、それも強烈な強さではありません。

 

王国騎士時代に猫に食べ物を盗られた時も、バイゼル喧嘩祭りでケイン・バルザドと戦った時も、魔力を使えば簡単に勝てたでしょうに、そうしませんでした。ボロ負けして周囲に笑われ、ディアンヌには情けない顔をされ、恥ずかしそうにはしても、それでおしまいです。今度は本気を出してでも勝つぞ! 何が何でもディアンヌを振り向かせるぞ! とはなりません。

 

「かけっこ」で最下位になっても きょとんとしていたように、勝ち取りたい、という気概が希薄なのだと思われます。

勝って褒められれば嬉しいかもしれませんし、ディアンヌには振り向いてもらいたい。それでも、何をどうしてでも絶対に!!! とまではいかない。

 

こうした気質もまた、「怠惰」と表現できるものかと思います。やろうと思えばできる能力・実力があるのに、やらないのですから。

  

ただし。

彼は常に「やらない」わけではありません。

だらだらと怠惰な眠りを貪るクマグリズリーにも、目覚めて立ち上がり、猛然と敵に向かう局面があります。

それは、彼の「大切」なものが危険にさらされた時です。

 

第25話にて、エレインは己の兄をこう評したものです。

 

「私は知ってる」「あなたは 私の願いを叶えてくれることを」

あなたは自分のためよりも 誰かのために 力を発揮できるから

わたしのためだけでなく」「あなたを求める仲間たちのため」

 

「私は知ってる」「あなたが誰より優しいことを…」

「焼き尽くされた故郷の前で自分を責め 私と民のために 涙を流しつづけていたわ」

 

「私は知ってる」「あなたの 計り知れない その魔力ちからを――――」

「かつて人間の王国は 妖精王の治める森と和平を結んでいた」「それは必ずしも友好の証だけではなく 互いに干渉しないようにとの密約でもあった」

「でも 人が何より恐れたのは… 何人なんぴとの侵入も拒み恐怖を与えた」「妖精王の魔力ちから

 

「”キング”」「まことの名を―――…」

「妖精王ハーレクイン」

  

彼は、自分が褒められるため・愛されるため・勝利を味わうために勝とうとは思いません。自分個人の利益のためだけには、力を振るう気力・勇気が湧かないようです。

しかし誰かを守り・幸せにするためならば全力を振るう。それどころか死力を尽くし、時に限界すら超えてしまう。

 

常に全力投球、というのが望まれる生き方ではありましょう。そこから見れば、キングは確かに「怠惰」です。

けれど、愛すべき怠惰ではあると思います。

 

 

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