【感想】『七つの大罪』外伝 人形は愛を乞う
週刊少年マガジン 2017年17号[2017年3月29日発売] [雑誌]
外伝 人形は愛を乞う
- 「あの方は 自分が何者であるかも <
十戒 >のことも覚えてはいない」「なぜなら」「自らの戒禁の呪いによって 記憶と感情――その全てを失ってしまったのだ」
かつて魔神フラウドリンは、リオネス王弟デンゼルに そう語った。
3000年前に己が仕えた<無欲>のゴウセルと、今はリオネスに属する<色欲の罪 >ゴウセル。彼らが同じ魂の存在であると信じて。 - 「……………………」
真っ暗だ。
「ここは………どこ?」
瞼を開けても世界は暗闇だった。
とは言え、何も見えないわけではない。この目は、暗中でも周囲を視認することが出来る。そういう機能が搭載されている。
「ボク…は…………」
眼鏡の奥に開いた大きな瞳。数拍を置いて、青年は ムク… と半身を起こした。身にまとう衣服は あちこち裂けて ほつれている。仰向けに横たわって休眠していたようだ。いつから? - カラ カラ
物音がした。
軽くて硬いものを落とした…つま先で蹴られたか指先に触れて落ちた小石状の物体が岩の上を軽く転がりでもした…かのような音。
「?」
目を向ければ、ボウ…と灯りの中に浮かび上がる姿。
人間だ。カールした頭髪を耳の下あたりで切り揃え、くるぶしまで覆うドレスを着た、恐らく十代半ばと見られる個体。左手に携行式の照明器具を…あれはランタンだ…掲げて、一段高い岩陰から こちらに目を向けている。 - 「わあぁぁあ!!!!」
思わず大声を上げると同時に、向こうも甲高い声を上げた。
「キャアアアアアアッ」 - 「あああああああああ」
「アアアア…」「…ア?」
「あああああああああ」
「……」「ちょ…」
人間は戸惑ったように声を止め、ランタンを掲げて じっと覗き込む仕草をした。その顔に、困ったような笑みが浮かんでいく。
「お… 驚かせてごめんなさい あなたは誰? 何者なの?」
「あぁ」
まだ叫び続けている こちらに構わず「あ~~~ ビックリした」と、心拍数の増した胸を撫でおろした。そして、タンッと靴を鳴らして岩陰から降りてくる。 - ビクッと全身が跳ねて、咄嗟に身をひるがえし、人間から少し離れた岩陰に駆け込むと膝を抱えていた。
- 「待って!! 何もしないから… ね?」
人間は猫なで声を出す。傍らの平たい岩にランタンを置き、こちらを窺う仕草をした。
「お願い…怖がらないで…」 - 「こわ……い?」
『怖い』。知っている。感情を表す言葉だ。未知の存在に近づかれたくなかった、これが『怖がっている』ということなのか? - 「うん でも大丈夫…」
小ぶりの耳飾りを揺らして、ニコ、と人間は微笑む。
「私はナージャ」「あなたの名前は?」
◆「ナージャ」という名前はロシアの女性名ナジェージダの略称に由来し、意味は「希望」です。 - 「………ボク…」「ゴウ……セル」
恐る恐ると、登録されていた己の名を答えていた。 - 「ゴウセル! 可愛い顔なのに勇ましい名前! ああ いい意味で」
ナージャがぐっと近寄ってくる。
「ところで男の子? 女の子?」「あん 逃げないで」
「お… …男」
答えると、ナージャは嬉しそうに快哉を叫んだ。
「やっぱり! あのコが言った通りだわ」 - 「……」
男の子? 女の子? されたばかりの質問を、ゴウセルは頭の中で反復する。
プニン
手を伸ばして、ナージャの膨らんだ胸部を人さし指で押し潰した。
プニプニ プニプニ プニ プニ プニ プニ プニ
柔らかい。『心地よい』弾力というやつか。 - 「は…」
プニプニされ続けるナージャの血圧が上昇し、発汗を伴って顔面が紅潮していく。 - 「ボク知ってる 柔らかいおっぱいは女の子だ」
手を止めないまま、ゴウセルが無邪気な笑みで結論すると
「えっちーー!!!」
パンッ
その頬が、ナージャの平手で張り飛ばされていた。 - 「怖い」
痛くもなければ腫れることもないが、再び さっ と岩陰に隠れるゴウセル。 - 「いっ いきなり変なことするから… もう!!」
ナージャは真っ赤な顔で、胸を隠すように押さえている。 - 「それにしても あなた いったい どうやって ここへ潜り込んだの?」
ふらふらと岩に腰かけてから、質問を再開させた。
「わからない… ずっといた…… と思う さっき目を醒ましたの」
反対に岩陰から立ち上がって、ゴウセルは語る。 - ナージャは声を高くした。
「ずっとなんて ありえない…」「だってここ――」「リオネス城の地下なのよ?」 - 「リオネス? ……知らない」「そんな名前の国はないよ」
「そんなわけないじゃない!」「リオネスは ダナフォール王国と並ぶ大国の一つよ?」
小首をかしげる青年に呆れ気味に言ってから、ナージャはハッとしたように声を大きくした。
「あ!!」「いっけない………!!」
ランタンを手に取る。
「夢中になって時間が経つの忘れてたわ!!」「もう戻らないと皆にバレちゃう!! ゴウセル 私 もう行くね?」 - 身をひるがえして駆け出しかけたが、ギュッとスカートを掴まれたのに気付いて足を止めた。
「…置いていかないで」
スカートを掴んだまま、青年が訴えている。 - 「そんな悲しい顔しないで」
「悲しい……?」
少女のように大きな目の端に涙を滲ませて、彼は不思議そうに反復した。
ああ、何だろうこの生き物は。胸の中をくすぐられる思いがして、ナージャは声を和らげた。
「また すぐに来てあげる 約束するわ」 - 「本当…!?」
- その顔を見た瞬間。
「プッ」
胸のくすぐったさが弾けて、ナージャは吹き出していた。
「やだ! 今度は急に笑ったり…」「大きな赤ちゃんみたい…!!」「ププ」
見た目の年齢には決して似つかわしくない。けれど、小さかった頃の弟たちのように、ゴウセルの笑顔は あどけなくも愛らしかった。 - 星空の下に沈むリオネス王城は静寂に包まれている。
ガタン
「んっ」「んしょ」「んっ」
その中庭の石畳の一つが、ゴトと音を立てて持ち上がり、中からナージャが頭を突き出した。キョロキョロと辺りを見回す。 - 「姉上~~~~!!!」
掛けられた声にビクリと見上げれば、間近に仁王立ちしている少年の姿。
ナージャより二つ三つ年下だろうか。短く切り揃えられた前髪と意志の強そうな太い眉。宝石やレースで飾られた上質の、しかし動きやすそうな服を身に着けている。
「一人では決して探索しないと約束しませんでした? もし一人で危ない目に遭ったら どうするんですか?」
「だって とても待ちきれなくて…… えへ♡」
誤魔化し笑いは一瞬で、すぐに彼女は目を輝かせて言葉を連ねた。
「それより聞いて!! あなたの夢の通りよ…!! 地下には大空洞が存在したわ!!」
「やはり……」
答えながら少年は手を伸ばし、貴婦人への仕草で姉の手を下から掬 い取ると、スマートに地下から上がらせる。 - 「それから私… 不思議な男の子に出会ったのよ… まるで物語のよう」
「え…」
顔を強張らせた弟に構わず、ナージャは手放しの賛辞を捧げた。
「あなたの力は本物よ バルトラ!!」 - バルトラ・リオネス。後にリオネス王国第十一代国王となる彼は、今はまだ王子の立場である。
◆バルトラ王は本編時点で60歳。この当時の彼を14歳前後と仮定すると、この物語は本編の46年前 前後ということになります。この3年後くらいにバンが生まれ、26年後くらいに妖精王の森が大焼失し、30年後くらいにダナフォールが消滅してメリオダスとエリザベスがリオネスに移住する、と。 - 「まだ胸がドキドキしてる…」
微笑んだ彼女の呼吸は浅かった。こめかみから汗が伝い落ちる。
「じゃあね おやすみ」
何でもない風に片手をひらりと振ると、彼女は殊更 大きな動作でスカートの裾をまくりあげて、「それーーっ」と明るく駆け去ってみせた。 - 「おやすみ姉上…」
王女に相応しからぬ振る舞いを、バルトラは咎めない。「視た」からだ。その時が来るまで好きにさせてやりたい。
遠ざかる姉の背を見送る少年の顔は、悲しみに翳っていた。 - 暗闇に戻った地下を、ゴウセルは歩き回っていた。
「リオネスもダナフォールも知らない名前ばかり…」「本当に ここはどこ?」「この地下も変… まるで大木と岩が折り重なって出来た空間みたい…」
重なり合う大岩の合間に倒れた巨木と思しきものが挟み込まれている。密封されていたためか、腐蝕した様子はない。
「大木が折れてからの計測年数は……」ピピ、とゴウセルの体内からデジタル音が響いた。「三千… …年?」 - 尚も空間を探索するうち、ゴウセルはそれを見た。
「妖精王の森だ…………」
この辺りは完全な崩壊を免れたらしい。地面は割れていたが、立った巨木が林立して、見覚えのある森の面影を残していた。
ここは妖精王の森。<光の聖痕 >の拠点の一つ。
「思い出した」ゴウセルは呟く。「ボクは彼と一緒だった」
三千年。この森が崩壊してから、それだけの年数が過ぎていたというのか。 - 尚も進もうとしたところで、つま先が カンッ と音を立てて硬いものに当たった。足元に向けたゴウセルの目が見開かれる。
- そこにあったのは、外れて壊れた車輪。時計盤を模したような独特のデザインには、ひどく見覚えがある。
視線を動かせば、車輪はもう一つ。ひっくり返った椅子にくっついている。…車椅子だ。それから投げ出されるようにして仰向けに倒れている男の姿。
『ゴウセル…』
脳裏に、かつて聞いた声が再生された。
『…よく聞くんだ』『これは俺からお前への最初で最後の贈り物 だ』
『お前は俺の叶えられなかった夢を叶えてくれ』
その男は、とうに干乾びていた。命を失って三千年、ここに転がっていたのだろう。誰にも顧みられることなく。
「ゴウ……セル」
<十戒>「無欲」のゴウセル。己の造物主のミイラと化した骸 を前にして、人形は顔を伏せて目から水滴を落とした。 - 小さな灯りが近づいてきた。
「ゴウセ~~~~ル」
ランタンを片手に持った彼女が妙にヨロヨロしているのは、もう一方の手に持った大きな包みが重たいかららしい。 - 「ナージャ!!」
目と口を丸くして彼女を呼んだゴウセルは、座り込んで盛り土をパンパンと叩き、表面を均 しているところだった。
乾いた骸の上に土砂を盛り、その上に壊れた車椅子を集めた。こうすることに意味があるのかは人形には解らない。だが、人はそれを「墓」と呼び、「弔 い」と言うだろう。 - そんなことを知る由もないナージャは、「んしょ」と包みを下ろして笑いかけた。
「ちゃんと約束通り来たでしょ? 今日は あなたに贈り物があるの」 - 「贈り物…いらない」
「どうして…?」
「贈り物くれたら… ナージャもいなくなる」
「なんの話? そんなわけないじゃ…」笑って言いかけた言葉を「あら…」と呑み込んで、ナージャは困ったように眉を下げる。
「ゴウセル あなた…」「泣いていたの?」
腫れと言うほどではない。しかし、両目から頬にかけて、涙の流れた形に うっすらと赤い筋が浮かんでいた。 - 「泣…く? ずっと水が出て止まらなかっただけだよ…」
「そ… そんなに寂しかったの? ごめんなさい」と、ナージャは自分より高い青年の頭に手を伸ばす。「よしよし」と小さな子供にするように撫でた。急いで しゃがんで、持ってきた包みを開ける。
「そんな あなたに私の宝物をあげる!!」
笑って、中から厚い本を取り出した。
「ハイ!」「ワクワクからドキドキまで全部 詰まった冒険物語よ!」 - 「物語…?」
差し出されたそれを、ゴウセルは受け取って開いてみる。
「私 主人公のメルドルが大好きなの!!」「ひょっとして 本は初めて?」
「うん」 - ナージャは少し寂し気に目を伏せた。
「私… 体が弱くて お城の外に出たことがないから… いつも本ばっかり読んでいたわ……」
ゴウセルは ペラ ペラ と本のページをめくる。
「本は楽しいわよ まるで自分が その世界に入り込んだような気持ちにさせてくれるの!!」
目を上げて楽し気に両手を握り合わせたナージャを余所に、ゴウセルがページをめくる速度は、ペララララララ と どんどん早くなっていった。 - 「もし文字が読めないなら 私が読んで」と言いかけた彼女を遮って
「全部読んだ」と、閉じた本を返してくる。 - 「はい?」
受け取って、ナージャは眉根を寄せた。
「私をからかってる~?」
「メルドルが姫と天馬 に跨 がって 死神の追撃を歌いながら かわす第四章が面白かった」
「うそ…」
スラスラと感想を言われて、ナージャは息を呑む。 - 「でも 一つ腑に落ちないことが あるんだ」
ゴウセルは言った。
「メルドルの金髪は膝下の長さなのに」
ナージャは目を瞠 った。彼の赤い髪の色が見る間に変わっていったから。
「第五章では全身甲冑 を着て戦う」
金色に変わったそれが、肩の長さから一気に伸びて さららっと流れ落ちる。
「こんな髪じゃ 甲冑の邪魔だよ」
膝下まで垂らした輝くような金髪を、肩越しに確認しているゴウセル。 - 「……!!」
ナージャは、腰を抜かして ヘナ… と座り込んでしまった。
そのまま、両手を差し上げて子供のように感嘆する。
「すっご~~~い!! どうやったの!?」「ゴウセル あなた魔法使いなの!?」 - 「ボクは魔法使いじゃないよ」
「だって人間には そんな芸当できないもの!!」
「ボクは魔法使いに作られた――…」「人形だよ」
笑顔で言われて、ナージャは戸惑って口ごもった。
「え? ……人…形…?」 - ゴウセルは上衣をはだけて左胸に手刀を当てる。あろうことか、指先は何の抵抗もなく皮膚に突き刺さり、肉の中に沈み込んでいった。
「キャッ… 何を!?」
溢れ出る鮮血を想像して目を背けたナージャは、グチャッと一際大きく聞こえた音に、思わず目を戻す。 - そこに見たのは、笑顔のゴウセルが己の胸の肉に指をひっかけて縦20cmほどのスリットを開かせている、異様な有様。
「ホラ」「ね」
血は一滴も出ていない。そもそも、開いた胸の中に肉や内臓や骨や、あるべきものが見当たらない。ただ、唐草紋が浮き彫りにされた、美しい金属製の心臓 があった。 - 「これは人形のボクのために」「ボクがボクでいられるよう」「…彼が“心の魔法”を詰めてくれた魔法の心臓なんだ」
魔法具 なのだろう。拍動のない心臓は、ヒイィ…ィィイィと微かな唸りをあげている。 - 「そん……な…」「こんな… ことって…」
ナージャの顔は血の気を失っていた。呼吸が浅くなり、冷や汗が玉のように噴き出している。己の胸を力無く押さえると、そのまま フラ… と地面に倒れた。 - 「どうし……たの?」
尋ねても返事をしない。青ざめた瞼は伏せられている。意識を失っているのだ。
ゴウセルの瞳が揺れた。 - 「ナージャ……!」
- その声を、ナージャは確かに聞いたと思った。
「…………私の部屋」
目を開ければ見慣れた大窓。テラスに繋がる扉である それに掛かる捻じれたカーテンの隙間からは、青く晴れた空が見えている。
地下に向かったのは夜だった。半日以上眠っていたのか。 - 「目が醒めましたか姉上…?」
笑って、けれど心配を隠しきれない色で、弟が覗き込んできた。ベッドサイドに置いた椅子に腰かけている。 - 「バルトラ………… 私…どうやって…」
「姉上が地下の入り口付近で倒れてたのを侍女が発見したんですよ」
そう答えてから、彼は窺うように表情を切り替えた。
「例の少年のことで…」「何か 怖い目にでも 遭われましたか?」 - 「ええ… とても」「ゴウセルは… 物語の中のメルドルでも魔法使いでも――――…」「いいえ 人間ですらなかった…」
侍女がしてくれたのだろう、着ていた服は寝間着に換えられている。
「私」「そんな彼に怖いくらい」「惹かれているみたい………」
柔らかなベッドに横たわったまま、王女は瞳に熱を籠めて白い頬を染めた。 - 姉を見つめるバルトラの瞳は優しい。
- 「―――だ そうです」と、立ち上がって大窓の捻じれたカーテンに話しかけた。
- 「?」「え!?」
慌てたナージャの見ている前で、カーテンの捻じれが解け、中にくるまって隠れていた人物が顔を覗かせる。
「ナージャ」
ゴウセル、その人が。 - 「やだ… 今の聞いて――」
真っ赤な頬を両手で押さえて半身を起こしたナージャだったが。
カーテンから全身を現したゴウセルが上から下まで侍女服だったので(当然スカートである)、ガクッと倒れてベッドに両手をついた。 - バルトラは苦笑している。
- 「な… なんで女装なんてしてるの!?」
「じ… 実はゴウセルさんが姉上を運んできたのですが… も… 元の格好じゃ兵の目もあるし 侍女の姿ならば姉上の部屋に入っても怪しまれないでしょ?」
「ゴウセルに妙な癖でもついたら どうするの」
◆40数年後、バッチリ妙な癖がついてたことが判明しましたね(苦笑)。 - 頓着した様子はなく、てってってっとゴウセルがベッドに駆け寄った。
「な…何?」
「嫌われなくてよかった」
ぶつかるような抱擁は、子供の無邪気さである。 - が、ナージャの方は茹で上がったように赤くなった。
「ゴゴゴ……ゴウセル!!?」
「また一人に戻るのは寂しい… 嫌… 悲しい…」
「ちょっ… ダメよ 弟が見ている前で… はわわっ」
「メルドルは姫が目醒めた時 抱きしめたよ」 - バルトラは、あえて窓の外を見ている。
「やあ いい天気だ 僕は何も見てませんよ」
よくできた弟だ。気が利きすぎるとも言えるが。 - 「ととっ… とにかく あなたを嫌いになんてならないから 安心して!!!」
真っ赤なまま押しのけて引き剥がすと、侍女にしか見えない青年は「よかった」と笑ったのだった。 - 日々が過ぎた。
「ねえ… 兄さん 姉さん 最近すごく明るくなったよね?」
と聞いたのは、バルトラの二つ下の弟・デンゼルだ。
稽古に使う剣を片手に足を止め、眼下の庭を歩く姉に目を止めたところである。姉には眼鏡を掛けた侍女が付いていて、時折手を引いたり、仲睦まじげな様子だ。
「あの新しい侍女のせい… かな?」
◆子供の頃のデンゼルさん、ちょっとアーデンに似てますね。
デンゼルさんの子供(エリサベスたちの従兄妹)は登場しないのかな? まあ、しても活躍する余地がないだろうけど…。 - 「さあね… どうだろ」
とぼけながら、バルトラは優しく二人を見守っていた。 - 幸せな日々は過ぎゆく。
ある夜、二人は地下空洞に籠って、ランタンの灯りで一冊の物語の本を読んだ。
ある日、二人は城の花園で花冠を作り、ゴウセルの頭にナージャがそれを被せてあげた。
ある夜、二人は冒険物語の主人公たちのように地下空洞を探索した。
ある日、二人はナージャの部屋で舞踏会の予行のようにダンスを楽しんだ。 - ゴウセルは、昼は侍女服を着て城で過ごし、夜は大空洞で元から着ていた服に着替えるのが常となった。ナージャが彼の女装をあまり喜ばなかったからでもある。
- そして、ある満月の夜。
「これを… 俺に…?」
ゴウセルは、短套と毛皮飾りのついた立派な貴公子の服に着替えていた。
「あなたの服はボロボロでしょ?」「お父様のお古だけど許してね」
ナージャも夜会用のドレスに着替えている。物語の姫君のように。
「素敵……」「まるで 本物のメルドルみたい」
手放しで讃嘆していた彼女は、いつにない朗々たる声音で彼に呼ばれて、肩を跳ねさせた。
「ナージャ姫」
「はっ… はい!」
「月の光 煌めく今宵 俺と共に旅に出ようぞ」
いつも無邪気に笑っていた彼が、大人の男の顔で不敵に笑う。
ナージャは耳まで赤くなった。 - 笑顔のバルトラに見送られ、密かに城を抜け出す。
月光に照らされた荒野を、馬を駆るゴウセルの腰にしがみついて疾走した。 - 「私ね! 馬に乗るのは これが生まれて初めてなの!!」
蹄と風の音に負けまいと声を張り上げるナージャに、ゴウセルは朗々と返す。
「俺も実は初めてだ」
「ええ!?(汗)」
とてもそうは思えない。見事な馬術だ。 - 「ねぇ ゴウセル… 急にどうしたの? 「俺」だなんて… 話し方も まるでメルドルみたい!!」
「お前は メルドルが好きだろう」
「え?」
「ずっと お前に好きでいてほしいから」 - 青年の背に頬を埋めたまま、ナージャは幸福に
蕩 けた瞳を細めた。
「私は…」「どんなゴウセルだって…」 - 「ゴウセルさん ありがとうございます…」
日中。庭の通路に侍女姿のゴウセルを連れて、バルトラは声を落とした。
「キミに礼を言われるようなことをしたか?」
すっかり『メルドル』になり切った青年の口調は、王族に対して不遜と言えたが、この場に他には誰もおらず、バルトラも気にした様子はない。
「姉は あなたと出会ってから 本当に明るくなりました」
◆考えてみたら、ゴウセルにTPOに応じた言葉遣いを注意したことがあるのって、現時点でキングだけなんですね。
アーマンドを演じていた時代はTPOに合わせた喋り方が出来てたので、<大罪>ゴウセルが誰に対しても『メルドル? 口調』を変えないのは、本人の意思なのでしょう。 - 「バルトラ… キミはナージャと俺の出会いを予見していたそうだな」
「はい… 僕 時々 不思議な夢――予兆を見るんです それが…怖いほど よく当たって……」
バルトラの魔力「千里眼 」。曖昧な映像や言葉ながら確実な未来が視える己の能力を語って、少年は言葉を続けた。
「昨日も… また夢を見たんです」「姉上が本当に うれしそうに微笑んで……」
ググッ、と片手を強く握りしめる。激情を抑えつけるかのように。
「だから…」「ずっと一緒にいてあげてください」
目を上げてゴウセルに向けた顔は、優しく微笑んでいた。
だが。同時に悲しみと……諦めが見えたのだ。人形であるゴウセルの目にも。
これは、何の予兆なのだろうか? - また日々が過ぎた。
ここ数日、ナージャはベッドで寝 んでばかりいる。
大空洞を一緒に冒険することも、一緒に本を読むことも、花園で遊ぶことも、二人でダンスをすることもない。 - 「…今日は… このままで許してね…」
ベッドに横たわる彼女が言った。
「気にするな ゆっくり休め」
返した侍女姿のゴウセルは、窓の外に目を向けて室内に背を向けている。
「そうだ… 今度はペーネスの湖畔に馬を走らせよう」 - 「ねえ……ゴウセル」
ナージャは微笑んで語りかけた。
「最初に出会った時は まるで生まれたての小山羊みたいだったのに…」「今のあなたを人形だなんて思う人は まずいないわね」 - ゴウセルは まだ振り向かない。
「…でも 俺は人じゃない…」「俺も…俺の心も…作りものだから」「ただ ずっと在りつづける」「何百年…何千年…」 - ガタ、と落ちた小さな物音にゴウセルの肩が震えた。慌てて振り向けば、ベッドを降りたナージャが歩いてきている。
「寝てなきゃダメだ!」 - 「何も… 違わないわ」
彼女はゴウセルの手首を取った。
「私の中にあるものも あなたの中にあるものも」
もう一方の手を、そっとゴウセルの胸……心臓 の上に添える。
「ここに宿 るのは同じ心」 - 数拍は、ゴウセルは言葉を失っていただろう。
- 「ナージャ」
呼べば、青年を真っ直ぐ見つめていた瞳を細めて、彼女は微笑む。
美しい その顔は青白かった。…それを見たくなかったから、窓の外ばかり見るふりをしていたのに。 - ゴウセルの唇がわななく。
「キミは………」「…いなくなるの?」
くしゃりと歪んだ顔。手首を取られたまま、その手を彼女の心臓の上に添えた。
「俺と出会ってから ずっと…」「心拍が日に日に弱くなっている 今はもう――」 - 互いの心臓に手を当てて見つめ合う二人。
- 「ごめんね ゴウセル」
ナージャの顔色はいよいよ白く、苦しげに眉を寄せて、息も浅くなってきていた。 - ゴウセルは彼女を抱きしめる。彼女を支えたかったのか、自分が縋りたかったのか判らなかった。背に回された彼女の腕を感じながら、か細い声をこぼす。
「ゴウセルも… 俺を作った人も 俺の前からいなくなった…」
「あなたの生みの親が…ゴウセル?」 - 「ゴウセルには ずっと 自由がなかったんだ」
3000年前に存在した魔神族ゴウセル。優れた術士だった彼は両脚が不自由で、自作の浮遊車椅子を愛用していた。
「無欲」の戒禁を与えた魔神王に精鋭部隊<十戒>の一人として仕えながら、けれど魔界の牢獄に囚われていたのだ。500年もの間。
「だから俺を作り出した」
本人は牢獄から出ることを許されなくとも、己の足で歩けずとも、彼の五感と同調 した人形は外を動ける。
「彼は俺を通して世界と繋がるために――俺は 彼の目で 耳で 手だったんだ」
人形のゴウセルが見たものは、牢獄に座る本人の目にも映る。耳で聞いたものは本人にも聞こえる。触れたものは実際に触れているように感じられる。 - その間、人形の自我はオフにされており、本物のゴウセルの意識だけで動き回っていた。人形はゴウセル自身だった。
…あの日、妖精王の森で牢獄の門を開くまで。
牢獄を出た彼は人形の自我を起動させ、別個の存在として扱ったのだ。自分の意思で生きていけと。 - 「そして 彼がいなくなる直前に言い残したんだ 自分ができなかった夢を叶えてくれって…」「でも その夢が何か 分からずじまいだった」
- 「……だとしたら あなたは もう 彼の夢を叶えてあげてるじゃない」
「え」
ゴウセルは目を上げる。
「あなたは彼の代わりに」「あなた自身の目で見て…」
腕の中の少女の姿が瞳に映った。
(ナージャ)
「耳で聞いて…………」
少女の声を耳に捉える。少しも聞き逃さないように。
(透き通った小さな声)
「手で触れて……………」
髪に手を差し入れて、頬に触れた。
(冷たくて柔らかい肌…)
もっとよく見たくて、その顔を上向かせる。
「感じているわ」
そのまま唇を合わせた。物語のメルドルのように? いや。水面の落ち葉が引き寄せ合うように、自然に。 - 伏せられたナージャの瞳から一筋の涙が流れ落ちる。
- 二人は感じるままに触れ合いを深めた。
邪魔な服を取り去り、直にベッドで絡み合う。懸命に腕を回すナージャに求められるまま、ゴウセルは何度も口づけて、彼女に深く侵入していった。 - (ゴウセル)(あなたは私の夢も叶えてくれた…)
ナージャの囁きが聞こえた気がする。
術士ゴウセルが、人形ゴウセルに人生を知るという夢を託したならば。
(私の夢は)
(最後の刻 を)(あなたと過ごすこと) - 「ありがとう…」
- ゴウセルは動きを止めた。
「ナージャ………?」
彼女は微笑んでいる。ゴウセルの下で、目を閉じて。 - 「心拍が…止まった」
彼女は動かない。呼吸も止まり、生命活動が停止していくのが確認できる。
「ダメだ… まだ いなくならないで」「キミに教えてほしいことが他にも――」 - それは急激に吹き払われた。
「違う」
荒れ狂う『感情』という嵐によって。
「まだ 一緒にいたいんだ!!!」 - その叫びは、王女の部屋のある塔の外にまで響いた。
部屋への階段を警護していた兵士たちが、ぎょっとして奥に顔を向ける。
「お… おい 今のは?」
「ナージャ様の部屋だ」 - ベッドの上でナージャに覆いかぶさったまま、ゴウセルは対処情報を検索する。
「………………………そうだ」
『何も違わないわ…』『ここに宿 るのは同じ心』
ナージャはそう言ってくれたではないか。
彼女が停止したのは心臓が壊れたからだ。ならば。代替品さえあれば。 - 「キミのためならば……」「俺は どうなってもいい」
己の胸に手刀を突き立てる。 - 「ナージャ様 失礼します!!!」
やがて、兵士たちが血相を変えて部屋に飛び込んできた。
「どうされまし……」 - 言葉は消える。
彼らが見た、信じがたい光景。 - 床一面に ぶちまけられた赤色。ベッドサイドの花瓶も花も、ベッドの天蓋のカーテンすら、赤色でベタベタに汚れている。ムッと充満した生温い臭い。
- 「ひ…」「うわあぁぁあああぁぁあ」
ベッドに横たわる全裸の王女。その上に馬乗りになっている全裸の男。彼の裸体と両腕は赤黒く汚れ、王女の胸は引き裂かれていた。 - 「どうして」「ナージャ」
兵士たちの悲鳴など意に介さずに、ゴウセルは目を開けない彼女に語りかけている。引き裂かれた王女の胸から噴き出た血で彼女の肌もベッドも赤黒く汚れていたが、微笑みを浮かべる顔は白いままだ。
「俺の心で」「キミを救うことは できないのか?」
ゴウセルの胸にも穴が開いていた。こちらは、血の一滴すら出ていない。 - 己の魔法の心臓を掴みだし、彼女の胸を こじ開けて埋め込んだ。
心臓を与えたのに、同じもののはずなのに、どうして動かない? - 「俺を…」「置いていかないで……」
悲しみに歪む瞳から涙が溢れ落ちたが、それは右目だけ。
返り血に汚れた左半分の顔は表情を失くし、人形めいて冷たく凍り付いていた。 - きっと心は失われるのだろう。「
贈り物 」を失ったのだから。 - 異状は城中に伝達され、駆けつけた兵たちにゴウセルは拘束された。
病弱な王女の無残な死を、城の人間の誰もが嘆き悲しんだ。
無論、バルトラも。 - 「自称“人形”ゴウセル!!」
晴れた後日。ゴウセルは刑場に引き出されていた。
「汝は<色欲>から王女を誘惑 姦淫したあげく 残虐な手口で殺害…!! もはや弁明の余地なし!!!」
血に汚れていた身体は洗われ、簡素な服を着せられている。両手は後ろ手に鎖で繋がれて、緊張した様子もなく真っ直ぐに立っていた。
「よって大罪人を火刑に処す!!!」 - 彼の表情は動かない。
恐怖も、怒りも、絶望も。喪失の悲しみや、良心の呵責の一つすら感じていないという風に。 - 王女を愛した者ならば、その すまし顔に怒りを感じずには おれなかっただろう。まして遺族であれば。
「よくも姉さんを!! この俺の手で 仇を討ってやる…!!!」
幼いデンゼルが憎しみに吊り上がった目から涙を流し、剣を抜こうとする。飛び出しかけた肩を、バルトラが強く掴んだ。
「やめろ… デンゼル!」
「なぜだ兄さん」 - 「彼は そんな人じゃないんだ…」「たとえ 人でなくても…」
ゴウセルを遠目に見るバルトラの顔には、同情の色が表れている。
二人の恋の共犯者でもあった彼は、ただ一人、人形のような男に哀れみの目を向けていた。
(どうか忘れないでゴウセルさん……)(姉上は最期まで微笑んでいました)(あなたといた最期の瞬間まで……幸せだったんです) - ゴウセルは呟く。
「こんなにも心が辛いものなら――」「心なんていらない」「もう 何も思い出したくない」
贈り物なんて、やっぱり要らなかったのだ。
「俺は ただの人形でいたい」
胸は空っぽのはずなのに、凍った右目からは、また涙が一筋 流れ落ちた。 - 次回「贈り物」
人形ゴウセルのことが色々判って、「ふむふむ、そうなんだー」と思ったお話でした。
……しかし。なんでしょうか、この後味微妙と言うか、釈然としない もやもや感は…。
★もやもやポイント1
どうしてバルトラ王子は、ゴウセルを火刑から助けようとしないの?
デンゼルが斬りかかろうとしたのは止めましたが、肝心の火刑には口を挟みません。見てるだけ~。なんで?
そもそも、ゴウセルをナージャの傍に付けたのはバルトラです。女装させて侍女として引き入れた。で、最後に ああなるってことも、ほぼ解ってたんですよね。
つまり、共犯じゃないですか。彼の手引きによる結果と言える。
なのに、自分は安全な場所で見物しながら、死刑を言い渡されたゴウセルに向けて(忘れないでゴウセルさん…姉上は最期まで幸せだったんです)とか善人ぶったモノローグしてるだけ。どうして?
剣で斬るのはダメだけど、ゴウセルが火に焼かれるのは構わないの?
王子の立場なのに刑に口を挟めないのでしょうか。
……うーん。
漫画には出てこないけど、恐らく先代のリオネス王が健在でしょうから、王の意向には王子と言えども逆らえなかった、とでも脳内補完するしかないかなあ。(´・ω・`)
★★もやもやポイント2
ゴウセルは自分の意思で心を捨てた(物理的にも精神的にも)。
にも拘らず! 本編では「心が欲しい、感情を知りたい」と、持たざる者の哀れを振りかざして、色んな人の心や体を傷つけて回ってたんかい!
本編のゴウセルは、人形の自分は心がない・感情を知らない、それが欲しいと
●メリオダスを殺そうとするバンを止めずに観察してみたり
●ギーラの記憶を書き換えて幼馴染の恋人に成りすまして処女を奪ったり
●それを怒ったディアンヌに「愛は記憶に左右されない」と叱られたので、それならばと彼女の恋愛に関わる時代の記憶を まるっと消してみたり
●それでまんまとディアンヌがキングへの愛を忘れたので、愛は記憶で書き換えられるものに過ぎないという自分の考えの方が正しかったと、あえてキングに報告してみたり
●バイゼル大喧嘩祭りの優勝賞品で心を貰いたいからと、ホーク、ジェリコ、エスカノールに本気の攻撃をしてみたり
そういうことを繰り返してきました。
で。そんなゴウセルを、ディアンヌやエスカノールはむしろ哀れんで、優しくしていたものです。ギーラも許してたし。フッたけど。
特にディアンヌは
「(ゴウセルは人形だから心を欲しがっていたのに)ボクは何も知らず頭から否定して… ゴウセルは きっと真剣だったんだろうな」
と、(ギーラを弄んだゴウセルに怒った)自分の方が悪かったとさえ言っていました。
でも。
実際は、ゴウセルさんは元々「心」を持っていたし「愛」も知っていたんですね。
なーんだ…。
つーか。
魔法の心臓を取り出した後でも、ゴウセルが心を失っていなかったのは明らかです。(涙を流して「こんなにも心が辛いものなら 心なんていらない」と言っていました。)
で、記憶は そもそも魔法の心臓とは何も関係しない。
つまり、本当はゴウセルは、今でも心も感情も記憶も失ってない。失ったと自分で思い込んでるだけってコト。
それで、上記のあれだけの騒動を起こしてたのか…。
はた迷惑すぎる!(苦笑)
ゴウセルへの見る目・評価が、ガラリと変わりました。
可哀想だとは思えなくなったかも。
「もっとしっかりしなよ! 人に迷惑かけちゃだめだよ! 50年近く経ってるんだから そろそろ立ち直ってください」と思うようになりました。
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ゴウセルの罪のこと
冤罪…ってことなんでしょうが、これまたモヤモヤ感がありました。(^^;)
ひとつ。
未婚の王女と、王国において特に身分を持たない(ニセ侍女だっただけ)ゴウセルが肉体関係を持ったこと。
合意であっても、封建制の時代では普通に処刑案件なよーな…。
ふたつ。
王女が死にかかっていることを認識していたにも拘らず性行為を行い、結果、行為中に彼女が死亡したこと。
合意であっても、どうせ放っておいても近々死んだでしょと言われても、客観的に見ると正しい行為とは言えない気が。
主観的にはロマンチックですけどね。ナージャ自身は満足して亡くなったのですし。
複雑。
みっつ。
死亡した王女の肉体を割いて、異物(魔法の心臓)を挿入したこと。
もう死んでたんだから罪にならない、と思いますか?
死体損壊は、現代日本でも普通に刑罰対象です。(三年以下の懲役)
しかも、血が部屋中に飛び散るほどの有様でしたから、心証は最悪だったかと。
以上を思うと、冤罪とは言い切れないなあと思ってしまう。
いや。
合意だったと言われても、例えば父親の立場だったら許せないだろうなあと思いました。病弱な娘が どこの馬の骨とも知れない男に純潔を捧げて死亡、遺体を無残に傷つけられたなんて。
漫画には登場しませんが、先代リオネス王は悶え苦しんで怒ったんじゃないかなあ。
だから、バルトラが どんなに擁護しても、ゴウセルは大罪人扱いで火刑となった、とか?
とゆーか。
既に心臓が止まっていた王女から、あれほどの血が飛び散るなんて。
残念ながら、ゴウセルは あまり丁寧なやり方をしなかったようですね。
もしかしなくても、王女の遺体の胸に肘まで手を突っ込んで、王女自身の心臓を掴みだして握り潰した後、自分の魔法の心臓を突っ込んだのかも。
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火刑を言い渡されてから40数年、ゴウセルがどう過ごしていたのかが気になりました。
そもそも、本当に火に焼かれたのか? だって、本編のゴウセルは生きてるし、焼け焦げもなく美しいです。
火を点けられても少しも焼けなかった?
焼け焦げて機能停止してたのを<大罪>結成時にマーリンが修復した?
火を点けられても平気だったとして、その後は?
リオネス城の地下牢にでも繋がれていたのでしょうか、40数年間。
ゴウセルに40数年分の経験値はあるのでしょうか。
彼が作られたのは3500年は前で、500年間は術士ゴウセルの同調人形として使われていました。けれど、40数年前に目覚めた時点で、彼の精神はあまりに未熟で、ナージャ曰く「大きな赤ちゃん」だった。その後、ナージャ曰く「誰も人形だとは思わない」レベルまで成長したそうですが…。
今のゴウセルの精神年齢って、どのくらいなんでしょうね。
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現在のゴウセルを構成する要素の多くが、ナージャとの関わりで得られたものだと判明。
●物語の本が好き→元はナージャの趣味だった
●口調→ナージャの好きな物語の登場人物の真似
●女装→ナージャ付きの侍女に化けていたから
ディアンヌの思想や服装が、キングに影響されたものであることと似ていますね。
恋人関係でありながら、親子や師弟的でもある点も同じ。
お芝居好きなところは術士ゴウセルの影響なんでしょうか?
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リオネス地下の大空洞のこと
番外編『呪いの婚約』の感想でも触れましたが、リオネス地下の大空洞、ホントに3000年前の聖戦に関係した場所だったんですね。
しかも、
この空洞を舞台にした展開も、今後あるのでしょうか。
それこそ、ホントに ここに ビビアンの隠れ家があったり?
この空洞の発見は、妖精王の森の大焼失があった20年前(赤き魔神の死骸が発見され、リオネスで魔神研究が始まった時期)くらいなのかな、と思っていたので、発見は40数年も前だったと判って驚きました。
しかも、城の中庭の石畳一枚外した程度で簡単に出入りできるなんて! 逆に、なんでそれまで発見されなかったんだろう…。
バルトラやナージャが知らなかっただけで、実は存在はずっと知られてて、蓋のように城が建てられてたのかなあ?
妖精王の森の跡地なら、土地に含まれる魔力が豊富そうですね。
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バルトラの予知能力のこと
バルトラが姉の死を予知しながら、その通りに運ぶよう自ら手配していた(結果として火刑になったゴウセルをも助けず見送っていた)のが、地味に引っかかりました。
バルトラの予知能力って何のためにあるんでしょうか。
彼の見た未来は変えられないの?
従順に従うだけで、姉をもっと長生きさせようと もがく、みたいなことはしてなかったように見えました。
考えてみたら、本編での「聖戦の回避」も、「聖戦を回避するために七人の大罪人が必要」という予知を得た(そして、すかさずマーリンが現れた)からこその行動でしたよね。
もし回避方法の予知がなかったら、彼は従順に聖戦で滅ぶ運命を受け入れたんでしょうか。
バルトラが、自分自身の意思で、予知上は避けられない運命に、それでも抗おうとすることってあるのかな?
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魔法の心臓とブリキの木こりのこと
ゴウセルの元ネタは、
アーサー王伝説に登場する騎士ゴウセル(修道女たちを強姦して殺したうえ修道院に放火した男が、王女と恋して改心し英雄になる話)
と、
漫画『Dr.スランプ』の則巻アラレ(博士が作った人間そっくりのロボットで目が悪くて眼鏡かけてて、よく首が取れる)
だと思いますが、もう一つ。
『オズの魔法使い』のブリキの木こりっぽくもありますよね。
ブリキの木こりは元は人間でしたが、ある魔法使いの手によってサイボーグ化して全身がブリキになると同時に、婚約者への愛を失ってしまう。(サイボーグ化したのは、婚約者との愛を貫くためだったのですが…。)
自分は人間だった頃の心を失ったと思った彼は、願いを叶えてくれるという高名な魔法使い(実は手品師)のオズに「心が欲しい」と要求します。
オズはハート形の綺麗なピンクッションみたいなものを作って、ブリキの木こりの胸の中に入れ、これで君には心が宿ったと言いました。
勿論、それは詭弁なのですが、木こりはすっかりその気になります。プラシーボ効果です。心は失ってなかった、最初から持っていたんだ、というオチとして、よく知られていますね。
けど、実は木こりは「愛する心」を取り戻したわけではなかったのです。
それが、オズシリーズの後の話で語られています。
木こりは「心」を貰って満足して、婚約者のことなんて思い出しもしなかった。けれど、後になって周囲に指摘されて、今も自分を待っているだろう婚約者を迎えに行かねばならないのだと思い、仕方なく故郷へ戻ります。
省略しますが、色々なことがあって、探し当てた婚約者は今は別の男性と結婚していました。
その男性は、木こりが人間だった頃の身体を部品の一部として生み出された人造人間でした。(人格は全く別)
婚約者への責任感はあっても愛情は感じない木こりは、安心して立ち去りましたとさ、と。
…うーん? 木こりってホントに人間だった頃と同じ心があるのかな? なんか冷たくない?
魔法の心臓がなくても、ゴウセルには ちゃんと心がある。
そういうオチになることは明らかですが。
魔法の心臓が再びゴウセルの胸に入れられることがあるとして、彼の「愛する心」はどうなるのでしょうか。
ナージャの死にもう一度向き合って、受け入れて乗り越えられた時、彼は「ひと」になるんかなあ。